2012年8月30日木曜日

エンゲージ(3)

自分が刺激をしてしまった結果、この可愛らしい婚約者が、心も体も見た目以上の発展家さんにすくすくと育ってきたことは、困るどころか、むしろ嬉しい。

が。
十六歳、今日婚約したばかりのお嬢さんに、成年である自分がどこまで自制心を保ちながら、可愛ゆい申し出をある程度満足させてやれるのか…ある意味、自分が男であり、現在そういう欲望と日々戦いながら(それはひとえに、鹿乃子への愛情のため)いる以上、当然のように制限は必要である。
では、どこまで?

鹿乃子は、和也の返事が思いの外遅いので、いつの間にか、隠していた顔をそうっと出し、和也の表情をうかがった。
自分に負けず劣らず真っ赤な顔で考え込んでいるところを見ると、どうやら自分が病気かどうかで悩んでいるわけではないらしい。

では、なにをお考えでいらっしゃるのだろう…。

ややあって、和也は、真っ赤な顔のまま、向き直って話し出した。

「まず、お前は病気じゃない。それは確かだ」
「それは、ようございました。…では、何なのでございましょう?」
「俺も…確かめたわけではないが、おそらく…お前が、心も体も俺の事を好いていてくれる、その証だと思う。年頃の恋いこがれる婦女子なら、皆、普通にあることだろう」
「ええええ、そうなんですか……!」

「で、俺が今まで、何を悶々と悩んでいたかと…いうとだな」
「…はい…?」
「その、お前の証を、正直言うと、俺は自制心など吹っ飛ばして、今夜も明日の昼も夜も、ずっと確かめたいんだ。…愛しているから。でも、お前はまだ婚約者で、十六で、母親になんかさせられないし、正直、困っているんだよ…」

和也の飾り気のない白状に、鹿乃子は、しばらく顔を赤らめてぼうっとしていたが、やがて、意を決して、こう言った。

「…和也さま。…この朱宮 鹿乃子、ご遠慮を一切捨てて申し上げます…今夜のところは」

(なし、だろうなあ…)と、和也が思って聞いていると、

「…今夜のところは、私自身が確かめたくとも出来ない、その…口では申し上げられない、その場所だけを、本当に変でないかどうか、お確かめいただきたいのですが…」

だんだん小声になりながら、鹿乃子は、寝台の上に正座して、深々と土下座をする。

目の前のお転婆婚約者を前にして、和也は、改めて度肝を抜かれた。
子供の頃からまっすぐな気性で、そこらの男よりも思い切りがよく大胆で。
そして、その裏には、自分の欲望への忠実さと、相手への思いやりが調和されて。

「…まったく。敵わないね…鹿乃子には」

「失礼で、ございましたか?!」
あわてて顔を上げる様子には、、昔ながらの無邪気な可愛いらしさが残っている。

「寝台に、横になって…。俺も、お前の大切な所を知りたいし、歓ばせてあげたいから…ランプは、近いのをひとつだけ、点けておくよ?」
正座をしている鹿乃子をふわりと仰向けに抱き上げてから、和也は新しい方の寝台へ、いとしい婚約者を寝かせた。

「脱がなくて、いい…今度は、紐よりも下の方を開くから」
「かずや、さま…?どうして、私の話した場所が、そこだって、おわかりになるんですか…?」
「…男もね、同じなんだよ。好きでたまらない相手の前では、似たような所が変化する。まだお前には早いから、教えないけど…。さ、変だと思うところを、見せてもらうよ?」

鹿乃子は、決死の覚悟で、裾に手をかけた。
その上に覆い被さるようにして、ゆっくりと、和也は足首を持って開かせていく。

胸の時より、想像以上、だった。
鮮やかな色を保ち、鹿乃子のそこは、花に例えればまさに盛りを迎えようとする風情。
つややかに、ひっそりと可憐な花が咲こうとしていた。
まだ何も知らないながら、早く愛する人に会いたい、という様子で。

和也でなくても、これだけの名花を見せつけられて、何もしない男がいようか。
その後は、もう彼は言葉もなく、舌と口を使ってこの花を蹂躙しつづけた。

鹿乃子ははじめ、あまりの恥ずかしさに毛布掛けを噛んで声を殺していたが、やがて我慢できなくなり、可愛らしく悩ましい声が、夜明けまで部屋中にこだました。

(つづく…!)

2012年8月29日水曜日

エンゲージ(2)

「鹿乃子…」
和也がこの声音で名を呼ぶときは、すぐわかる。
この後に、くちづけが待っているときだ。
鹿乃子が十四の時は、一瞬触れるだけのくちづけだったが、それからは多くない機会のたび、和也は鹿乃子にいろいろなくちづけを教えてきた。

ゆっくり、唇をあわせるくちづけ。
そっと、口を開いてゆくくちづけ。
そして、和也の舌が入ってくるのを、恥ずかしく受け止めてゆくくちづけへと、二人の愛する行為は進んでいた。

「あ…もう、だめです。和也さまぁ…」
甘えた声で、鹿乃子は唇を離そうとする。
「…なんだか、お胸のあたりが、きゅうんと苦しくなってしまって…」
「感じやすいんだな、今夜は。もっとも、いつものように人目を忍ばないで、思い切り愛し合えるから、かな?」
「んもう…意地悪。でも、本当に、そうなのです…」
「…じゃあ、胸が、どれだけドキドキいってるか、見てやろう」
「えっ…?!」

言うが早いか、和也は鹿乃子の寝間着の襟元をつかみ、腰紐はそのまま外さず、がばりと諸肌脱ぎの形にした。
こんな行為は初めてで、鹿乃子はとっさにどうしたらいいかわからず、胸を隠すのも忘れた。
(本物の御令嬢は隠さない、と聞いたけれど、まさにそうだな…)
和也は、そう心の中で思いつつ、改めて鹿乃子を見つめる。

柔らかく室内を照らす卓上ランプの灯りが、ほんのりと鹿乃子の胸を映し出していた。
「綺麗だな…着物の上からさわらせてもらった時も思ったけれど、背は小柄なのに、胸はとても形が良くて、大きすぎず小さすぎず…想像以上に、俺の好みだよ…」

和也は、そう言いながら、そっと両胸に手を伸ばしていく。
「…あっ!」
こらえきれず、鹿乃子が声をあげると
「…可愛い。そういう声、恥ずかしがらずにもっと聞かせてくれ。ここは四神家の屋敷じゃないんだ。誰も、俺たち二人がどんなはしたない声をあげて、どんな恥ずかしいことをしたかなんて、知る事できないんだから…」

和也は言い含めるように婚約者の耳元へささやくと、片方の乳首を指で転がしながら、もういっぽうの乳首を口に含み、舌先で可愛がった。
「あっ、ああっ、和也さま、和也さまぁぁ、だめっ、だめぇ…っ」
本当に、素直に鹿乃子は甘い声をあげて体をくねらせ、ますます和也を興奮させる。

ひとしきり、胸への攻めが済んだ後、鹿乃子は、妙にそわそわしだした。
もちろん、和也がそれを見逃すわけもなく
「どうした?…まだ、胸が痛むか?」
と、心配そうに聞いてくる。

