2012年12月30日日曜日

紅白の話、その2(健全)

(健全)って、わざわざ念を押すところが、もうヤバいと思うわなぁ…(笑)

明日になっちゃう前に、これだけは書かないと!な紅白話、二つ。
まあ、どちらも既に有名ですけど。
見たいぞー、なの。

白組ー、矢沢永吉さん、二回目の登場~。
「前回、サプライズで出たときは、舞台が狭くてびっくりした。今回はちゃんとリハして出る」
うーん、いかにも彼でなければ言えないようなコメントですねー。
観覧者のファンの人は、ちゃんとタオルを投げていただきたいですっ。期待してます。

紅組ー、石川さゆりさん、もう何回歌ったかしらの「天城越え」~。
しかし今回は、荒木飛呂彦さんとのコラボということで、意外性倍増。
あの色っぽいお着物姿で「ジョジョ立ち」されるんでしょうか?!
今時の男子中高生は、ほぼできるそうですが(←娘、談)

「ジョジョの奇妙な冒険」って、私が勤めだした頃、もうはまってる先輩がいたなー。
私はどっちかっつーと「魔少年ビーティー」の方が、記憶に残ってるんですが。

ああ、年がバレる(笑)
楽しい歌のお祭り、見たいなー。
そしてその後は、おそばかみかんをいただきつつ「ゆく年くる年」で、鐘をゴーン…と聴く。

今年もあと一日ですが、どうか少しでも、世界が幸せに向かって進みますように!

2012年12月29日土曜日

年末年始の不定期更新について~

ま、いつも不定期ではありますが。

いよいよ、家族が一日中顔をつきあわせる数日間がやってまいりました。
なもんで、危険な橋をあえて渡ることはせず、今日から数日は、不定期更新といたします。

他に、理由としては…なんつーか、アクセス数が少なくなりつつあるので。
内容が内容になってきてますからねー、家族の前じゃ見られませんわね、こりゃ。
無理、しないで下さい(苦笑)

でもでも、もし時間がとれたら、それこそ不定期で更新するかも?!

それでは、また…です。良いお年を!

2012年12月28日金曜日

ぼくたちの美郷さん(7)★18禁

「え、ええっ?するの?」
「他に、何があるの。ここへ来て」

素早い動作で、葵は、私を濡らしにかかる。
私もすぐに興奮してしまって、気づいたら、葵を受け入れていた。

あわてる私の胸を、葉月が揉んでくる。
指先で、乳首の先端を、つついてくる。

…こ、これが…3人で…って、こと、なの…?

刺激の強さに、思わず、背中が反り返ってしまう。

葉月が、片手で枕をつかみ、その空間へあてがってくれる。
やっとの思いでお礼を言おうとしたら、葉月は、そのまま私の唇をふさいだ。

舌が、入ってくる。
葵の腰使いと、どこか、シンクロしているようで。

声も出せないまま、私は、身体をばたつかせて、そのたびにかえって感じてしまう。

悪循環?
…ううん、とんでもなく、気持ちのいいサイクル。

あっ。
葵が、この前に探り当てたあの場所へ、また…ああ、ああっ、そ…そこ…。

葉月も、この間見ていたせいか、何かを感じ取ったみたいで、舌を深く差し入れる。

いや…ん。
入ってるっ、二人とも、私の中へ。

だめ、だめなの、もう…ああ、だめ…っ!

「…びちょびちょだよ、美郷さんの、ここ…」
葵が、すうっと撫でるだけで、私の濡れた場所は、びくびくっ、と震える。

「や…あ…」
こらえきれずに、私が叫ぶと、その声を合図にしたように
「…じゃ、俺が…舐める、から…」
と、ベッドをまたぐようにして、葉月が私の後ろへ回り込んだ。

「…うつぶせに、なって」
私が言うままの格好をするなり、さっきまでキスしていた葉月の舌が、私のそこを舐め始める。

「ん、んん…っ!」
そ、それって…は、葉月、舐めてるんじゃ、なくて…ひ、開いてる…?舌で…?

ああ。
葵の次は、葉月、なのね…私に入ってきてくれるのは…。
私は、悟った。

じゃあ、今、私がしている、この格好は、もしかして…。

「ね…、美郷さん…、して…?俺、きれいに…流してきたから…」
目の前に、膝立ちになった、葵がいる。
もう、すっかり、わたしに何をして欲しいか、わかる身体つきに変化して。

やっぱり…。
でも、どこかで、されてばかりじゃなくて、する側になりたかった自分がいて。

だから、躊躇なく、口で葵を受け入れる。
…声にならない、葵のうめき声。

それを聞いて、今度は…ああ、葉月っ…だめぇ、そんな中に、舌、入れちゃ…。

きっと、舌の次は、私がくわえているものと同じ、葉月のものが、そこへ、入る。
恥ずかしい…けど、…欲しい。

そう思うと、いてもたってもいられなくなって、私は、ちょっとだけ口を外す。

「ねぇ…お願い。葉月、い、入れてっ…」

それだけ、やっとの思いでねだると、私は、また葵を含んだ。

袋を破く音がして、しばらくすると、わたしの願いは、ゆっくりとかなえられていく。

どこかのAVでも、レディースコミックのたぐいでもない。
そう…これは、まぎれもない、現実。

私は、高校生の男の子二人と一緒に、裸で、誰にも言えない淫らな行為に耽っている。

…どうしよう、今夜は、寝ないで一晩中、続けてしまうかも…。
揺れながら、揺すぶられながら、私は初めて味わう快感に酔った。

そのうち、誰から眠ってしまったのだろう…、分からない。

私が気づくと、ベッドの両脇に葵と葉月が寝ていて、私がベッドから落ちないように、真ん中にしてくれている。
狭い、けど。

ああ…。
しちゃった、んだ。私。
この子たちと、3人で、一緒に。

もう、後には引き返せないような、そんな気がした。

これから先、恋愛だかお見合いだかで結婚して、子どもができて…なんて、ごくごく普通の人生を歩んだとしても、私の身体と心の奥には、一生、この二人とした事が残る。

それは決して、罪の意識ではなく、甘い秘密の香りで包んでおくような、そんな感じ。

私は、そうっと起き上がり、シャワーを使った。
どこを、洗ったらいいのか、分からないくらいに…乱れている。
汗だけじゃ、なくて。

きっとこのまま服を着て外を歩いたら、すれちがう人は、さっきまで私が何をしていたか、何となく…分かっちゃうような気が、する。
気恥ずかしくて、体中を、ごしごしこすった。

(つづく。次回は、話のトーンが変わる予定なので、冒頭のお願いをお読み下さいね…)

2012年12月26日水曜日

ぼくたちの美郷さん(6)★18禁

3度目のメールは、それから程なく来た。

でも、あいにく私は毎月やってくる、つらい一週間の三日目で、体調が悪いから…と、断りの返信を入れた。

そうしたら、間髪入れずに、返信がくる。

『大丈夫ですか?何か、欲しい物があったら、買っていきます。だから、無理しないで、お家へ帰って、ゆっくりしてください…。あおい・はづき』

うーん、男子高校生に、この女のつらさ、どこまでわかってるのかなぁ。

待ち合わせ場所のカフェに行ってみると、大きなコンビニのビニール袋を下げて、心配そうな顔つきで、二人が待っていてくれた。

「コーヒーでも一杯、飲む?」
「気を遣わなくて、いいですから。俺達、待ってる間、さっき飲んだし」

袋の中をガサガサいわせてのぞいてみると、腰を温めるハーブの香りの温熱シートや、コーヒー味の豆乳、ちょっと贅沢なチョコレート、ジンジャーティーのパックなどが入っている。
うーん、玄人好みのチョイスだな、これは。

「…すごいわ、女心わしづかみのツボばかり詰まってる。誰の入れ知恵なの?」
ちょっと悪戯っぽく、私が聞いてみると、葵が照れくさそうに
「あー、俺、姉ちゃんがいて、そのつどキツそうにしてるから、いろいろ買いにやらされてるんです。だから…。気に入って、もらえましたか?」
と、白状した。

なるほど。
だから葵の方が、葉月より女慣れ(?)してるというわけね。納得。

そのまま、二人は微笑みを浮かべて、「お大事に…」と言いながら、帰って行った。
そのもの分かりの良さが、ありがたいようで、ちょっと、寂しい。

しばらく、カプチーノで身体を温めながら、私は、カフェから出るのを躊躇した。

やがて、体調もすっかり回復した頃の夕方。会社のパウダールームで、私は、初めて二人に、自分からメールを送った。
もちろん、平等を期すために、同じ文面で同時に。

『先日は、本当にありがとう。おかげさまで、もうすっかり元気になりました。で、あの…今度、いつ、会えますか…?二人で相談がまとまったら、教えて下さいね。みさと』

何か、女子高生のメールみたいで、我ながら恥ずかしい。
でも、顔文字やデコメール使ってないだけ、まあ、年相応というところかな。

速攻で、連名の返信が来た。
『俺達、今日、中間考査が終わったんです。だから、明日の金曜、どうですか?あおい・はづき』

…待ってて、くれたんだ。私のこと。
何度も何度もディスプレイを読みながら、私は、ちょっと涙ぐんでしまった。

「どうしたの?美郷さん」
同僚の女の子に顔を見られ、私は泣き笑いの顔で、首を横に振った。

「…何でも、ないの。ちょっと、メールで、嬉しい事があっただけ」
「ふうん。…でもさ、美郷さんって、最近ちょっと変わってきたって、噂になってるわよ」
「え…?」

「何か、前より綺麗になったとか、色気が出てきたとか。恋人でもできたんじゃないか、ってね」
「そんな事ないわ、噂よ、噂」
「本当かなぁ」

何だか、これ以上しゃべってると、本心を見透かされそうで、私はさっさと帰り支度をしに行った。

「あのう…今日は、3人で、その…するわけ、でしょ?…どうやって、するの?」

いつもとは違うホテルの、ダブルルームを選んだのは、恥ずかしい事をするのに、同じホテルでは気がひけてしまうから。

「俺達も…その、経験、ないから…よく、わからない、けど…」
「…でも、3人揃って、同時に気持ちよくなれたら、いいんじゃ、ないかな…」

3P初体験者の集まりは、どうも歯切れが悪い。

そりゃ、当たり前よね。
誰も知らないこと、するんだもの。

「よしっ、まずは3人で一緒に、シャワーを浴びて、風呂に入る!」

葵の提案に、葉月と私は
「えーっ!」
と、大声をあげた。

「…だって、何したらいいか、わからないんだから、とりあえず3人で、一緒に裸になって、考えてみたらいいんじゃないかな?もしかして…何か、始まっちゃうかもしれないし」

うわ、葵ってば、大胆。
でも…確かに、一番現実的な方法かも、しれない。

それに、…内緒だけど…これだけ若くて綺麗な身体の男の子二人と、一緒にお風呂に入るなんて、すごく、ドキドキが止まらない感じ。

…ばかね、私ったら。
もうすっかり、いやらしい考え方が身についちゃってる…。

「あのー、風呂の湯、たまったー…」
私がごちゃごちゃ考えてる間に、もう葉月は、バスタブにお湯を張っておいてくれた。

3人で一緒に入っても、どうにか、ここの部屋のバスタブはもってくれた。
でも、さすがに、お湯は端からあふれっぱなしだけど…。

私が思っていたより、何だか、3人とも、姉弟みたいな気分でお湯につかっている。

「ねえ…お風呂、気持ち、いいわね」
「うん。ちょっと、狭いけど」
「…思ってたよりも、平気、かも…3人で入るのに」
「何かさ、テレビの旅番組みたいな感じ、しない?」
「窓もない、トイレの見えるユニットバスで?」

葵の言葉で、私と葉月はプーッと吹き出す。

うーん、なんだか、今夜はだめかなー。
…ま、それはそれで、いいかもね。
何もしないで、きゃあきゃあ、修学旅行の夜、悪戯っ子達が一つの部屋で転がってるみたいで。

と、思ったら。

私のそんな甘い思いは、見事に打ち砕かれてしまった。

一緒に出てきたとたん、私は、あっという間に二人にベッドへ押し倒された。

(つづく。…次回分の下書きが私的にハードなので、アップ前にちょっと手直しさせてください!)

2012年12月25日火曜日

ぼくたちの美郷さん(5)★18禁

すると、私の顔の上に、逆さ向きになった葵の顔が、にゅっと突き出てきた。
心の中を見透かされたようで、どきっ、とする私。

「葉月とのセックス、すごく気持ちよさそうでしたよ、美郷さん?」
「やんっ、見てたのね…やっぱり。…ど、どこで?」
「秘密です。二人の絶対邪魔にならない場所で、一部始終をじっくり、ね」

「やだ…恥ずかしい…」

私は年甲斐もなく、両手で顔全体を覆ってしまった。

「だって、見ておかなきゃ、分からないでしょ?美郷さんのいいところはどこか、葉月がしてないことを俺がしなくちゃ、とか…ね」

ああん、もうすっかり、葵モードに変換されてるっ、この部屋。

目で葉月を探すと、シャワーを浴びているらしく、脱ぎ散らかされたガウンと、水音がシャワー室から聞こえてくるのが分かった。

「じゃ…葉月がシャワーから出てくるのを待ってから、始めます?それとも、今から?」
「…んもう、葵ったら、意外と言うのね。…恥ずかしいから、もう、今からで…いいわ」

「…痛くない…?」
「葉月とは、思ったほど…大丈夫だったわ。あとは、葵が、意地悪しなければ平気」
「美郷さんだって、結構、言ってきますね。じゃあ…ほとんど同じ形だけど、ちょっと、葉月とは変えます。さっきまでの二人のを見てて、かなり、俺も…キテるんで…」

潤滑剤と、避妊具は、葉月の時と同じ。
違ったのは…初めの日と同じく、私の腰の下に枕をあてがったこと。
そうして、葉月とは違って、ぐい、と私の両脚を、開き気味にして持ち上げた、こと。

クールだと思っていた葵が、こんな大胆な形を取るなんて、思いもしなかったわたしは、ただ驚くだけだった。

「びっくりさせて、ごめんね、美郷さん。でも、俺もう、あまり余裕ないし、美郷さんの奥のいい所を、早く見つけて可愛がりたいって、思って…」

入ってきた葵のそれは、葉月とそれほど変わらない大きさ。
そして、探るように、私の中を行ったり来たりして、動き続ける。
そのたびに、擦れるような感覚が私を襲い、息が自然と荒くなってゆく。

やがて、二人同時に、葵のいう「奥のいい所」が、見つかった。

そこは、葵がちょっと押しつけただけでも、びくん、と稲妻のような快感が走る。
私が腰を動かすと、葵の方が、小さなうめき声を上げる。

もう、二人して、そこを中心に絶頂を目指すしか、なかった。
恥ずかしいのを通り越して、二人で小刻みに声を上げる。

「ね、葵…我慢、しないで。あなたの、一番いい時に、…いって…」
「だ、だめですっ、そんな…事、言われたら、俺、ほんとに、ほんとに…っ」

葵の泣きそうなせっぱ詰まった声に、そそられながら、私は言う。
「…いいのよ、ね、…ほら…あ…っっ」

葵が始末をしている間に、毛布を身体に掛けながら、いつの間にか側にいる葉月に、私は訊ねた。

「葵ったらね、私と葉月の一部始終を見てたんですって…。葉月は?どうしてたの?」
「それは…あの、もちろん、見てました…」

「えーっ、あなたも見てたのっ?!」

「…すいません。あの、葵と…約束してて…この次は、きっと、3人一緒ですることになるだろうから、お互いに、美郷さんが…その、どういうのが、好きか…相手としてる様子を、見ておこう、って…」

うーん、さすが天下の名峰学館生。
頭がいいわね、計画性ありすぎだと思う。

それでは、3回目は、いよいよ3人一緒にあれやこれや、しちゃうわけなのね…
いよいよ、未知の世界へ突入なんだわ。

…どんなんなっちゃうのかしら…、好奇心と、ちょっと、怖い、のと。

(つづく。この話も、もう5回目ですか…早いですね~)

ぼくたちの美郷さん(4)★18禁

葉月の仕草に、ぞくり、とする。

初めてじゃ、ないのに。
私も、そして、手際を見る限り、おそらく葉月も。

こんな時に限って、葵は、何もしないで、無言で私たち二人を見ている。
それが、むしょうに恥ずかしい。

葉月は、潤滑剤のキャップを外すと、両指に塗り、私の乳首を撫で始めた。

「ひゃ…んっ!」
その冷たさと、意外な行為に、思わず私は声を上げた。

でも、冷たいのは、ほんの一瞬。
葉月の柔らかな指使いで、私の肌は次第に熱さを増してきた。

ベッドに仰向けになる私の上へ、葉月は腕立て伏せをするように覆い被さる。
瞳の奥の、強い光に、私が見とれていると、優しく唇が重なってきた。

お互いの指と指を絡ませるように、そうっと組ませてくる。
気がつくと、私はその指をほどいて、葉月の背中に腕を回していた。

「…美郷、さん…、すごく、好き…」
そう囁きながら、私のまぶたや耳元や、首筋に、キスの雨を降らせてくる。
ちょっと、恥ずかしそうに。

葉月のこと、私、誤解してたみたい。
こんなにシャイでナイーブな愛し方をしてくれる子だなんて、思ってなかった。

…ごめんね。

心の中で、私は謝る。

潤滑剤が、私にたっぷりと塗り込められ、準備が整ったらしい葉月は、避妊具の入った正方形の包みを破き、私の中へ入る支度をしているみたい。

今までの優しい扱われ方で、私もかなりリラックスしていた。

…しばらくして、私のそこは、葉月の先端を、感じる。

あ。
この感覚、ほんと、何年ぶりだろ…。

ゆっくりと、私の反応を気遣いながら、葉月は進んできてくれた。
やっぱり…ちょっと、大きい、みたい。
息を吐きながら、私は受け入れていく。

いっぱいにつながっている分、ちょっとしたお互いの動きが、思いがけない快感を生む。
葉月は、少しずつだけど、でも確かに、私の奥へと、入ってくる。
時々、じらすように引く動作を混ぜながら。
そのたびに、こらえきれず、小さく私は声を上げてしまう。

ねえ、葵?
今、この部屋のどこにいるの。
葉月と私がこんな事してるの、見てるの…?
それとも、見ないようにしてるの?

葵の事、忘れてはいないの。
でも今の私、葉月としてる事だけで、もう頭の中がいっぱいいっぱいで…
葵…ごめん。
今だけ、許して、ね。

葉月の腰づかいが、少しずつ大きく、荒くなっていく。
「や…、まだ、出てかないで…っ」
そう声に出して頼みながら、私は、身体の奥で、葉月をつかまえる。

「あ、だめ…ですっ、…みさと、さ…、そんなに、締め付けられたら、俺、もう…」
知らず知らずのうちに、私と葉月は抱き合いながら、腰を揺らし続けた。

「んっ、葉月…いい、いい…わ、もう…あなたの、好きにしてっ…」
「本気に、します…よ…?」
「…して…」

激しくて、でも、私の身体に気を遣ってくれながら、葉月は、達した。

「すみません…美郷さん、本当は、もっと…入って、いたいんですけど…外さないと…」
「…大丈夫よ、分かってるから…」

葉月は、心から済まなそうに話すと、避妊具をティッシュに包んで、ダストボックスへ落とした。

可愛い。葉月って。
セックスしてみて、かえって、その可愛らしさがよくわかって、嬉しい。

私は、ベッドの上で、葉月との一連の流れを反芻しながら、うっとりとしていた。

2012年12月24日月曜日

ぼくたちの美郷さん(3)★18禁

あれは、彼氏のいない私の、幻だったのかな…。

そう思い始めた、5日目ごろ。
帰り支度をしている私の携帯に、見覚えのある名前でメールが入っていた。

どきん、とする。
階段の踊り場へ、携帯を握って走り、メールを開いた。

『いま、お仕事場の近くへ、二人で来ています。お会いするのに、ご都合の良いお店を返信して下さい。待っています。あおい・はづき』

来ちゃった。
ホントにあの二人、私にメールよこしたわ。
うわ、どうしよう…

と、心の中で叫びながら、私の指は勝手に携帯のキーを打ち、会社から少し離れたファミレスの名前と場所を教えていた。

「今日、祝日前だから、メールしてもいいのかなって…明日、出勤ですか?」
「あ、ううん。うちの部署、カレンダー通りの勤務態勢だから」

「…よかった。な、葵。…こいつ、毎日、いつメールするか…それしか俺に話、しなくて」
へえ…葉月って、こんなにしゃべる方だったっけ。

「う、うっさいな。せっついてきたのは、お前の方が多かったと思うけど?俺は」
反対に、初めて会った時より、葵はなんだか恥ずかしそう。照れてるっぽい。

まあ、照れるよね。
私だって、アイスティーを飲みながら、実はすごく緊張してるんだから。

だって。
…この間の約束だと、今日は、いよいよ二人が、私の、中に入ってくる日…なんだもの。

「ねえ…この前の時、コンビニで買ったあれとあれ、学校へ持って行ったの?」
「はい。今日辺りどうかなぁって、二人で分担して、隠し持って来ました」

「持ち物検査とか、ないの?」
「ほとんど、ないです」
「まあ…あったら、あったで…仕方ない、って、いうか」

うーん、大胆な子たちめ。

「えーと、あの…ね、そのさ…、そんなにリスク負ってまで、私と、したいの?」
我ながら何つー質問だっ、と思いつつ聞くと、二人とも揃ってぶんぶん頷いた。

「…どこが、いいの?…分からないわ、私自身の事なのに…」

葵が、真っ先に言う。
「だって、美郷さん、身体のラインがすごく薄くて、ほっとけない感じで、一人で文庫本読んでたりすると、声をかけたくてたまらなくなって…」

後を継ぐように、葉月も話す。
「後ろや横から…見てて、細いのに、すごくスタイル、いいなって…でも、全然ひけらかしてなくて、磨く前の宝石みたい、だな…って、葵と、いつも、言ってて…」

そんな風に言われたのは初めてで、私は、面食らってしまった。

「地味」「当たり障りない」「不快ではないけど、存在感も薄い」「フツー」…くらいしか、言われたことがなかったから。

「…私、…スタイル、いいの…?」
おそるおそる確認すると、また二人はぶんぶん頷く。

「この前、ホテルに行ったとき、確信しました!」
「電車で…想像してた、以上だ、って」

な、なんか、ストーカーっぽい匂いがするけど、でも、まあ、悪い気はしないか。

「あ、あの…だから…、今日も、美郷さん、見せて、ほしいな…って…」
「うわ、葉月、お前本当に今日は口数、多いな!いつもよりターボ入ってるぞ」

…同感です。
何だか、今日の先発投手は、葉月で決まり、みたい…。

休み前で、その手のホテルはいつにも増して満室ネオンが鮮やかに輝いてる。
結局、私が電話で問い合わせたら空いてる部屋があるというので、初めての時と同じホテルに、私たちは入った。

シャワーを浴びたり、ガウンをまとったり…二度目でも、やっぱり、慣れない。
それに…今夜は、この後が、違うんだもの…。

二人の話を聞くともなく聞いてると、やっぱり、葉月が先、みたい。

内緒だけど、葵が先の時より、ちょっと、こわい…気がする。

だって、葉月は、無口だし、葵より体格がしっかりしてる分、…強引そう、というか、もっと言っちゃうと…い、痛いんじゃないかしら、なんて、勝手に想像してしまって。

ごめんね、葉月。
今日、いつもより饒舌なのも、きっと、葉月の方が、意識しちゃってる、から…だよね?

コンビニの茶色い紙袋から、中に入った二つの箱を取り出したのは、やっぱり、葉月。

「…今夜、その…葵と、二人とも、できたら…いいんだけど、そこまでいけるか、美郷さんのこと、まだ、わからないから。だから…俺、から。で、厳しかったら、葵は…この次にって、二人で相談して…」

つ…次も、あるんだ…。
驚きよりも、私の気持ちの中には、どこかホッとしたものが混ざっていた。

こくん、と私が頭を下げる。
それを合図にしたかのように、葉月は、箱を開け始めた。

避妊具の入っている方の箱は、そうっと蓋を取り、一回分を丁寧に破る。
反対に、潤滑剤の入っている方の箱は、思い切りぞんざいに破き、ダストボックスへ投げた。

(つづく。すいません、いい所で!続きは下書きしてありますんで、できるだけすぐ!)

コーヒーブレイク(雑談です)

多数のお運び、感謝、感謝です。
いろーんなものをかなぐりすてて(?)書いてる甲斐があるというものです。

さて、日本は今日、クリスマス・イヴ。
きっと、美郷さんと葵・葉月コンビは、今宵もしっとりと過ごすことでありましょう。
高校生二人だから、お酒は飲めないけど、ね。

現実社会に戻って、我が家はといえば、
年賀状作りに大わらわ。
毎年、時事ネタを入れてオチをつけて考えるんですが(どんなんやねん)
やっとメドがついてきました。
あとは、ペン入れと色塗り~。

それから、下の娘とグーグルでサンタ追跡をするのも、恒例行事。
英語なので、よくわかんないんですけど(笑)
二人でディスプレイを見てると、何ともいえず、ほわんとしてきます。
あと何年、母のお遊びにつきあってくれるのかしら…。

それでは、皆様も、メリー・メリー・クリスマス!

