2011年12月26日月曜日

俺、お絵かき好きだったのね。

仕事は年の瀬でますます忙しくなってきておりますが、
(世間は三連休でも、持ち帰り残業とか休日出勤とかしてるよ)
夜のひととき、やっと個人誌のイラスト作業が始まりました。

黒コピックに頼りまくり、という初心者ではありますが、
それでも、線の細さを選びつつ網掛けや服のしわを描いてると
「あー、俺(女です)、こーいうちまちましたお絵かき、好きだったんだー」
と、数年ぶり…いや、もしかしたら数十年ぶりに思い出されて、面白いです。

百合のガチ度で行きますと、ツーショットは軽め、表紙は軽いのと中くらいのと、
中イラストに一つ「おー、やっぱR18だなー」というのを入れてみました(汗)

文からおもんばかるに、今回の本はやっぱし高校生には売れないので18禁ね。
夏コミのお客様からの反応やコメントを基に、この冬は
商売っけに走ってみますが、さて結果やいかに?

コピーでちょっとしか作らないから、完売してほしいなあ。
帰りに持ってくの、疲れとプラスで超重いんだよね…。

そうそう。
カタログ、売り切れてやんの!
初の「当日、会場でカタログ買い」やっちまいそうです。

友達のスペース行けるといいな~。
せっかくジャンル違うのに同じ日になったんだもん。

2011年12月18日日曜日

原稿あがった!しかし…

やったー、さっき奥付まで書き終わりました。
夏コミはちゅー止まりでしたが、今回はかなり大人な話になってしまって、こわい。
年齢制限は必須ですね。
15で切るか、18で切るか、そこが難しい。
ぎりぎりまで考えます。

ともあれ、勢いで往復の高速バス予約をしてしまいました。

しかし…
問題は、イラストがちーとも描けてないんすよ。
んな大層なもの描く気はないんですが。
表紙の下書きだけです。まだできてるの。
中イラストも白黒で載せたいし、表紙もカラーにしたいし。
でも、この時期じゃ、印刷屋さんは完全アウトですね。

んー。
最後の手段、家のプリンタとコンビニのコピー機使って手作り本でいきます。
何とかする!

2011年11月20日日曜日

いつやるの。

11月は週末・平日ともぜんぶ予定が入っちゃってだめです。
じゃーいつやるのよ、冬コミ原稿。

先に印刷屋さんに予約入れておく
「自分で自分の首締め作戦」でいかなあかんかな?

年末の仕事も手をつける時期が来るし…
カネじゃなくって、好きなもののために、いっちょ生きてみないか自分!!

あーん。マジで仕事よしたくなります。
「やめるのはいつでもできるから」って人は言うけど、
そーはいかないんだよ実際。辞めた事も休んだ事もあるからわかるのよ。
社会人の責任ってもんがね、追っかけてくんのよ。
麻酔が切れて悶絶してるときでも、仕事の電話が来る時は来るのよ。

話がずれたので、今夜はここまでっ。
それでは、また。
…あ、ホテルだけネットでとってから寝ようかな(懲りろ)

2011年11月14日月曜日

四苦八苦~

昨日から女子高生ものを書き始めたのですが…
内容以前に、パソコン操作に四苦八苦。
カトリックのお祈りの一つ「天使祝詞」を書いて、スタートしたかったのに
うまいこと入らない入らない!

今回の本は、初めての二段組みにしたので、そのためもあります。

そうそう、イラストのお話。
画材はアマゾ○へネット注文をしました。紙と簡易ペンのセット。
最低限のカラーペンと水性色鉛筆は手持ちのがあるので、
それらを駆使して、なんとかしようと思っています。

昔、貧乏で、12色より多い色鉛筆を持ってる友がうらやましかった頃、
テクニックで色の少なさを補おうと、暇な放課後にあれこれ工夫した思い出があります。

今は道具を頼める身分になっても、描く暇がなし。
ぐすん。
でも仕事のためなら早起きできなくても、イラストのためならできるかな~♪(これこれ)

2011年11月12日土曜日

あら。

週末を機に、エロ場面で放置しちゃったままのおねーさま二人はどうなっているか、
確認にいってみました。

あら。
文章もおねーさま方も、気づいたら、おのおの済んで落ち着いてました(笑)