「いえ、あの…ち、違うの…です」
「うん…?」
「あの、和也様、こちらに関することで、何か分からない事があったら、必ず、和也様に相談申し上げるように…って、おっしゃいましたよね…?」
「ああ。言ったさ。忘れてなぞ、いるもんか」
鹿乃子は、さっきまで乱れていたのも恥ずかしそうに、寝間着の前を合わせる。
その仕草を、目を細めて見つめながら、和也は次の言葉を待つ。

「あの…あのっ、私、この頃…病気じゃないか、って…すごく、変なんですっ」
「どうしたのか?どこか、痛いのか?」
「じゃ、なくて……あの、何て申し上げたらいいのか…今みたいに、くちづけをしたりとか、お胸をさわられるとか、それから、そういう事を考えただけでも……あの、体のうちの、口では申し上げられない所なのですが…その、そこが、変な感じになってしまって…」

これ以上は、婚約者にも話が出来かねる様子で、いつものお転婆さんはどこへやら、寝間着の筒袖で真っ赤になった顔を隠したまま、うつむいている。

一方、聞いていた和也の方も、予想外の相談にすっかり参ってしまった。

(つづくー)

2012年8月25日土曜日

エンゲージ(1)

そして、二年間は飛ぶように過ぎ。
いよいよ今日は、和也と鹿乃子の婚約披露。
港町の、クラシックなホテルにて、四神家の人々や、ゆかりのある方々を招いて行われた。

鹿乃子は、髪こそ結っていないでボッブヘアのままだが、総絞りの緋鹿の子の振袖に、大輪の牡丹が刺繍された丸帯。
和也は、もちろん近衛兵の礼服を、一分の隙もなく身に纏っている。

「鹿乃子ちゃま、おすてき!とてもよくお似ましでいらっしゃる」
「本当に、おすてき!お二人並ばれると、まるでお人形さんのよう」
玄宮家の梅子と桃子が、そっくりの顔でそっくりの声で、きゃあきゃあ喜ぶ。
新しく妹を持つ蕗子は、柔らかなすみれ色の五つ紋で、ほんのり微笑む。
ただ一人、蒼宮家の柚華子だけは、イライラと飲み物ばかり頼んでいた。

(ど、どんな顔をしたらいいのかしら…)
緊張のあまり、隣にいる和也を見ることも出来ず、鹿乃子は目の前に現れる人々一人ひとりに返礼を申し上げるので、精一杯だった。

ようやく、鹿乃子が和也を見られたのは、宴もお開きになった、宵の口。
「鹿乃子、疲れたか…?」
「はい…。正直、何が何やら…」
「俺もだよ」
ふたり、顔を見合わせて、ふふ、と笑い合う。

「その着物、よく似合ってる。…名前通りで、とても綺麗だ」
「和也さまも…今日の礼服は、一段と凛々しゅうございます」

ラウンジからは、窓越しに海が見える。
灯台だろうか、微かな光が回ってきては、また消えていく。

「腹、減ってないか?何もつまめなかったろう?」
「まだ、ちっとも減りません。和也さま、よろしかったら何か召し上がって下さい。私はお茶をいただく位で、もう今日は十分です…」
優しい和也の気遣いに感謝しながら、でも鹿乃子は、正直に打ち明ける。
「俺も、実は胸がつかえたみたいで、今は食う気がしないや。…じゃあ、部屋へ、上がろうか?」
「…はい」
手を取るようにして、和也は鹿乃子をア・ラ・モード(最新式)の昇降機へ誘う。

婚約披露を十六になってすぐ行ったのは、結婚を急ぎたいという二人の希望はもちろん、鹿乃子の女学園が東京にあるため、そこを離れた土地で、真偽取り混ぜた噂が流れる前にこぢんまりと披露を行いたい、という申し入れを、皆が受け入れてくれた…といういきさつがある。
また、一生に一度の記念でもあるし、和也も鹿乃子も互いに日々忙しい中、時には非日常の空間で、ゆっくりと二、三日ほど過ごさせてやりたいという、四神家全体の温かな思いやりからくるものであった。

無論、あの十四の日の、鹿乃子の熱烈な宣言は、皆が知っている。
だが、その後に二人だけで会えたとき、少しずつ愛し方が深まっていることは、知らない。

和也も、そして鹿乃子も、今夜と明日の夜が、きっと特別な夜になるだろうと、予測はしていた。
ただ、鹿乃子は、何がどう進んでいくのか、今までと同じく、やはり分からない。

昨夜の、春野の言葉が思い出される。
「若様が何かおっしゃったり、ご所望なされたりしましたら、全て『はい』とお答え申し上げなさいませ。ただ、お嬢様はまだ十六、勉学に励まれていらっしゃるお身でいらっしゃいますから、くれぐれもお慎みあそばしますよう…春野よりの、分を過ぎたお願いでございます…」

やっぱり、わかるようでわからない。
ここは今まで通り、和也さまに一つずつ、教えていただくしか術はないようだ。

和也が先に部屋に入り、シャワーを使う。
ヘチマ襟の長い西洋風の寝間着は、それでも背の高い和也には少々つんつるてんで、鹿乃子を笑わせた。
「…鹿乃子も、入っておいで。湯船があるから、ゆっくり浸かってくるといい。疲れがとれるぜ、きっと」
「…ありがとうございます」
鹿乃子が、さっそく自分の鞄から身の回りの物を出そうとした時、和也は、少し口ごもりながら、横を向いて、言った。
「……その、…下着は、つけなくて、いいから。…俺も今、つけてないし。この寝間着、とてもよく汗を吸うから…」
その言葉を聞くなり、鹿乃子は、かあっと耳まで赤くなった。

(やっぱり…今夜は、今までと、何か…違うんだわ…)

「…はい…」
言われたとおり、寝間着だけ持って、鹿乃子は浴室へ入った。

金色の猫のような脚がついた、乳白色の湯船に、鹿乃子は広々と手足を伸ばす。
小柄な彼女には、十分な大きさだった。

(くちづけは、十四のあの時に、初めて教えていただいたわ。それからだんだん、深いものがあるのだって、教えていただいて…。着物の上から、お胸を優しく触られたこともあったわ。他の誰でもあんな事はいやだけど、和也さまなら、嫌じゃ…なかった…)

そんなことを考えていると、十六に近くなった頃から、変な気分になってくる。
自分の体が、変化していくのが、見えなくても分かる。
(いやだわ、こんな姿、和也さまに知られたら…蓮っ葉だって、嫌われてしまうかも…)
念入りに鹿乃子は体を洗い、よく拭いた素肌に寝間着をまとった。

「あの…和也さま。お待たせ、いたしました…」
鹿乃子が部屋へ戻ると、二つあるうちの片方の寝台(ベッド)に、寝間着姿の和也がうつぶしていた。
「…待ったよー」
でも、その声は怒ってはいない。
「待ってるうちに小腹が減っちまってさ、今さっきボーイに頼んで持ってきてもらったんだ。どう、鹿乃子、食べるか?」
丸い銀の蓋を開けると、小ぶりで綺麗に盛りつけられたサンドウィッチが、赤紫の蘭の花を添えて載っていた。
「まあ、可愛らしい!」
浴室で緊張していた分、ほっとほぐれて、鹿乃子は和也に勧められるまま、一緒に何切れかを口にした。