2012年12月23日日曜日

ぼくたちの美郷さん(2)★18禁

 三人でダブルの部屋に入り、順番にシャワーを浴びて薄めのガウンを羽織った頃から、誘っておいたはずの私が、とんでもなくドキドキしはじめてしまった。

「ね…どう、したら…いいの?」

葵が
「可愛いな、美郷さん。…今日は、初めてだから、美郷さんは、何もしなくていいよ。ガウンを取って、俺たち二人に、あなたの体を見せて…?」

ここにきて、急に恥ずかしくてたまらなくなる。
だって、向こうは二人。四つの目に裸をさらすなんて、今まで、したことがない。
でも、他にやりようがなくて、私は、葵のいうがままになった。

体が火照っている分、シーツがひやりと感じられる。
葵と葉月は、ガウンを羽織ったまま(ずるい…)私の体を、じっと見つめる。

「思ってた通りだ。…美郷さんの体、すごく、綺麗…」
「…ああ。…たまんないな…男をそそる体、って感じ…」

視姦(?)、そして、言葉責め。
それだけで、恥ずかしいけれど、私の体の奥のどこかに、火がついてしまった。

「美郷さん…、じゃ、俺から…したかったこと、させて…ね」

葵の声がベッドの下の方から聞こえると、腰に枕がぐい、と差し入れられた。
と同時に、私の背中を後ろから抱え込むように葉月が入ってきた。

ぴちゃ…と音がすると同時に、葵は指先で、私の股間の尖った所のすぐ両脇を開き、舌先でまんべんなく舐め始めた。
その音に合わせるように、後ろから葉月の両手がのびて来て、大きく突き出てきた私の乳首を指先で優しく、でも力強く転がしては愛撫する。

我慢できずに、アパートで一人、声を殺して慰めるとき、私が一番感じるのは葵が迷いなく責めて来た場所だった。…教えてなんかないのに、どうして、そんなにいい所ばかりを舐めるんだろう…。
乳首は逆に、あまり性感帯だと思っていなかったので、感じてしまう自分が不思議だった。乳首が突き出ていく感覚や、つままれながら先端を撫でられていく感覚が、すごくいい。

一人の男としてる時は、こんなものすごい快感と、羞恥心と、それから…背徳からくる気持ちよさなんて、ちっとも感じたことなかった。

腰が、ひとりでに動いて、葵の舌先に、一番いいところを教えようとうずうずしている。
葉月の首の後ろに両手を回し、乳首を自分から突き出して、無言でねだる。

でも、だんだん、無言ではいられなくなってきた。
だめ、といっていたのが、いつの間にか、いい、とか、もっとして、に変わり、最後にはお定まりの「いく、ああーっ、いっちゃう…ああん、ねえっ、もういくっ、いくのぉっ」という、恥ずかしさ極まりないよがり声を上げ続ける、私。
身体の二か所を同時に犯されてしまうなんて、頭がおかしくなりそうに、いい。

やがて、私の恥ずかしい場所から、予想以上にたくさんのものがあふれ出て、二人は行為をいったん休み(…ということは、まだ続きもあるということなのだ…!)、いってしまったわたしは、少しの間だったが、あられもない格好のまま、ベッドの上で気を失った。

その後、私が落ち着いてきたのを見計らって、当然のように、葵と葉月は、ポジションを交代して、再び私を責め立ててきた。

葉月は、葵の時とは違い、私のその場所を全部包み込むようにしてくわえ、緩急をつけていろんな所に舌を這わせてくる。その野生を感じる行為が、私を乱れさせた。
葵は、ベッドの横に膝立ちになり、さっきまで葉月にさんざんいじられていた乳首を、片方ずつ、柔らかく円を描くように舐め続ける。もう一方は、先端をつついたり、乳首ごとこねるように愛撫したりを、左右順番に繰り返して、やめてくれない。

やっぱり、二人の高校生に身体を全て見せながら夢中になっている…っていう自分が、この上なく恥ずかしくて、全身が燃え立つ。

それから…驚いている。
私って、こんなに貪欲な身体をしてたんだ、って。
それを、自分より先に、この二人に見抜かれていたっていう、事実にも…。

あんまり、よくって、一度目の時より、私は身体の力を抜いて、二人に身を任せる。
快感が増幅されて、さっきより、しどけない姿で、私は感じまくる。

「いいよ…美郷さん、すごくいい…その格好…」
「ん、気持ち…よさそ」
「ああん、そんな事、言わないでぇ…、もっと、感じちゃう…っ」
年下の二人に、翻弄されながら、私はもう一度よがって、よがって、頂点を迎える。

「ねえ、美郷さん…これ、使ったら…怒る…?」
ぼうっとした私の目の前に、さっきコンビニで買ったらしい、避妊具と潤滑剤が映る。

「…え、コンビニで潤滑剤なんて、売ってるの?」
思わず私が聞くと、
「あそこの、コンビニ…昔は、薬屋で…だから、そういうのも、置いてあって…」
「男の子達の間では、有名なお店ってわけ、ね?」
私が念を押すと、二人ともこくこくと首を振る、その姿がまだあどけない。

さっきまで、私にあんなものすごい事をしてたのに、やっぱり男子高校生なんだなあ…
可愛い。

「で…どっちが…使うの…?」
少々脱力感を覚えながら、私が聞くと、
「え。二人で…一度ずつ…。…だめ?」
しれっと、二人は言い放った。

おいおい。
おねーさんは、もう二回もいかされてるのよ、あんたたちに。
その上、もう二回、挿入されるってわけ…?

ああ…若いなあ、十代って。
いや、二人分相手をしてる私だって、決して弱くはないはずで。
どうしよう…。

なんて、悩んでいるって事は、私の中に、イエスという選択肢が残っている証拠。

「…でも、痛くなってしまったら、申し訳ないけど…私も、彼氏いない歴3年か4年だから、とても…その、久しぶり、だし」

あ、赤くなってどうすんのっ、私ったらっ。

「…うん、わかった」
「優しく、ゆっくり…するから…」

と、いうわけで。
私は、その気いっぱいの高校生二人を、二回も受け入れることになりそう。
その前に、既に二回、いかされちゃった後で。
一度にこんなにするの、初めて。

…もつ、かしら…。

毛布にくるまりながら、ぼうっとそんなことを考えている私の横で、いつの間にか裸になっていた二人は、気づいたら、小声で何か話を始めていた。
それは、なかなかに、扇情的な眺め。

しばらくその若くて綺麗な身体に見とれていたら、二人が同時に私を見た。
ちょっと、びっくり。

「…決めました。美郷さん、さすがに三人は初めてで、今日はもうお疲れみたいだから…」
「だから…俺たちが、その、一度ずつ美郷さんの中に、入るのは…この、次にしよう、って…いま、二人で意見がまとまって…」

あのっ。
私の意見は、どこへやられちゃったんでしょうかっ。

「…え、じゃあ…二人とも、また、私と…三人で…こうやって…」
さすがに、何をするかまでは言えなかったけど、内心驚きながら、私は確認する。
「…はい。また…したい、です。俺たち三人で…だめですか?」
二人が声を合わせるようにして、私を覗きこんでくる。

ん…もう。
毒を食らわば、いっそ皿まで、堪能させていただきましょうっ。

「分かったわ…。ね、…じゃあ、とりあえず、メアド交換からしておきましょうか…?」
二人は、通学鞄から携帯をもぞもぞと取り出し、赤外線の操作を始めた。
…裸のままで。

あのー、さすがに私も、目のやり場に困るんですけど。
何だか二人とも、自分が何も着てないことなんか考えてなくて、とにかく今は私のメルアドをメモリーすることしか、頭にないみたい。

やっぱり、こういうとこ、年下なんだなー。
そう思ってみると、悪くないけど。
二人とも、なかなか綺麗な身体をしてるしね(って、何見てんのよ、私…)

私は毛布にくるまりながら、バッグの中の携帯を出す。
そうして、葵と葉月と一人ずつ、メアドの交換をした。

交換しながら、ふっと、思う。
(こんなふうにしてても、このメアド、結局無駄になるんじゃないかな…)

いくつか恋をして、終わらせてきた分、そんな風にとりあえず予防線を張っておく癖が、ついている自分に気がつく。
目の前の二人と同じ、十代の時は、そんな事考える余裕もなく、恋してたっけ…。

「ね、美郷さん。いつごろならメールしてもいいですか?」
「着信音とか…うるさい会社、だと、迷惑だし…」

え。
この二人、ホントにメールくれるつもり、なんだ?
二人ともまっすぐな目をして、私の顔をのぞきこんでくる。

「え、ええと…昼休みは、十二時から一時ちょっと前まで。退勤は、まあほとんど定時の五時十分だから…五時過ぎてれば、まあ、うるさく…ないかな?」

ふんふん、とうなづきながら、葵はスマホのメモアプリに時間を打ち込んでいるらしい。
「後で、教えろよ…」
「ああ。今日中にメールで転送しとく」
横で、画面をのぞき込みながら、葉月がぼそっと、せっついているのが、可笑しい。

はあ。
どうしよう…。

私、このかわいい高校生二人、同時に好きになっちゃった気がする。
これから、どうなっちゃうんだろう…(あ、身体の事だけじゃなくてだからね!)

(つづく。…ストックが残り少ないので、次回分、がんばって書きます~)

2012年12月21日金曜日

ぼくたちの美郷さん(1)★18禁

あー、ついに、男女3人ものの18禁下書きに手をつけちまいました…っ。

「女の子どうしじゃなくちゃ、やだ」

「男女二人のカップルじゃないと、許せないっ」

「18禁っていうと…内容があっち系でしょ?きらーい」

…という方、今回はどうぞこの先、お読みにならないことをお勧めいたします。
(間口がどんどん狭くなっていくなぁ、我ながら…苦笑)

                    ※

いつから、こんなことに、なってしまったのかしら。
正式な日付なんて覚えていないけど、初めて出会った日の衝撃は、覚えている。

私は、美郷(みさと)。二十代半ばのOL。ごくごく普通の。
彼氏は…大学の時には、いたけど、就職先が遠くなったら、自然消滅してしまった。

髪は黒、セミロングのストレート。仕事でパソコンに向かうときだけ、眼鏡をかける。
普段は裸眼でまあまあギリギリ、というところ。
体型はごく普通…と、思ってたんだけど…。

あの、二人に会うまでは。

「あの、いきなりですいません。俺たち、ずっと、お勤めのあなたと一緒の電車に乗ってて…ずっと、あなたのこと、気になってたんですけど…」

文庫本を手に、定位置の出入り口付近の手すりにつかまっていた私の前に、二人の男子高校生くらいの年頃の子が、急に話しかけてきた。

背の高さは、私より15センチくらい高い感じ。
二人とも、真っ白いカッターシャツに黒のスラックス。特に着崩した感じや、ジャラついた小物もつけていない、素朴と呼べるくらいに、まっとうな外見。

そして、チラリと見ただけでもわかる、なかなかのイケメンぶり。
周りで座っている女子中高生が、ちらちらと二人を見ていることからも、わかる。
頭のいい学校に通ってるんだろうな…きっと。

「まず自分のことを名乗るのが、紳士の礼儀よ?どこの高校に通ってるの?」
「あ、すいません。えっと、二人とも、名峰学館です…」

ヒュウ、と私は心の中で、蓮っ葉な口笛を吹く。
この沿線でダントツの進学校じゃないの。

「そう。私の勤務先も言わなくちゃ、失礼だわね。私は…」
「分かります、その制服で。東洋海上保険ですよね?就職希望率トップテンに入る」
「どうして知ってるの?ウチの制服、同業他社の中じゃ、地味で通ってるのよ」
「いや、あの…あなたを見てから、ちょっと授業を遅刻して、二人で後を…」
「まあ!天下の名峰生が泣くわよ、そんなことして!」
「す、すいません…」

しかし、若くて頭もご面相もいいのに、腰の低い二人だなあ…。
(これはきっと、何かあるわね…)

「あなたたち、どこの駅で降りるの?」
「あなたと同じ駅で。いいですか?」
ぱあっと明るくなった二人の顔は輝くようで、その若さと美しさが、失ってしまった私にとっては、とてもまぶしくうつった。

駅前の、チェーン店のコーヒーショップに入る。
「俺は、葵っていいます」
「俺、葉月です」
「私は、美郷。…で、ご用件はなあに?」

私がそう聞くと、二人はしばらく、お互いの肘をこづいて何やらもにょもにょしていたが、思い切ったように、葵と名乗った方の子が、言った。

「あの…俺たち、電車であなたを初めて見かけた時に、二人一緒に、一目惚れしちゃったんです。…で、変態なわけじゃないんですけど…俺たち二人と、美郷さんと、三人で…おつきあいができたら、すごく、嬉しいなって…。いま、彼氏とか、いらっしゃいますか?」

聞いた途端、私は飲みかけていたキャラメルラテを噴き出しそうになって、むせた。
「い、いないわよ…だけど、どうして、そういう考えになるわけ?」

今度は、葉月という方の子が、少しぼそぼそっとした話し方で答える。

「ええと…俺と、葵は、小学部の時から、ずっと、親友で…まあ、別々の女子とつき合ったこともあるけど、女子から『あんた、葵くんの方が私より大事なんでしょっ』とか、言われて…まあ、事実だから、そう答えると、ビンタと一緒に振られるとか…あって。あ、でも俺と葵は、絶対ホモとかじゃないです。男には、一切反応しないんで…」

すごい論理だわ。
仲良し二人組が一緒に一目惚れしたからって、三人で付き合おうだなんて考え。

でもさ…目の前の二人、もう高校生だし、これだけ健康なんだから、考えてないわけ、ないわよね。
男が二人に女が一人…つまり、いわゆる、その、世間でいう、「3P」って、やつ。
どうしても気になって、私は、質問をぶつけてみた。

「…じゃあ、もし、もしよ?私とあなた方がつき合いだして、とても気があっちゃったとしたなら、お互いにこの年頃でしょ?…3Pとか、想定してるわけ?」
「いいんですか?!」
「…最高です…!」
…聞くんじゃなかった。

唯一の救いは、葵と葉月が同時に叫んでくれたので、他のお客さんには何言ってるか、まずわからなかっただろうな、っていうこと。

同時に、年上の姉御、彼氏いない歴約3~4年の私から切り出してしまったのだから、こりゃまあ、バクチみたいなもんだろう…と思い、この店を出たら、その手のホテルよりもランクの高い、こざっぱりしたシティホテルに行くことを提案した。
まあ、高校生だし、外れてもともとだもんね。

二人の男の子は、二つ返事。
ホテルへ行く途中でコンビニに寄り、うきうきと相談しながら、何やら物色していた。

ま、何買う気か、わかっちゃうけどね。
20代半ばのおねーさんには、さ。

でも、この時点では、私はわからなかった。
この二人が、すごいテクニシャンで、私の体も、そして心も、どんどん溺れていくことを。

(つづく。…年末年始をはさみそうなので、気長に見てやってください…)

2012年12月18日火曜日

紅白の曲目~♪(健全ネタ)

決まりましたね、紅白の曲目が。
私的には、その後の「ゆく年くる年」が好みなんですが。

気になる曲は、何と言っても美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」です!
一度コンサートで生のこの歌を聴いて、もうボロボロ泣きました。
なんで泣いたのかって…とにかく、泣けるんです。

次は、由紀さおりさんの「夜明けのスキャット」
昔、ラジオで流れていて、「誰が歌ってるの?!」って問い合わせが殺到した曲。
さもありなん、という美しさ。

その次は同率で、舘ひろしの「嵐を呼ぶ男」と、森進一の「冬のリヴィエラ」
舘ひろしの歌がうまいかどうかはともかく、あの男はおしゃれだと思う。
若い頃の裕次郎のおしゃれに、どこか通じるものがあるかな。
森進一は、演歌だけじゃなくてこういう曲をもっと歌って欲しいね、この年だからこそ。

あとー、残念だったのは、斉藤和義。
曲目が「やさしくなりたい」だったんだもんな。
「ずっと好きだった」聴きたかったんだけど、ま、化粧品のCMソングじゃ無理か…。

あとの曲は、うーん…「それ何?」と「またそれですか?」のどっちかに入っちゃうかな。

あ、そうそう。
サブちゃんがトリじゃなかったー!
なんかねー、年の締めくくりはサブちゃん聴きたかったなー。

それでは~(百合でも18禁でもないじゃん…)

また追記

マレーシアからもアクセス!
ありがとうございます。

マレーシア、行ってみたい国のひとつなんですよね。
屋台で、ナシゴレンとかミーゴレンとか食べたり、
すっごいタワービルやショッピングモール、鳥の動物園とか行ったりね、したいな。
ガイドブック持ってるくらい、好きです。

んじゃ、きょうもこれから家で残業です。それでは~

2012年12月17日月曜日

追記(久々に)

うわー、ベトナムからもお客様がおいでに!
最近、うちで子供達と可愛いベトナム雑貨の話、してたからかな?

ありがとうございます!

仕事も、もうちょっとで一区切り。
風邪薬も飲んだし、頑張りますー。

それでは、また次回まで。

2012年12月16日日曜日

百合からますます遠い…

たくさんのおいでを、ありがとう存じます。

百合を離れて18禁を書き始めたら、アクセスがぐーんと増えております…

でまた、考えてる立場の自分も、ますます百合から遠のいてしまうという。
いいのかしら…

ちなみに、今プライベートで下書きしてるのは、男子高校生くん二人と、OLさん一人の計三人で、内容が18禁になっちまいそうなお話なんですよ…
(いわゆる…そうです、数字とアルファベット一文字で表せてしまう、あの関係です)

でもこれ、ここには載せられないかもしれないっ。
でもでも、他に書くことが浮かばなかったら、しばらく後になって載せちゃうかもしれないっっ。

…と、心を揺れ動かしつつ、キーを打ってます。

ああ、「百合です」と書いたお話が浮かぶのか、「★18禁」と書いたタイトルが出るのか、どうしよう!
(ちなみに今年は冬コミ出ないので、年越し残業の合間に更新はできると思います)

悩みつつ、それではまた後日~。

2012年12月12日水曜日

18禁にしたら…

きゅ、急にお客様が増えてしまいましたっ…(苦笑)

うちの客層は、どんなんなってるんでしょうか??

まあ、百合もヘテロセクシュアルも、らぶらぶである事に変わりはありません…かね?

ぐっちゃぐちゃで先の見えない選挙や、突然のうさんくさいミサイル発射より、こういう話題をあーだこーだと考えて、字にしてブログに打つ方が、私は断然好きなタイプの人間なので。

あ、話は変わりますが、小沢昭一さんがお亡くなりになったの、すごく残念です。
報道があまり大きく扱われていなかったのも、悲しかったな。

ほら、わたし、こういうタイプの人間なのでー(苦笑)お色気と風刺の効いたラジオ番組や、風俗で働くプロのお姐さん達の取材の本や、そういうの大好きで、ファンだったんですよ。
寂しいな…。

さて、次回はどんなお話を書くことにしましょうか。
また鹿乃子ちゃんの18禁ものにするか、本道の百合のお話に戻るか。
気まぐれに、考えてみますね。

それでは、次回(未定)まで~。

2012年12月11日火曜日

若夫婦へのご依頼(5)★18禁シリーズラスト

ある日の午後、鹿乃子は母上の部屋へ呼ばれた。
「先日、蕗子さんのご婚家から、内々に御礼の言葉をいただきましてよ。あなた方のおかげで、夜ごと甘やかな忍び声が、ご寝所から聞こえてくるとのこと」
返事のしように困って、鹿乃子はうつむいた。

母上は、なおも続ける。
「ときに鹿乃子さん、あなたと和也さまは、子どもができないようにお道具を使っていて?」
「いいえ…お母様、結婚してからは、ほとんど使っておりません…」
やはり話題が話題なので、鹿乃子は少し頬を染めてしまう。
「…でも、おできにならないのね?自然のままで愛し合われても…」
「…はあ」

母上は、少々首をかしげて
「まあ、貴女がまだがんぜない年頃というのもあるのでしょう。でも、私は18になってすぐ、貴女を身ごもったのですよ。…もし、今のままに愛し合われても授からないのなら、一度、お医者様に診ていただいた方がよろしいかもしれませんわね…」
「そ、そんなの…いやですっ!」
鹿乃子は、思わず叫んでいた。
「私、まだ赤ちゃんを産んで育てる自信なんてありません。…それに、今はまだ、和也さまと…」
「睦み合っていたい、というわけね?」
言葉をにごした鹿乃子の気持ちを汲んで、母上は言った。
鹿乃子は、コクンと首を振る。

「…だからかも、しれませんわね」
「えっ」
「お二人とも、お世継ぎより愛し合う事にまだ夢中で、気持ちも体も準備ができていないのでしょう。よござんす…お医者様へ行くのは、しばらく後にしましょう」
「恐れ入ります、お母様」
鹿乃子が、母上に深々と礼をして、部屋を出ようとした時、
「鹿乃子さん」
母上が、急に呼び止めた。

「はい」
「…和也さまとは、そんなに…よろしくて?」
艶然と微笑み、椅子にゆったりと腰掛けた姿の母上に問われて、鹿乃子は一瞬、顔から火が出そうになったが、正直に答えた。
「ええ…。この世に、あんなに素敵なことがあるなんて、和也さまに初めて教わりました」
「マア、それはおうらやましいこと。お惚気(のろけ)をご馳走様…」
母と娘が、初めて女と女に変わって会話をした瞬間だった。

「お義母さまが、そんな事をおっしゃっていたのか…。俺がお前より十も年上だから、気を遣って下さっているのかな…」
近衛師団での勤務を終えて帰宅した和也は、鹿乃子の話にそう答えた。
「和也さまは、何も気になさることありませんわ。私が幼いせいだと言われましたし」
くつろぐための、男物の和服を支度しながら、鹿乃子は返事をする。
「確かに、俺たち…まだ、父親と母親になる気には、なってないよなあ」
「ええ…それよりも、まだ…私…」
それ以上は言えず、鹿乃子は、結城の着流しに着替えたばかりの和也の袖を、ぎゅっと握った。

「まだ…何?」
「何でもありません…、口が、滑りました…」
「可愛いね、鹿乃子は。俺も『まだ』って気分だよ?」
「どうしましょう…、このまま、跡継ぎに恵まれなかったら…」
「その時は、その時さ。鹿乃子だって、婦女子だから、この朱宮家を継承できなかったんだぜ?でも、そのおかげで、俺は今、昔から好きだったお前と、こうしてずっと一緒にいられるわけだし」
「そう言えば、そうですわね…私も…」
「ま、人間万事塞翁が馬だよ。この先どうなるかは、その都度考えていけばいい。考えてもどうにもならない事だってあるし…」
「ふふ…、和也さまとお話していると、何だか自分のこせこせした気分が、恥ずかしく思えてまいります」
「いい加減なだけさ。真似しちゃだめだぞ、鹿乃子?」

それでも、お互い心の隅にその事が残っていたのか、その夜は抱き合っていても、二人ともなかなか寝付かれなかった。
「葡萄酒でも、飲むか?」
和也は言うと、洋杯を二つ、片手に持ちながら寝台の側の小机に置き、深紅の甘い酒を半分ほど注ぐ。
寝台の中で二人して葡萄酒を飲む様子は、かつてエンゲージの頃にお付きをまいて、二人して銀座へ見に行ったシネマの中の恋人同士のよう。懐かしい浪漫がほんの少し、混じった味がした。

「あの…子どものようで恥ずかしいのですが、御酒をいただいたら、何だか眠くなってきてしまいました…。今夜はこのまま、寝(やす)んでしまっても、よろしいですか…?」
「勿論。そのために飲んだのだからね。さ、鹿乃子、こっちへおいで」
「…はい」
抱きしめられながら、体が熱くほてるのは、葡萄酒のせいだけではないだろう。
和也の、細身ながらも鍛え上げられた体に身を任せて、鹿乃子はとろけるような甘い眠りを楽しんだ。

(このシリーズは、ひとまず、ここで終わり…です)

2012年12月9日日曜日

若夫婦へのご依頼(4)★18禁

実際に、二人が蕗子たち夫婦の家を訪ねた時も、首尾良く事が進んだ。

和也と鹿乃子が、二人の視線によけい興奮しながら交わっていく様子を見て、御簾越しからは、始めに驚いたようなため息が聞こえ、その後少しの沈黙があり、衣擦れの音。やがて、蕗子のものらしい、高めの悩ましい声が慎ましく聞こえ始めた。

「…この度は、ご無理を申し上げてすまなかった。我らは、離れの部屋へ場所を移す。和也義兄さまと奥方様は、どうぞこの部屋を、明日一日気兼ねなくお使いいただき、心ゆくまで睦み合っていただきたい。…では、失礼を」

義弟の声が少々せいて聞こえたのは、おそらく自分も、早く蕗子と交わりたいという気持ちの表れだろう。
…そう思えたのは、まだ冷静さが残っていた和也の方で、鹿乃子はもう、その頃にはほとんど記憶を飛ばしかけていた。
帯紐をほどいてやると、ぐったりと柔らかな布団の上に倒れ込んでゆく。

邪魔者がいなくなり、もっとよくしてやりたくて、和也は始末をしてやると、鹿乃子の片脚をぐい、と高く持ち上げた。
「…えっ?!」
「もう、二人はいなくなったよ、鹿乃子。…ここからが、やっと本当の俺達の時間だ。疲れただろう?そのまま、横になっておいで。…いかせて、やるから…」
言うと、鹿乃子の返事をする暇も与えず、和也は持ち上げた脚の付け根に舌を這わせた。

さっきとは比べものにならないほどの、二人分の恥ずかしい水音が部屋に響く。
「ああーっ、あんっ、か…かずやさまぁっ、…よ…よすぎます…っ」
泣きじゃくる鹿乃子が可愛くて、和也は、指も絡ませながら、そこだけを余すところなく、責め続けた。
言葉だけでなく、本当に、いかせてしまいたくて。

鹿乃子は、体中をがくがくと震わせながら、感じ続けた。
本当に…和也さまの目の前で、全てを見られながら、もうすぐ、いってしまう。
体が教えてくれている。
声を、出しすぎて、かすれかけているのが自分でわかる。
でも達する時には、やっぱり、叫ばずにいられなかった。
「いい…いいっ、はあっ…あ、い…くっ、あぁ、いくうんっ!」