じゃあ今度は、私立花百合女学園の告解室でものぞいて、
寮つき女子高校生の恋ざんげを数人分、考えたいものだわ…
などと思っているんですけどね。
仕事がなきゃね、あと家のもろもろの家事や用足しとか。

いま一番心配なのは、イラストです!!
近所のアニメ○トに画材が売ってなくてショック!
昔は売ってたのに~。

腕もですが、まず、画材探しからしなくっちゃですな。
弘法大師さんじゃないもんで。しくしく。
それでは、また。

2011年10月31日月曜日

冬もビッグサイト、決定。

1ヶ月のご無沙汰でした。

仕事と行事とちょっと一段落したな、とフーしてましたらば、
冬コミ合格の封筒が届いていて、びっくりです。

なので、こうやって久しぶりにブログを開きました。
(てか、そもそもここ見てくださってる方、もういないんじゃないかしらん?)

なにはともあれ、12月30日に向けて、新刊を作るのに本腰を入れないと、です。

自分ではわからなかったが、夏コミで体験した「売れる百合の法則」

ずばり、男性向きで行け。
表紙には下手でもイラスト、そしてタイトル。この二つでそそることっ。
安いの数冊つくるより、そこそこでも一冊にいろんなジャンルを詰めて、釣る。
ジャンルは乙女系と18禁系と、両方入れる!
話は乙女系でも、タイトルは妄想入れそうなのをつける!

「!」が語尾に多くなってしまいました。はあはあ。
アホやん。

しかし現在の進捗状況、18禁の方がエロ場面真っ盛りのまま放置中です(苦笑)
しかも、慣れないワードです(印刷屋の都合で)

やっぱ、仕事でパソコン打ってるとき、原稿書きは、やりずらいんすよ。
変換の語彙がそっち系に偏るしな~(笑)

目下のチャンスは、2日の夜かな。少しでも書き溜めておかなくっちゃ。
押忍!(なんでかいな)
それでは、また。

2011年9月3日土曜日

更新が進まぬ二つの理由。

ひとつは、単純に仕事量が増えてしまっているためです。
11月後半までこの状態が続きそうなので、ちょっとキツイものがある、と。

ふたつめは、その隙を縫ってここでブログに作品をアップしてしまうと、
今申し込み中の冬コミに、もし受かった場合、書き下ろしの本が出せなくなるためストップしてるのです。
…そう、書いてないわけではないのですよ、実は。
女教師×女教師のちょっと大人なお話をひとつ、書き始めています。
あともう一つ、いろんなお相手とのラブアフェアを懺悔する、ミッション女子校の告解室ものにも挑戦したいな~(こっちはまだ書いてませんが)

冬コミに落ちたら、順次アップしますね(泣)
でも本当は行きたいです、友人と数年ぶりに同じ日のサークル参加となりそうなので。
(友人はしごく健全な、青年コミックのオールキャラギャグ本を描いてます。どこで人生変わったんだ…)

2011年8月16日火曜日

コミケ、サークル参加してきました!

日曜日に当サークルへおいでくださった方、その上本までご購入下さった方々、
ほんとうにほんとうに、お暑い中、ありがとうございました。

高校の時、晴海時代から一般参加は経験があったのですが(苦笑)
何から何まで一人でするというのは初めてで、面白かったです。

それから、買い手さんの男女比や年齢層が予想とずいぶん違ったこと、
買い手さんが「この本のどこに惹かれて、対価としてお金を支払ってくださるのか」
などなど教えてくださったこと等、生でマーケティングできたことは、大きな収穫でした!

ぜひ、冬の新刊(2冊予定、もうちょっと大人向きで書き下ろし)に生かしたいと燃えてます!
…って、まだ受かってもいないんですけどね。
受かるも何も、冬コミの申し込み、今日速攻ですましたばかりです。
(私はアナログ派なので、郵便屋さんへ行って申し込んできましたよ)

2011年8月11日木曜日

100円豆本、作りました!

いやー、週末に作るつもりだったのが予定が入ってしまい、修羅場でした。
でも、夕べ無事にできましたよ~。

オフセット本64ページが300円(このブログの再録がほとんどです、ちょっとだけ書き足し)
豆本は百合エッセイとマンガ家さんファン本の二種類で、おのおの100円。
もー、利益ないです。
でも全部お買い上げだと500円で計算楽だし(俺バカだしー)
「好き。」を共有できれば、今回は採算度外視でいくことにしました。

日曜日、「ゆりの国のものがたり」のスペースへ、おいでください。

あとは、この某イベントの後に死ぬほど仕事が待っている…それがこわいわ。ぐすぐす。

2011年8月3日水曜日

入稿しました~!