「やっと、いつもの鹿乃子の顔に戻ったな。今までは目がつり上がって、般若のお面みたいだったぞ?」
「いやだあ、それは言い過ぎです!…でも、本当に今日は、緊張しっぱなしでした。本当の自分を、どこかに置いてきたみたいで」
「そうだな。…良く、わかるよ。その気持ち。軍人の俺だって、今日はさすがに平常心を保つことは至難の業だった。ましてや、おまえは十六になったばかりの女学生だ。卒倒してもおかしくない」
「まあ、和也さま、私が本当にそんなに、たおやかな婦女子だとお思いですか?」
「…嘘だよ」
くっくっくっ、と和也は肩を震わせて笑う。
「ほらぁ、やっぱり。ひどーい!」
頬を膨らませて、枕を投げつけようと持ち上げる鹿乃子に、
「よしよし、本当の鹿乃子はしっかり戻ったみたいだな。…じゃあ、おいで?」
と、急に甘い声に変わった和也は、お転婆な婚約者に向かって両手を広げる。

(そうなんだわ…。お風呂にゆっくり入れて下さったのも、サンドウィッチを頼んで下さったのも、私をたった今構われたのも、みんなみんな、私の心をほぐそうとしてくださったんだわ。和也さま…)

鹿乃子は、素直にこくりとうなずくと、持っていた枕を置き、幼かった頃のように、和也の胸に顔を埋めた。
くすぐったいけど、あたたかい。ドキドキする。
しばらく、二人とも寝間着で抱き合っているのが心地よく、そうしていた。

(つづく)
*おまけ…次回から、18禁要素が強まってくる可能性がありますので(いや、そーゆーサイトですが)苦手な方、次回以降はしばらく逃げて下さい。タイトルで大丈夫っぽいかどうか、匂わせますから!

2012年8月23日木曜日

鹿乃子ちゃん、叫ぶ!(2)

「…ど…どうして…」
普段に似合わず、動転した鹿乃子が訊ねると
「分からない?」
と、和也お兄様は卓に頬杖をつき、優しくお訊ね返しになる。

「あ…あの、…ガーズのお部屋で、…私が、お兄様の、ことを、お話申し上げたから…」
こわごわ答えてみると、
「うん。その通り。…でもね」
と、ここでちょっとお兄様は、真剣なお顔をなさった。

「……?」

「ちょっと俺としては、気になる点が、二つばかりあるんだな、うん」

(いやだ、やっぱり和也お兄様、怒ってらっしゃる!どうしよう…)
正座のまま、襖の前の板敷きで身を固くして座っている、鹿乃子。
それに改めて気づいたように、和也お兄様は
「その二つの話は、子鹿が部屋に入ってからにしよう。入って、襖を閉めて」
と、やや命令口調でおっしゃった。

無論、逆らう気など毛頭無く、言われたとおりに、鹿乃子は動く。
「もう少し、こちらに寄って。そう、その座布団を当てる」
お兄様との距離が縮まるのを怖く思いながら、鹿乃子は、言うとおりにまた動く。
「人に聞かれては、まずい話だからな。だから、こうして俺の離れに呼んだんだ」

(わあん、お、怒られるー!)

鹿乃子が恐怖で目をつぶっていると、和也お兄様の声は、また、優しく戻った。

「まず一つは、子鹿が俺を慕っているって、直接お前から聞きたかったって事」

(え……?)

こわごわ目をあけてお兄様を見ると、ほんのりと、頬をそめていらした。
こんなお顔を拝見するのは、初めて。
ということは、鹿乃子自身も、いま頬を真っ赤にしているに違いない。

「そしてもう一つは、俺の方から先に、お前を好いているって、言いたかった事」

「えええええーー!!」

鹿乃子は、もう我慢できずに、声に出して叫んでいた。

「でもまあ、婦女子の方から先に求愛してもらうってのも、思ってたより悪くないな。周りの若い奴らも、しきりにうらやましがってたぜ」

「いやいや、いやです。恥ずかしい……もう、いや!」
顔を洗うときのように、両手で顔を隠して恥ずかしがる鹿乃子。
その両手首をそっと持って、ゆっくり外していきながら、和也お兄様は微笑む。

「本当に、嬉しかったんだぜ。…子鹿」

「…お嫌いに、ならない?…お兄様」
「誰を?」
「…私を」
「何でまた?」
「…だって、…こんな大切なことを、お兄様に申し上げる前に、ガーズの方々の前で叫んでしまって、…女だてらに、はしたないし…失礼だし…」
鹿乃子が言い終わるか終わらないかのうちに、和也お兄様は、プーッと吹き出した。

「ど、どうして吹き出されるんですか!」
思わず、鹿乃子が声を荒げると
「ほらほら、そういう所さ。次の間には侍女達がいるんだし、声を小さくしとけよ。言いたいことを言う、ちっともはしたなくなんかないさ。うじうじしてるより、俺はずっとつきあいやすいと思うけど。それに、そういう真っ直ぐな所が、朱宮 鹿乃子さんの一番の魅力なんだから。それを悪く言っちゃあ、いけない。俺も、お前のそういう所と、さっき見せたみたいに恥ずかしがり屋だったり、意外と泣きべそさんだったりと、両方が好きなんだからな」

「……そんな、やっぱり……恥ずかしい、です……」
「こんな事言う俺は、軟派で嫌いか?」
「いいえ!全然!だって…だって私、ずっと…」
「ずっと、何?」

お兄様の声はもう、とろけるように甘くて、まだ十四になったばかりの鹿乃子には、聞いているだけでもくらくらしてしまう。

それでも、ちゃんと自分で言わなくちゃ、と気持ちをふりしぼって、でも小声で
「ずっと…ずっと、和也お兄様だけ見てて…お兄様のことが、好きでした…」
と、がんばって、告げることができた。

「可愛いな、子鹿。俺からも、改めて言わせてくれ。俺も、お前がとても好きだよ」

和也の和室は、火鉢を十個も置いたみたいに、熱くてしかたがない。

「お前が、あんまり可愛いから、お前が十六になって婚約(エンゲージ)するまで、我慢しようと思っていたことがいくつもあったのだけど、二つだけ、破っていい?」
「えっ」
「一つは、二人きりでいるとき、互いの呼び方を変えよう。俺は…鹿乃子、でいいか?」
嬉しくて、鹿乃子は目眩にも似た感覚に酔いながら
「…はい」
と、素直に答える。

「俺の事は、なんて呼んでくれる?もう『お兄様』扱いじゃ駄目だぜ」
「では……和也さま、と……」
「…悪くないね。それじゃ、もう一つの方なんだけど…もっと、こっそり話したいんで、もう少し俺の方へ寄ってくれないか」
「このくらい、でしょうか?」
「えーと、もう少し。内緒話ができるくらい…」
言われた通りに鹿乃子が顔を寄せた途端、和也の顔がパッと近づいて、唇と唇が微かに触れて、そして離れた。

「……!」
急に大人の行為に及ばれてしまった鹿乃子は、声を上げることすらできない。
対照的に、少々物足りなさを感じながらも、十四歳のファーストを頂戴して満足している和也の方は、余裕の笑みで鷹揚に構えながら、そんな鹿乃子の狼狽ぶりを可愛くて仕方ないといった風情で、鑑賞している。

「あと二年、鹿乃子が十六になってエンゲージが済んだら、こんなもんじゃないからな。覚悟しとけよ?」
と、和也が構うと
「…ええと、『こんなもんじゃない』と申しますと…どんなもんなのでしょう…?」
鹿乃子が首をかしげながら、でも真剣に聞いてくる、その一途さもまた可愛らしい。