「凄いな…」
口元を手でぐい、とぞんざいにぬぐって、和也が微笑んだときに、もう鹿乃子は意識を手放していた。

「ああ…いやぁ、もう…私…いやらしすぎますっ…」
意識が戻り、和也の胸に抱きしめられて布団の中にいることを知った時に、鹿乃子は身をよじった。
「いいじゃないか?俺は、こういう鹿乃子が好きなんだから。…今だから白状するけど、エンゲージするまで、俺は自分の体の欲の強さに正直、困っていたんだよ。もう鹿乃子にも意味が分かるだろうから言うけれど、自分一人で毎日のように処理しても、物足りないほどだった。これでは、いずれ自分の伴侶となる婦女子の体が持たなくて、嫌われてしまうんじゃないか…そう、心配すらしていたんだ」
「え…っ」
「でも、鹿乃子は違った。俺の求めに一生懸命になって応じてくれたし、みるみるうちに可愛くて淫らな、俺の望み通りの花嫁さんになってくれた。もしお前に無理をさせていなければ、俺はいま心も体も本当に満足しているし、心底ありがたいと思っているんだ。…お前以外の女は、考えられないよ、鹿乃子?」

「こ、こんな恥ずかしい、私でも、構わないのですか……?」
「そのへんの婦女子じゃあ、絶対に許してくれないことを、鹿乃子は優しく受け入れてくれるじゃないか?それだけで、俺は望外の喜びだよ」
「そんな…もったいないお言葉…」
「お前に比べれば、どんな言葉ももったいなくなんかないさ。…もっと、こっちへおいで」
ふたたび熱くなり始めた肌でぴったりと寄り添い、ふたりは頬を寄せた。

(つづく)

2012年12月8日土曜日

若夫婦へのご依頼(3)★18禁

和也は、怪訝な顔で訊ねる。
「妙案?」
「ええ。…私、うまくお伝えできるか難しいのですが、その…和也さまのお姿を、蕗子さまのお目にかけないように、私でよろしければ、何とか…ええと、和也さまの前方に私が腰掛けて、盾のような形になって…みては、どうでしょう、か…?」

「ばか。そんな事をしたら、鹿乃子の方が、余すところなく晒されてしまうじゃないか!」
「でも、私、ご兄妹でそんな…見たり、見られたりになられる方が…嫌なのです、どうしても。…何だか、世の中の決まり事に逆らっているように思えて…。その分、私ならどなたとも血はつながっておりません。同じ事をいたしても、思うところは違うと存じます。その…言い方は変なのですが…『正々堂々』とでも、申しましょうか…」
「正々堂々とは…うーん…お前にしか出ない言葉だな、鹿乃子」
「わがままを申しまして、すみません…お聞き入れ願えますか…?」
「わがままだなんて…、申し訳ないのはこっちだ、鹿乃子。この通り、頭を下げる」

真剣この上ない表情をして、舶来物の長椅子に座ったまま向き合い、和也は深々と礼をした。
「か、和也さま、おつむをお上げ下さい。私、困ってしまいます!」
言われて頭を上げた時、和也はいつものちょっと悪戯っぽい表情に戻って、言い放った。
「こんな事で、何度も呼ばれては、かなわないからな。鹿乃子がかわいそうだ。一度見たら、蕗子も旦那も夜ごと夢中になってしまうくらい、お前を後ろから可愛がり尽くして、いかせてやるから…安心して、身を任せていろよ?大声を出して」
「ああん、そんな恥ずかしいこと、おっしゃるなんて、和也さまったら…もう…」
鹿乃子は頬を真っ赤に染めて、和也の胸に顔を埋める。

そのまま、すっかりその気になってしまった二人は、揃って長椅子の背もたれへ着ている物を放るように脱いで掛けると、さっそくその夜の事を想像しながら、始めて、しまった。

帯紐を一本使って、鹿乃子の両手を後ろ手に柔らかめに拘束する。自然、形の良い胸が反り返り、突き出るような形になる。
座っている和也の上にそのまま鹿乃子を乗せて座らせ、いわゆる四十八手でいうところの「絞り芙蓉」の形をとった。

そして和也が後ろから両手を伸ばし、可愛らしさの残る乳首をこの上なく細やかに刺激するうち、鹿乃子は耐えきれずに声を漏らし始めた。
長椅子と、その上の和也に腰掛けて、もじもじと動き始めた鹿乃子の両脚を、和也は両手でそれぞれ、ゆっくりと開いて奥を開かせていく。

もう、乳首への刺激で、鹿乃子のそこは、すっかり感じてしまっていた。
その震えて感じている奥の奥まで、和也は手を伸ばし、ゆっくりと鹿乃子を撫でて可愛がる。
深山の岩から少しずつ清水が流れ出てくるように、鹿乃子は濡れ続けた。

「ああ…っ、んっ……いい…、かずや…さまぁ…」
今までに数え切れないほど和也を受け入れ、気持ちよさを教え込まれてしまったのだから、無理もない。
こんな恥ずかしい交わりを見せつけられて、何も感じない夫婦などいるだろうか。

半ば練習じみた思いで始めたこの夜の睦み合いは、いつまでも終わらず、本当のお招ばれではないのをいいことに、和也は優しく、しかし何度も鹿乃子を貫いて、さんざん泣かせてしまった。

(つづく)

2012年12月5日水曜日

若夫婦へのご依頼(2)★18禁シリーズ

相談の主は、和也の妹、蕗子の婚家から。
どうも、蕗子さまも旦那さまも、夜のご夫婦の事に淡泊でいらっしゃるらしく…蕗子さまのご年齢を鑑みるに、そろそろ御子の事を考えた方がいいのではないか、という事らしい。
もちろん、その他には非の打ち所がない蕗子さまを、婚家の方々は大切に扱われ、御子のこと一点だけがご心配だという。

…そこへ、どういうわけだか、蕗子さまのすぐ上の兄が若い花嫁さんを迎え、それこそ夜も昼もないくらいに睦み合っている、という話が流れてきた、ようだ。

「まあ、蕗子さまにそんな事を知られているなんて…いやいや、恥ずかしい」
ある夜、二人して自室の長椅子に座りながら、鹿乃子が、初めて和也からその話を聞くと、和也は頬を赤らめながら、
「実は、もっと恥ずかしい申し出を、されているんだ…」
と、続けた。
「俺たちが、どんな風なのか、一度、同じ部屋で、蕗子たち夫婦の前で、その…俺たちに、いつも通りに、その…」
さすがに、和也も後の言葉がつかえてしまって、うつむいてしまう。

…しばらくたって、鹿乃子が、思い切って
「か、和也さま…あの、それって…蕗子さまご夫婦の前で、私たちが、愛し合うのを、お見せする…って、こと、なんです、か…?」
と、蚊の鳴くような声で訊ねる。
「…うん、そのようなんだ…」
「ええっ!」
あまりの恥ずかしさに、鹿乃子は両頬を掌で押さえてしまった。
「さすがに、隠れて俺たちを覗くのは礼を失しているし…同じ部屋といっても御簾越しで、正面切って見られるわけでは、ないらしい…。蕗子たちもその気になってくれば、あちらの夫婦は離れの別室で事に及ぶそうなんだが…実の妹に見られながら、鹿乃子とあれやこれやするのも、なあ…」

聞きながら、鹿乃子は和也に訊ねてみた。
「あの、和也さま…、うかがっていると、ご相談というよりも…もう、それって、決まっている事のように聞こえるのですが…」
「…鋭いな、鹿乃子は。…うちの親父が先方に引け目を感じて、俺に言う前に話を受けてしまったそうなんだよ…。…ごめん…」
本当に、心からすまなそうな顔をして、和也は鹿乃子を見つめる。
「…いえ、白宮のお義父さまが、そうおっしゃったのなら…和也さまも、抗うすべがございませんわ。このお話、私になさるのは、とてもお心苦しかったでしょうに…」
自分が和也の立場なら、きっとそうだろう。自分の知らないところでそんなことを決められてしまい、結婚相手にそれを打ち明けなければならないなんて…。

優しく、和也の唇が降りてきて、しばらく二人はくちづけた。
ため息をつきながら終えると、うっとりして、鹿乃子は和也を見上げる。
「優しいな、鹿乃子は…、こんな話をしても怒らないなんて…」
「怒りませんわ。…それより、和也さまの方が、おつらいのではありませんか?実の妹御に、そんなところをお見せになるなんて…」

その後、しばらく、鹿乃子は黙って難しい顔をし始めた。
「…鹿乃子?」
心配した和也が訊ねると、もうしばらくして、鹿乃子は、ぱっと顔を上げた。

「和也さま、ご心配なさらないで。妙案が浮かびましたの」

(つづく)

2012年12月4日火曜日

若夫婦へのご依頼(1)★18禁のシリーズものです

(いよいよ百合ネタが尽きましたので、久しぶりの鹿乃子ちゃん話です。
ただ、和也君との結婚後という事で、成人向け描写が今までより増えるのは否めません~。
「そーゆーのは、や」とおっしゃる方は、なにとぞこの後の閲覧はご遠慮下さいますように)

                         ※

朱宮(あけのみや)家の若夫婦の部屋付き使用人は、長く勤まらない、と言われている。
特に夜の当直に当たった時などは、聞く方も我慢できないほどの、あられもない声を聞き続けねばならぬので。
しかし、いったん昼になれば、婿君は若くして近衛師団の中核とならん勢い、まだあどけなさの残る若奥様は、てきぱきと使用人への指図から客人の相手までこなす。
どうして昼と夜とで、こう人が変わったようになってしまうのか、使用人達はみな首をひねった。

「我々の部屋付き使用人を、なくしていただければいい。それだけの話です」
食後の紅茶を口にしながら、和也が義父母…妻である鹿乃子にとっては、実の父母…に申し上げた。
「そうは、いってもな…。一応は何かあった時のために、見張りは必要だ」
父上の言葉をさえぎるように、
「そんなの、和也様と私とで、やっつけてやりますわ!」
と、相変わらずのお転婆で鹿乃子が言う。

「ホホ…お二人とも、あんなに夢中でいらしては、賊に押し入られても分かりませんわ」
「お、お母様っ…それ、どういう事でらっしゃるのっ?!」
あわてる若夫婦に、おっとりと構えた母上は
「ほうら、ちょっとかまをかけただけで、そんなにあわてなすって…。お盛んなお話くらい、使用人達からしょっちゅう聞こえてまいりましてよ?おすごいことをなさってるようで」
と、余裕の笑みでお答えになる。
途端に、和也と鹿乃子が頬を真っ赤に染めたのは、熱い紅茶のせいばかりではないだろう。

「外のためだけでは、ありませんよ。貴方がたお二人が、睦まじくお過ごしか、諍いを起こしてやしないか、使用人はそれを確かめる役割も担っているのです。私どもは縁あって四神家に生を受け、また縁あって家族となったもの。直宮様方を御守りする役目という栄誉と引き替えに、少々の私事は使用人風情に知れても、いたしかたなきものですよ」
「今夜のお前は、やけに饒舌だな?」
「ええ、貴方。いつかはお話しておかねば、と思っておりましたの。私がこちらに嫁いで参りました折、貴方のお母様から、やはり直々にお聞かせいただいたことでしたから…」

紅茶を飲みながら、鹿乃子は、そっと思った。
(と言うことは、お父様とお母様も…お若くてらっしゃる時、使用人達が逃げ出してしまうくらいに、………、だったのかしら…?)
ちら、と横目で和也を伺ったら、和也も、目配せを返してきた。
(あ、やっぱり…和也様も、同じ事、想像してらしたんだわ…)
想像できるようで、でも全然想像がつかなくて、代わりに自分と和也の愛し合う様子を思い出してしまい、鹿乃子はもう一度、頬を赤くした。

そんな二人に、ある日、意外な相談が持ちかけられていた。

(つづく。今回はリハビリというか、ジャブ程度で…)

2012年12月2日日曜日

百合じゃなくて逃避~(泣)

全然仕事をする気がしないぞ…

明日は渉外(っぽい)仕事が二つもあって、そのどっちも用意が必要なんですが!!

…まあ、ホンットーに何もしないで当日になっちゃった事って、今までないんで
きっと徹夜に近い状態になろうとも、用意のための仕事は最低限、するでしょう。
これから!(苦笑)

暮れって、せわしいですー。
家や職場でイベントも多く、あれしろとか、これ出ろとか。
私、部屋でおこたとみかん派なんだけどねー(ニート?)

あと、今日の朝からずっとトンネル事故のニュース流れてますが、
私もちょくちょく、同じくらいの時間にあそこのトンネル走ってるので、他人事とは思えません。
で、ニュース観っぱなし…って、これも逃避だと思う、自分で。

2012年11月26日月曜日

皆様、ノンフィクションがお好き?(苦笑)

あっれー。
体験談の方が、やっぱり訪ねて下さる方、多いぞー(苦笑)

何なんだ、私はっ。
創作するより、妄想めいた人生送ってる方が、よっぽど百合百合しいのね…?

でも、コミケで一番売れた本も、自分の百合道入門書(ってほどじゃないが)でした。
コミケ兄さん方の話しかけが一番多かったのも、そう。
すっげードキドキして、応対した覚えがあります。

でも、今の職場、そういう百合っぽさが全然ないのよねー。
自分にも、他人同士でも。
そういうお楽しみがあると、毎日通勤する気にもなるってもんなんですがねー。

なもんで、創作に走る私。
気が向いたら更新いたしますので(今日は、これからやる仕事の逃避ね。笑)
今後もおつきあいのほどを。では~。

2012年11月25日日曜日

私のチラ百合?体験談(4)

こんばんは、上野なぎさです。

実は、今夜はもー、寝ちゃおうかなー、と思っていたのですが、
閲覧してくださってる方々が、国内外とも予想以上に多いので(感謝です!)
続きをひねりだしてみますね。

が。
高校を出てから勤めてしばらくたつまで、私の百合体験はぱっつり、途切れます。
でもって、世間で言われてる「モテ期」というやつも3回ほど訪れ(ホントに3回かっきりなんですねー)たりして、もう百合関係のお話はないかな…と思っていた、矢先!

ありましたんですよ!
しかも、今までのが「マジ百合」だとしたら、「ガチ百合」に近い体験が!

きっかけは、同じ趣味で仲良くなった女友達、7~8人で集まったオフ会でした。
みんなアルコールも入っちゃって、いい調子です。
で、お開きということにあいなりました。

すると、私が一番長くメル友をしていて(たぶん)、ここだけの話、一番気が合うなーと思っていた年下の人妻さんが、そわそわし始めたのです。
(あ、私も既に人妻でした~)

どうしたのか聞いてみると、「終電、出ちゃったの…」とのこと。
んでもって、みんなで相談すると、どーも私のホテル以外はシングル予約したらしいと。
私はその時、「たまにはのんびり寝たいなー」と、何でだかダブルを取ってたんですよ。

終電に乗れなかった子の収容先は、自動的に決まりました…(おいおい!)

まあ、助かったのは、お互い、へべれけになるほど呑んでなかった事ですね。

そんでもって、予約した部屋にお招きして、「お先にどーぞ」「いえいえ、どーぞ」と、お決まりの会話の後に、順番でお風呂を使いました。
私はホテルに泊まるとき、必ず一回分の入浴剤を持って行くので、半分ずつ使って。

でね。
ここからがバカなんですが、私、かなり真剣に考えたんですよ。
メールでかなり仲良くなっちゃいるが、初対面でいきなりダブルベッドってのは、どーなの?
これってヤバくない?…みたいな。
女同士だけどさ、不倫くさくないか?…的な。

結果。
メル友さんも気を遣ってたらしく、我々は、ダブルベッドのすみっこ同士で、遠慮がちに一夜を過ごしました…(←この言い方、誤解招くか?)

あちらは、しばらくしたら寝息が聞こえた(ような気がする)んですが、私の頭は、もーイタリア人の男の人状態です(笑)
「こ、ここで何かアクションを起こさなければ、失礼なんでしょうかっ?!」
「いやいやいや、このままメル友さんでいるには、健全に一夜を明かすべきでは?!」
…マトモに寝られませんでした。ばか。

で、ふつーにホテルのレストランで朝食をとって、彼女とは「またね」をしました。
(あー、結局、何も手を出さなくてよかった…)と、思いっきり百合な感想を心の中でつぶやきながら、わたしはお見送りしたわけです。

でもねー。
この話、ちょっとした後日談がございまして。
直後、彼女からのメールに、こう書いてあったんですよ。
「なぎささん(仮名)の旦那様、奥様を一晩お借りしちゃって、すいません~」的な一文が。

…これ、どう取ったらいいんでしょうか…??

というわけで、今回のエピソードが、私の体験の中で一番「ガチ百合」なのであります。

これ以降は、百合百合しいお話がないので、このシリーズ(?)おしまいです。
だってねー、私が今一番気になってるキャラは、エヴァの渚カヲルくんだもんなー。

それでは、ネタが出来たら、また~。

2012年11月21日水曜日

私のチラ百合?体験談(3)

さてさて、今日は高校の巻です。

実は、もう高校の時のチラ百合体験は、このブログを開いた時に、真っ先に書いてあるのでしたー。
もちろん、私にとって都合の良い脚色がたっぷり含まれていますが(笑)

そのお話は「いちごボーイ」です。
渡り廊下ですれ違ったとき、一目で釘付けになった同級生がモデルさんです。
見た目は、いちごちゃんそのもの。
彼女が留学していってしまったのも、事実と同じです。

違うのは…はい、ご想像通りです(苦笑)
声も掛けられないほど、私にとっては雲の上の存在でした。
だから、完璧な憧れ止まり。

それなので、留学の時も相変わらずひとこと言う勇気もなくて、
でも「もう一生会えないかもしれない!」と、なけなしの度胸をふりしぼって、当時自分が一番好きだったコミックスを、黙って、その人にあげました。

そのコミックスには、クラスで一番ボーイッシュで秘密めいた女の子が、優等生タイプで内気な女の子と友達になり始めた頃、家の都合で外国へ行ってしまう…というお話がのっていたので。
ちょっと思わせぶりだったかしら?

もう一つのチラ百合体験は、部活の先輩でした。
美人さんではないけれど(失礼!)生きが良くて、好き嫌いがはっきりしてて、うらやましいなぁと思いながら、眺めていました。
先輩の好きな本はチェックするようにして、話題を合わせて、気に入られたいなーと思ったり。

「…なんだよ、上野なぎさって、チラどころかマジ百合じゃね?」とお思いの方、ご勘弁を。
だって私、高校は女子校だったので、男子とのおつきあいチャンスが皆無だったんですよー。
たまに、市内の学校で合同の部活イベントがあった時も、けんかばっかりしてたしな(笑)

そんでは、今日はこんなとこで。

2012年11月19日月曜日

私のチラ百合?体験談(2)

わっ、自分のあやしい過去話を書いたら、よその国のお客様が増えた!
というわけで(苦笑)、また今日もひねり出してみましょう。

次のチラ百合体験談は、中学校かな~。
ほのかに先輩に憧れたのと、反対に、なぜだか同級生にすっごくなつかれたのと。

先輩の方は、正直、地味な人で、でもいつもほんのり微笑んでいて、
そばにいるとハンドクリームのような、あったかい落ち着いた香りがしてました。

(むむ、これは後年、私が石けん系のコロンやトワレを好きになったきっかけ?)

まあ私は明るい方ではなかったので、お派手な同級生から軽~くいじめを受けてたりしてもいたんですけど、このほんわかした先輩のたたずまいに、ちょっと救われてたかもしれません。

次に、何でだか、すっごくなついて来てくれた同級生。
中学に入って急に背が伸び始めた私と正反対の、かわいいおちびちゃんでした。

あ、いや、「かわいい」と書きましたが、好意を持ってるというより、小さいからかわいいという意味。
とにかく休み時間になると飛んできて、腕に巻き付くように密着、きゃっきゃっ。
…どうしてだったのか、今も分かりません。

まあ考えるに、彼女はその時、恋に恋したがってた状態なのかな?
おかげさまで(笑)私も「好かれる」という、貴重な経験をさせていただきました。

同窓会で会ったときは、彼女、多分だれか同い年の男の子と結婚してたような気が…。

それでは、今日はこのへんで。

2012年11月18日日曜日

私のチラ百合?体験談

…もーねー、ネタが浮かばないってんで、己の人生を切り売り始めましたよん(笑)
考えると、いくつかあるんですよねー、これが。
とんでもないんですが、小ネタですが。
じゃ、その中から古い順に、今日は一つめ。

最初のチラ百合?体験は「ファーストネームが同じ、またはかなり似てる」女の子と。
例えば「なぎさ」(仮)だったら、相手は「なぎさ子」ちゃんとか「なぎ美」ちゃんとか。
学校で毎日出席取られてたら、まあ、いやでも意識はしますわね。

で、不思議なもので、名前が似てると、趣味や嗜好もそんなに違わない。
親近感、増します。
気づいたら、二人して一緒にお弁当食べるようになってたりとか、
面白かった本を貸し借りしてたりとか。

私、結構多いんですよ、このケース。

で、他のクラスメートを呼ぶときは名字なのに、この二人は呼び合うとき、なぜか
「なぎ美ちゃん」「何?なぎさちゃん」と、妙に親しげ。
時々「ん?…なんだか、他の子と呼び方、違うぞ?」と思うんですが、
自分の名前で聞き慣れているので、そう違和感もなく、
どんどんどんどん、仲良しさんになるのです。

でもまあ、その程度で淡いチラ百合なんですけどね。
不思議に後々まで、思い出として残る、懐かしくも甘酸っぱいひととなるのです。

では、今日はここまで。

2012年11月13日火曜日

あー、どうしましょ。(近況報告です)

あのですねー。
最近、百合欲(なんじゃそりゃ)が低下してきてるのです。

どんくらい低下してるかというと、
例えば「百合姫」をまだ買ってない…その気になれない、とか
今まで買いためてきた「百合姫」2年分と数冊のコミックスを古本屋に出そうかしら、とか、考えちゃうのです。
(あっ、でも林家志弦さんの『ストロベリーシェイクsweet』だけは売りませんが!)

もう私、ロマンチックの国に入る鍵をなくしちゃったのかなー。
あんまり生々しいのも好みじゃないし、香水ぷんぷんより、ほのかなコロンが香り立つような女の子たちの可愛らしいお話が書きたいんですよね。

というわけで、この冬はコミケに申し込んでいるわけでもなし、ちょっと百合欲の復活を待つことにします。
こんな超低空飛行のブログを訪ねてくださる方がいらして、本当に感謝しております!

あ、誤解なきように。
このブログは、続きます!

2012年10月11日木曜日

春のもみじ(百合です~)

♪秋の夕日に 照る山もみじ…

そう、真由が歌うと、いつも少し遅れて低い声で

♪秋の夕日に…

と、合わせて歌ってくれるのが、理子だった。

小学校の帰り道、家が近いこともあって、二人はよくこの歌を歌いながら秋のすすきの原を帰った。
時には、リコーダーで音の追いかけっこをして。

そんな時の帰り道は、たいてい高い青空に鰯雲がうかんでいるか、夕焼けがかった色の空。
ランドセルに付けたマスコットの鈴が、歩くたびに揺れてリンリンと鳴る。

(こんなふうに、ずうっと帰れたら、いいのになあ…)
真由は、心の中でこっそり、そう思っていた。

幸い、どちらの家も引っ越すことなく、学区内の中学校に揃って進み、歌こそ歌わないけれど、真由と理子は部活の終わりを待ち合わせて、変わらず一緒に帰った。
歌の代わりに、他愛のない話ばかりおしゃべりして帰ったけれど、それでも、真由には十分幸せな帰り道だった。

(でも、高校になっちゃったら、受験があるから、きっと別々の学校よね…)
と、真由は寂しく思った。

ところが、何と。
お互いの家に一番近い進学校へ、二人とも合格してしまったのだ。

(嘘みたい…!小学校の時から、12年も理子ちゃんと一緒にいられるんだわ!)

親付きで出席した入学式の翌日、どうしてもその思いを我慢できなくなって、帰り道に真由は、理子を誘った。
小学校の時から変わらぬ笑顔で、こっくりとうなずく理子。

学校から家まで歩いて帰るうち、少しずつ同じ高校の生徒は減っていき、やがて二人きりになった。

「…ねえ、理子ちゃん」
「なあに…?」
「あたしたちって、小学校の時から、12年もずうっと一緒に帰ってるのよね?それって、何だかすっごい事だなあ、って思わない?」

一呼吸置いて、理子が言った。
「ううん、全然。私は、これが当たり前だって、思ってるの」

「えっ?!」
真由はびっくりして、変わらず微笑む理子の顔を見つめた。

「…ねえ、真由ちゃん。覚えてる?小学校に行ってた頃、帰り道に『もみじ』の歌を歌ったの」
「覚えてる。…覚えてるわ、もちろん!」
「私、先に歌ってくれる真由ちゃんの後を、低音部で追いかけて歌っていったのよね。…その時ね、思ったの。『ああ、こんなふうに、真由ちゃんの後ろを、何年も何年も、ずっと一緒に歩くことができたら、きっと素敵だろうなあ…』って」

真由は、その静かな声音を聞くうち、自分の頬が少しずつ染まっていくのを感じた。

「…ねえ、理子ちゃん」
「ん…?」
「…もう、うちの学校の生徒の人、いないから、…手、つないで、帰ろ…」

言いながら、真由は、手を伸ばす。
そうっと、理子の指先が触れる。

その時、春なのに、確かに二人の心には、あの日の懐かしい
『もみじ』のメロディーが流れ始めた。

(おわり)

2012年9月22日土曜日

追記&鹿乃子ちゃんのお話こぼれ編(?)