昔はフロッピーディスクと紙原稿で表紙を送っていたのが、いまやUSBメモリーですもんね。
時代は変わる。入稿も速くなる。
その分駆け込みさんが多いのか、今回オプション拒否されたし、割り増し料取られたり、こっちの面は同じ印刷屋さんでもシビアになってて、これまた驚き。浦島太郎さん状態。

次の発注は、違う印刷屋さんでやろうかなあ…(って、書く気だよ、おい)

さて、明日は有休取りました。
子どもが夏期講習行ってる間でも、コピーの豆本の表紙くらいしあげたいなぁ(まだ書くんかい)
もう紙も買ってきてあるモンね、ふふ~♪

2011年7月17日日曜日

コミケカタログに載ってました!

あとは本作りだけなんですよ、おいおい。
仕事の合間に、どれだけうまくやるかだなー。
いざとなったら、印刷屋さんは間に合わなくて、コピー本になっちゃうかもだけど。えーん。

でも自分に気合い入れようと、今、ネットで高速バスの往復予約、取りました!

3日目の西1、2地区、ふ-08です。宜しくお願いします!
あ、サークル名はこのブログ名と同じですので。
本日は宣伝(と夏バテ中の自分に喝!)まで。

しばらくコミケ対策のため、こちらは更新が滞るかと思われます。ご了承下さい。

2011年6月26日日曜日

続・双子ぢゃなくってよ。(其の壱)

初夏の校庭に、ありすには珍しく、乙女子たちの大きな声が響いている。
「赤組ー、お振るいあそばせー!」
「白組ー、おしっかりー!」
跳び上がったり、手を叩いたり、夢中になってグランドを皆が見つめている。

今日は、全校を二つに割っての大運動会。
いつもの袴姿に組別のたすきをきりりとかけて、種目ごとに学年別の選手が数名選ばれ、活躍する。
ありすは、私立には珍しく、編出入の受験を希望する生徒も少なくないため、夏の初めに運動会を開くのだ。

さて、我らが主人公、一年生の御堂 珠子(みどう たまこ)さん。
小柄な体を生かしてなかなかのはしっこさ、リレーでも玉入れの跳躍でも、機敏に体を操って、属する赤組の勝利に少なからず貢献しているご様子。
ただでさえ、三年の「藤組の君」こと、甘露寺 絹江(かんろじ きぬえ)さんとエスのおん仲も睦まじく、うらやましがられたり、そねまれたりと、珠子さんは一年ながらかなりの有名人。
そこへこの活躍とくれば、やはりありすの女生徒からは、いろいろな意味で所謂「マーク」される存在。
ラフプレイもかけられれば、声援の声もひときわ高く、運動会を盛り上げる一人となっていた。

さて、お相手の絹江さん。
数日前から微熱が出て、白組の天幕の中、今年はもっぱら見学と応援。
(直接競わずにすんで、かえって良かったかも…。でも絹江お姉様、お体に無理なければよいのだけど)
時折、ちら、と相手方の天幕を覗いては、お姉様の具合を案じる珠子さんである。

2011年6月19日日曜日

バラ園にて(超ショートです!)

春と秋の二回だけ、私と香澄とは学校帰りに遠回りをするのが、暗黙の了解となっていた。
行き先は、駅と自宅の間にひっそりとある、バラ園。

「今年、咲くの遅い気がする~」
「あたし達が来るのが、早かったりしてね?」
くすくす笑いながら、蔓バラのアーチをくぐったり、大輪の品種で作られた小迷宮をめぐったりして、帰る。
うす暗くなってゆく中、香りが少しずつ湿った空気の中へ溶け出すように、濃くなっていくこの時が好き。
香澄と、二人で歩いていても、バラ達が隠してくれるのも、好き。

「ねえ杏奈、バラのおまじない知ってる?」
やにわに、前を歩いていた香澄が振り返って尋ねてきた。
「え?おまじない…?」
とっさに返事も思いつかず、おうむ返しの私に
「その年、一番気に入った色のバラの花びらを唇に挟んで、瞳を閉じてお願いするとね、恋が叶うって」
「うっそ」
「あたし、やってみよーっと。この前、スマホで見たんだもの。うーん、どれにしようかなぁ…」
とまどう私におかまいなく、そぞろ歩きで香澄はバラの花の物色を始める。