「弱ったな。……俺、だんだん我慢が効かなくなってきちまいそうだぞ。…んーまあ、お前んとこの春野には絶対相談できない分野だしなあ…。そうだな、とりあえず、分からない事は何でも俺に聞いてみてくれ。俺も、実はよくわからない所があったりするんだが…まあ、男同士の友人の方がそういう面はいろいろ教えてくれそうだしな。いいか?他の奴には絶対聞くんじゃないぞ、鹿乃子。天子様にかけて、俺は絶対お前を悪いようにはしないから。わかったか?」

とまあ、少々怪しげな和也の答えにも、
「はい!存じました。その…和也、さま」
と、健気にはにかみながら答える鹿乃子であった。

初めて「和也さま」と呼ばれて、心臓を打ち抜かれそうな彼女の可愛いさに内心ドキッとしている、和也の様子には気づかぬままに。

(おわり…とりあえずは)

鹿乃子ちゃん、叫ぶ!(1)

参謀本部へのお使いから帰って間もないある日、鹿乃子は「四神会」の集まりに呼ばれた。
これは、いつもの『お集まり』ではなく、近衛師団(ガーズ)の男性だけの集まりなので、女子である鹿乃子が呼ばれるのは、極めて異例なのである。

(何かしら、いったい…)
まあ、先だっての参謀本部での所行からすると分かりそうなものなのだが、当の鹿乃子にとってはそんなの日常茶飯事なので、呼ばれた訳が分からないのだった。

今回は玄宮で「四神会」が行われたが、可愛い双子の梅子と桃子に会える様子ではない。

侍女に案内されて、
「失礼いたします…」
と入った部屋は、紫煙がたちこめ、いかにも紳士の社交場という雰囲気だった。

「あ、あのう…こちらの部屋で、私、間違いございませんか?」

「大丈夫だよ、鹿乃子ちゃん。我々がここへ呼んだのだから」

叔父様達が深々とソファに掛けながら、煙草を嗜む様子にほっとする。

「さてね。…もう話の内容は察しがついてるかと思うが、先日、司令部で、かなりの大立ち回りを演じてくれたそうじゃないか?特に若い者達には、もっぱらの噂だぞ」
構うような叔父様達の口ぶりに、ちょっと困りながら、
「でも…いちどきにお三人も向かっていらしたら…私、ああするしかなくって…」と、鹿乃子は答えた。

「いや、しかし見事だったそうじゃないか。…どうだ、鹿乃子姫。いっそ、そのおかっぱを短髪にして、男装姿で今からでも、陸軍幼年学校を受けてみないか?合格、請け合うぞ」
「もう…おからかいにならないで下さいまし!」

そんな冗談話が一段落した後、「四神家」の当主達は、ソファに座り直し、入り口近くに立っている
鹿乃子を、揃って見つめた。
今日の着物は、大きく織り上げた三つ輪重ねと矢羽根を朱と白の色違いにした銘仙お召しに、上下が黒繻子で中央を尖端の機関車柄にした昼夜帯。帯揚げと帯締めは白でふんわり太めに仕上げ、帯留めは御所車の車輪を使って、帯の柄に揃えた。
「いつもより、着物はくだけて来るように」との仰せに合わせて。

「時に、鹿乃子。いくらお前が文武両道で剛胆であろうとも、朱宮家の次期当主継承権はない。理由はひとつ。お前が、婦女子であるからだ。…存じていような?」
「…はい。不本意ながら」
その彼女らしい返事に、部屋にいる男達から失笑がもれた。

「このままでは、「四神家」筆頭の朱雀が、断絶になる。それは天子様や直宮様方にとって、この上ない不敬に当たる。それも、わかるな?」
「…わかります」
「では、どうしたらこの現状を打破できると思う?」

長いような、短いような、時間の後。
鹿乃子が、口を開いた。
「…わ、私が、婿君をお迎えあそばして、その方に、継承権を有していただくこと、でしょうか…?」
「うむ。さすが、利発な姫だ。我々も、そう思っている。ただ…かなりの重責、そのへんの誰でもつとまるものではない。ある程度、限られた人物の中から男子の人選は行われるべきだろう」

ここで、鹿乃子は、十年前に和也が尋ねられた(無論、彼女は知らない)質問を投げかけられることになった。

「鹿乃子姫。これは、お前の一生のためにも、「四神家」の存続にも関わる事柄となるから、正直に話せ。男ばかりの中で言いづらいなら、後に母上でも侍女頭に話すのでも構わぬ。…お前、今、心に秘めたる男子は、いるのか?」

鹿乃子は、間髪入れずに
「はい、おります」
と、答えた。
たちまち、部屋中にざわめきが広がる。

特に大騒ぎをしているのは、若い近衛兵たちだった。
「大したもんだ、この部屋の紅一点が、何とはきはきと物を言う!」
「しかも、色恋の話でこうもスパッと答えられては、参ってしまうなあ」
「ここまでくると、お相手は誰なのか、名前を聞かずにはいられまいよ!」

若いガーズに属する四神家の殿方から構われて、つい鹿乃子はカッとなって、大声で叫んでしまった。

「いけませんか?私が、十歳違いの和也お兄様を、小さな頃からお慕い申し上げていては!」

この大胆な告白に、周りを囲む全員はもちろん、当の鹿乃子まで驚いていた。

「いやあ、さすがに朱宮の一人娘、肝がすわったもんだ」
「話には聞いていたが、実際に聞いてみると、なるほど、迫力が違うね」
などと、鹿乃子の父上と同じくらいの筆頭格の将校たちは、おっとりと構えていらっしゃる。
もちろんそこには、和也と鹿乃子がお互い知らずに想い合っていた事への、安堵もあろう。

一方、和也とそう年の変わらない、若い近衛兵達は、
「こりゃ驚いた!女から申し出るなんて、今まで聞いたことがないや」
「全くだ。…ところで、ご当人はどこだい?」
「また、あいつの事だから馬の手入れか?早速、皆で手分けして探し出して、鹿乃子姫の言葉を伝えなければね」
などと、てんでに好き勝手を叫びながら、部屋を飛び出していった。

どこへも行く所のない鹿乃子は、ガーズの部屋の隅に立ちつくしたまま、紫煙に包まれて、しくしくと泣き出してしまった。

「おやおや、鹿乃子ちゃん。そう心配するものではないよ」
「悪口を言ったわけではなし、いつものお前さんのように、どんと構えておいで」

将校の叔父様方は優しく声を掛けて下さるのだけど、かえってそんなふうにいたわられるほど、なぜだかほろほろと止まらなくなってしまった。

すっかり泣きはらした目を侍女頭の春野に氷で冷やしてもらい、運転手の片桐を呼んでもらうと、鹿乃子は自分専用の車へ乗り込んだ。

(和也お兄様に、ひとこと、お詫び申し上げたかったわ…お騒がせして)

そんなことを考えながらぼんやりと車窓を見ているうち、おや、と鹿乃子は気づいた。
「片桐?どうしたの。この道、うちへ戻る道じゃないわよね?」
「ええ。ただ、先程わたくしもこのお車へ乗り込みます折に、御前様から、こちらの行き先へ向かうように…との、仰せがございまして」