このところ、フランスでご覧下さってる方がいらっしゃいますー。
ありがとうございます!嬉しいです。

さて、前回のブログからちょっと時間をおいてみましたら、
閲覧数が書き手である私の予想と違って、ちょっと面白いな~と思えるものがありまして、
僭越ながらここで心覚え代わりに、書かせてくださいね。

実は、前回のベスト5には入ってないんですが、いつも結構閲覧していただいてる巻が
「エンゲージ(5)」なのです。
これ、私としてはとても意外~。で、面白い~。

内容は…まあ、お読みいただいた方はお分かりの通り、婚約のお泊まりがうれしくて、らぶらぶし過ぎてしまった和也くんと鹿乃子ちゃんが、それぞれのお家のご両親とお付きの人に叱られてしょんぼり…というものでして。
親に怒られてるシーンだし、その理由も理由だしなー、つまんないかなー、なんて私は思ってたんですよ。

しかし。
いつもなぜか、まとまった閲覧数がこの巻をご利用なさってるんです~。不思議~。
もしかして、これはホントに予想の域を出ないのですが、こういう経験は私が思っている以上に、一般的なんですかね?もしかして?
それで、鹿乃子ちゃんたちに共感してくださってるとか…どうなのかな?

もう一つ、最近閲覧数が上がっている巻がありまして。
「エンゲージ・その後(5)」、最後から二番目のやつです。
これも短いのに、どうしてかなーと思うんですが、ちょっと心当たりがさっきのより、ある(笑)
たぶん、「鹿乃子ちゃんが、和也くんにお姫様だっこされてる」シーンだからじゃないかなー?
和也くんは、けっこうお姫様だっこ好き(笑)な人で、あっちこっちでしてますので、今度ご興味のある方は、探してみてはいかが?
鹿乃子ちゃんは小柄な設定ですし、和也くんも細めイメージで書きましたが、軍人さんですしね。楽々いけるでしょう。

あと、これは直接閲覧数とは関係ないと思いますが、この巻では久しぶりに蒼宮家の柚華子さんがでてきます。
百合好きの方ならお気づきかも知れませんが(でも柚華子さんは自覚してませんが)、彼女は典型的なツンデレ百合さんで、鹿乃子ちゃんが気になって仕方ないんですねー。
今回は、百合な話ではないので、そっち方面にふくらませなかったのですが、ま、おまけエピソードということで。

お彼岸になって、涼しくなってきました。昔の人はうまいこと言ったものですね。
つらつらと、それでは、また。

2012年9月19日水曜日

鹿乃子ちゃんのお話ベスト5

皆様にご覧頂いた、鹿乃子ちゃんのお話、さてさて、どれが人気(閲覧数が多かった)か、ちょっと調べてみましたよ。
(9月19日現在)

<第一位 同数で「はぢめてのおつかい」(1)(2)>

やはり皆様、お転婆鹿乃子ちゃんの武勇伝がお好きなようですね?
ちなみに、鹿乃子ちゃんが三人の近衛兵さんを倒してしまう武道のモデルは、合気道です。
第二次世界大戦前は、諸般の事情もあり、まだ合気道は世間に広く知られてはいませんでした。軍隊で、教練の一つとして行われていたようです。
なので、鹿乃子ちゃんも「武道の名前はわからない」と話していたわけです。
お父上にでも教わっていたのでしょうか?

<第三位 鹿乃子ちゃん、叫ぶ!(1)>

和也くんがいない所で、堂々と宣言しちゃう巻です。
思い切りがいいのに、そのあとしくしく…な所も、まあ十四歳の可愛らしい所と思ってやって下さい。

<第四位 はじめのはなし>

お読みの方はお分かりの通り、第三位とリンクしたお話です。
小話でもあり、このお話はそんなに読まれないと思いながら書いたので、閲覧数にびっくり。
出てくるみんなが、可愛い…というより、幼いからかな?
ちなみに私も、アゲハの幼虫は可愛くって大好きです~。

<第五位 鹿乃子ちゃん、叫ぶ!(2)>

鹿乃子ちゃんのお話を書こうと思ったとき、一番始めに思いついたシーンが、このお話です。
十歳違いの二人の、初々しいけどちょっとおませな恋のうちあけっこが書いてみたくて。
鹿乃子ちゃんのどんどん変わっていく気持ちと、それをわかっていて少々構いながら、ぶれずに甘く口説いていく和也くんを、対照的に書いてみたつもりですが、どうでしょう…?

さてさて、仕事が込んできますので、次の更新はちょっと未定になります。
本当は「コミック百合姫」の感想を書きたいのですが、買えてないし~。
なもりさんの表紙、すごそうですよね。

書くときは、百合好きの方にも分かるようにタイトルつけますのでー。
それでは、また。

2012年9月15日土曜日

エンゲージ・その後(6)

その夜、和也は朱宮家に一晩招待された。
「ねえ、本当なの?お母様は、女学校を中退なさって、お父様とご一緒になられたって?」
全員が揃った夕食の席で、さっそく鹿乃子は訊いた。

「マア、そんな大昔の事、忘れてしまいましてよ…。鹿乃子さん、それよりも和也様にもっと召し上がってくださるよう、貴女から給仕係に声をおかけなさいな」
社交的にさらり、と受け流しながら、鹿乃子の母は和也におかわりを勧める。
「そうだな。和也君にはもっと滋養を付けてもらって、近衛師団の中核として、それからこの朱宮家の継承者として、今後もますます活躍してもらわねば」
父が、和也の杯に葡萄酒を注がせながら言う。

「はっ、勿体ないお言葉、恐悦至極に存じます」
和也が青年将校の顔に戻って返事をすると、
「んもう、堅苦しくてよ、お父様も和也様も!お食事の時は皆で美味しく頂くのが一番、って、いつもお父様がおっしゃってるじゃないの」
鹿乃子がぷーっと頬を膨らませる。

「あ、いや、そうだったかな、すまんすまん…」
と、父は一人娘に甘い口調に変わり、和也は鹿乃子を見てくすくす笑い出した。
「あーっ、どうしてお笑いでらっしゃるの?」
「…いや、下関で冬にとれる、あの魚にそっくりだと思って…」
「下関…冬…?あ、わかったわ!河豚ね!…って、和也様、おひどいわ!」
一段抜けた鹿乃子のやりとりに、その場の一同、配膳係までが大笑いとなった。

家族や使用人達の心遣いで、その夜、二人は屋敷の一番端にある、めったに使われない貴賓用の寝室を使わせていただけることになった。
「私…こんなお部屋があったなんて、知らなかった…」
和也の手で、天蓋付きの寝台に抱き下ろされながら、そのふうわりとした手触りにも、鹿乃子は驚いている。
「この敷布、いつもの麻布(リネン)じゃないわ。…どうして、羽二重なのかしら?」
和也には、その理由がすぐに分かった。
(ああ、そうか。今夜は、新婚初夜だからと、お気遣いいただいたんだ…)

間もなく、鹿乃子の純潔の証が、この羽二重に残される。
呼べばすぐに侍女頭が飛んできて、朱宮家の当主夫妻に、その証をご覧に入れるのだろう。
でも今、当人の鹿乃子は、
「不思議ねえ…」
と、首をひねっている。
その世間知らずな仕草があまりに可愛らしくて、それから、話してしまうと鹿乃子が今夜を拒んでしまうように思えて、和也は、あえて黙っていることに決めた。

「今夜は、この間約束していた、あれを使うよ」
「えっ?…ああ、秘密にしてらした、っていう…何なのでしょう?」
「塗り薬さ。今よりもっと、気持ちが良くなる。それから、辛い時がもしあっても、その辛さがなくなってしまうんだ…」
初夜の意味もわからない十六のお嬢様には、そう告げておけば十分だ、と和也は思った。
今夜はある種の儀式のようなものだし、まだ幼さの残る鹿乃子の体に、無理はさせたくなくて、あえて今夜、この媚薬混じりの潤滑剤を試そうと考えての事だった。

いつもより、二人の夜はゆっくりと進んで、やがて鹿乃子がかぼそい声を上げながらぐったりと寝台にねそべると、和也は羽二重の敷布を引き抜いて、分かってはいても自分が初めての相手だったことの証を確かめ、ブザーを押した。その間に、薄い上掛けを鹿乃子と自分の体にかける。
待っていたように、侍女頭の春野が飛んできた。無言で、頬を染めながら和也が羽二重を彼女に渡すと、春野は感激に今にも泣きそうな表情をしながら、布を押し頂き、当主夫妻の寝室へと運び去って行ってしまった。

「…鹿乃子?痛いか?」
言いながら、昔学んだ源氏と紫の上のようだ、と、和也はふと思う。
「いいえ…和也様が、何度もお薬をつけて下さったおかげで、そんなには…。でも、お嫁入りをすると、こんな事も、するのですね…」
まだ、初めての経験の余韻に、鹿乃子はぽうっとしていて、それもまたあどけなさが残る。
「嫌に、なった?」
「まだ、よく、わかりませんけど…でも、今考えると、そんなに、嫌じゃ…ない、かも…」
最後の方は寝息と入り交じった言葉で、鹿乃子はすやすやと眠り込んでしまった。

「うん、さすが、わが花嫁はお転婆さんだ」

和也の方は待ち望んでいた夜の到来と、潤滑剤に混ぜられた媚薬とのおかげで、初夜というのに少々、度を越してしまった。そのため、鹿乃子に途中で拒まれたり、今後はもうしたくない、と言われるかと思っていたのに、彼女のこの度量の大きさ。

「いろいろ教えてもらうのは、鹿乃子ではなくて、俺の方かもしれないな?」
和也は、そう言って小声で笑うと、鹿乃子の隣に横になって、寝台の灯を消した。

(おわり…お疲れ様でした~)



2012年9月12日水曜日

エンゲージ・その後(5)

「してやられたな…」
長い廊下を歩きながら、和也はため息混じりに言う。

「えっ、叔父様方にですか?」
「違うよ。…俺の可愛い、花嫁さんにさ」
と微笑むと、和也は、目を丸くしたままの鹿乃子をひょい、と横抱きにして抱き上げた。
鹿乃子は、びっくりして猫の子のように体を丸くして、抱き上げられている。

「軍隊は、階級が全てだ。あの部屋の中では、俺には何を言う権限もない。でも、俺の言いたい事を、十歳も下の婦女子の鹿乃子が、全部言ってくれた。正直、中退の話は驚いたよ。でも、その後、軍人の妻としての覚悟までしてくれていたと知って…嬉しかった」
「だ、だって、私の家でも、よく父上と母上が話しております。だから、そういうものだと…」
「それを、あれだけのお歴々の中で言ってしまうお前が、すごいんだよ。…有難う、鹿乃子」
「和也様…」

そこへ、『お集まり』で揃っていた一族が、少しずつ集まってきた。
「あー、鹿乃子お姉ちゃま、いいなー」
「ほんとうー、私もやっていただきたーい」
女学校へ入ったばかりで、相変わらず茶目な双子の梅子さんと桃子さんは、二人の周りをぴょんぴょん跳ねる。

「は、恥ずかしいです、和也様、下ろしてください…」
「ふたりとも、抱っこしてほしかったら、未来の旦那様に頼むんだな」
「ええ?じゃあ、和也お兄ちゃまと、鹿乃子お姉ちゃまは…」
「ああ。今さっきお許しが出て、夫婦になった。披露宴はまだ先だけれど」
「うわあ、おすごーい!」
「お二人とも、おすてきー!」
昔と変わらず、玄宮家の双子は、手を叩いて大喜び。

一方、蒼宮家の柚華子さんは、少し離れて騒ぎを見ながら、
「まあ、あの二人もお小さいときからずっと、お気が長いこと。さあ、お転婆な鹿乃子さんもお片付きあそばしたことですし、私もそろそろ、年貢の納め時かしら…。お母様から頂いているお写真の中から、海軍士官の方をより分けて、真剣に考えてみようかしらね…」

もう嫁がれて、この場にはいらっしゃらない蕗子お姉様なら、なんとおっしゃるだろう。
お部屋に匿った時のお話でもされて、ころころとお笑いあそばしていらっしゃるだろうか。

(つづく、です。次回は18禁かもです)

2012年9月10日月曜日

エンゲージ・その後(4)

次の『お集まり』の時、和也と鹿乃子は、早々に揃って四神会の部屋へ呼ばれた。
和也は、すっかり陸軍大尉の顔になって、鹿乃子の前を歩いてゆく。
その後ろを、東雲の地を新橋色(鮮やかな青)に染め、波に丸輪の文様を大きくちりばめた振袖に、黒の繻子地に二羽の兎を刺繍した丸帯を締め、鹿乃子がついてゆく。

ノックをして、和也は声を張る。
「白宮大尉、ならびに朱宮家長女、鹿乃子、入ります!」

中に入るなり、二人はぎょっとした。
まさに、朱雀・蒼龍・玄武・白虎の一族を束ねる四人の当主が、それぞれソファにゆったりとすわっていたのだから。

蒼龍の筆頭である、蒼宮家の当主…近衛師団の参謀副総長…が、口火を切った。
「我ら四人の中には、発言もしにくい者がいようから、自分からあえて話す。…お前達、エンゲージが済んでから、かなりそちらの方面でお盛んなようだな?」

階級のあまりに高すぎる上官に、和也は何も言えない。
すると、鹿乃子が
「だって、叔父様、私たち、好き合っているんですもの!…なにも、いけない事なんか、ないと存じます」
と、怖い者知らずで言い返した。

「…だが、鹿乃子姫。お前はまだ女学生だろう?あと一年、卒業まで辛抱すれば結婚だってできよう。その後のことは、誰も何も言わんよ。夫婦の事だからね」
「う…っ」
鹿乃子は、言葉に詰まって黙り込んでしまった。

「鹿乃子、あまり無礼な口を聞いてはいけない」
和也が、腰をかがめて小声で制す。
「だって、私、和也様が大好きだし、エンゲージまでさせていただいたのに、どうして…」
和也に答えながら、鹿乃子は目に大粒の涙を浮かべていた。

「そこでだ」
玄武…玄宮の当主が、話を継ぐ。
「女学生でありながら、結婚式を挙げるというのは、前例がない。女学生は学業が本分であり、主婦は家刀自として家族をはじめ、使用人全てに目を光らせ、采配を振るうのが本分であるからだ。…鹿乃子姫、お前、どちらを選ぶ?」

「ということは、玄宮の叔父様、私に女学校を中退せよとおっしゃっているのですか?」
「そういう選択肢もある、ということだ。まあ、十六、七でお輿入れというのは早いが、お前達の仲の良さも、なかなか進展が早いからな」

「…正直、私は、どちらでも構わない」
白虎、つまり和也の父上である白宮家の当主は、ゆっくりと口を開いた。
「鹿乃子姫の利発さ、勇敢さは、幼いときより見て知っている。もったいないほどのお嬢さんだ。それに、うちの和也も末弟とはいえ、もうそろそろいい年だ。身を固める分には、私は一切構わん」

「…私は、承服しかねる」
鹿乃子の父上である、朱雀…朱宮家の当主は、予想通りの返答だった。
「女学校も卒業できん者が、その後の長い生活を平らかに送る事などできまい。ましてや、さっきから聞いていれば、四神家の娘とは思えぬ恥ずべき口の利き方よ。到底、許すわけにはいかん」

待つのか、中退か、賛成か、反対か…。

「鹿乃子、ここはひとまず保留にしておこう」
和也のささやきを聞き終わる前に、鹿乃子は叫んでいた。
「存じました。私、中退をいたします!」

たちまち、四神家の四人から、おおっ…と声が上がる。

「一時の勢いでは、あるまいな?」
「違います」
「では、なぜにそのように急ぐ?まさか、お前達二人の間に、もう…」
「それは、天地神明にかけて、ございません」
「では、なぜ…?」
「理由は、二つございます」
隣で直立不動の姿勢を取っている和也も、あっけにとられて鹿乃子を見ている。

「一つは、私が和也様を好きで、一時も離れていたくないからでございます」
鹿乃子の父上は、がっくりと頭を落とし、他の三人は鹿乃子を直視している。

「…もう一つは、和也様が帝国軍人だからでございます。近衛兵とはいえ、いつどこの戦場へ赴かれてもおかしくないご身分、結婚の日をむざむざと延ばして、結果、一緒にいられる日が一日でも少なくなってしまったら、お支えする役目の私は耐えられません!」

「ほう、ほう…」
鹿乃子の父上だけは頭を上げられず、後のお三方は何やら悪戯っぽい笑みを浮かべていらっしゃる。
「確か、ほとんど同じ言葉を、『お集まり』で聞いたことがあったのう」
「そうそう、十数年か、二十年ほど前かな…」
「だが、あの時鹿乃子姫と同じ事を言ったのは、確か男子だったな?」
「うん、ぞっこんの娘がいるから、女学校を中退させて結婚したい…とか、何とか」

「もう、…そのへんでご勘弁下さい、皆様」
えっ、と和也と鹿乃子が声の主を見ると、鹿乃子の父上である、朱宮家の当主が真っ赤な顔をして、頭をしきりに掻いていた。
「えーっ、お父様も!?」
「参謀長が、そんな…信じられなくあります!」

「『蛙の子は蛙』ってとこかね」
「いや、『鳶が鷹を生む』かも知れないぞ?婦女子の身で、あれだけきっぱりと啖呵をきったんだからな」

「…では、天下御免だ。一刻も早く、鹿乃子姫は女学生の身分を離れる手続きをし、母上や叔母上方、それに待女頭などから一通りの花嫁としての修養を積まれるがよかろう。白宮大尉は、当主の心得や実務について教えを乞い、合わせて本来の責務である軍人としての鍛錬をたゆみなく積むがよい。…、無論、この話が決まった今から、二人は事実上の夫婦だ。エンゲージも済んでおるし」
玄宮の叔父様が駄目を押して、かすかに笑った。

「さて、では婚礼や養子縁組について、今後の計画を練らねばならぬ。両家のお父上もご臨席の事だしな。…ああ、二人はもう、下がってよろしい」

和也は敬礼をし、鹿乃子は深々とお辞儀をした。

(つづく…あと2回くらいかな…?)

2012年9月8日土曜日

エンゲージ・その後(3)

慕い合う二人にとって、夜はいくらあっても短い。
それからいくらも経たずに、次の間の寝床で、二人は素肌に布団だけ羽織った姿で、話をしていた。
布団の周りには、さっきまで二人の着ていた着物が脱ぎ散らかされている。

「会いたかった…鹿乃子」
「私も…。何日も離れていなかったはずなのに、もうずっとお会いしていないようで…」
「もう、すぐにでも愛し合いたい。…声、大丈夫?」
「…私、そんなにいつも、大きな声なのですか?」
「ああ…まあ、他と比べようがないけど、かなり…だと、思うが」
「いやだ…。ねえ、和也様、もし私が大きな声を出しそうだと思われたら、教えて下さる?」
「…自信ないな。だって、そういう時は、俺も夢中で分からないだろう?」
「ああ、もう…」

夢中で馬を駆ってきた時と比べ、今、胸の中にいる鹿乃子は、恥ずかしがり屋でおとなしい。
だんだん、愛し合う意味と喜びとが分かってきたのだろうか、と考えると、和也も妙に気恥ずかしくなった。

なれば、その夜は、しっぽりと。
互いに声を忍びつつ、恥じらいながら、二人は、甘く濡れた。

「今度は、やっぱり家の外がいいな。どうも気を遣ってしまって、落ち着かないや」
夜明けに、着流しを羽織りながら和也が言うと、鹿乃子も頬を染めてうつむき、こくん、とうなずく。
「それに先日、ある物が手に入って、早くお前に試してやりたい」
「?何ですの、それ?」
鹿乃子は、目をまん丸にして尋ねる。
「次の機会のお楽しみだよ。それまで秘密だ」
「何なのでしょうか…」

実は、それは媚薬を含んだ潤滑剤だった。
鹿乃子が可愛くて仕方なく、もっと乱れるさまを見たいと思って、和也がさる筋から手に入れたものだった。
それに、正直、和也も限界に来ている。
可愛いエンゲージの相手に、最後の一線を越えてはならぬ、というのはなかなか酷な話で、成年を過ぎた和也のこと、無論、処理の仕方は心得ていた。
だが、最近はそれでは追いつかない。
その際にも、何か手助けがほしいと思っていた所だったのだ。
おのずから試してみて、害がないようなら、鹿乃子にも試してみようと目論んでいた。

(つづく。次回は堅めのお話ですよ)

2012年9月6日木曜日

エンゲージ・その後(2)

半刻も過ぎた頃だろうか、白宮家へ朱宮家の使者が訪ねてきた。
「恐れ入りますが、こちらに当家の鹿乃子様がおいであそばしますでしょうか?」
「ええ、蕗子様のお離れをお訪ねになりましてよ。ただ今、お二方でお話中でございます」

「えっ?蕗子様のお部屋に?」
驚く使者に、心得た白宮家の侍女頭は
「そうでございましてよ。何ですか、エンゲージを済ませてから、お心が落ち着かれない日があるというようなお話を、蕗子様にご相談あそばしてらっしゃるそうで…あらまあ、これは私のような分際で、口が滑りましたね。もしお話が長引くようでしたら、鹿乃子姫様もお馬でいらしたようですし、今宵は蕗子様の離れにお泊まりいただいて、明朝にでもお帰りあそばしていただくよう、こちらで取り図らせて頂きますから…」
ここまで立て板に水とばかり、見事に門前払いを食わされては、引き下がらざるをえない。

無論、心の裏では、使者も侍女頭も、本当の目的は分かっている。
互いの家の凛々しい末若様と、可愛らしくお転婆な姫君が、好き合ってたまらない故の所行だと。
エンゲージを交わしたお二人を、それでも引き離すほど、この使用人二人は野暮ではなかった。
それだけ、自分が使える家の方々を普段から敬愛して勤めている印である。

「…承知いたしました。手前は男の使用人故、貴いご婦人方のお部屋へ参ることはかないません。貴女の言葉を、そのまま御当主と奥様にお伝えいたします。宜しくお願い申し上げます」
「こちらこそ、玄関先で申し訳ございません…鹿乃子姫様は、確かに明日、朱宮家へお返し申し上げます故、どうぞご心配なきよう、お伝え下さいまし」

さて、鹿乃子さんは。

お約束通り、蕗子お姉様のお部屋で、ちんまりとしていた。

「…車の音がしたわ。ね、鹿乃子さん。もう和兄様の離れに行っても大丈夫よ?」
「そっ、そそそ、そんなっ。私、本当にもう少し、蕗子様に伺いたいことがあって…」
「あら、嬉しいわ。なあに?」
「…あの、あのう…すごく、聞きづらいんですけれども…蕗子様は、エンゲージされた方と、そのう…夜、ご一緒に…あ、朝までご一緒にいらしたこと、おありなんですか?」

思いっきり鹿乃子が単刀直入に尋ねると、蕗子お姉様は、口を袂で押さえて、鈴のような可愛らしい声で、ころころとお笑いになった。
「し、失礼な事を申し上げて、すみませんでした!」
鹿乃子が平身低頭すると、
「おつむをお上げなさい。本当に、鹿乃子さんって嘘がつけない方ね…。では、私も嘘をつかずに申しますわ。…エンゲージの時の夜、一度だけ、ございます」
蕗子お姉様のお答えに、鹿乃子はびっくりして
「い、一度だけなんですか?」
と、思わず聞き返してしまった。

「ええ、一度だけ。あちらも私も、あまりそちらの方は…それより、音楽を聴いたり、歌舞伎を観に言ったり、お茶席を設けたりする方が、好きなのですわ」
「な、なんだか…私、恥ずかしい、です…」
「まあ、どうして?」
蕗子お姉様は、にっこりとなさる。
「エンゲージした二人が、互いに楽しいと思うことを楽しむのに、どうして良い悪いがありましょう。逆に、私もこれでいいのかしら、と思うこともありましてよ。でもね、お互いがあまり好まないことは、無理にしなくてよろしいと存じます。その代わり、気の合うことは二人して十分楽しむのが良いと思いますわ」
「…はい!」
鹿乃子は、元気にうなずいた。

「…じゃ、和兄様の離れにご案内しましょう。お待ちかねよ、きっと。あ…それから」
言葉を途切れさせた蕗子お姉様に
「はい?」
と鹿乃子が尋ねると、
「…今夜は、少々お声はお控えなさってね?和兄様の離れは一番遠くてらっしゃるけど、でも、一応白宮家の敷地ですし、他のお兄様方の刺激にならないように…ね?」
そんな大人のお話をさらっとしてしまう蕗子お姉様は初めてで、鹿乃子は顔を真っ赤にしながら、ついて行った。

「案内が遅いぞ、蕗子…」
和也の離れへ着き、縁側から蕗子が障子を開けると、待ちくたびれた声が聞こえた。
まださっきの頬の赤みが治まらないまま、蕗子の後ろから、そっと鹿乃子が顔を出すと、いつもの軍服とも、エンゲージの時の洋装とも違う、鈍色の紬を着流しにして、博多献上の帯を締めた和也が、卓の前で腕組みをしていた。

「和兄様、ごめん遊ばせ。つい女同士、話が弾んでしまいまして。ね、鹿乃子さん?」
和也のいらいらなど意に介せず、後ろを向いてにっこりする蕗子を観ると、鹿乃子は
(ああ、やっぱり蕗子様も、まぎれもなく『四神家』のご気性なんだわ…)
と、妙に感心してしまう。

「…うん、まあ、確かに、お前がいてくれなかったら、鹿乃子を匿うことはできなかった。礼を言う」
「まあ、四人のお兄様方の中でも一番きかん気の和兄様から、そんなお言葉を聞くなんて、この蕗、初めてでございますわ」
「お前も、意外と茶化し屋だな。…さあ、エンゲージを済ませた者なら、俺たちの気持ちもそろそろ、察してくれないか?」
「そ、そんなっ、和也様ったら!」
兄妹二人の丁々発止のやりとりを聞いていた鹿乃子は、冷めかけた頬をまた赤くして言った。

「ほら、鹿乃子さん。さっきも申し上げたでしょう?今宵は、お声をお小さく…って。では、邪魔者は退散いたしますわ。ごきげんよう…」
微笑とともに、しずしずと障子が閉まり、足音もなく、蕗子は去っていった。

(まーだ続くよ~)


2012年9月5日水曜日

エンゲージ・その後(1)