言われると、自分も、何だかやってみたくなった。
(香澄に内緒でお願い、すればいいもんね…)
今年は、黄色から濃いピンクへグラデーションしていく花弁のバラが、目立つ気がする。
迷わず、外側のきれいな一片をそっとちぎると、唇に挟んだ。
(神様、どうか香澄と、何時までも今のように一緒にいられますように…)

そのとき。
花びらじゃないものが、私の唇に、かすかに触れた。
もっと柔らかくて、甘くて、懐かしい、そんな何かが。

えっ、と思って瞳を開くと、すぐ前に悪戯っぽく香澄の顔が微笑んでいた。
「うっふふ、杏奈って、すぐ人の言うこと信じちゃうんだから。可愛い!」
「ちょ、ちょっとじゃあ香澄、さっきのおまじないの話、嘘だったの?!」
慌てて私が聞き返す。
煉瓦色の小路、二人の間に、さっきまでくわえていた花びらが、ひらりと落ちる。

「嘘じゃない。本当よ。だって、たった今かなったでしょう?違う?」
そうささやくと、もう一度香澄は、悪戯っぽく微笑んだ。

(おわり)

2011年6月6日月曜日

コミケ初参加です。ドキドキ!

他ジャンルでは何度も落ちてきたのですが(笑)
百合は一発当選、やはり旬のジャンルなのでしょうか。

…ともあれ、三日目の西ホールに行かせていただけることになりました。
仕事しながらですが、印刷屋さんの情報を更新したり、書き下ろしをちょっとためたり、
このブログを紙にしただけにならないよう、努めたいと思います。

おっと、それから、もうちょっと大人系の続編とかも書きたいです!
(夢を見るのは自由ですから?)

しかし、日本が年に一、二をあらそう混雑期間ですから、さっそく宿を取ってしまいました(笑)
喜んでるなぁ、自分。
でも無理しないようにしたいと思います。
…お客さん来なくても、お祭りに参加できるのは嬉しいから、まずは健康で。

2011年5月9日月曜日

ラブ様にお願い!(4・終)

「…先生に、見つけていただいてよかったのは、わたしのほうですっ」
今日のいま、宵闇に紛れて二人きりで歩いている、この時はもう二度と来ない。きっと。
朝香はそう思って、声を振り絞るようにして言った。

「やっぱり、こわかったんだ?」
みつき先生は、また軽く笑う。
「こわかったのかも、しれません。…ある意味」
「ある意味?」
捨て台詞のような朝香の口ぶりに、先生は興味を示した様子だった。

「さっきまで、わたし、占いをしてたんです。教室で、一人で。誰にも言えない恋をしていて、でも、やっぱり叶って欲しくて、どうなるんだろうか…って…」
「それは、ある意味怖くなるだろうな、確かに」
「…バカみたい、ですか?」
「恋がバカの所業なら、この世はバカの巣窟じゃないか?」
そのあんまりな切り捨て方に、今度は朝香の方が吹き出した。

「朝香さん、私が独身を通しているのは、知っているだろう?」
「あ、…はい」
「こんな時間、二人だけの校内だから言うが、私は、男はダメなんだ」
「……!」
「理由は分からない。思春期に入る頃に自覚して、以来ずっと独り身で生きてきた。そうせざるを得なかったからね。…別に、恥じてはいないが、吹聴して回ることもないと思っている。…でも、さっき朝香さんが『誰にも言えない恋をしていて』と話してくれたとき、君になら、ふと、こんな身の上話をしてもいいかという気になったんだよ」
「……」
「…これも、ある意味、怖い話かな?」
「そんなこと、おっしゃらないでください!先生のお話、ちっとも怖くなんかありません。私、もっと、小さい時の先生の話や、悩んでいた時の話や、いろいろ、何でも聞きたいんです!」