この道。
小さな頃から、何度も遊びに通っていて知っている道。

和也お兄様がお住まいの、白宮家へと続く道であった。

いつ来ても心の落ち着く、平屋で広々とした数寄屋造りのお屋敷。
「こちらの侍女の方について、お進み下さるように…と、承っております。春野さんは、次の間に。お帰りの際は、こちらで電話していただいて、お呼び付け下さいませ」
片桐は、そう言うと広い前庭で車を回し、出て行ってしまった。

なんだか、いつもと違う。
さっきの自分の叫んだ一言と、関係ありそう、なのは、分かる。
でも…その先が、皆目見当つかない。

(和也お兄様…お怒りになっていらっしゃるのかしら…)
鹿乃子の足取りは、だんだん重くなっていった。

「こちらでございます。春野さんは、こちらのお部屋で」
白宮家の侍女は、まず春野を侍女部屋へと案内してから、鹿乃子には、離れの中の大きな襖の部屋を示した。

「失礼、いたします…」
小さな頃から教わった、和室のお作法通りに、正座で二度に分けて襖を開け、頭を下げ、直ったとたん、鹿乃子は息を呑んだ。

そこにいたのは、和也お兄様、その人だったからだ。
軍服を脱ぎ、紬のお対に紺足袋の姿は柔らかくくだけ、また普段と違う大人らしさも漂わせていた。

(つづく!)

2012年8月20日月曜日

おわび(というか…変な文~)

なんか最近、このブログの看板である
「百合」っ気が…どんどんどんどん、低下してます。

で、逆にヘテロ(ホモセクシュアル=同性愛、でない、いわゆるノーマルってやつです)の路線にどんどんどんどん、傾斜してるような…いえ、してるのです。現に。

鹿乃子ちゃんは少女だし、和也くんはもう成年なんですよ。
これであんだけいちゃつきあってて、何もないで終わるはずがない。
「はじめのはなし」や「お集まり」をお読み下さった方にはお分かりでしょう。

かといって、ここでまたショートの百合話に転換するのもなあ。
何より、自分が書きたいのが、上の二人のいろんなエピソードなんですね。
流れの上で、18禁も含まざるを得ないかなー、と構想してるんですが。

なので。
すみません、しばしおわびをさせていただきます。

真性百合ファン(百合じゃなきゃだめ!)の方、しばらく放置しておいてください。
で、タイトルが百合っぽくなったら、またおいでいただけると嬉しいな。

ヘテロだよ~、またはバイ(セクシュアル)だから読んでも平気だよ~、という方、
もし良かったら、もうしばらく、おつきあい下さいね。
18禁めざして、がんばりますっっ!
(何なの…この妙な決意表明は)

でも今夜は仕事があるので、更新できないかもです。…ううっ(泣)

2012年8月19日日曜日

はじめのはなし

あれは、今から10年くらい前の話だろうか。
もう、どこの家で行われた時だか、和也は忘れてしまったが
『お集まり』の席の途中で、四神会の筆頭である叔父様方の部屋に呼ばれたのだった。

「ほう、和也も襟に金星がつくようになったか。いつ陸軍幼年学校に入った?」
「今年からであります」
「ふむ、では十四か。二年間、せいぜい励むと良い」
「ありがたく存じます」

先日受けた口頭試問と大して変わらない…と、和也が心の中でため息をつこうとすると、
「ときに、和也。お前の将来について、この四人で話していたのだがな」
「はっ?」
「念のため訊いておくが、お前の代で、四神家に男子のいない系統はあるかな?」
和也は、黙って考える。

自分の実家である白宮家は、自分の上に三人も兄がいる。
玄宮家と蒼宮家は、まだ襁褓(むつき)も取れないながら、跡取り息子がいる。
と、なると…
「朱宮の伯父様のお宅、ですか!」
つい、声に出して手をぽん、と叩いてしまった。
「意外そうだな?」
「はい。あまりにじゃじゃ馬姫なので、御令嬢という気がいたしておらず…」
その率直な和也の返事に、その場の皆が大笑いしてしまった。

「す、すみません!朱宮の伯父様、鹿乃子姫のことを、つい…」
「いや、その通りだよ。窓の外を見るがいい」

和也が、促されるままに外を見ると、同い年の姫が二人、追いかけっこをしていた。
泣きべそをかいて逃げるのが、蒼宮家の柚華子。
「いやいや、気持ち悪いわ!さっさと放ってちょうだい!」
その後ろを、木の枝を持って追いかけるのが、朱宮 鹿乃子。
「どうしてー?これ、アゲハチョウのいも虫なのよ。可愛いでしょう?あんなに綺麗な蝶になるのよ」

「…あれが、お転婆でなくて、何だというのかね」
「でも、はつらつとして、可愛らしいではありませんか。まだ小さいのに、私が馬の世話をしていると物怖じせずに寄ってらっしゃいますし、引き綱なら、もう高さを気にせずお乗りになれます。武道の稽古をしていると、白宮に来たときなど、私の隣で見よう見まねの型を作ってらっしゃいますが、なかなかさまになっておりますし…」

和也は、自分の知っている『朱宮家のお転婆お嬢様』の話をしたつもりだった。

が、叔父様方は、この話を聞いて急に色めき立ち、中央の円卓に頭を寄せ合い、なにやら話し込み始めた。

「…?」

その輪が元通りに大きくなった頃、和也の疑問は少しずつ解けてきた。
「…ときに、和也。ここは、正直に答えてもらいたい。…お前、朱宮家に入る気はあるか?」
「えっ!」
「あの通り、いくら男勝りでも、鹿乃子は女子だ。当主継承権はない。それに、お前も四男では同じ事だ。朱宮に入ることで、お前には当主継承権が生じる。悪くない話だと思うが」
「それにな、今の当主が、文武両道…どちらかといえば武に勝る朱宮の家風に合うのは、和也が一番だと見立てたのだ」

突然のふってわいたような話に、和也は、驚くばかりだった。
しかし、ただ一つの点を除いて。

父である、白宮家当主が、怪訝そうに和也に尋ねた。
「和也。この部屋にいるのは、男ばかりだから、正直に申せ。…お前、今、心に秘めたる婦女子は、いるのか?」
和也は、間髪入れずに
「はい、おります」
と、答えた。
たちまち、部屋中にざわめきが広がる。

「それは、いったい誰だ?」
父上の重ねての問いに、和也は、ちら、と窓の外を見た。

窓の外では、まだ幼い女子二人の追いかけっこが続いている。

「…私がずっと、お小さい頃から可愛ゆいとお慕い申し上げている方は、ただ今、アゲハのいも虫を手に駆け回っている、お転婆な朱宮 鹿乃子姫であります」

そう、和也が答えると、部屋のざわめきは、いっせいに安堵のため息に変わった。
「…たく、上官をからかうものでない!」
「いやいや、和也お得意の諧謔と、少しばかりの含羞でありましょう」

叔父様方の声は、もう、和也には聞こえていなかった。
今よりもっと小さな頃、軽々とだっこしてあげると
「かじゅやちゃま、しゅき、しゅき」
とすがりついてきたのが、可愛くてならなかった。

(大人になったら、もう一度だっこするとは思わなかったなぁ…)
知らずに窓際に立って、飽かずに眺めていたら
「和也お兄様~!見てえ、ほら、可愛いいも虫でしょう!」
と言いながら、鹿乃子が走ってきた。

(虫めずるじゃじゃ馬姫君、か…)
くすっと笑いながら、和也は窓越しに、鹿乃子の差し出した枝へと手を伸べた。

(おわり)