しばらく、二人はそれぞれ自分の屋敷で蟄居の身となった。
もちろん、手紙も電話も取り次いでもらえない。

白宮家は遠く、朱宮家から見えるはずもない。
なのに、気がつくと鹿乃子は、幾日も日がな窓際に立ち、ぼんやりと外を眺めていた。
(ああ、伝書鳩でも飼っておけばよかったわ…)

「…お嬢様。時が解決いたします、今しばらくご辛抱あそばせ」
春野が、小さな洋杯を銀の盆に捧げて、やってきた。
「それは、なあに?」
「葡萄酒でございますよ。少々こちらをきこしめして、おやすみあそばせ。落ち着かれますよ」
「それを飲むと、眠くなるというわけね?心安らかに」

春野の言葉に、鹿乃子のお転婆の血がざわざわと騒ぎ始めた。

「…春野。お願いがあるの。一生のお願い!」
「お嬢様の『一生のお願い』は多すぎて、もはや不老不死の域でございますよ。…で、何ですの、お願いとは?」
「あなた、私のかわりにこの葡萄酒を飲んで、…ううん、私に言いくるめられて無理矢理飲まされて、ここの私の寝台に寝ていて頂戴!お願い、理由は…聞かないで」
「聞くも何も、理由は明々白々だと存じますが…まあ、この杯を持って参った私の、不覚でございましょうかね。よござんす。では失礼して、一献…」
くいっとやると、春野は本当に酔ってしまったようで、瞬く間にコテン、と鹿乃子の寝台の上に倒れ込んでしまった。
「有難う、春野。あなたは、名文家の上に、名女優だわ」

鹿乃子は、春野に一礼すると、さっと和箪笥を開け、いつも乗馬の時に付けている、紺色の馬乗り袴を取り出した。女学園の制服とは、もちろん違う。
あっという間に、今着ている銘仙…鮮やかな黄色地に青の流水模様が織り出された、いかにもお転婆さんらしい…の上へ着付け、紐はさすがに女らしく、蝶結びにして端を前へ長めに垂らした。

使用人用の廊下を使って(普段から仲良くしておくものである)屋敷の外へ出た鹿乃子は、迷うことなく馬小屋へ走った。
薄暗い中でも、馬丁の手を煩わせず、一人で支度はできる。
大好きな白妙に乗りたかったのだけれど、宵闇の中、白馬は目立ちすぎて、今日は我慢。
次に気の合う、流星に乗って、鐙に編み上げ靴のつま先を差し込む。

「お願いね、静かに…でも速く、ね。和也様のいらっしゃる、白宮家へ」
手綱を軽く一降りすると、鹿乃子のささやきをわかったかのように、流星はしずしずと裏門を出て、その後はパッと速歩で進んでいった。
(往来の大通りを通っていったら、さすがにまずいわ…川沿いの、並木道を使った方が…)
手綱さばきも鮮やかに、得意の乗馬で、鹿乃子は流星を疲れさせないように御した。

並木道は、さすがに街灯もなく、暗闇が勝る。
流星の足下をおもんばかって、鹿乃子はゆっくりと歩を進めていく。

…すると。

対面からも、蹄の音が聞こえてきた。
遠く、次第に近く。

(誰…?この道は、この時分にはめったに人通りのないはず。追っ手にしては、向きが逆だし…)

上品な、こなれた乗り方。
…どこかで聞いた、見たことのある、乗り方。そして、

「…鹿乃子?」

自分の名を呼んでくださる、優しいその声。

奇跡みたいだった。
何も示し合わせていないのに、同じ日の、同じ時間に、同じ並木道で会うなんて…

「和也さまぁ!」
何のためらいもなく、鹿乃子は叫んでいた。

「何てことだ…あるんだな、こんな事って…」
「私…私も、今、そっくり同じ事を、考えていました…」
「暗くなってきて、心配だったが…その、はっきりした黄色地の銘仙で、鹿乃子だと思った」
「まあ…時には、お転婆な着物も、役にたつものですね…」

お互いに、相手に会いたくてたまらなかったのだと実際に確かめることができて、もう胸がいっぱいになってしまい、二人ともいつもより、口数が少ない。

「おいで…うちの離れへ」
和也は、馬の首を反対に向けさせながら、優しくいざなう。
「えっ、でも今は、皆様が和也様をお捜しでは…」
「雅兄が、いま身代わりで俺の部屋にいてくれてる。それに、鹿乃子は、蕗子の部屋で匿うことになってるから。朱宮家よりは都合がいいと思うが…?」
「蕗子お姉様まで…?!」
「エンゲージを済ませた娘同士、お前が蕗子の所へ相談に来たとでも言えば、まあ言い訳もたつさ。どうだ?」

白宮家のお兄様方や蕗子お姉様に、こんなに心配していただいていたとは、鹿乃子には想像もつかなくて、ただもう、そのお優しさにありがたくすがらせていただきたいと、和也様を想うあまり、すっかり甘えてしまいたくなって、

「嬉しい、です…。お言葉どおり、甘えさせて、いただきます…」
「お、おい鹿乃子、乗馬中に泣いたりしちゃだめだ。流星が心配そうにしてるじゃないか」
「…はい。…すみません、私らしくありませんね。せっかく、お会いしたかった和也様と、こうして二人、お馬に乗っていられるのに…」
銘仙の袖でそっと涙をぬぐうと、改めて、鹿乃子は手綱をしっかりと持ち直し、和也の馬に続いた。

(つづく…な、長いな…書きためてたので…)

2012年9月2日日曜日

エンゲージ(5)

約束の、午後四時。
白宮家の執事と、朱宮家の春野が、ボーイに案内されて部屋に入ってきた。
無論、和也も鹿乃子も、帰り支度を済ませ、洋装で迎えを待っていた。
互いに服装も調え合い、何も落ち度はないはずなのだが、執事と春野は同時にため息をついて、こう言った。

「…お二人とも、お過ごし遊ばしましたね…?」
使用人二人に看破されてたしなめられ、二人は言い訳ひとつできずに、真っ赤になってうつむいた。

それから、しばらく執事と春野は話し合い…おそらく、帰宅してからの当主への対応や本人への話しなど…その後、互いに相手の家の婚約者とその付き人へ丁寧に挨拶を交わしてから、それぞれ、屋敷から差し向けられた車に乗り込んで帰路へ向かった。

「…お嬢様」
神妙に、でもどこか寂しそうに、春野は言う。
「お戻りになられましたら、御前様と奥様には、すべてのお伺いにご正直にお話くださいませよ?」
「…わかったわ。でも、ちゃんとお約束は守っていてよ。まだエンゲージの身、最後の一線は絶対に越えていないし」
「そういうことではございません。春野ごときが一目拝見して分かってしまうことが、ご両親様に分からぬわけがないではございませんか」

「そんなに、なにか…変…?」
さすがに、鹿乃子も心配になっておそるおそる訊くと、
「いくつもございますが…例えば、御目の下に隈が」
「いくつもって、まだあるの?あと何?」
「ご勘弁下さい、お嬢様。これ以上は、春野とて恥ずかしくて申し上げられません。直にご両親様にお聞き遊ばせ」
春野が真っ赤になってうつむくので、鹿乃子は
「そんなあ…」
と、困ってしまった。

一方、白宮家では。
一足早く帰宅した和也が、さっそく両親の部屋で質問攻めにあっていた。
「ふうむ…昨日の電話では、時すでに遅し、というところか?」
「どういうことでしょうか?自分と鹿乃子姫は、既にエンゲージした身。彼女の意向も汲んで、お互いの合意の上、無理のない範囲で…」
「しかし、そのなりでは、鹿乃子姫もしばらく往来を歩けまいて」
「えっ?!」

驚く和也に、父親に代わって母親が、
「和也さん、ご覧になっていなくて?目の隈もですけれど、洋装だからこそよく目立ちましてよ。首筋のあちこちに、くちづけの跡が残っていらっしゃるのを。鹿乃子ちゃんもお転婆さんだけれど、男のあなたが彼女に余計跡をつけていないとは、到底思えないわ。あなたはガーズの詰め襟で隠してしまえるけれど、あちらは女学校で和服、しかも断髪でしょう?うなじまで見えてよ」

「まあ、私たちのエンゲージやハネムーンの時の事を思い出せば、若気の至りというものも、確かにある年頃だからな」
「マア、貴方ったら」
「…それにしても、昔の私たちに比べれば、かなりの情熱家だということだな、…しばらく、鹿乃子姫とお会いするのは控えておけ。とりあえず、今日は私が朱宮の家へ電話を入れておこう。それから数日して、向こうの都合の良い時…鹿乃子姫が不在の時…を選んで、お前と私とで、改めてこの件でご挨拶に伺うことにしよう。何しろ相手は、四神家の筆頭、そしてお前も後々ひとかたならぬお世話をいただく、朱宮家なのだからな」

否、という権利など、和也にはない。
家父長制のもと、当主の権限は、位の高い家ほど絶対的であるものだから。

こちらかわって、朱宮家。
鹿乃子が困ってしまったのは、自分の姿を一目みるなり、母親がしくしくしく…と泣き出してしまったことだった。
話をしようにも、どうしようもない。
よくわからないながらも、妙に罪悪感にとらわれてしまう。

父親は…とみると、腕組みをしてしばらくだんまりを決め込んだあと、重い口を動かして
「…いいというまで、外出は控えなさい。お前の事だから、こちらで見張りをつける」

「どうしてですか?!私、お父様やお母様の教え通り、エンゲージの身分なのだから守るべき一線は決して越えませんでしたわ!天子様に誓って申し上げます!」
「…こんな話ごときに、軽々しく天子様の御名をお使い遊ばすものではない。不敬だ。…確かに春野の話によれば、お前の話に嘘はない。しかしな、その一線は越えなくとも、お転婆のお前が匍匐前進でも跳躍でもなんでもして、その他の越えられる一線は全て越えて、和也君と睦み合っていた様子が、こちらからすれば一目瞭然なのだよ、鹿乃子。…その姿では、ボッブヘアに銘仙を着て学校に通うなど、他のお嬢さん方への刺激が強すぎて、風紀を乱しかねん。ご迷惑だ。…だから、しばらくは家で慎むように、と言ったのだ」

異性の親にここまで言われてしまい、鹿乃子はこれ以上、もう何も口答えできなくなってしまった。自分の作った既成事実を前に、いつものお転婆も、今日は形無しだった。

母親が急に泣きやむと、つい…と長椅子を立って、鹿乃子の座っている一人用の洋式椅子の前にやって来た。
「お立ちなさい、鹿乃子さん」
言われたとおりに鹿乃子が立つと、母親はそっと手を差し伸べ、鹿乃子の顔から首にかけて
「ほら、ここに濃い隈が…。この首筋には強くくちづけた時にできる跡が。ここにも、うなじのここと、それからここにも…」

「わ…わかりました…お父様、お母様。確かに、最後の一線は決して超えませんでしたが…半日お船に乗ってお散歩をした他は、和也様も私も愛し合うのに夢中になって…ホテルのお部屋から、一歩も…出ませんでした…」

「そうでしょうねえ…でなければ、こんなにたくさん、こんなに強い跡を残すなんてできませんもの。鹿乃子さんも何もせずにいられるご気性とはとても思えません。きっと、今ごろ和也様のお体にも、お転婆な貴女がつけた跡がたくさん残っておいででしょう…」
母親の口調は柔らかだが、それがかえって鹿乃子にはつらい。

(ごめんなさい、和也さま。おこられるようなつらい思いさせてしまって、ごめんなさい)

「白宮家とは、四神家の中でも今後深いつきあいになっていく。今日の所は、私が白宮へ電話して、詫びを入れよう。それから後日、私一人で、白宮に直々に会って、改めて事のあらましと謝罪を申し入れよう。将来有望なガーズに、余計な噂が立ってはいかん」

(あんなに、楽しかったのに…二人して、夢中になれたのに…どうして、現実ってこんなに窮屈で、融通が利かないのかしら。和也さまに、会いたいのに…)
と、鹿乃子は思ったが、幼いときからの習い、当主の言葉には何人とも逆らえない。
もし逆らったなら、奥の倉から箱に収めてある家宝の日本刀を持ち出し、鼻先に突きつけるくらいの事はやりかねないだろう、というくらい、底に激しさを秘めている父上だから。

(つづく…長いですが)

2012年9月1日土曜日

エンゲージ(4)

目を覚ましたのは、いつもより遅い朝。
部屋の景色が違うのにはっとして、鹿乃子が辺りを見渡そうとすると、首の後ろが堅い。
(え…?)
和也が、腕枕をしてくれていたのだった。

あわてて和也の方を見ると、彼もまだ少々寝ぼけたお顔で
「ああ…おはよう。…眠れた?」
と、そのままの姿勢で訊ねてくる。

「はい…と、申し上げたいところなのですが…」
「?」
「お恥ずかしいのですが…私、昨夜、いつの間にか気を失ってしまったみたいで…」
「夜明け頃まで、愛し合ったんだよ、俺たちは」
「えっ!」
「だからね、ずいぶん早いお目覚めだなあって、俺の方が驚いてたところさ。…ほら」
和也は、言いながら寝台の毛布の中で、昨夜さんざん可愛がった場所を指でさらり、と撫でた。そこは…まだ夜明けまでむつみ合った名残を示すように、濡れている。

「…あ…ん」
思わず、鹿乃子が声を上げると、
「まだ、できそうみたいだな…?」
和也は、顔を悪戯っぽく覗き込んでくる。
「午前中くらいまで…続けても、いい…?鹿乃子が眠くなったら、眠ってしまっていいから」
恥ずかしいけれど、その申し出はむしろ嬉しくて、鹿乃子は、こくん、とうなずいた。

灯りもいらない、陽光がレース越しに部屋を満たす中、二人は再び愛を交わし合う。
燃え立ってくる体の芯をどうにもできず、じれったそうに先に寝間着の帯を解き、一糸まとわぬ姿になったのは、鹿乃子の方が先だった。
その積極さと、まだ少し幼いながらも芽生え始めた淫らさが、和也を燃え上がらせる。

昨夜と同じように、和也は舌と口と、そして今朝は指先まで駆使して鹿乃子を可愛がる。
昼にも関わらず、高く恥ずかしい声を上げながら、鹿乃子は、水が跳ねるような音を聞いて、なお乱れてしまう。和也は夢中で、気持ちよくてたまらなそうな鹿乃子の場所を、舐めたり、指で可愛がったりし続ける。
「ああんっ…」
知らないうちに、鹿乃子の腰は細かく揺れ始めてしまう。
それをぐっ、と思いの外に強い力で押さえ、和也は、執拗に攻めを続けた。
「いやぁ、…和也さまあ、そこ、だめ…だめぇ…っ」
言葉と裏腹に、鹿乃子の体は、早く攻めてほしい、とせがんでいる。
和也は、もちろん、体の求めに従った。
「あーっ、ああっ、…ふ…うんっ」

それから、二人は短めの午睡を取り、そのあと各々の鞄から旅行用にあつらえた洋装を出して、この知らない港町を歩くことにした。

ところが。
ご一新の時から外国人の居留地となっているこの港町は、今でも外国の人々が多く歩いている。小さな長い毛の犬を連れているくらいなら、まだいいのだが、婚約者や夫婦と思われる二人組も多く連れ立って歩いており、日本人のこちらが目のやり場に困るくらい、往来でも平気に抱き合ったりくちづけをかわしたり、しているのだ。

ホテルで熱くなった心と体を冷まそうと外出した二人には、かえって、目の毒になってしまった。
結果、港巡りの遊覧船に乗っても、景色はそっちのけで、物陰でくちづけを何度も繰り返す。
公園の長椅子でも、よその二人組にあてられてしまい、またくちづけ。
…何だか、外へ出た意味が、ちっともなくなってしまった。
それどころか、一層気持ちは高まってしまう。
その日…二日目…の夜は、互いに昼から想像していた通り、昨晩以上に刺激的なものとなってしまった。

「今宵で、もう、しばらくお会いできないんですね…三日目ですもの」
ホテルのラウンジでソファに座り、窓越しに広がる海をぼんやり見ながら、チャールストン・スタイルのワンピースを着た鹿乃子が言うと、
「…俺も、ずっと、こうしていたいけど…せめて、あと一晩…」
隣に座る背広姿の和也も、つぶやくように答え、その後、はっと二人で同時に目を合わせる。

「もう、一日だけ…一晩とは、さすがに言えないから…延ばしてもらえないかどうか、俺から、親父に電話で頼んでみようか!?」
「本当?そんな事、できるんですの?」
「いいかい?」
「ええ。…もちろん、嬉しい…」
頬をほんのり染めながら、鹿乃子はうなずいた。

フロントで和也が電話を頼んでいる間、少し離れた場所にあるロビーで、鹿乃子はふわりとした革張りの長椅子に腰掛け、待っていた。
電話の内容を直接聞くのが、何となく気恥ずかしくて。
それでも遠目に見ていると、和也が微笑んでいるように見え、その後、みるみる顔を赤らめたので、何があったのか心配になってしまう。

(和也様、叔父様にお叱りを受けてらっしゃるのかしら…)

「待たせたね」
背広姿の動きもしなやかに、和也は戻ってくると、鹿乃子のすぐ隣に座った。
「あの…いかが、だったのでしょう…」
女から聞くのははしたないとも思いつつ、生来のお転婆と好奇心の強さで、つい鹿乃子は訊ねてしまった。

「ああ、お許しが出たよ。明日の午後四時にそれぞれ迎えが来るから、そのつもりでいるようにって」
「わあ、うれしい!あと一日、お別れしないですむのですね!」
無邪気に鹿乃子が喜ぶのを、和也は微笑みながら見ていたが、
「ただね…ひとつ、条件が付いた」
と、声をひそめて、鹿乃子に告げる。
「条件…?なんでしょう…」
「耳、貸して」

隣同士で座ったまま、肩を寄せ合い、和也は鹿乃子の耳元で、自らの父上からの伝言をささやいた。
たちまち、鹿乃子も顔を真っ赤に染めてしまう。

「親父には、お見通し…ってとこだな。まあ、きっとそんな昔の経験もお持ちなんだろう」
「ああ…私、どうしましょう。もう『お集まり』なんて、恥ずかしくって参れません」
「そんなことはないさ。エンゲージをすませたり、ご結婚なされたご婦人方は、みな同じ道を通ってらしたのだろうから」
「そうでしょうか…それにしても…」
和也に諭されても、鹿乃子は頬の赤さを抑えることができない。

和也の父、白虎…白宮家の当主が最後に付け加え、二人を赤らめさせた言葉は
「そういうことは、あまり溺れると癖になるから、ほどほどに睦み合うように」
という、今の二人にとって絶妙の忠告だった。

だからといって、二人で過ごせるここでの最後の夜を、何もしないで過ごすはずもなく。
しばらく、この後がないと分かっているからこそ、二人は何も身につけずに抱き合い、誰にも言えない行為に心も体も没頭し続けた。

どうして、毎日毎晩続けても、こんなにあとからあとから気持ちよさがまさっていくのか。
白宮の父上がご忠告下さった言葉の意味を体で実感しながら、それでも愛し合う気持ちに負けて、和也は今の時点でこの上ないほど、鹿乃子を淫らに乱れさせ続けた。
それほど、もう二人は、かなりの部分で大人の愛し方を知ってしまったのだった。

(つづく…18禁はあと一回くらいで、しばらくあとになってから、また、の予定っす!)

2012年8月30日木曜日

エンゲージ(3)

自分が刺激をしてしまった結果、この可愛らしい婚約者が、心も体も見た目以上の発展家さんにすくすくと育ってきたことは、困るどころか、むしろ嬉しい。

が。
十六歳、今日婚約したばかりのお嬢さんに、成年である自分がどこまで自制心を保ちながら、可愛ゆい申し出をある程度満足させてやれるのか…ある意味、自分が男であり、現在そういう欲望と日々戦いながら(それはひとえに、鹿乃子への愛情のため)いる以上、当然のように制限は必要である。
では、どこまで?

鹿乃子は、和也の返事が思いの外遅いので、いつの間にか、隠していた顔をそうっと出し、和也の表情をうかがった。
自分に負けず劣らず真っ赤な顔で考え込んでいるところを見ると、どうやら自分が病気かどうかで悩んでいるわけではないらしい。

では、なにをお考えでいらっしゃるのだろう…。

ややあって、和也は、真っ赤な顔のまま、向き直って話し出した。

「まず、お前は病気じゃない。それは確かだ」
「それは、ようございました。…では、何なのでございましょう?」
「俺も…確かめたわけではないが、おそらく…お前が、心も体も俺の事を好いていてくれる、その証だと思う。年頃の恋いこがれる婦女子なら、皆、普通にあることだろう」
「ええええ、そうなんですか……!」

「で、俺が今まで、何を悶々と悩んでいたかと…いうとだな」
「…はい…?」
「その、お前の証を、正直言うと、俺は自制心など吹っ飛ばして、今夜も明日の昼も夜も、ずっと確かめたいんだ。…愛しているから。でも、お前はまだ婚約者で、十六で、母親になんかさせられないし、正直、困っているんだよ…」

和也の飾り気のない白状に、鹿乃子は、しばらく顔を赤らめてぼうっとしていたが、やがて、意を決して、こう言った。

「…和也さま。…この朱宮 鹿乃子、ご遠慮を一切捨てて申し上げます…今夜のところは」

(なし、だろうなあ…)と、和也が思って聞いていると、

「…今夜のところは、私自身が確かめたくとも出来ない、その…口では申し上げられない、その場所だけを、本当に変でないかどうか、お確かめいただきたいのですが…」

だんだん小声になりながら、鹿乃子は、寝台の上に正座して、深々と土下座をする。

目の前のお転婆婚約者を前にして、和也は、改めて度肝を抜かれた。
子供の頃からまっすぐな気性で、そこらの男よりも思い切りがよく大胆で。
そして、その裏には、自分の欲望への忠実さと、相手への思いやりが調和されて。

「…まったく。敵わないね…鹿乃子には」

「失礼で、ございましたか?!」
あわてて顔を上げる様子には、、昔ながらの無邪気な可愛いらしさが残っている。

「寝台に、横になって…。俺も、お前の大切な所を知りたいし、歓ばせてあげたいから…ランプは、近いのをひとつだけ、点けておくよ?」
正座をしている鹿乃子をふわりと仰向けに抱き上げてから、和也は新しい方の寝台へ、いとしい婚約者を寝かせた。

「脱がなくて、いい…今度は、紐よりも下の方を開くから」
「かずや、さま…?どうして、私の話した場所が、そこだって、おわかりになるんですか…?」
「…男もね、同じなんだよ。好きでたまらない相手の前では、似たような所が変化する。まだお前には早いから、教えないけど…。さ、変だと思うところを、見せてもらうよ?」

鹿乃子は、決死の覚悟で、裾に手をかけた。
その上に覆い被さるようにして、ゆっくりと、和也は足首を持って開かせていく。

胸の時より、想像以上、だった。
鮮やかな色を保ち、鹿乃子のそこは、花に例えればまさに盛りを迎えようとする風情。
つややかに、ひっそりと可憐な花が咲こうとしていた。
まだ何も知らないながら、早く愛する人に会いたい、という様子で。

和也でなくても、これだけの名花を見せつけられて、何もしない男がいようか。
その後は、もう彼は言葉もなく、舌と口を使ってこの花を蹂躙しつづけた。

鹿乃子ははじめ、あまりの恥ずかしさに毛布掛けを噛んで声を殺していたが、やがて我慢できなくなり、可愛らしく悩ましい声が、夜明けまで部屋中にこだました。

(つづく…!)