朝香がそう夢中でまくしたてた時には、二人とも、既に正面玄関の前まで来ていた。
「もう、お話、おしまいなんですね…」
鞄を抱きしめたまま、ぐずるように朝香はみつき先生に話しかける。
「明日も、明後日も、学校は毎日あるさ」
「でも、こんなふうに、二人で話せる時なんて、他にありません…」
すると、みつき先生は眼鏡をつい、と人差し指で上げて
「なら、また占いをしてみればいいじゃないか。今日のように。そうすれば、また遅くまで残っている同士、
偶然、叱りに来て会うことがあるかもしれないよ」
といって、クスクス、と今度は意味ありげに笑った。
まるで、朝香が誰のために占いをしていたのか、見透かしているかのように。

       (終わり)

2011年4月21日木曜日

ラブ様にお願い!(3)

(考えてみたら、私、いつから、みつき先生を好きになっていたんだろう…)
先生の薄明るい白衣の背中を見つめて歩きながら、朝香は思った。
確かに、さっき先生が自嘲気味に言った特徴は、ある。
でも、それ以上に、共学校でも男女隔てなく授業できっちり教えてくれるとか、
どうしたら生徒がもっと理解できるか、(たぶん今日も)授業研究に手を抜かないところとか、
嫁探し気分の独身男教師や、結婚相手探しめいたチャラチャラした女教師にはない素朴さとか、
…そんなところが好きなのだ。たぶん。いつの間にか。

「…あのう…」
「何?」
おずおずと朝香が問いかけると、黒髪と白衣の裾とをさらりとひるがえして、みつき先生が振り向く。
「…先生は、…どうして、こんなに遅くまで、あの、いらしたんですか?」
「おやおや、返り討ち?」
今度は、薄闇でもわかるくらいはっきりと、先生がクスリ、と笑った。
その身のこなしや表情はいつも見られない雰囲気で、朝香はドキン、とさせられる。
「私は手際が悪いからね。明日の実験準備をしているうち、こんな時間になったというわけ。…でも」
「…で、でも…?」
「同じように校舎に残ってるのがもう一人いるとは、気づかなかった。見つけられて良かったよ」
「……!」
最後のみつき先生の言葉が、身に余るほどの嬉しい響きに聞こえて、朝香は言葉が出なかった。

(これって、ラブ様…あなたのおかげ、なん、でしょうか…?)

2011年4月19日火曜日

ラブ様にお願い!(2)

(オカルト趣味のクラスメイトに習った魔法陣、まさか、ホントに効いたんじゃないよね…)
誰にも言えない想い人の後ろを、茶色の革鞄をかかえるようにして歩きながら、考える。
(どうして先生は、私が教室に一人でいるのがわかったんだろう?)
二人だけで廊下を歩く中、校庭から聞こえてくる部活のかけ声がこだまする。
「…何、してた?」
「ひえっ?!」
いきなり世界一答えられない質問をぶつけられて、朝香はすっとんきょうな声をあげた。
「怖く、なかったのか?」
「い、いいえ…」
「何をしてたか知らないが、よっぽど夢中になってたんだな?」
そう言いながら、先生の背中がちょっとだけ、クスリ、と揺れて見えた。
暗闇の中、見間違いかも知れないけれど。
「…そういえば、朝香さんは、珍しく私の事も怖がらないな。大抵の生徒は、不気味だの実験オタクだのと勝手にレッテルを貼って、授業の最低限以外は寄りつきもしないが」
(怖がるわけ、ないじゃないですか!!)
みつき先生にそう言いたかったが、やっぱり、心の中の何かが邪魔して、言えない。

あー、ラブ様、どうしたらいいんでしょうか?!

2011年4月18日月曜日

ラブ様にお願い!(1)

「ラブ様、ラブ様、おねがいします。片思いのあの人と結ばれっこないことはわかっています。それでもやっぱり、私のこの想いが通じますように、どうか、力をお貸し下さい…」
誰もいなくなった、夕闇迫る放課後の教室。野球部とサッカー部のナイター照明のおかげで、真っ暗にした室内でも、その声の主の姿はかろうじて見える。
グレーのブレザーに紅いネクタイ、おかっぱ姿で机の上に怪しげな陣をチョークで描き、一心不乱に祈っている。
そのとき。
「こら、誰だ!こんな遅くまで暗い中に残って!」
突然廊下側のドアがぴしゃりと開けられ、怒鳴られたとき、
「きゃあああああ!」
祈るどころではなく、その生徒~村木 朝香~は、思い切り叫んでしまった。
理由の一つめは、唐突さで。
そして、二つめは、まさにいま祈っていた片思いの相手が、自分にむかって怒鳴ったことに驚いて。
「日直の先生も、もう帰った。私も準備室から職員室へ戻ろうとしていたところだ。早く、荷物をまとめて。一人で玄関まで真っ暗な校舎を歩かせるわけにはいかない」
きびきびと話す言葉は男の教諭のようだが、白衣の上は薄化粧をした端正な顔立ちに、背中まで届きそうなストレートの黒髪。
そう、朝香の片思いの相手は、科学担当の女教師、堀江 みつきだったのだ。 