2012年8月15日水曜日

追記・その7+8月15日

チェコからもご覧になって下さってるんですね~!
ありがとうございます。

オリンピックも終わってしまって、いろんなニュースも聞こえてきますが、
なんとかみんなで一人残らず仲良く暮らせますように…って思い、
いつも忘れずに生きています。

今日は67年前に、大きな戦争の勝ち負けが決まった日。
でも、また本当には終わってはいなくて、みんなでずっと考え続けていきたい日。

いつも家族に「どうして戦争の番組ばっかり観るの?」と訊かれるんですが、
この願いが頭から離れないからですね、きっと。
あとは、もう反射的に。
DNAにこの思想が組み込まれちゃってるのかも知れません(笑)

2012年8月12日日曜日

追記・その6

ウェルカム・フロム・ザ・UK!
オリンピックに涌くあのお国からも、アクセスいただきましたよ。
いいんですか、オリンピック観てなくて(いや、冗談です)

オリンピックもいよいよ終盤戦、
陸上…とりわけマラソンを観ると、祭りの後の寂しさをふっと感じますね。

でも、閉会式はまた盛り上がりそうだな~。
四年前、北京にロンドンが現れたときもびっくりでしたが、
今度はリオのカーニバルが来ちゃいそうですよね?
うーん、すごそうだ。

おまけ。
私の世代としては、デュラン・デュランに出てほしかったなー。
おっちゃんになってても、いいからね~。

2012年8月11日土曜日

はぢめてのおつかい(2)

副参謀長である、蒼宮の叔父様の部屋を出て、鹿乃子は迷路のような絨毯敷きの廊下を、畳表に太めの鼻緒をすげた草履で、きょろきょろと歩いている。
「まさか、送って下さる方がいらっしゃらないとは、考えなかったわ…。おかげで、どのお部屋の角を曲がったかも、覚えてやしないのですもの」
小声で文句を言いながら、それでもおぼろげな記憶を確かに、歩いていくしかない。

そんな鹿乃子の様子を、同じ階の中庭を挟んで向かいの廊下から、数人の下士官が面白そうに眺めている。
無論、その中には白宮家の「和也お兄様」も含まれていた。

「女学生いじめは、歓迎しないね。帝国軍人たる者、レディーファーストを心得るべきじゃないか?」
一人が言うと、
「お前は、あの姫の凄さを知らないから、そんな事を言うのだろう。朱雀家の跡取りが令嬢でも筆頭を保っているのは、彼女が並外れた腕っ節と乗馬の腕前を持っているからだと聞いたぞ。なあ、白宮大尉?」
和也は、あえて沈黙を守り、薄く笑いを浮かべて、てくてく進んでいる鹿乃子を見ている。

突然。
鹿乃子の行く手に、三人の尉官が現れた。
「恐れながら、お伺いいたします。御令嬢は、朱宮(あけのみや)鹿乃子姫でいらっしゃいますか?」
鹿乃子は、動じることなく
「ええ、いかにも」
と答える。

するといきなり、一人目の兵が
「御免!」
と叫んだと同時に、鹿乃子の右耳すれすれに向かって、右手で固めた拳を真っ直線に伸ばし、殴りかかってきた。
鹿乃子は、相手の拳が自分の顔ぎりぎりまで近づくのを見極めた後、自らの右の掌で、拳をくるむようにふわりと受け止めた。
一人目の兵は、勢い余ってよろけてしまう。そこへ鹿乃子は相手の手首を掴み、関節を逆方向にひねり上げて、背後で仰向けになった兵を固めてしまった。

見物人の兵から、口笛が上がる。

二人目の兵は、仰向けになり、獣のようにのしかかってきた。
その動きを見て、鹿乃子は一人目の固め技をゆるめないまま、体を小さく丸める。
二人目も、勢い余ってよろけてしまい、自分から鹿乃子を飛び越し一回転して倒れ込み、後頭部をしたたか打った。

「…尉官の階級では、歯が立たないかも知れないな。俺だって、幼なじみだから手心を加えてくるかもしれないが、怪しいもんだ」
口を開いた和也の言葉に、見物人は一斉にどよめいた。

その間にも、三人目の兵がかかってくる。
今度は、竹光とはいえ、短刀を持って立ち向かってきた。
「武具相手か…どうする?」
鹿乃子は、相手の兵をじっと見ながら、素早く立ち上がった。
聞き手の右を狙おうと、相手は向かって左へ降りかかってくる様子だ。
それを見抜くと、打たれる直前で鹿乃子は自らの体も左へと斜めによけ、向かってくる敵をかわす。
そして、さっと振り向くと、よろけながら再び近づいてくる相手の竹光をよけ、右掌で兵のあご下をぐっと押し上げ、一瞬のうちに倒してしまった。

「…むう…、お見事!」
「話には聞いていたが、女学生になったばかりのお嬢様が、袴も襷もつけずに近衛兵を三人、のしちまうとはなあ…」
口々に感想を言い合う下士官達の中で、和也は一人、くすくすと笑い続けていた。

「四神家のよしみで、白宮大尉。あの少女武道家を玄関まで送ってやってくれないか?」
「…承知いたしました。では、これより行って参ります」

その頃、鹿乃子は自分の倍もありそうな兵を三人、立たせる手伝いをしていた。
「…痛く、ないわよね? これは、戦うための武道ではありませんから」
「ええ、不思議と…」
「ですわよね、皆様受け身が大変お上手でらしたし、こちらへいらしてるんですもの、武道は腕に覚えがおありなんでしょう?」
「ええ、まあ…三人とも、いくつかの武道で段を頂いております。…しかし、あの…ご質問させていただいて、よろしくありますか?」
「ええ、何なりと」
「朱宮さまのお使いになった、ただいまの武道は、何というものでありますか?」
そう尋ねられて、鹿乃子はしばらくうーんと首を傾げてから、
「…実はね、まだ名前がないのですって。正式な武道ではないらしくて。私も、父上からここ数年習い始めたばかりで、まだまだ修行が足りないんですの。ですけれど、まさしく『柔よく剛を制す』を体現している、不可思議な新しい武道でございますわ。……あっ、いけない!」

急にあわてふためく鹿乃子に、
「いかが、いたしたでありますか?!」
と、美丈夫の近衛兵三人が、たちまち家臣のように気色ばむ。
「どうしましょう、袂に入れてあった父上への受取状、無事だったかしら? 風呂敷も…」
そう叫ぶとすぐに、殿方の前でもお構いなく、ぱっぱっと、鹿乃子は袂の中を確かめた。
「…ああ、大丈夫だわ。皺もついていないし、なにより、なくさなくて良かった…」
ほっとする、小さなお使者に
「おさすがであります!」
すっかりやられた三人の下士官は、兵帽を取って、深々とお辞儀をした。

「よっ、子鹿。よくまあこんな所で会うとは、奇遇も奇遇」
三人の兵の背後から、和也お兄様が歩いてきた。
その声を聞いて、三人は一段と姿勢を正し、直立不動のままになっている。
三人は、大尉より階級が下なのだと、鹿乃子にもそれで知れた。

「向こうの窓から、何人かで拝見させてもらったぜ。相変わらずのお手並み、ってとこか」
「ご覧になってたんですの? …まあ…意地悪」
「大評判だったよ。ちびが尉官を三人も、矢継ぎ早にのしちまったんだからな。しかも、着物の乱れもなくね」
「まあっ。そんな所まで、見てらしたんですか?お人が悪うございます、和也お兄様ったら」
その時、鹿乃子の頭に、あるいい考えが浮かんだ。