2012年8月29日水曜日

エンゲージ(2)

「鹿乃子…」
和也がこの声音で名を呼ぶときは、すぐわかる。
この後に、くちづけが待っているときだ。
鹿乃子が十四の時は、一瞬触れるだけのくちづけだったが、それからは多くない機会のたび、和也は鹿乃子にいろいろなくちづけを教えてきた。

ゆっくり、唇をあわせるくちづけ。
そっと、口を開いてゆくくちづけ。
そして、和也の舌が入ってくるのを、恥ずかしく受け止めてゆくくちづけへと、二人の愛する行為は進んでいた。

「あ…もう、だめです。和也さまぁ…」
甘えた声で、鹿乃子は唇を離そうとする。
「…なんだか、お胸のあたりが、きゅうんと苦しくなってしまって…」
「感じやすいんだな、今夜は。もっとも、いつものように人目を忍ばないで、思い切り愛し合えるから、かな?」
「んもう…意地悪。でも、本当に、そうなのです…」
「…じゃあ、胸が、どれだけドキドキいってるか、見てやろう」
「えっ…?!」

言うが早いか、和也は鹿乃子の寝間着の襟元をつかみ、腰紐はそのまま外さず、がばりと諸肌脱ぎの形にした。
こんな行為は初めてで、鹿乃子はとっさにどうしたらいいかわからず、胸を隠すのも忘れた。
(本物の御令嬢は隠さない、と聞いたけれど、まさにそうだな…)
和也は、そう心の中で思いつつ、改めて鹿乃子を見つめる。

柔らかく室内を照らす卓上ランプの灯りが、ほんのりと鹿乃子の胸を映し出していた。
「綺麗だな…着物の上からさわらせてもらった時も思ったけれど、背は小柄なのに、胸はとても形が良くて、大きすぎず小さすぎず…想像以上に、俺の好みだよ…」

和也は、そう言いながら、そっと両胸に手を伸ばしていく。
「…あっ!」
こらえきれず、鹿乃子が声をあげると
「…可愛い。そういう声、恥ずかしがらずにもっと聞かせてくれ。ここは四神家の屋敷じゃないんだ。誰も、俺たち二人がどんなはしたない声をあげて、どんな恥ずかしいことをしたかなんて、知る事できないんだから…」

和也は言い含めるように婚約者の耳元へささやくと、片方の乳首を指で転がしながら、もういっぽうの乳首を口に含み、舌先で可愛がった。
「あっ、ああっ、和也さま、和也さまぁぁ、だめっ、だめぇ…っ」
本当に、素直に鹿乃子は甘い声をあげて体をくねらせ、ますます和也を興奮させる。

ひとしきり、胸への攻めが済んだ後、鹿乃子は、妙にそわそわしだした。
もちろん、和也がそれを見逃すわけもなく
「どうした?…まだ、胸が痛むか?」
と、心配そうに聞いてくる。

「いえ、あの…ち、違うの…です」
「うん…?」
「あの、和也様、こちらに関することで、何か分からない事があったら、必ず、和也様に相談申し上げるように…って、おっしゃいましたよね…?」
「ああ。言ったさ。忘れてなぞ、いるもんか」
鹿乃子は、さっきまで乱れていたのも恥ずかしそうに、寝間着の前を合わせる。
その仕草を、目を細めて見つめながら、和也は次の言葉を待つ。

「あの…あのっ、私、この頃…病気じゃないか、って…すごく、変なんですっ」
「どうしたのか?どこか、痛いのか?」
「じゃ、なくて……あの、何て申し上げたらいいのか…今みたいに、くちづけをしたりとか、お胸をさわられるとか、それから、そういう事を考えただけでも……あの、体のうちの、口では申し上げられない所なのですが…その、そこが、変な感じになってしまって…」

これ以上は、婚約者にも話が出来かねる様子で、いつものお転婆さんはどこへやら、寝間着の筒袖で真っ赤になった顔を隠したまま、うつむいている。

一方、聞いていた和也の方も、予想外の相談にすっかり参ってしまった。

(つづくー)

2012年8月25日土曜日

エンゲージ(1)

そして、二年間は飛ぶように過ぎ。
いよいよ今日は、和也と鹿乃子の婚約披露。
港町の、クラシックなホテルにて、四神家の人々や、ゆかりのある方々を招いて行われた。

鹿乃子は、髪こそ結っていないでボッブヘアのままだが、総絞りの緋鹿の子の振袖に、大輪の牡丹が刺繍された丸帯。
和也は、もちろん近衛兵の礼服を、一分の隙もなく身に纏っている。

「鹿乃子ちゃま、おすてき!とてもよくお似ましでいらっしゃる」
「本当に、おすてき!お二人並ばれると、まるでお人形さんのよう」
玄宮家の梅子と桃子が、そっくりの顔でそっくりの声で、きゃあきゃあ喜ぶ。
新しく妹を持つ蕗子は、柔らかなすみれ色の五つ紋で、ほんのり微笑む。
ただ一人、蒼宮家の柚華子だけは、イライラと飲み物ばかり頼んでいた。

(ど、どんな顔をしたらいいのかしら…)
緊張のあまり、隣にいる和也を見ることも出来ず、鹿乃子は目の前に現れる人々一人ひとりに返礼を申し上げるので、精一杯だった。

ようやく、鹿乃子が和也を見られたのは、宴もお開きになった、宵の口。
「鹿乃子、疲れたか…?」
「はい…。正直、何が何やら…」
「俺もだよ」
ふたり、顔を見合わせて、ふふ、と笑い合う。

「その着物、よく似合ってる。…名前通りで、とても綺麗だ」
「和也さまも…今日の礼服は、一段と凛々しゅうございます」

ラウンジからは、窓越しに海が見える。
灯台だろうか、微かな光が回ってきては、また消えていく。

「腹、減ってないか?何もつまめなかったろう?」
「まだ、ちっとも減りません。和也さま、よろしかったら何か召し上がって下さい。私はお茶をいただく位で、もう今日は十分です…」
優しい和也の気遣いに感謝しながら、でも鹿乃子は、正直に打ち明ける。
「俺も、実は胸がつかえたみたいで、今は食う気がしないや。…じゃあ、部屋へ、上がろうか?」
「…はい」
手を取るようにして、和也は鹿乃子をア・ラ・モード(最新式)の昇降機へ誘う。

婚約披露を十六になってすぐ行ったのは、結婚を急ぎたいという二人の希望はもちろん、鹿乃子の女学園が東京にあるため、そこを離れた土地で、真偽取り混ぜた噂が流れる前にこぢんまりと披露を行いたい、という申し入れを、皆が受け入れてくれた…といういきさつがある。
また、一生に一度の記念でもあるし、和也も鹿乃子も互いに日々忙しい中、時には非日常の空間で、ゆっくりと二、三日ほど過ごさせてやりたいという、四神家全体の温かな思いやりからくるものであった。

無論、あの十四の日の、鹿乃子の熱烈な宣言は、皆が知っている。
だが、その後に二人だけで会えたとき、少しずつ愛し方が深まっていることは、知らない。

和也も、そして鹿乃子も、今夜と明日の夜が、きっと特別な夜になるだろうと、予測はしていた。
ただ、鹿乃子は、何がどう進んでいくのか、今までと同じく、やはり分からない。

昨夜の、春野の言葉が思い出される。
「若様が何かおっしゃったり、ご所望なされたりしましたら、全て『はい』とお答え申し上げなさいませ。ただ、お嬢様はまだ十六、勉学に励まれていらっしゃるお身でいらっしゃいますから、くれぐれもお慎みあそばしますよう…春野よりの、分を過ぎたお願いでございます…」

やっぱり、わかるようでわからない。
ここは今まで通り、和也さまに一つずつ、教えていただくしか術はないようだ。

和也が先に部屋に入り、シャワーを使う。
ヘチマ襟の長い西洋風の寝間着は、それでも背の高い和也には少々つんつるてんで、鹿乃子を笑わせた。
「…鹿乃子も、入っておいで。湯船があるから、ゆっくり浸かってくるといい。疲れがとれるぜ、きっと」
「…ありがとうございます」
鹿乃子が、さっそく自分の鞄から身の回りの物を出そうとした時、和也は、少し口ごもりながら、横を向いて、言った。
「……その、…下着は、つけなくて、いいから。…俺も今、つけてないし。この寝間着、とてもよく汗を吸うから…」
その言葉を聞くなり、鹿乃子は、かあっと耳まで赤くなった。

(やっぱり…今夜は、今までと、何か…違うんだわ…)

「…はい…」
言われたとおり、寝間着だけ持って、鹿乃子は浴室へ入った。

金色の猫のような脚がついた、乳白色の湯船に、鹿乃子は広々と手足を伸ばす。
小柄な彼女には、十分な大きさだった。

(くちづけは、十四のあの時に、初めて教えていただいたわ。それからだんだん、深いものがあるのだって、教えていただいて…。着物の上から、お胸を優しく触られたこともあったわ。他の誰でもあんな事はいやだけど、和也さまなら、嫌じゃ…なかった…)

そんなことを考えていると、十六に近くなった頃から、変な気分になってくる。
自分の体が、変化していくのが、見えなくても分かる。
(いやだわ、こんな姿、和也さまに知られたら…蓮っ葉だって、嫌われてしまうかも…)
念入りに鹿乃子は体を洗い、よく拭いた素肌に寝間着をまとった。

「あの…和也さま。お待たせ、いたしました…」
鹿乃子が部屋へ戻ると、二つあるうちの片方の寝台(ベッド)に、寝間着姿の和也がうつぶしていた。
「…待ったよー」
でも、その声は怒ってはいない。
「待ってるうちに小腹が減っちまってさ、今さっきボーイに頼んで持ってきてもらったんだ。どう、鹿乃子、食べるか?」
丸い銀の蓋を開けると、小ぶりで綺麗に盛りつけられたサンドウィッチが、赤紫の蘭の花を添えて載っていた。
「まあ、可愛らしい!」
浴室で緊張していた分、ほっとほぐれて、鹿乃子は和也に勧められるまま、一緒に何切れかを口にした。

「やっと、いつもの鹿乃子の顔に戻ったな。今までは目がつり上がって、般若のお面みたいだったぞ?」
「いやだあ、それは言い過ぎです!…でも、本当に今日は、緊張しっぱなしでした。本当の自分を、どこかに置いてきたみたいで」
「そうだな。…良く、わかるよ。その気持ち。軍人の俺だって、今日はさすがに平常心を保つことは至難の業だった。ましてや、おまえは十六になったばかりの女学生だ。卒倒してもおかしくない」
「まあ、和也さま、私が本当にそんなに、たおやかな婦女子だとお思いですか?」
「…嘘だよ」
くっくっくっ、と和也は肩を震わせて笑う。
「ほらぁ、やっぱり。ひどーい!」
頬を膨らませて、枕を投げつけようと持ち上げる鹿乃子に、
「よしよし、本当の鹿乃子はしっかり戻ったみたいだな。…じゃあ、おいで?」
と、急に甘い声に変わった和也は、お転婆な婚約者に向かって両手を広げる。

(そうなんだわ…。お風呂にゆっくり入れて下さったのも、サンドウィッチを頼んで下さったのも、私をたった今構われたのも、みんなみんな、私の心をほぐそうとしてくださったんだわ。和也さま…)

鹿乃子は、素直にこくりとうなずくと、持っていた枕を置き、幼かった頃のように、和也の胸に顔を埋めた。
くすぐったいけど、あたたかい。ドキドキする。
しばらく、二人とも寝間着で抱き合っているのが心地よく、そうしていた。

(つづく)
*おまけ…次回から、18禁要素が強まってくる可能性がありますので(いや、そーゆーサイトですが)苦手な方、次回以降はしばらく逃げて下さい。タイトルで大丈夫っぽいかどうか、匂わせますから!

2012年8月23日木曜日

鹿乃子ちゃん、叫ぶ!(2)

「…ど…どうして…」
普段に似合わず、動転した鹿乃子が訊ねると
「分からない?」
と、和也お兄様は卓に頬杖をつき、優しくお訊ね返しになる。

「あ…あの、…ガーズのお部屋で、…私が、お兄様の、ことを、お話申し上げたから…」
こわごわ答えてみると、
「うん。その通り。…でもね」
と、ここでちょっとお兄様は、真剣なお顔をなさった。

「……?」

「ちょっと俺としては、気になる点が、二つばかりあるんだな、うん」

(いやだ、やっぱり和也お兄様、怒ってらっしゃる!どうしよう…)
正座のまま、襖の前の板敷きで身を固くして座っている、鹿乃子。
それに改めて気づいたように、和也お兄様は
「その二つの話は、子鹿が部屋に入ってからにしよう。入って、襖を閉めて」
と、やや命令口調でおっしゃった。

無論、逆らう気など毛頭無く、言われたとおりに、鹿乃子は動く。
「もう少し、こちらに寄って。そう、その座布団を当てる」
お兄様との距離が縮まるのを怖く思いながら、鹿乃子は、言うとおりにまた動く。
「人に聞かれては、まずい話だからな。だから、こうして俺の離れに呼んだんだ」

(わあん、お、怒られるー!)

鹿乃子が恐怖で目をつぶっていると、和也お兄様の声は、また、優しく戻った。

「まず一つは、子鹿が俺を慕っているって、直接お前から聞きたかったって事」

(え……?)

こわごわ目をあけてお兄様を見ると、ほんのりと、頬をそめていらした。
こんなお顔を拝見するのは、初めて。
ということは、鹿乃子自身も、いま頬を真っ赤にしているに違いない。

「そしてもう一つは、俺の方から先に、お前を好いているって、言いたかった事」

「えええええーー!!」

鹿乃子は、もう我慢できずに、声に出して叫んでいた。

「でもまあ、婦女子の方から先に求愛してもらうってのも、思ってたより悪くないな。周りの若い奴らも、しきりにうらやましがってたぜ」

「いやいや、いやです。恥ずかしい……もう、いや!」
顔を洗うときのように、両手で顔を隠して恥ずかしがる鹿乃子。
その両手首をそっと持って、ゆっくり外していきながら、和也お兄様は微笑む。

「本当に、嬉しかったんだぜ。…子鹿」

「…お嫌いに、ならない?…お兄様」
「誰を?」
「…私を」
「何でまた?」
「…だって、…こんな大切なことを、お兄様に申し上げる前に、ガーズの方々の前で叫んでしまって、…女だてらに、はしたないし…失礼だし…」
鹿乃子が言い終わるか終わらないかのうちに、和也お兄様は、プーッと吹き出した。

「ど、どうして吹き出されるんですか!」
思わず、鹿乃子が声を荒げると
「ほらほら、そういう所さ。次の間には侍女達がいるんだし、声を小さくしとけよ。言いたいことを言う、ちっともはしたなくなんかないさ。うじうじしてるより、俺はずっとつきあいやすいと思うけど。それに、そういう真っ直ぐな所が、朱宮 鹿乃子さんの一番の魅力なんだから。それを悪く言っちゃあ、いけない。俺も、お前のそういう所と、さっき見せたみたいに恥ずかしがり屋だったり、意外と泣きべそさんだったりと、両方が好きなんだからな」

「……そんな、やっぱり……恥ずかしい、です……」
「こんな事言う俺は、軟派で嫌いか?」
「いいえ!全然!だって…だって私、ずっと…」
「ずっと、何?」

お兄様の声はもう、とろけるように甘くて、まだ十四になったばかりの鹿乃子には、聞いているだけでもくらくらしてしまう。

それでも、ちゃんと自分で言わなくちゃ、と気持ちをふりしぼって、でも小声で
「ずっと…ずっと、和也お兄様だけ見てて…お兄様のことが、好きでした…」
と、がんばって、告げることができた。

「可愛いな、子鹿。俺からも、改めて言わせてくれ。俺も、お前がとても好きだよ」

和也の和室は、火鉢を十個も置いたみたいに、熱くてしかたがない。

「お前が、あんまり可愛いから、お前が十六になって婚約(エンゲージ)するまで、我慢しようと思っていたことがいくつもあったのだけど、二つだけ、破っていい?」
「えっ」
「一つは、二人きりでいるとき、互いの呼び方を変えよう。俺は…鹿乃子、でいいか?」
嬉しくて、鹿乃子は目眩にも似た感覚に酔いながら
「…はい」
と、素直に答える。

「俺の事は、なんて呼んでくれる?もう『お兄様』扱いじゃ駄目だぜ」
「では……和也さま、と……」
「…悪くないね。それじゃ、もう一つの方なんだけど…もっと、こっそり話したいんで、もう少し俺の方へ寄ってくれないか」
「このくらい、でしょうか?」
「えーと、もう少し。内緒話ができるくらい…」
言われた通りに鹿乃子が顔を寄せた途端、和也の顔がパッと近づいて、唇と唇が微かに触れて、そして離れた。

「……!」
急に大人の行為に及ばれてしまった鹿乃子は、声を上げることすらできない。
対照的に、少々物足りなさを感じながらも、十四歳のファーストを頂戴して満足している和也の方は、余裕の笑みで鷹揚に構えながら、そんな鹿乃子の狼狽ぶりを可愛くて仕方ないといった風情で、鑑賞している。

「あと二年、鹿乃子が十六になってエンゲージが済んだら、こんなもんじゃないからな。覚悟しとけよ?」
と、和也が構うと
「…ええと、『こんなもんじゃない』と申しますと…どんなもんなのでしょう…?」
鹿乃子が首をかしげながら、でも真剣に聞いてくる、その一途さもまた可愛らしい。

「弱ったな。……俺、だんだん我慢が効かなくなってきちまいそうだぞ。…んーまあ、お前んとこの春野には絶対相談できない分野だしなあ…。そうだな、とりあえず、分からない事は何でも俺に聞いてみてくれ。俺も、実はよくわからない所があったりするんだが…まあ、男同士の友人の方がそういう面はいろいろ教えてくれそうだしな。いいか?他の奴には絶対聞くんじゃないぞ、鹿乃子。天子様にかけて、俺は絶対お前を悪いようにはしないから。わかったか?」

とまあ、少々怪しげな和也の答えにも、
「はい!存じました。その…和也、さま」
と、健気にはにかみながら答える鹿乃子であった。

初めて「和也さま」と呼ばれて、心臓を打ち抜かれそうな彼女の可愛いさに内心ドキッとしている、和也の様子には気づかぬままに。

(おわり…とりあえずは)

鹿乃子ちゃん、叫ぶ!(1)

参謀本部へのお使いから帰って間もないある日、鹿乃子は「四神会」の集まりに呼ばれた。
これは、いつもの『お集まり』ではなく、近衛師団(ガーズ)の男性だけの集まりなので、女子である鹿乃子が呼ばれるのは、極めて異例なのである。

(何かしら、いったい…)
まあ、先だっての参謀本部での所行からすると分かりそうなものなのだが、当の鹿乃子にとってはそんなの日常茶飯事なので、呼ばれた訳が分からないのだった。

今回は玄宮で「四神会」が行われたが、可愛い双子の梅子と桃子に会える様子ではない。

侍女に案内されて、
「失礼いたします…」
と入った部屋は、紫煙がたちこめ、いかにも紳士の社交場という雰囲気だった。

「あ、あのう…こちらの部屋で、私、間違いございませんか?」

「大丈夫だよ、鹿乃子ちゃん。我々がここへ呼んだのだから」

叔父様達が深々とソファに掛けながら、煙草を嗜む様子にほっとする。

「さてね。…もう話の内容は察しがついてるかと思うが、先日、司令部で、かなりの大立ち回りを演じてくれたそうじゃないか?特に若い者達には、もっぱらの噂だぞ」
構うような叔父様達の口ぶりに、ちょっと困りながら、
「でも…いちどきにお三人も向かっていらしたら…私、ああするしかなくって…」と、鹿乃子は答えた。

「いや、しかし見事だったそうじゃないか。…どうだ、鹿乃子姫。いっそ、そのおかっぱを短髪にして、男装姿で今からでも、陸軍幼年学校を受けてみないか?合格、請け合うぞ」
「もう…おからかいにならないで下さいまし!」

そんな冗談話が一段落した後、「四神家」の当主達は、ソファに座り直し、入り口近くに立っている
鹿乃子を、揃って見つめた。
今日の着物は、大きく織り上げた三つ輪重ねと矢羽根を朱と白の色違いにした銘仙お召しに、上下が黒繻子で中央を尖端の機関車柄にした昼夜帯。帯揚げと帯締めは白でふんわり太めに仕上げ、帯留めは御所車の車輪を使って、帯の柄に揃えた。
「いつもより、着物はくだけて来るように」との仰せに合わせて。

「時に、鹿乃子。いくらお前が文武両道で剛胆であろうとも、朱宮家の次期当主継承権はない。理由はひとつ。お前が、婦女子であるからだ。…存じていような?」
「…はい。不本意ながら」
その彼女らしい返事に、部屋にいる男達から失笑がもれた。

「このままでは、「四神家」筆頭の朱雀が、断絶になる。それは天子様や直宮様方にとって、この上ない不敬に当たる。それも、わかるな?」
「…わかります」
「では、どうしたらこの現状を打破できると思う?」

長いような、短いような、時間の後。
鹿乃子が、口を開いた。
「…わ、私が、婿君をお迎えあそばして、その方に、継承権を有していただくこと、でしょうか…?」
「うむ。さすが、利発な姫だ。我々も、そう思っている。ただ…かなりの重責、そのへんの誰でもつとまるものではない。ある程度、限られた人物の中から男子の人選は行われるべきだろう」

ここで、鹿乃子は、十年前に和也が尋ねられた(無論、彼女は知らない)質問を投げかけられることになった。

「鹿乃子姫。これは、お前の一生のためにも、「四神家」の存続にも関わる事柄となるから、正直に話せ。男ばかりの中で言いづらいなら、後に母上でも侍女頭に話すのでも構わぬ。…お前、今、心に秘めたる男子は、いるのか?」

鹿乃子は、間髪入れずに
「はい、おります」
と、答えた。
たちまち、部屋中にざわめきが広がる。

特に大騒ぎをしているのは、若い近衛兵たちだった。
「大したもんだ、この部屋の紅一点が、何とはきはきと物を言う!」
「しかも、色恋の話でこうもスパッと答えられては、参ってしまうなあ」
「ここまでくると、お相手は誰なのか、名前を聞かずにはいられまいよ!」

若いガーズに属する四神家の殿方から構われて、つい鹿乃子はカッとなって、大声で叫んでしまった。

「いけませんか?私が、十歳違いの和也お兄様を、小さな頃からお慕い申し上げていては!」

この大胆な告白に、周りを囲む全員はもちろん、当の鹿乃子まで驚いていた。

「いやあ、さすがに朱宮の一人娘、肝がすわったもんだ」
「話には聞いていたが、実際に聞いてみると、なるほど、迫力が違うね」
などと、鹿乃子の父上と同じくらいの筆頭格の将校たちは、おっとりと構えていらっしゃる。
もちろんそこには、和也と鹿乃子がお互い知らずに想い合っていた事への、安堵もあろう。

一方、和也とそう年の変わらない、若い近衛兵達は、
「こりゃ驚いた!女から申し出るなんて、今まで聞いたことがないや」
「全くだ。…ところで、ご当人はどこだい?」
「また、あいつの事だから馬の手入れか?早速、皆で手分けして探し出して、鹿乃子姫の言葉を伝えなければね」
などと、てんでに好き勝手を叫びながら、部屋を飛び出していった。

どこへも行く所のない鹿乃子は、ガーズの部屋の隅に立ちつくしたまま、紫煙に包まれて、しくしくと泣き出してしまった。

「おやおや、鹿乃子ちゃん。そう心配するものではないよ」
「悪口を言ったわけではなし、いつものお前さんのように、どんと構えておいで」

将校の叔父様方は優しく声を掛けて下さるのだけど、かえってそんなふうにいたわられるほど、なぜだかほろほろと止まらなくなってしまった。

すっかり泣きはらした目を侍女頭の春野に氷で冷やしてもらい、運転手の片桐を呼んでもらうと、鹿乃子は自分専用の車へ乗り込んだ。

(和也お兄様に、ひとこと、お詫び申し上げたかったわ…お騒がせして)

そんなことを考えながらぼんやりと車窓を見ているうち、おや、と鹿乃子は気づいた。
「片桐?どうしたの。この道、うちへ戻る道じゃないわよね?」
「ええ。ただ、先程わたくしもこのお車へ乗り込みます折に、御前様から、こちらの行き先へ向かうように…との、仰せがございまして」

この道。
小さな頃から、何度も遊びに通っていて知っている道。

和也お兄様がお住まいの、白宮家へと続く道であった。

いつ来ても心の落ち着く、平屋で広々とした数寄屋造りのお屋敷。
「こちらの侍女の方について、お進み下さるように…と、承っております。春野さんは、次の間に。お帰りの際は、こちらで電話していただいて、お呼び付け下さいませ」
片桐は、そう言うと広い前庭で車を回し、出て行ってしまった。

なんだか、いつもと違う。
さっきの自分の叫んだ一言と、関係ありそう、なのは、分かる。
でも…その先が、皆目見当つかない。

(和也お兄様…お怒りになっていらっしゃるのかしら…)
鹿乃子の足取りは、だんだん重くなっていった。

「こちらでございます。春野さんは、こちらのお部屋で」
白宮家の侍女は、まず春野を侍女部屋へと案内してから、鹿乃子には、離れの中の大きな襖の部屋を示した。

「失礼、いたします…」
小さな頃から教わった、和室のお作法通りに、正座で二度に分けて襖を開け、頭を下げ、直ったとたん、鹿乃子は息を呑んだ。

そこにいたのは、和也お兄様、その人だったからだ。
軍服を脱ぎ、紬のお対に紺足袋の姿は柔らかくくだけ、また普段と違う大人らしさも漂わせていた。

(つづく!)