2011年4月12日火曜日

お久しぶりの百合。

この一ヶ月半、なに故に更新されていなかったかといえば、単純明快。
家のプロバイダが変えられて、機械ベタな私はネットにつなげなかったのでありますよ。

それから、年度替わりで仕事の内容もガラッと変わり、地震は今日もぼちぼち来るしと、
何だかあわただしい日々・・・のせいにも、しておりました。

「コミック百合姫」最新号はアマゾンで取りよせて読んだのですが、
いや、マンガのせいではないのですが、日常に埋もれすぎて、今はまだちょっと百合パワー不足。
あっ、決して自粛しているわけでは無いのです。
むしろ、萌えパワー出てる方が人間、元気だと思うので。

あまり深く設定を考えずに、日にちも不定期となりますが、
まずは百合で日本を元気にしよう(笑)という気持ちで、次回からショートストーリーを書いてみます。
ではでは、仕事へ戻りますので、今日はこれにてドロン。

2011年3月1日火曜日

この後の百合。

さて。
次はどんな百合ワールドをかいたものやら、正直、白紙です。
一番書きやすい物は現代よりちょっと前の学園ものですが、
レトロ調の続きも気になるし、
はたまた全然関係ない人妻世代で百合はいけるのか?な好奇心もあり。
職業物も面白そうですが、なんせ、取材しないと書けないのがネックでして(苦笑)
んな趣味で取材してるなら、しごとしろっての!
部活もな~、知ってるのと知らないのと、専門用語とかあるしね、流行とか。
生徒会とか、やっときゃ良かったわ(←不純)

やっぱり、人生経験、少ないより多い方がいいっす!
例え、それが失敗であっても。
後輩諸君、がんばってくれたまえ!ちーっす。(ワケわかんない事いってしめてるし~)

2011年2月28日月曜日

か・み・な・り。(6・終)

梨奈に攻められて、カラオケ並みの大音量で、猫のような声をあげている自分が、実果は恥ずかしかった。
と、とたんに。

ふっ。

周りの全ての物も音も、消えてしまった。
あおむけに寝ながら、ゆっくりゆっくりと下りている自分がいる。
むせかえるような、甘いにおい。
見なくても、分かる。
自分の下には、とてつもなく大きな白牡丹の花が咲いていて、実果は、あおむけのまま、そこへ沈み込むようにふんわりと横たわった。
自分の体重の分だけ、花びらがふやん、と重みを持って下がり、またゆっくり上がってきてくれた。
天から、ゆうるりゆるりと花びらが何枚も舞い降りて、掛け布団のように実果をそっと覆ってくれている。

(なぁんて、気持ちがいいんだろう…。
 私、どうかなりすぎで、死んじゃって天国へ来ちゃったのかなぁ…)

「み・か・ちゃん☆」
そこへ梨奈の声が急に聞こえてきて、はっと実果は我に返った。
目の前の梨奈は、やけにニコニコしている。
「嬉しいな…、実果ちゃん、梨奈が頑張ったから、イッちゃったのね?」
はい?!
「急に気を失っちゃったから、びっくりしたけど、とっても気持ちよさそうな顔してたから、よかった~って」
そ、そうか…言われてみれば、話で聞いたり本でチラ見したことあったけど、あれが、アレの感覚かぁ…と言われれば、そんな気もしないでもない実果だった。