「ではお兄様、せっかく鹿乃子の腕前をご覧頂いたのですから、その代わりに、このわけのわからない司令部の抜け道をお教えくださいな。片桐が、きっと欠伸をしております」

その可愛いおねだりに、もともと自分もそのつもりでここへやって来たことは、あえて言わないことにして、
「はいはい、分かったよ。無事に朱宮家のお車まで送り届けさせていただきます」
そう言うと、また和也はくすくすと笑った。

「どうして、お笑い遊ばすのですか?」
「いやあ、この話で、近衛師団(ガーズ)の皆がどれだけ楽しめるか、それを考えるとたのしくてな」
鹿乃子の問いに、愛らしさとあどけなさを感じながら、和也が答えると
「いーだ。お兄様なんか、大嫌い!!…あ、でも、今日だけですけど…」
と、さっきの勇ましさとはほど遠い返事を返して、これまた、可愛ゆい子鹿の風情だった。

(おわり)

*次の更新は、おそらくお盆明けになります~。(早くて8/16くらい?)

2012年8月9日木曜日

はぢめてのおつかい(1)

今日も、朱宮(あけのみや)家のお転婆な14歳、鹿乃子さんはおでかけ。
お付き運転手の片桐は、なぜだか緊張気味に車を運転している。

それも、そのはず。
鹿乃子さんの今日のおつかい先は、こともあろうに近衛師団の司令部庁舎であるからだ。
もちろん、こんなものものしい所へ足を踏み入れるのは、二人とも、初めて。
鹿乃子さんの膝には、藤色にねじり梅の模様が散らされた風呂敷が、四角い形でちょこんと鎮座ましましている。

ことの起こりは、今朝のお父上へのご挨拶の時だった。
朱宮家は和洋折衷式の暮らしのため、子供は普段用の着物に着替えてから両親の部屋へ挨拶に回り、朝食はその後、別にとる。
両親は昨日のうちに母親がメニューを渡した和食を、鹿乃子はコックが成長に必要な栄養を考えて、調えてくれる洋食を。
いつもと同じように、鹿乃子が
「お父さま、ごきげんよう」
と、重々しいドアをノックすると、
「ああ、丁度よい所に来た。鹿乃子、お前にしかできない頼み事があるのだが、受けてくれるか?」

こんな風に言われたら、どうして断れようか。
鹿乃子のお転婆好奇心は、むずむずする。

「実はな、今日のうちに司令部へ行って、副参謀長…まあ、蒼宮(あおいのみや)家の当主、お前にとっては叔父に当たる…に、書類を届けてほしいのだ。本来ならば私が行くべきなのだが、あいにく某宮様の御殿にて、各国大使を招いた小宴が催されることになっていてな。私も任務でそこへ付かなければならなくなった。…他の下士官に頼もうかとも思ったのだが、かえって目立つような気もしてな。まさか、女学校に入ったばかりのお前が、そんな書類を抱え込んでいるとは誰も思わないだろう、そう考えたのだが…どうだ?」

鹿乃子は、冒険心ではちきれそうな心を辛うじて静めながら、即答した。
「ぜひ、そのお手伝い、させていただきとうございます。お父さまのご期待にそえるように!」

「きっと、そう言うと思っていたよ。お前は、新しくてちょっと危険なことがすこぶる大好物な、真のお転婆だからな。ああ、春野は今日は連れていかないように。あれは、軍の外の者だから」
わが意を得たりと、朱宮家の当主でもあり、参謀長でもある父は、ニヤリと笑った。

その日は、女学園を『家庭の都合』と申し出て早退し、午前中のうちに鹿乃子は帰った。
さっそく、鹿乃子付きの侍女が二人で、海老茶袴に藤色の銘仙から、外出着へと着替えさせていく。
今日の装いは、白地に鶯茶と薄桃色の立涌模様が縦に幾筋も走った、爽やかで可愛らしい袷。
帯は濃い桃の地に百合を大きく刺繍した名古屋帯で、ちょっとくだけて見せる。半襟と帯締めは逆に薄い鴇色にして、帯留めの小さなエメラルドで百合の葉と色を合わせ、格を上げた。

「肩揚げがねえ…早く取れたらいいのに」
鹿乃子が、姿見を見てつぶやくと、
「まあ、女学校をご卒業なさった御令嬢でも、まだ肩揚げをなさってらっしゃる方はいましてよ。いま少し、我慢なさいませ」
おませな御令嬢に、くすくすと小さく笑いながら、侍女達は答えた。

黒い屋根に、白と煉瓦色の建物は、いかめしいというよりも美しさが勝る。
車寄せで片桐は鹿乃子を下ろすように言われ、控えの場所へ車を動かしていった。
(さあ、御用向きを果たさなくっちゃ!)
案内役の下士官の軍帽には緋色のテープが鮮やかに巻かれ、確かにここは近衛師団なんだわ、と鹿乃子はわくわくした。

「こちらが、副参謀長の執務室でございます」
長い廊下を何度曲がったろう、下士官の青年が、マホガニー色の厚い扉を掌で示した。
「有難う。お取り次ぎを願えます?」
見た目に対して、あまりにも鹿乃子が平常心なのに内心驚きつつ、青年は扉を叩いた。

「参謀長からの、お届け物であります」

「ああ、どうぞ」

下士官は、扉を音もなく閉めると、去っていった。

大きな木製の執務机の向こうには、「お集まり」で鹿乃子によくお声を掛けて下さる、蒼宮の叔父様が座っていらした。

「やあやあ、大したものだ。大の男でも入るのをためらう司令部へ、よくおいでになった。…早速で悪いが、仕事でな。預かり物を確認させてもらうよ」
「はい。ここに」
風呂敷をするするとほどき、中の茶封筒ごと、副参謀長の手へ鹿乃子自ら手渡す。
封筒を開き、中の書類を吟味していらっしゃる叔父様は、いつもと違って険しいお顔つき。
(さすが、将校さまだわ…ああ、男の方って、やっぱりいいなぁ…わたしも、こういうの、やってみたい)
勧められた革のソファに座りながら、鹿乃子はそんなことをぼんやり考えていた。

「うむ。たしかに。朱宮参謀長からの書類に間違いない。確かに受け取ったよ、鹿乃子姫。いまさっそく、受取状をお父上宛に書くから、もう少し待っていてくれるかね」
「はい、承りました」

そこへ、さっきとは違う下士官が入ってきて、鹿乃子にお茶を出してくれた。
「まあっ、私なぞにとんでもない! お気遣い、恐れ入ります…」
「いえ、参謀長の御令嬢とうかがいました…しかし、なんとお若い…」
お互いに驚き合って、そのあと、ちょっと微笑み合った。

「木下中尉、婦女子にうつつをぬかしておる暇があったら、鍛錬をせい、鍛錬を!」
「は、はっ。失礼いたしましたっ!」
あわてて部屋を飛び出る木下と呼ばれた兵に、鹿乃子は
「ごめんなさい、私の方が余計な口を聞いてしまって…」
と、声を掛けた。