2012年8月20日月曜日

おわび(というか…変な文~)

なんか最近、このブログの看板である
「百合」っ気が…どんどんどんどん、低下してます。

で、逆にヘテロ(ホモセクシュアル=同性愛、でない、いわゆるノーマルってやつです)の路線にどんどんどんどん、傾斜してるような…いえ、してるのです。現に。

鹿乃子ちゃんは少女だし、和也くんはもう成年なんですよ。
これであんだけいちゃつきあってて、何もないで終わるはずがない。
「はじめのはなし」や「お集まり」をお読み下さった方にはお分かりでしょう。

かといって、ここでまたショートの百合話に転換するのもなあ。
何より、自分が書きたいのが、上の二人のいろんなエピソードなんですね。
流れの上で、18禁も含まざるを得ないかなー、と構想してるんですが。

なので。
すみません、しばしおわびをさせていただきます。

真性百合ファン(百合じゃなきゃだめ!)の方、しばらく放置しておいてください。
で、タイトルが百合っぽくなったら、またおいでいただけると嬉しいな。

ヘテロだよ~、またはバイ(セクシュアル)だから読んでも平気だよ~、という方、
もし良かったら、もうしばらく、おつきあい下さいね。
18禁めざして、がんばりますっっ!
(何なの…この妙な決意表明は)

でも今夜は仕事があるので、更新できないかもです。…ううっ(泣)

2012年8月19日日曜日

はじめのはなし

あれは、今から10年くらい前の話だろうか。
もう、どこの家で行われた時だか、和也は忘れてしまったが
『お集まり』の席の途中で、四神会の筆頭である叔父様方の部屋に呼ばれたのだった。

「ほう、和也も襟に金星がつくようになったか。いつ陸軍幼年学校に入った?」
「今年からであります」
「ふむ、では十四か。二年間、せいぜい励むと良い」
「ありがたく存じます」

先日受けた口頭試問と大して変わらない…と、和也が心の中でため息をつこうとすると、
「ときに、和也。お前の将来について、この四人で話していたのだがな」
「はっ?」
「念のため訊いておくが、お前の代で、四神家に男子のいない系統はあるかな?」
和也は、黙って考える。

自分の実家である白宮家は、自分の上に三人も兄がいる。
玄宮家と蒼宮家は、まだ襁褓(むつき)も取れないながら、跡取り息子がいる。
と、なると…
「朱宮の伯父様のお宅、ですか!」
つい、声に出して手をぽん、と叩いてしまった。
「意外そうだな?」
「はい。あまりにじゃじゃ馬姫なので、御令嬢という気がいたしておらず…」
その率直な和也の返事に、その場の皆が大笑いしてしまった。

「す、すみません!朱宮の伯父様、鹿乃子姫のことを、つい…」
「いや、その通りだよ。窓の外を見るがいい」

和也が、促されるままに外を見ると、同い年の姫が二人、追いかけっこをしていた。
泣きべそをかいて逃げるのが、蒼宮家の柚華子。
「いやいや、気持ち悪いわ!さっさと放ってちょうだい!」
その後ろを、木の枝を持って追いかけるのが、朱宮 鹿乃子。
「どうしてー?これ、アゲハチョウのいも虫なのよ。可愛いでしょう?あんなに綺麗な蝶になるのよ」

「…あれが、お転婆でなくて、何だというのかね」
「でも、はつらつとして、可愛らしいではありませんか。まだ小さいのに、私が馬の世話をしていると物怖じせずに寄ってらっしゃいますし、引き綱なら、もう高さを気にせずお乗りになれます。武道の稽古をしていると、白宮に来たときなど、私の隣で見よう見まねの型を作ってらっしゃいますが、なかなかさまになっておりますし…」

和也は、自分の知っている『朱宮家のお転婆お嬢様』の話をしたつもりだった。

が、叔父様方は、この話を聞いて急に色めき立ち、中央の円卓に頭を寄せ合い、なにやら話し込み始めた。

「…?」

その輪が元通りに大きくなった頃、和也の疑問は少しずつ解けてきた。
「…ときに、和也。ここは、正直に答えてもらいたい。…お前、朱宮家に入る気はあるか?」
「えっ!」
「あの通り、いくら男勝りでも、鹿乃子は女子だ。当主継承権はない。それに、お前も四男では同じ事だ。朱宮に入ることで、お前には当主継承権が生じる。悪くない話だと思うが」
「それにな、今の当主が、文武両道…どちらかといえば武に勝る朱宮の家風に合うのは、和也が一番だと見立てたのだ」

突然のふってわいたような話に、和也は、驚くばかりだった。
しかし、ただ一つの点を除いて。

父である、白宮家当主が、怪訝そうに和也に尋ねた。
「和也。この部屋にいるのは、男ばかりだから、正直に申せ。…お前、今、心に秘めたる婦女子は、いるのか?」
和也は、間髪入れずに
「はい、おります」
と、答えた。
たちまち、部屋中にざわめきが広がる。

「それは、いったい誰だ?」
父上の重ねての問いに、和也は、ちら、と窓の外を見た。

窓の外では、まだ幼い女子二人の追いかけっこが続いている。

「…私がずっと、お小さい頃から可愛ゆいとお慕い申し上げている方は、ただ今、アゲハのいも虫を手に駆け回っている、お転婆な朱宮 鹿乃子姫であります」

そう、和也が答えると、部屋のざわめきは、いっせいに安堵のため息に変わった。
「…たく、上官をからかうものでない!」
「いやいや、和也お得意の諧謔と、少しばかりの含羞でありましょう」

叔父様方の声は、もう、和也には聞こえていなかった。
今よりもっと小さな頃、軽々とだっこしてあげると
「かじゅやちゃま、しゅき、しゅき」
とすがりついてきたのが、可愛くてならなかった。

(大人になったら、もう一度だっこするとは思わなかったなぁ…)
知らずに窓際に立って、飽かずに眺めていたら
「和也お兄様~!見てえ、ほら、可愛いいも虫でしょう!」
と言いながら、鹿乃子が走ってきた。

(虫めずるじゃじゃ馬姫君、か…)
くすっと笑いながら、和也は窓越しに、鹿乃子の差し出した枝へと手を伸べた。

(おわり)

2012年8月15日水曜日

追記・その7+8月15日

チェコからもご覧になって下さってるんですね~!
ありがとうございます。

オリンピックも終わってしまって、いろんなニュースも聞こえてきますが、
なんとかみんなで一人残らず仲良く暮らせますように…って思い、
いつも忘れずに生きています。

今日は67年前に、大きな戦争の勝ち負けが決まった日。
でも、また本当には終わってはいなくて、みんなでずっと考え続けていきたい日。

いつも家族に「どうして戦争の番組ばっかり観るの?」と訊かれるんですが、
この願いが頭から離れないからですね、きっと。
あとは、もう反射的に。
DNAにこの思想が組み込まれちゃってるのかも知れません(笑)

2012年8月12日日曜日

追記・その6

ウェルカム・フロム・ザ・UK!
オリンピックに涌くあのお国からも、アクセスいただきましたよ。
いいんですか、オリンピック観てなくて(いや、冗談です)

オリンピックもいよいよ終盤戦、
陸上…とりわけマラソンを観ると、祭りの後の寂しさをふっと感じますね。

でも、閉会式はまた盛り上がりそうだな~。
四年前、北京にロンドンが現れたときもびっくりでしたが、
今度はリオのカーニバルが来ちゃいそうですよね?
うーん、すごそうだ。

おまけ。
私の世代としては、デュラン・デュランに出てほしかったなー。
おっちゃんになってても、いいからね~。

2012年8月11日土曜日

はぢめてのおつかい(2)

副参謀長である、蒼宮の叔父様の部屋を出て、鹿乃子は迷路のような絨毯敷きの廊下を、畳表に太めの鼻緒をすげた草履で、きょろきょろと歩いている。
「まさか、送って下さる方がいらっしゃらないとは、考えなかったわ…。おかげで、どのお部屋の角を曲がったかも、覚えてやしないのですもの」
小声で文句を言いながら、それでもおぼろげな記憶を確かに、歩いていくしかない。

そんな鹿乃子の様子を、同じ階の中庭を挟んで向かいの廊下から、数人の下士官が面白そうに眺めている。
無論、その中には白宮家の「和也お兄様」も含まれていた。

「女学生いじめは、歓迎しないね。帝国軍人たる者、レディーファーストを心得るべきじゃないか?」
一人が言うと、
「お前は、あの姫の凄さを知らないから、そんな事を言うのだろう。朱雀家の跡取りが令嬢でも筆頭を保っているのは、彼女が並外れた腕っ節と乗馬の腕前を持っているからだと聞いたぞ。なあ、白宮大尉?」
和也は、あえて沈黙を守り、薄く笑いを浮かべて、てくてく進んでいる鹿乃子を見ている。

突然。
鹿乃子の行く手に、三人の尉官が現れた。
「恐れながら、お伺いいたします。御令嬢は、朱宮(あけのみや)鹿乃子姫でいらっしゃいますか?」
鹿乃子は、動じることなく
「ええ、いかにも」
と答える。

するといきなり、一人目の兵が
「御免!」
と叫んだと同時に、鹿乃子の右耳すれすれに向かって、右手で固めた拳を真っ直線に伸ばし、殴りかかってきた。
鹿乃子は、相手の拳が自分の顔ぎりぎりまで近づくのを見極めた後、自らの右の掌で、拳をくるむようにふわりと受け止めた。
一人目の兵は、勢い余ってよろけてしまう。そこへ鹿乃子は相手の手首を掴み、関節を逆方向にひねり上げて、背後で仰向けになった兵を固めてしまった。

見物人の兵から、口笛が上がる。

二人目の兵は、仰向けになり、獣のようにのしかかってきた。
その動きを見て、鹿乃子は一人目の固め技をゆるめないまま、体を小さく丸める。
二人目も、勢い余ってよろけてしまい、自分から鹿乃子を飛び越し一回転して倒れ込み、後頭部をしたたか打った。

「…尉官の階級では、歯が立たないかも知れないな。俺だって、幼なじみだから手心を加えてくるかもしれないが、怪しいもんだ」
口を開いた和也の言葉に、見物人は一斉にどよめいた。

その間にも、三人目の兵がかかってくる。
今度は、竹光とはいえ、短刀を持って立ち向かってきた。
「武具相手か…どうする?」
鹿乃子は、相手の兵をじっと見ながら、素早く立ち上がった。
聞き手の右を狙おうと、相手は向かって左へ降りかかってくる様子だ。
それを見抜くと、打たれる直前で鹿乃子は自らの体も左へと斜めによけ、向かってくる敵をかわす。
そして、さっと振り向くと、よろけながら再び近づいてくる相手の竹光をよけ、右掌で兵のあご下をぐっと押し上げ、一瞬のうちに倒してしまった。

「…むう…、お見事!」
「話には聞いていたが、女学生になったばかりのお嬢様が、袴も襷もつけずに近衛兵を三人、のしちまうとはなあ…」
口々に感想を言い合う下士官達の中で、和也は一人、くすくすと笑い続けていた。

「四神家のよしみで、白宮大尉。あの少女武道家を玄関まで送ってやってくれないか?」
「…承知いたしました。では、これより行って参ります」

その頃、鹿乃子は自分の倍もありそうな兵を三人、立たせる手伝いをしていた。
「…痛く、ないわよね? これは、戦うための武道ではありませんから」
「ええ、不思議と…」
「ですわよね、皆様受け身が大変お上手でらしたし、こちらへいらしてるんですもの、武道は腕に覚えがおありなんでしょう?」
「ええ、まあ…三人とも、いくつかの武道で段を頂いております。…しかし、あの…ご質問させていただいて、よろしくありますか?」
「ええ、何なりと」
「朱宮さまのお使いになった、ただいまの武道は、何というものでありますか?」
そう尋ねられて、鹿乃子はしばらくうーんと首を傾げてから、
「…実はね、まだ名前がないのですって。正式な武道ではないらしくて。私も、父上からここ数年習い始めたばかりで、まだまだ修行が足りないんですの。ですけれど、まさしく『柔よく剛を制す』を体現している、不可思議な新しい武道でございますわ。……あっ、いけない!」

急にあわてふためく鹿乃子に、
「いかが、いたしたでありますか?!」
と、美丈夫の近衛兵三人が、たちまち家臣のように気色ばむ。
「どうしましょう、袂に入れてあった父上への受取状、無事だったかしら? 風呂敷も…」
そう叫ぶとすぐに、殿方の前でもお構いなく、ぱっぱっと、鹿乃子は袂の中を確かめた。
「…ああ、大丈夫だわ。皺もついていないし、なにより、なくさなくて良かった…」
ほっとする、小さなお使者に
「おさすがであります!」
すっかりやられた三人の下士官は、兵帽を取って、深々とお辞儀をした。

「よっ、子鹿。よくまあこんな所で会うとは、奇遇も奇遇」
三人の兵の背後から、和也お兄様が歩いてきた。
その声を聞いて、三人は一段と姿勢を正し、直立不動のままになっている。
三人は、大尉より階級が下なのだと、鹿乃子にもそれで知れた。

「向こうの窓から、何人かで拝見させてもらったぜ。相変わらずのお手並み、ってとこか」
「ご覧になってたんですの? …まあ…意地悪」
「大評判だったよ。ちびが尉官を三人も、矢継ぎ早にのしちまったんだからな。しかも、着物の乱れもなくね」
「まあっ。そんな所まで、見てらしたんですか?お人が悪うございます、和也お兄様ったら」
その時、鹿乃子の頭に、あるいい考えが浮かんだ。

「ではお兄様、せっかく鹿乃子の腕前をご覧頂いたのですから、その代わりに、このわけのわからない司令部の抜け道をお教えくださいな。片桐が、きっと欠伸をしております」

その可愛いおねだりに、もともと自分もそのつもりでここへやって来たことは、あえて言わないことにして、
「はいはい、分かったよ。無事に朱宮家のお車まで送り届けさせていただきます」
そう言うと、また和也はくすくすと笑った。

「どうして、お笑い遊ばすのですか?」
「いやあ、この話で、近衛師団(ガーズ)の皆がどれだけ楽しめるか、それを考えるとたのしくてな」
鹿乃子の問いに、愛らしさとあどけなさを感じながら、和也が答えると
「いーだ。お兄様なんか、大嫌い!!…あ、でも、今日だけですけど…」
と、さっきの勇ましさとはほど遠い返事を返して、これまた、可愛ゆい子鹿の風情だった。

(おわり)

*次の更新は、おそらくお盆明けになります~。(早くて8/16くらい?)

2012年8月9日木曜日

はぢめてのおつかい(1)

今日も、朱宮(あけのみや)家のお転婆な14歳、鹿乃子さんはおでかけ。
お付き運転手の片桐は、なぜだか緊張気味に車を運転している。

それも、そのはず。
鹿乃子さんの今日のおつかい先は、こともあろうに近衛師団の司令部庁舎であるからだ。
もちろん、こんなものものしい所へ足を踏み入れるのは、二人とも、初めて。
鹿乃子さんの膝には、藤色にねじり梅の模様が散らされた風呂敷が、四角い形でちょこんと鎮座ましましている。

ことの起こりは、今朝のお父上へのご挨拶の時だった。
朱宮家は和洋折衷式の暮らしのため、子供は普段用の着物に着替えてから両親の部屋へ挨拶に回り、朝食はその後、別にとる。
両親は昨日のうちに母親がメニューを渡した和食を、鹿乃子はコックが成長に必要な栄養を考えて、調えてくれる洋食を。
いつもと同じように、鹿乃子が
「お父さま、ごきげんよう」
と、重々しいドアをノックすると、
「ああ、丁度よい所に来た。鹿乃子、お前にしかできない頼み事があるのだが、受けてくれるか?」

こんな風に言われたら、どうして断れようか。
鹿乃子のお転婆好奇心は、むずむずする。

「実はな、今日のうちに司令部へ行って、副参謀長…まあ、蒼宮(あおいのみや)家の当主、お前にとっては叔父に当たる…に、書類を届けてほしいのだ。本来ならば私が行くべきなのだが、あいにく某宮様の御殿にて、各国大使を招いた小宴が催されることになっていてな。私も任務でそこへ付かなければならなくなった。…他の下士官に頼もうかとも思ったのだが、かえって目立つような気もしてな。まさか、女学校に入ったばかりのお前が、そんな書類を抱え込んでいるとは誰も思わないだろう、そう考えたのだが…どうだ?」

鹿乃子は、冒険心ではちきれそうな心を辛うじて静めながら、即答した。
「ぜひ、そのお手伝い、させていただきとうございます。お父さまのご期待にそえるように!」

「きっと、そう言うと思っていたよ。お前は、新しくてちょっと危険なことがすこぶる大好物な、真のお転婆だからな。ああ、春野は今日は連れていかないように。あれは、軍の外の者だから」
わが意を得たりと、朱宮家の当主でもあり、参謀長でもある父は、ニヤリと笑った。

その日は、女学園を『家庭の都合』と申し出て早退し、午前中のうちに鹿乃子は帰った。
さっそく、鹿乃子付きの侍女が二人で、海老茶袴に藤色の銘仙から、外出着へと着替えさせていく。
今日の装いは、白地に鶯茶と薄桃色の立涌模様が縦に幾筋も走った、爽やかで可愛らしい袷。
帯は濃い桃の地に百合を大きく刺繍した名古屋帯で、ちょっとくだけて見せる。半襟と帯締めは逆に薄い鴇色にして、帯留めの小さなエメラルドで百合の葉と色を合わせ、格を上げた。

「肩揚げがねえ…早く取れたらいいのに」
鹿乃子が、姿見を見てつぶやくと、
「まあ、女学校をご卒業なさった御令嬢でも、まだ肩揚げをなさってらっしゃる方はいましてよ。いま少し、我慢なさいませ」
おませな御令嬢に、くすくすと小さく笑いながら、侍女達は答えた。

黒い屋根に、白と煉瓦色の建物は、いかめしいというよりも美しさが勝る。
車寄せで片桐は鹿乃子を下ろすように言われ、控えの場所へ車を動かしていった。
(さあ、御用向きを果たさなくっちゃ!)
案内役の下士官の軍帽には緋色のテープが鮮やかに巻かれ、確かにここは近衛師団なんだわ、と鹿乃子はわくわくした。

「こちらが、副参謀長の執務室でございます」
長い廊下を何度曲がったろう、下士官の青年が、マホガニー色の厚い扉を掌で示した。
「有難う。お取り次ぎを願えます?」
見た目に対して、あまりにも鹿乃子が平常心なのに内心驚きつつ、青年は扉を叩いた。

「参謀長からの、お届け物であります」

「ああ、どうぞ」

下士官は、扉を音もなく閉めると、去っていった。

大きな木製の執務机の向こうには、「お集まり」で鹿乃子によくお声を掛けて下さる、蒼宮の叔父様が座っていらした。

「やあやあ、大したものだ。大の男でも入るのをためらう司令部へ、よくおいでになった。…早速で悪いが、仕事でな。預かり物を確認させてもらうよ」
「はい。ここに」
風呂敷をするするとほどき、中の茶封筒ごと、副参謀長の手へ鹿乃子自ら手渡す。
封筒を開き、中の書類を吟味していらっしゃる叔父様は、いつもと違って険しいお顔つき。
(さすが、将校さまだわ…ああ、男の方って、やっぱりいいなぁ…わたしも、こういうの、やってみたい)
勧められた革のソファに座りながら、鹿乃子はそんなことをぼんやり考えていた。

「うむ。たしかに。朱宮参謀長からの書類に間違いない。確かに受け取ったよ、鹿乃子姫。いまさっそく、受取状をお父上宛に書くから、もう少し待っていてくれるかね」
「はい、承りました」

そこへ、さっきとは違う下士官が入ってきて、鹿乃子にお茶を出してくれた。
「まあっ、私なぞにとんでもない! お気遣い、恐れ入ります…」
「いえ、参謀長の御令嬢とうかがいました…しかし、なんとお若い…」
お互いに驚き合って、そのあと、ちょっと微笑み合った。

「木下中尉、婦女子にうつつをぬかしておる暇があったら、鍛錬をせい、鍛錬を!」
「は、はっ。失礼いたしましたっ!」
あわてて部屋を飛び出る木下と呼ばれた兵に、鹿乃子は
「ごめんなさい、私の方が余計な口を聞いてしまって…」
と、声を掛けた。

「よいのだよ、鹿乃子姫。それが軍隊というものなのだ、しかもここは近衛師団。全国の精鋭が集まる場所、いくら厳しくしてもしたりないくらいなのだから。さあ、これが受取状だ。参謀長に、よろしく伝えてくれ」
言いながら、叔父は白く細い封筒を渡してくれた。
「ありがとうございます。確かに、父上に手渡しいたします」

「さて、これでご用は終わり…と言いたいところだが?」
「は?」
眼を丸くする鹿乃子の前に、蒼宮の叔父はニヤニヤ笑った。

「お前さんの並外れたお転婆ぶりと肝っ玉の据わり具合は、近衛師団(ガーズ)で知らぬ者などおらぬぞ。参謀の用向きが済むまでは我慢しておったろうが、帰り道ともなれば、四神家随一の跳ねっ返りをきゅうと言わせて、話の種にしようとうずうずしておる若いのがあまたいるだろうて。車寄せまでの帰り道、気を抜かぬがよろしいぞ?」

「えっ、じゃ、案内の方は…」
「無論、つかぬよ。帰り道がわからなくなったら、その辺の若いのをひねり上げて聞くんだね?」
「もう! 叔父様ったら、意地悪ですこと!…でも、書類をお受け取りいただいたのは別です。父上に代わりまして、お礼申し上げます。ごきげんよろしゅう」
立ち上がると、小さな封筒と畳んだ風呂敷を左右の袂に入れ、鹿乃子は深々とお辞儀をした。
(つづく~)


2012年8月8日水曜日

追記・その5 +α

いぇいっ。
アメリカ合衆国でもご覧の方がいらっしゃいました~。
オリンピックイヤーだ、めでたいな。

でもおそらく、翻訳ソフトじゃなくて、在留邦人の方がネイティブジャパニーズでご覧なのではないかしら…?

あっ、そーいえば。
指摘を受けたんですけどね、このブログは、果たして18禁に見合う内容ですかね?

なんつーか、こう、ミニスカートの女子高生が駅の階段上ってて、
「お前、その丈じゃ見えちゃうだろ、見えちゃうっつの、あー…見えちゃった」
のような、確信犯的なのは好きじゃないんですよ、私としてはね。

それよりも中国服やベトナムのアオザイみたいにスリットが入ってるチラリズムとか、
前もミニ話で書きましたが、雨に濡れた制服のブラウスを二人組の女の子がミニタオル貸しっこして、お互い相手の肌が透けないように気を遣ってあげるとか、
そーゆーのがねー、好きなんですけどねー。

恋愛未満あり、片想いあり、プラトニックが主軸で、いっちゃってもちゅー止まりかなぁ。
…やっぱ、これじゃ十八禁張ってられませんかね(苦笑)
単に「子供にはまだ早い!これは大人のお楽しみじゃ!」って旗印でもありますけど。

作った同人誌の方は、けっこう何なんだけどな…でも、恥ずかしくてここにアップできないっす…。

2012年8月7日火曜日

夏休みは嫌い(百合なし)

パソコンを子供達に占拠されてしまい、ブログが更新できません…(泣)
やっと空いたので、さあ書くぞ~と思い、パソコンソフトに入れておいた草稿をプリントアウトしようとしたら、紙切れで出ません~(泣×2)
ごめんなさいね。
鹿乃子ちゃんにどんなお着物を着せて、どんな武勇伝を見せてもらおうか、もう少しお待ち下さい。

2012年8月2日木曜日

じゃぱにーず・きもの~鹿乃子ちゃんばなし

鹿乃子ちゃんのお話を書く関係で、和服の本を眺める機会が多くなりました。
今の冠婚葬祭のみの着方と違って、柄ゆきも着こなしもカジュアルだったり、逆にゴージャスだったり、どの本を見ていても飽きません。

彼女と、彼女をとりまく世界は、曖昧なアンティーク~第二次世界大戦前~の時代を想定しています。けっこういい加減(笑)その分、自由に登場人物らしい服装をさせてやりたいと思っています。

実は、パソコン内にはまだ未発表のお話も眠っていまして…鹿乃子ちゃんというキャラクターが可愛らしいのと、周りのいろいろな人物もこれから個性を行動や口調、服装で表していこうとあれこれ考えていると愉しいのとで、少々ハマり気味。

例えば、鹿乃子ちゃんを何かと構ってくる和也くん、彼も私服姿でくつろぐときがありましょう。そんな時、単純にシャツとスラックスではなくて、和服だったら何を着せたらいいだろう…とか。

ありがたい事に、ご覧いただいてる方が多い鹿乃子ちゃんのお話、後日また書かせていただくために、図書館でアンティークのきもの本借りて、勉強したいと思いますっ。
(百合度、低いけど~。これから、少しずつ上げたいですけど…でも、鹿乃子ちゃんと和也くんの今後も気になるしなぁ)

それでは、また。

2012年8月1日水曜日

夏休みのプール

女子高のプールの周囲には、厳重な柵が張り巡らされている。
もちろん、不埒な部外者の視線から彼女らを守るため。

それを幸い、けっこう高校のプールの授業というのは適当だ。
特に夏休みは、出席で成績をつけてくれるようなところがあるので、
学校から提示された日数のラインを越えていれば、まず間違いはない。

涼を求めて、ぷっかーと仰向けに浮いている子が、隣でゴーグルを直している子に聞く。
「ねえ、隣の組でさ、すっごい泳ぎ上手い子がいなかった? 可愛いのに、背中なんか、逆三角形でさぁ。なんであの子全然来ないの?」
「何をねぼけた事いってんの。彼女は今、夏の国体で他県へ行ってるでしょー?」
「…あ、そか」

かと思うと、その隣を平泳ぎでのったりのったりと泳いでいる子がいたり。
まあ、何でもありワールドである。

それから、大事なのがこれ。

「誰が、スタイル…バストとヒップが美しく立派で、ウエストがきゅっとくびれているか…美人だ?!」

同性の眼は、なかなか容赦がない。

普段は、同じ制服だし、着こなし方でそれなりにごまかせていたり、着やせするタイプがいたりして、正直わかりにくいボディラインが、スクール水着だと残酷なくらいに一目瞭然なのである。

ご面相がおよろしくても、けっこうふっくらタイプだったり、逆にガリガリ過ぎたりしても、興ざめ。
逆に、普段は物静かで長い髪を一つに結わえている子がプールサイドに上がり、髪ゴムがとれた拍子に隠していた水着姿をふっと見せたりしたら、まるで名画「ヴィーナスの誕生」のごとく、ぼんきゅっぼんなスタイルだったりすると、プールの中からも外からも、時には独身のしょーもない男子教諭からも
「うおおおお~」
などと、声が上がってしまう(バカだよなあ…)

あと、定番なのが、眼鏡っ子がゴーグルを外すと、想像以上に可愛かったりして、妙にドキドキしてしまうこと。

このへんの子たちは、二学期になると、隠れファンクラブができていたり、する。

あ、ここをごらんの男性諸氏、
「更衣室ではどーなってるんだっ?!」
という声が聞こえてるんですがー(聞こえてねって)

更衣室って、結構狭いし忙しいし、蒸し暑いしで、あんまり余裕ありません。
下着も、見られないように着替えちゃうから、チェックしようがないし。
せいぜい、今シーズンはどんないい香りの制汗剤使ってるかを情報交換するくらい。

…うーん、なんか涼しいってより、やや暑苦しいお話になってしまいましたな(苦笑)
以上、実録風プール話、おしまいっ。

2012年7月29日日曜日

ロンドンオリンピック~!(百合なし)

オリンピックって、大好きです。
国連決議で、期間中は停戦協定が結ばれるんですって。
もー、永遠にオリンピックやって、世界中の人で仲良くお祭り騒ぎできたらいいのに!