(しっかし、私って、感じやすいんだなぁ…。いよっし、今度はお返しだわ!)
「じゃ、今度は梨奈ちゃんね~?さっきは涙ぐんでたりして、私の方こそ、容赦しないんだから!」
「きゃんっ、実果ちゃんたらっ★ …でもね、時計、ほら…」
「げっ、もうこんな時間??!! でっでも、延長っていう手があるじゃない」
「梨奈、そんなにお金、もってないしぃ…」
「うーんと、でもっ、今度こーゆートコ、いつ来られるかわからないでしょう?…それに、私も、されてばっかりじゃなくって、梨奈ちゃんのこと、イカせちゃってみたい、し…」
「やーん、実果ちゃんったら、エロ可愛いっ」
「さ、話は時間があったら後でっ。まず、お互いの財布の中身を総動員よっ!」
「うんっ!」

時間があるのに、お金がないのが学生のつらい所と申しますが、さてこのふたり、この後どうなる?
この後は、ブログを離れて紙の上、個人で作る同人誌の上にて再び、お会いいたしましょうね★
                ~か・み・な・り。 終~

2011年2月26日土曜日

か・み・な・り。(5)

「やらかいね…」
ほうっとため息をつきながら、実果は梨奈の生まれたままの胸に触れる。
「…優しい、実果ちゃん」
梨奈も、ベッドに仰向けに寝そべる実果に覆い被さるような形で、ほうっとため息。

気がつくと、バスローブのひもが解けたわけだから、梨奈は何も着ていない前半分の姿をさらしてしまっていた。
「女の子らしくって、いいな…梨奈ちゃんは。ふんわりぽっちゃりしてて、憧れちゃうよ」
梨奈が気づいていないであろう、そのあられもないすがたに、じんわりと欲情しながら実果ガ言う。
「えっ、そんなことないもん。実果ちゃんの方が、細くって、スタイル良くって…ね、見ていい?」

こっちが見ちゃっている以上、今更ダメという理由もなく、それにちょっと、ちょっとだけ、梨奈になら見られたい…と言う気持ちも加わって、実果はこくりとうなずく。
シュッ、とローブのひもが解かれて、お互い、何もつけていない姿を見せ合った。
「ほらぁ、やっぱり綺麗!実果ちゃん…ちょっと、触らせて?」
さっきと一緒で、こっちが先に触っちゃってる以上プラス、梨奈に触られたらどうなるんだろう?というドキドキの好奇心もあって、実果は、またこっくん。
どーも、主導権は梨奈へいきそうな、いつもと違って奇妙な、でもそれでもいいかな?な、予感。

ぷりんっと、はじけさせるようにいきおい良く梨奈が胸を触ったので、その真ん中で紅く色づき始めている可愛らしい桜桃のような実にまで刺激がいってしまい、
「あ、や…んっ」
と、つい口をついて実果は喘いでしまった。
「わんっ、実果ちゃん可愛い声っ♪ 梨奈、いつもと違うその実果ちゃんの声、もっと聞きたいっ!」

梨奈は言いながら、手の全体や指先で、実果の両胸を可愛がる。
その度に、実果は普段では考えられないような甘え声を出して、のけぞるようにして愛撫をねだる。
「ん…っ、あっ、つよ…いっ」
「…じゃ、これは?気持ち、い?実果ちゃん?」
「あーっ、んっ、い…やんっ、すごい…だめぇ…ん」
「かわいい、実果ちゃん、感じやすいのね。すっごく、可愛くて大好き!」
「ね…私、私も…梨奈に、もっと、してあげたいよ…」
「うん…もうちょっと、してから、ね。梨奈、今、実果ちゃんの感じてるエロい姿みてたら、…あのね、…梨奈まで感じてきて、……ヌレてきちゃったん、だもん…」

おーい。
ヌレてるのは私も同じなのよーん。
だって、梨奈、もう手だけじゃなくって、唇や舌まで使って、私の胸とか、脇腹とか、耳の横とか、もういろんなトコを責め立ててきて、たまんないんだもん。

でも。
実果は、自分で自分に驚いていた。
梨奈が教えてくれなければ、こんな鼻にかかったようなねだり声を出しちゃうんだ、って。
それから、そうなっちゃうくらいエロ体質で、梨奈よりもたぶん、ずっとずっと感じやすい身体のもちぬしだったんだ、ってことに。

2011年2月21日月曜日

か・み・な・り。(4)

「お、おっまたせい~」
残っていた、ぶかぶか気味の水色のバスローブを着て、実果がシャワーから出てくると、急に梨奈がコホンコホコホ…と咳き込み始めて、止まらなくなった。
「ちょっ、大丈夫、梨奈ちゃん?!」
「う、うん…ちょっと、むせちゃって…へーき、コホン…」