「よいのだよ、鹿乃子姫。それが軍隊というものなのだ、しかもここは近衛師団。全国の精鋭が集まる場所、いくら厳しくしてもしたりないくらいなのだから。さあ、これが受取状だ。参謀長に、よろしく伝えてくれ」
言いながら、叔父は白く細い封筒を渡してくれた。
「ありがとうございます。確かに、父上に手渡しいたします」

「さて、これでご用は終わり…と言いたいところだが?」
「は?」
眼を丸くする鹿乃子の前に、蒼宮の叔父はニヤニヤ笑った。

「お前さんの並外れたお転婆ぶりと肝っ玉の据わり具合は、近衛師団(ガーズ)で知らぬ者などおらぬぞ。参謀の用向きが済むまでは我慢しておったろうが、帰り道ともなれば、四神家随一の跳ねっ返りをきゅうと言わせて、話の種にしようとうずうずしておる若いのがあまたいるだろうて。車寄せまでの帰り道、気を抜かぬがよろしいぞ?」

「えっ、じゃ、案内の方は…」
「無論、つかぬよ。帰り道がわからなくなったら、その辺の若いのをひねり上げて聞くんだね?」
「もう! 叔父様ったら、意地悪ですこと!…でも、書類をお受け取りいただいたのは別です。父上に代わりまして、お礼申し上げます。ごきげんよろしゅう」
立ち上がると、小さな封筒と畳んだ風呂敷を左右の袂に入れ、鹿乃子は深々とお辞儀をした。
(つづく~)


2012年8月8日水曜日

追記・その5 +α

いぇいっ。
アメリカ合衆国でもご覧の方がいらっしゃいました~。
オリンピックイヤーだ、めでたいな。

でもおそらく、翻訳ソフトじゃなくて、在留邦人の方がネイティブジャパニーズでご覧なのではないかしら…?

あっ、そーいえば。
指摘を受けたんですけどね、このブログは、果たして18禁に見合う内容ですかね?

なんつーか、こう、ミニスカートの女子高生が駅の階段上ってて、
「お前、その丈じゃ見えちゃうだろ、見えちゃうっつの、あー…見えちゃった」
のような、確信犯的なのは好きじゃないんですよ、私としてはね。

それよりも中国服やベトナムのアオザイみたいにスリットが入ってるチラリズムとか、
前もミニ話で書きましたが、雨に濡れた制服のブラウスを二人組の女の子がミニタオル貸しっこして、お互い相手の肌が透けないように気を遣ってあげるとか、
そーゆーのがねー、好きなんですけどねー。

恋愛未満あり、片想いあり、プラトニックが主軸で、いっちゃってもちゅー止まりかなぁ。
…やっぱ、これじゃ十八禁張ってられませんかね(苦笑)
単に「子供にはまだ早い!これは大人のお楽しみじゃ!」って旗印でもありますけど。

作った同人誌の方は、けっこう何なんだけどな…でも、恥ずかしくてここにアップできないっす…。

2012年8月7日火曜日

夏休みは嫌い(百合なし)

パソコンを子供達に占拠されてしまい、ブログが更新できません…(泣)
やっと空いたので、さあ書くぞ~と思い、パソコンソフトに入れておいた草稿をプリントアウトしようとしたら、紙切れで出ません~(泣×2)
ごめんなさいね。
鹿乃子ちゃんにどんなお着物を着せて、どんな武勇伝を見せてもらおうか、もう少しお待ち下さい。

2012年8月2日木曜日

じゃぱにーず・きもの~鹿乃子ちゃんばなし

鹿乃子ちゃんのお話を書く関係で、和服の本を眺める機会が多くなりました。
今の冠婚葬祭のみの着方と違って、柄ゆきも着こなしもカジュアルだったり、逆にゴージャスだったり、どの本を見ていても飽きません。

彼女と、彼女をとりまく世界は、曖昧なアンティーク~第二次世界大戦前~の時代を想定しています。けっこういい加減(笑)その分、自由に登場人物らしい服装をさせてやりたいと思っています。

実は、パソコン内にはまだ未発表のお話も眠っていまして…鹿乃子ちゃんというキャラクターが可愛らしいのと、周りのいろいろな人物もこれから個性を行動や口調、服装で表していこうとあれこれ考えていると愉しいのとで、少々ハマり気味。

例えば、鹿乃子ちゃんを何かと構ってくる和也くん、彼も私服姿でくつろぐときがありましょう。そんな時、単純にシャツとスラックスではなくて、和服だったら何を着せたらいいだろう…とか。

ありがたい事に、ご覧いただいてる方が多い鹿乃子ちゃんのお話、後日また書かせていただくために、図書館でアンティークのきもの本借りて、勉強したいと思いますっ。
(百合度、低いけど~。これから、少しずつ上げたいですけど…でも、鹿乃子ちゃんと和也くんの今後も気になるしなぁ)

それでは、また。

2012年8月1日水曜日

夏休みのプール

女子高のプールの周囲には、厳重な柵が張り巡らされている。
もちろん、不埒な部外者の視線から彼女らを守るため。

それを幸い、けっこう高校のプールの授業というのは適当だ。
特に夏休みは、出席で成績をつけてくれるようなところがあるので、
学校から提示された日数のラインを越えていれば、まず間違いはない。

涼を求めて、ぷっかーと仰向けに浮いている子が、隣でゴーグルを直している子に聞く。
「ねえ、隣の組でさ、すっごい泳ぎ上手い子がいなかった? 可愛いのに、背中なんか、逆三角形でさぁ。なんであの子全然来ないの?」
「何をねぼけた事いってんの。彼女は今、夏の国体で他県へ行ってるでしょー?」
「…あ、そか」

かと思うと、その隣を平泳ぎでのったりのったりと泳いでいる子がいたり。
まあ、何でもありワールドである。

それから、大事なのがこれ。

「誰が、スタイル…バストとヒップが美しく立派で、ウエストがきゅっとくびれているか…美人だ?!」

同性の眼は、なかなか容赦がない。

普段は、同じ制服だし、着こなし方でそれなりにごまかせていたり、着やせするタイプがいたりして、正直わかりにくいボディラインが、スクール水着だと残酷なくらいに一目瞭然なのである。

ご面相がおよろしくても、けっこうふっくらタイプだったり、逆にガリガリ過ぎたりしても、興ざめ。
逆に、普段は物静かで長い髪を一つに結わえている子がプールサイドに上がり、髪ゴムがとれた拍子に隠していた水着姿をふっと見せたりしたら、まるで名画「ヴィーナスの誕生」のごとく、ぼんきゅっぼんなスタイルだったりすると、プールの中からも外からも、時には独身のしょーもない男子教諭からも
「うおおおお~」
などと、声が上がってしまう(バカだよなあ…)

あと、定番なのが、眼鏡っ子がゴーグルを外すと、想像以上に可愛かったりして、妙にドキドキしてしまうこと。

このへんの子たちは、二学期になると、隠れファンクラブができていたり、する。

あ、ここをごらんの男性諸氏、
「更衣室ではどーなってるんだっ?!」
という声が聞こえてるんですがー(聞こえてねって)

更衣室って、結構狭いし忙しいし、蒸し暑いしで、あんまり余裕ありません。
下着も、見られないように着替えちゃうから、チェックしようがないし。
せいぜい、今シーズンはどんないい香りの制汗剤使ってるかを情報交換するくらい。

…うーん、なんか涼しいってより、やや暑苦しいお話になってしまいましたな(苦笑)
以上、実録風プール話、おしまいっ。