時間と自分の都合との関係で、どーしても開会式は見られない部分がありました。
それがなんと、一番期待してた「007」のシーンです。
しかも、本物の女王様まで名演技をご披露されたという、
まさに「女王陛下の007」なワンシーン。

こういうシャレに乗ってくださるっていうのが、いかにもイギリスのウィットを感じさせて下さいますね。愉しい~。

あと、じーっと録画見てて気になったのが、
「あの国名しょって歩いてるおねーちゃん達、どういうしくみになってるのかしらん?」
という事です。
日本みたいな短い国名ならいいですけど、3行ぐらいあるのを見ると、重くないか?とドキドキしながら見てました。

日本の活躍も、もちろん見てて嬉しいですが、
家にいながら世界中のスーパーレベルを浴びるように拝めるなんて、幸せですねー。

と、いうことで、今日はこれまで。

2012年7月24日火曜日

追記・その4

わお、台湾の方もごらんになってらした~。
謝謝!!

「お集まり」(5)

蕗子さまは、和也お兄様のお妹御にあたられる、白宮家の末娘。
白宮家は男のご兄弟が多くて、しかもみな成人しておられるから、
女学校を卒業されてそう幾年もたたない蕗子さまが、なお嫋々として見える。

今日のお召し物は、柔らかな鶸(ひわ)色の、肩から裾にかけて四季の花々がふんわりと染め出された友禅。
おとなしい方だから、やわらかものがよくお似ましになる。
長い髪は結い流しにされ、後ろをお召し物と同じ布で結んでいらっしゃる。

「おすてきねえ…私になんか、あんなお洒落、一生できないわ…」
「何、比べてるのよ。当たり前じゃないの」
うっとり見とれる鹿乃子に、柚華子が悪態をつく。
「だって私、派手で幾何学的な柄の織りが大好きなんですもの。いかにも銘仙みたいな」
「そうねえ、あなたの性格からいくと、そうなるでしょうねえ」
「柚華子さまだって、いつも洋装でいらっしゃるでしょ? お通いの女学校もせえらあ襟のわんぴいすがご制服だそうだし…」
「だ、だってしょうがないじゃないの。蒼宮は皆、生まれた時から洋装ですもの!」

と、いつの間にか二人が言い合っていると、
「お静かに…」
と、母上より年上の大伯母様方から、ジロリ、と睨まれてしまった。

「ちょうど近日中に、蕗子が習っておりますピアノの御教室で、発表会がございまして。もういい年でございますし、一度は辞退申し上げたのですが、先生が是非にとお声をおかけくださいまして。
『お集まり』の席をお借りいたしまして、本人に少々、度胸付けをさせてやってくださいまし…」
白宮の御令室がお話される隣で、蕗子さまはうつむき気味で立っていらっしゃる。

楽譜は、お持ちでは無いみたい…暗譜でいらっしゃるのね。
どんな曲を弾かれるのかしら?
お静かな曲? お可愛らしい曲?

鹿乃子は、椅子の調節をされる蕗子様のご様子を、蒼宮家のすたいんうぇい製グランドピアノ越しにちらり、と見ながら予想した。

予想は、美しく外れた。

華やかで、迫力のある、情熱的な出だし。
(まあっ、ショパンの「英雄ポロネーズ」だわ !それを、お着物で弾かれるとは…!)
肩に余分な力を入れるでもなく、美しい姿勢を保ったまま、それでも鍵盤を叩く力強さは確かで。

サロン室全体に、「ほう…っ」と、誰からともなくため息が広がる。
そしてまた、その曲の後ろに隠れるように、ひそひそ話が流れて回る。
「蕗子さま、いよいよ近日中に、お決まりだった方とご婚礼をお挙げになるらしくてよ?」
「婚約(エンゲージ)なさってから、もう、経ちますものねえ」
「それで、独身時代の思い出に、今まで固辞していらした、ピアノの発表会もご出演を決められたとか」
「四神家の令嬢の中で、一番のおとなしやさんだと思っておりましたら、まあ…意外と。やはり、血は争えないものなのでしょうかね?」

奥様方のひそひそ話がちょうど一区切りした頃、蕗子さんのピアノが終わった。
おしゃべりばかりの御令室様方は、型通りの軽めの拍手で終わったが、蕗子さまより年下の令嬢たちは、すっかり興奮して、大きな拍手をしながら、まだピアノの椅子に座ったままの蕗子さまに駆け寄り、取り囲んだ。
「蕗子お姉様、なんておすごいんでしょう! もう私、心臓がドキドキしてしまいましてよ」
「弾いていない鹿乃子さまが、何でドキドキするのよ。…私はもうすっかり、聞き惚れてしまいましてよ」
「蕗子おねえちゃま!おすてき!私もあんな風に、弾いてみたあい」
「そうなの。梅子も桃子も、練習不足だって、いつもマダム・レイナに手を叩かれますのよ?」
そんな年下の…妹御のような…娘達のさえずりを、蕗子お姉様はふんわりとした笑顔で聞いてくださる。

(でも…なんだか、ちょっと、お寂しそう…?)
誰にも言わないけれど、鹿乃子は、ある童謡の一節を思い出した。

文金島田に 帯締めながら 花嫁御寮は なぜ泣くのだろ……。

まだ女学校一年の鹿乃子には、分からない。
分からないながらも、何となく、雰囲気というものは感じられる。

(今日の『お集まり』は、もしかすると、お家へ納まってしまわれる、蕗子お姉様のお別れの会だったのかもしれないわ…)

そこへ
「何、似合わずにぼんやりしてるのよ。お菓子を皆様に回すのくらい、手伝ってちょうだい!」
相変わらず、柚華子のキンキン声。
ふと見ると、からくり人形さんのような梅子と桃子も、かいがいしく働いている。

(私たちには、親族であったり、姉妹であったり、同じ年の少女が四神家の中にいるわ。でも…蕗子お姉様は、私たちが生まれるまでは、もしかしたら、ずっと一人で…それってどんなに、心さみしく、よるべなかったことでしょうね…)
鹿乃子が、ふっと思っていると、
「かーのーこーさん。聞こえてるの?!ちゃっちゃと手伝ってくださいな、ちゃっちゃと!」
珍しく、くだけた言葉遣いで、キンキンと柚華子が采配を振るう。

鹿乃子も、大急ぎで手伝いの輪に入りながら、
「ね、柚華子さん。私ね、あなたと同い年で、この四神家に生まれて、一緒に育つことができて、良かった、と思うわ。本当よ?」
と、ささやいた。
その途端、柚華子が持っていたくっきーの皿がすとーんと床に落ち、梅子と桃子が
「あらー」「きゃー」
と小声で叫びながら、片付けに走ってくる。

「かっ、鹿乃子さん…あっ、あなたねえ…こんな、忙しい時に、何を…」
さっきまでのキンキンはどこへやら、顔を真っ赤にして、柚華子は落ちたくっきーを拾う。
「だって、本当なんですもの。思ったら、すぐに口に出さないと、この気持ちが逃げてしまいそうで、私、すぐに言ってしまうんですの」
一緒にくっきーを拾いながら、同じ目線で向かい合い、鹿乃子は柚華子にニコッとほほえみかけた。
柚華子はというと、何も言わずにぷい、と横を向いたが、頬が真っ赤なのは変わらない。

そんなこんなで、始まる前は憂鬱だった『お集まり』も、柚華子がその後てんでおとなしくなってしまったり、とってもお久しぶりに蕗子お姉様とお話ができたり(和也お兄様のお話もしてくださったり!)存外、鹿乃子にとっては楽しく過ごすことができた。

御令室様方は、この後かくてるやおーどぶるをお召し上がりになるということで、一足お先に御令嬢方がお開きということになった。
まずは、お小さい玄宮家の梅子ちゃまと桃子ちゃまが、二人で一台の車に乗り込む。
「お姉ちゃまがた、お元気でー」
「お次の『お集まり』は、玄宮でいたしますー。お元気でー」
姿が見えなくなるまで、双方、互いに手を振る。

次は、お疲れの加減をお察しして、白宮家の蕗子お姉様。
鹿乃子と柚華子が深くお辞儀をすると、お姉様は、するすると後部座席の窓を開けさせた。
こんな事は初めてで、示し合わせたわけもなく、二人がそちらへ駆け寄ると、蕗子お姉様は、小さく、でも鈴を振るような可愛らしい声で
「柚華子さん、本日は本当に有難う存じます。愉しかったですわ。…それから、お二人とも」
「はっはい?!」
「まだ女学生の時代は始まったばかり、存分にお楽しみ遊ばせ。女はね、その後は…」
と、蕗子お姉様はしばらく言いよどんでいらしたが、
「きっと、次にお会いできるときは、もう少し上手にお話出来るように、考えておきますわ。それまでは、勉学も体操も、お友達と御仲良しになるのも、何でも存分にお楽しみ遊ばせ。ね?」
そうして、ふんわりとした微笑みを残して、白いお車で行ってしまわれた。

二人とも、しばらく車寄せのところで、並んで立っていた。
蕗子さまのお言葉が、何となく、思った以上に心の奥深くに沈んでいく気がして。
女学校をでて、花嫁修業をして、きっとその間に婚約(エンゲージ)が調い、結婚式を挙げて…。
年下とはいえ男子がいる蒼宮家はともかく、鹿乃子は一人娘だから、自分がどうやって朱宮家を存続させていかねばならないのか、まだわからない。
生来の気性と合わせて、馬の合う武道を鍛錬しているくらいしか、やっていないが。

馬…?
ひづめの音がパッカパッカとのんびり響いて来た。
乗っているのは、金モールのついた礼服を着こなした、若い近衛兵(ガーズ)。
「和也お兄様。よく、こちらの『お集まり』のお開きがおわかりになりましたね?」
鹿乃子は、和也を見ると、つい饒舌になってしまう。
「それくらいわからなくちゃあ、俺らの仕事は成り立たないよ。…蕗子は?」
お妹御を心配なさる様子は、軍人らしくなく、一人の優しい兄上に戻ってしまわれる。
「今さっき、お見送りをいたしましたわ」
「ふーん。じゃ、あとは、子鹿の所の片桐が車を持ってくるだけだな。…柚華子姫、今日だけでなく、支度から何から大変だったろう。母上と蕗子に代わって、礼を言う」
和也の突然の労いに、
「い、いえ、別に…」
と、柚華子は言葉少なだ。

(あれえ、別に柚華子さん、照れてる訳でもないみたいだし…どうしたんだろ?)

そこへ、朱宮のひときわ大きな外国車が、ゆったりと進んできた。
それを見やって、和也はニヤリと笑うと
「さ、これで御令嬢方の『お集まり』は本当のお開きか。…子鹿、また女学園からお前の面白い話が伝わってくるのを、ガーズの若い奴らが楽しみに待ってるぞ。せいぜいお転婆しろよ?」
「まあ、おひどい! そんな、わざとなんか、しませんよーだ」
鹿乃子は、お行儀悪く、和也にあっかんべをして見せた。
和也は白手袋で口を隠し、ぷぷっと笑って馬の歩を進めていった。

「ねえ、柚華子さんは、ガーズお好きでないの? 私は、馬が大好きなのだけど」
「馬は…匂いがいや。私は、どちらかと言ったら、海軍(ネーヴィー)がいいわ」
「まあ、意中のお方とか、いらっしゃるの?」
「本当に、鹿乃子さんたら、あけすけねえ。…ま、あなたの場合は、誰が見てもすぐ分かってしまうから、聞く必要もないけれど?」
「なーによう、それ?!」

待ちくたびれた片桐が、柔らかめに警笛を鳴らす。
「それでは、おいとまいたしますわ。おもてなし、有難う存じます、柚華子さま」
「こちらこそ、お楽しみいただければ幸いに存じます、鹿乃子さま」
型どおりの挨拶をして、その後、二人とも同時にプッと噴き出す。
車が門を出るまで、柚華子は車寄せに立っていてくれた。

「いかがでしたか? お嬢様」
運転しながら、片桐はさりげなく訊いてくれる。
「…そうね、まあ、いろいろあったけど、結局は『案ずるより産むが易し』という所かしら」
「それは、ようございました」
「ほんとうに。…片桐の事、予言者かと思ってよ。それも、かなり当たる」
「はっはっは…予言者とは、ようございましたな。…そうそう、予言者と言えば、名文家の春野は同乗していないようですが、どうしたのでしょうな?」
鹿乃子は、座席から飛び上がりそうに叫んだ。
「あっ!! 置いてきちゃった!!」
ひときわ闊達な、片桐の笑い声が車内に響く。

「よございますよ。奥様や旦那様をお迎えに上がる際にでも、拾ってまいりましょう」
「ありがとう、片桐。…それから、それからね、ひとつ、お願いなんだけど」
「はい?」
「この事…ガーズには、内緒にしてくれる?」

(おわり)



2012年7月21日土曜日

「コミック百合姫」9月号読んだ!

やっと今日、買ってきました~。
やっぱり、狙ってた二つの作品は、期待以上の展開でした。うふー。
あと、なもりさんの表紙~!
初めて四人が揃ったら、こう来ましたか!
どうなるんだ~、今年はあと一号(または1月号入れれば二号)だぞ~~!!

あと、レジで「え?!」思ったのは、いつもと同じ厚さで、いつもの半額!
このご時世に、半額っすよ。
コミックス価格であんだけバラエティに富んだ内容って、すごい。

と、以後、ちょっと辛口気味に感想書きますので、そういうのを見たくない方は、ここでパスなさって下さいね。






…よござんすか?

今号は、正直申しますと、作品の数々のレベルにすごく二極化を感じてしまいました。
あくまでも私見ですよ。
異議を唱える方もいらっしゃるでしょう。

…なんというか、「一読して内容を覚えてしまえる、面白い作品」と、そうでないのとにぱっきり分かれてしまったと申しますか。

または、同じマンネリでも「安心して待って読める、いいマンネリ」と「もしかして、古くなって来つつありはしないか?的マンネリ」に区分されてしまうと申しますか。

それがまた、私の作者さんの好みと一致していない所も、驚きでした。
いつも真っ先に読んでいた方々のお話が、記憶に残らなかった哀しさ。
逆に、この作家さん、今まで食わず嫌いしてたのかな、と思うような面白さ。
そんなのを感じた、9月号でありました。

しかし思うに、百合姫の屋台骨は、現在の所、ゆるゆりと百合男子かなあ。
この二つがなくなったら、今の百合姫は百合姫たり得なくなるくらい、いい意味で落ち着きと実験的という個性を両立させている作品だと、私は思います~。

ではでは、このへんで。

2012年7月20日金曜日

追記・その3

大韓民国の方もいらしてる~。嬉しいな。
私、『景福宮』という漫画が大好きなんですよ~。
日本では『宮 くん ~ラブ・イン・キョンボックン』という名前がついてました。

さてさて、蒼宮家に行って困っていそうな鹿乃子ちゃんも書きたいし、
コミック百合姫の感想も書きたいところなのですが、
夏も(コミケも行けないのに~)なんか忙しくなりそうで、まだ百合姫が買えてない~(泣)

明日買えないと、マジ困ります。
車のガソリンも入れないとエンストしそーな状況ですが、百合エネルギーも枯渇しかけてます~!
あしたは補充日といきたい…いや、いかねばなるまい! です。
そうして、どちらかについて、このブログに書こうと考えておりますっ。

2012年7月15日日曜日

「お集まり」(4)

「すみません、柚華子さま。ちょっと、お玄関先で取り紛れておりまして…」
鹿乃子の言葉を遮るように、
「言い訳は結構。もう皆様お揃いでいらっしゃいましてよ。さっさといらして下さる?」
つん、ときびすを返すと、柚華子は足首ほどの丈のドレスを翻して、サロン室へと向かった。

住まいと同じく、蒼宮家の人々は洋装を好む。
追いかけながら、鹿乃子はつい
「柚華子さま、今日はご家名と同じく蒼のどれすでいらっしゃるのですね。とても、白いお肌に映えて、お似ましでいらっしゃいますわ」
と、思ったままため息混じりで話しかけていた。

「…そ、そんな事を言って、機嫌を取ろうとでも思っているのなら、大間違いよ!」
後ろ向きなので鹿乃子には見えないが、うっすらと頬を染めながら、柚華子は返した。
「機嫌だなんて、そんな…」

そこまでで会話は途切れ、脂粉の香りでむせかえるようなサロン室が、二人を出迎える。
「まあまあ、やっと鹿乃子さんお着きよ。あっちで引っかかり、こっちで引っかかり…相変わらず、あなたって四神家のお転婆さんねえ」
「いつもは迎えになぞ出ない、柚華子さんを部屋の外まで行かせるなんて、ねえ」
ほほほほ、と、楽しいのか馬鹿にしているのか分からない笑い声が、降ってくる。
この笑い声も、鹿乃子が「お集まり」を毛嫌いしている理由の一つである。

「さあさあ、皆様お静まりなさいませ。本日の「お集まり」には、白宮 蕗子さまがお久しゅうにおいでになりましてよ?」
誰かが扇をパンパン、と叩き、そう告げると、サロン室は一斉にどよめいた。
もちろん、鹿乃子と柚華子もだ。

「柚華子さんが、お呼びになったの?だとしたら、大した腕こきでいらっしゃるわね」
「そんなわけ、ないじゃないの!だとしたら、こんなに驚いてると思う?」

「これこれ、女学校の一年生さん方。仲良くおしゃべりなぞしていてはいけませんわよ。」

その声に、二人して
「仲良くなんか、ございません!!」

そう、鹿乃子にとって「お集まり」が嫌な理由の大きな一つは、同じ年の柚華子が、何かしらに付け張り合ったり絡んできたりすること、それがうっとうしくて仕方ないからなのである。

柚華子にとっても、そうなのかどうなのか、それは言葉だけでは分からない事だけれど。

(つづく)

あしたは「コミック百合姫」9月号発売~

2ヶ月待たされて、もー、じれったいじれったい。
早く明日にならないかしら。
歩いて、近くの本屋へ買いに行くよー。
(西日本の方々は、それどころじゃありませんよね…ごめんなさい)

今回の楽しみは「ロケット☆ガール」がどう展開していくか。
あとは「サーク・アラクニ」も絵が綺麗で、ロッテがどう変わってゆくのか、楽しみ。

もうね、このために今、仕事ガンガン行ってますからねー。
買ってもすぐには読めないかと思うけど、でも、買います~!

2012年7月11日水曜日

「お集まり」(3)

革の座席を滑り降りるようにして、鹿乃子は片桐が開けてくれたドアを抜けた。
「有難う、片桐。今日もまた、行ってくるわね」
「世の中は捨てたものではございませんよ、お嬢様。きっとよろしいこともお待ちでしょう」
車中の会話を聞くともなく聞いていた初老の紳士は、自らの仕える令嬢にそう囁くと、目配せをした。
「…そうね。そんなものよね」
つられて鹿乃子も、にこりと微笑む。

蒼宮家は、四神家には珍しい、洋館である。
車寄せから、出迎えの使用人達に鹿乃子が挨拶を返そうとすると、
「こら、子鹿。相変わらず、ちびちゃいままだな?」
後ろの高いところから、親しげな成年の声が聞こえ、同時に鹿乃子の切り下げ髪がくしゃくしゃっと大きな手で撫でられる。

「和也お兄様!」
ぱあっと鹿乃子の顔は晴れやかに変わり、早くその姿を見たくて、くるりと振り向く。
近衛師団(ガーズ)のきららかな礼服に身を包んではいても、昔通りの悪戯っぽく優しい瞳。
そして…鹿乃子だけの内緒なのだけれど…四神家の中で、一番、大好きな方。

「お兄様、ごきげんよう。こんな所にいらしててよろしいの? 他の殿方は?」
「なに、俺もいま着いたばかりさ。年かさの中にいても窮屈だしな。それにしても…」
そこで和也は言葉を止め、高い背をかがめて鹿乃子の顔をしげしげと眺めながら、ニヤニヤ。
「女学園でも、早速、やらかしたんだって? お前の武勇伝が、ガーズでも噂に上ってるぞ」

「えーっ!!」
そんなことは想像だにしていなくて、鹿乃子は思わず赤くなった頬を両手で隠した。

「いいじゃないか。皆、悪いとは言っていないのだから。さすがは朱宮のお転婆娘って、株が上がってるぜ」
「いやです、そんなの! 株なんて上がってません!」
「そうかなあ。少なくとも俺は、そうやって筋を通せる子鹿は偉いと思ってるんだけど?」
「んもう…かまわないで下さい、お兄様ったら!」

鹿乃子しか子宝に恵まれなかった朱宮家では、養子をとるしか家を存続する術がない。
現代と違い、養子や結婚など戸籍に関する事柄については、本人の意志に関係なく、家同士の相談…時には一族の会議…で、決められることとなっていた。

和也の一族となる白宮では男の兄弟が多く、四神家の間では、密かにまだ二人が幼いときより、彼の朱宮家への養子縁組と、鹿乃子との婚約(エンゲージ)の約束が家同士で決められていた。

もちろん、鹿乃子にはまだ、一言も知らされていないが。
(すでに成年となった和也には伝えられているのかどうか…それは、賢明なる読者の皆様のご想像にお任せすることといたしましょう)

そんなじゃれ合いの後、鹿乃子は和也と別れ、改めて蒼宮家の使用人達に労いの言葉を掛けながら、いつも「お集まり」で使われる、婦人用のサロン室へと向かった。
すると、毛足の長いペルシア絨毯を敷き詰めた廊下の向こうから
「あっ、いらした! 鹿乃子お姉ちゃまあ!」
「本当だわ! 鹿乃子お姉ちゃまあ!」
玄宮家のひとつ年下の双子、梅子ちゃまと桃子ちゃまが、お揃いの着物姿で走ってきた。
二人とも、明るいローズの市松模様の錦紗に、大柄な黄色いチューリップが染められた、元気な柄ゆき。帯はそれぞれの名前にちなんだ花が、丸帯に豪奢に刺繍されているもの。

「ごめんなさいね、ちょっと玄関で話し込んでしまって」
「見てまーした。和也お兄ちゃまでしょう?」
「お姉ちゃまとお兄ちゃま、ちっちゃなときからケンカばっかりなさってらしたもーん」
うふうふ、と、両手にぶらさがってくる双子の相手をしながら、
(え。…そうか、他の方には、あれ、ケンカに見えるのかしらん…)
と、鹿乃子は思った。

その時。

「鹿乃子さま。ご到着あそばしてから、ずいぶんこちらへのご挨拶が遅くはなくて?」
キンキン響く声が、鹿乃子を現実の「お集まり」嫌いへ引き戻す。

(さあ…来たわよ。これから数時間、お家のために、耐えなくっちゃあ…)

キンキン声の主は、四神家の令嬢でただ一人、鹿乃子とおない年の女学校一年生。
本日の「お集まり」で御令嬢方を取り仕切る、蒼宮 柚華子(あおいのみや ゆかこ)である。

(つづく)

2012年7月10日火曜日

「お集まり」(2)

「朱宮(あけのみや)、蒼宮(あおいのみや)、玄宮(くろのみや)、白宮(しらのみや)…か。はああ…」
片桐が白手袋に制服姿で運転する、黒の外国車。
総革張りの後部座席にゆったりと座りながらも、鹿乃子はまだ往生際が悪かった。

「先程から、何をそうぶつぶつとおっしゃってるんですか、お嬢様? 本日は、折角の『お集まり』ではございませんか」
片桐の他に、ただ一人この車に乗ることを許されている使用人、鹿乃子付きの侍女頭、春野が不審そうに尋ねる。

鹿乃子が朱宮家に産声を上げたときからの侍女なればこそ、春野は他の侍女より遠慮もなく、鹿乃子の変化にも気づきやすい、なかなか油断ならない存在であるのだった。…裏返せば、これ以上頼りになる使用人はいない、という事なのだが。

「ねえ、春野」
「何でございますか、お嬢様?」
「あなたは、『お集まり』の、いったいどこがいいの?」
鹿乃子は、かなり本気で訊いた。

「まあ! たくさんございますわ。何から申し上げたらよろしいでしょう…近衛師団(ガーズ)の殿方の凛々しさ、御令室様方の贅を凝らしたお美しさ、ご子息様方はお健やかでご利発、お嬢様方は可憐で香り立つような花が今や咲かんとする風情。それから、実は、私ども下男や侍女ども、使用人同士が旧交をあたためさせていただく、数少ない機会でもございまして…」

うっとりと中空を見上げて夢物語のように語る、春野。
いいなあ、と、鹿乃子は思う。
こんな風に自分も考えられたら、「お集まり」がきっと楽しく感じられるのだろうに。

「春野…あなた、なかなかの名文家ね…。今度、どこかの婦人雑誌の懸賞小説に、何か書いて出してご覧なさい。いい線いくと思うわ、本当よ」

そう侍女頭へ感想を述べてから、何か少しでもいいところはないかしら、と、鹿乃子は考えた。

(近衛師団なら、大好きな叔父様方や、成年になられてめったにお話できなくなったけど、一番気心の知れた和也お兄様がいらっしゃるのよね…。
それに、金モールの着いた師団の軍服、手入れの行き届いて可愛らしい馬たち。
…きょう一日、ずっと近衛師団のお部屋にいられたらいいのだけど…、きっと、大事な大事なお話の邪魔だって、放り出されてしまうわね)

その次にいいことはないか、考えてみる。

(成年前のお兄様たちとは別席だから、これは論外ね。
となると、やっぱり…女子供の「お集まり」へ入るしかないわねえ。

玄宮のお家の、一つ年下の双子ちゃん。梅子ちゃまと桃子ちゃまなら、大丈夫。なついてくださってるし、お二人とも明るくて茶目さんで、とても可愛らしいし。

後は…ずっとお姉様になるけれど、もう女学校をご卒業された、白宮家の蕗子さま。あの方は物静かでいらして、ほとんどお声もうかがったことはないけれど、いつもほんのりと笑顔でいらして。
確か、今はお裁縫やお茶にお花、花嫁様になるためのご修養をお積みだとか…。)

さて。
ここで、鹿乃子の思考は、ぴたっと止まった。
同時に、片桐の踏むブレーキも、計ったようにぴたり、と止まる。

着いたのだ。
今回の「お集まり」の場所となる、蒼宮家に。

そして、この家にこそ、まさに鹿乃子の憂鬱の種となる御令嬢がお住まいなのであった。

(つづく)