見ると、テーブルにはほうじ茶(粉)を飲んだ跡。
(むむむ? じゃ、梨奈ちゃんも、さっき私がお茶を吹いたのと同じ…? い、いやいや。こんなだぶだぶの男物のバスローブ姿なんか…)
という、実果の推測は、はずれ。

ぶかぶかの男物一着をまとって出てきた姿は、ボーイッシュなはずの実果をかえって華奢に見せてくれちゃって、梨奈はキューンと来ちゃったのだった。
「実果ちゃん、可愛い…」
「はっ、はいいい?!」

な、なんと、押し倒してきたのはキュートな見た目の梨奈の方だった。
「梨奈ね、実果ちゃんとなら、こーゆー事、おんなのこ同士でしてもいいな、って、思ってた…の」
「わ…私となら、って、梨奈ちゃん、場慣れしてるっぽくみえるけど、まさか、他の…」
「いない」
「男の子とも?」
「いや。男の子って、怖そうで、梨奈、嫌い」
「かみなりも、男の子も嫌いなのに…私と、女同士でも、いいの…?」
最後の覚悟を問うように、乗りかかられながらも実果が訊くと、
「実果ちゃんしか、ダメなのっ。…梨奈ね、こーゆー事、実果ちゃんとしたいなって、何度も、思ったことある…」

その恥ずかしそうな告白と、「自分だけ」という想いが嬉しくて、実果はちょっとうずうずっとした。
そして、
「こーゆー事っ?!」
と言いながら、さっきからこっそりほどいていた梨奈のガウンのひもを解き、胸元をばっと開いてしまった。
「きゃんっ!」
「可愛いね、梨奈ちゃん」
ふんわりした、石鹸の香りのする胸に、そっと顔をうずめる。
上にいるせいだけでなく、梨奈の身体は着やせするらしくて、ぽっちゃりふんわりして可愛かった。
胸も、実果よりも豊かな感じ。
「…さわって、くれる?」
「…ん」
軽く頷くと、実果は下から、梨奈のまあるい胸をそっと、優しく手で触れ始めた。

2011年2月20日日曜日

か・み・な・り。(3)

1,2,3,go!

自動ドアの向こうはやたらに真っ暗で、目が慣れるまでに少し時間がかかった。
二人とも不安と好奇心で、ぎゅうっと繋いだ手に力が入る。

人気は、全然なかった。他のお客さんもいないみたい。
目が慣れてくると、入り口のすぐ横に、いろんな写真が四角くパッチワークみたいに並んだアクリルパネルが置いてあるのに気づいた。
ほのかな明かりがそこから出ているので、目が慣れたのだとわかった。

二人して、パネルににじりよっていく。
写真は、どうも部屋を撮したものらしかった。
らしい…というのは、そのパッチワークな四角の大半が暗くなっていて、よく見えないので。
「えーと、電気付いてる部屋が、1、2、3、4…20個四角あるうち、4つだけだよ? 実果ちゃん」
「てことはだな、うちらがお金払って使える空き室が、もう残り5分の1…って早っ!! こんな真っ昼間から、世間様はこんなトコに籠もってるってわけーっ?」

「ねー、ドコにしよっか、実果ちゃーん?」
面白みまんまんで、梨奈は残り4室の写真を見比べている。

世間の生臭さ(いや、自分もその一人だが)に少々ショックを受けてる実果は
「今度は、任す…。梨奈の好きなお部屋があったら、そこにして…」
と言いかけて、(ま、まった待ったああああ!)と、パネルへにじり寄る。
万が一、鎖とかムチとか革の服とか並んでる部屋とかあって、梨奈がそこのボタンをポチッとな★したら、それはいやだぞーーーっ!

しかし、実果の期待?空しくそんなお部屋はなくて、梨奈はピンクのふわふわりんダブルベッドのお部屋を選んだ所だった。
料金面がひときわ明るくなり、とりあえず万札をくずしたい実果が料金口に差し込むと、釣り銭と一緒に部屋番号を彫り込まれた、これまたアクリル製の「いかにも、ホテルのルームキー」な鍵が、パネル下の広い口から出てきた。

(あー、いよいよ私もラブホ経験者かー…)
しみじみ鍵を取る実果に顔を近づけ、梨奈が
「元気ない…? やっぱ、やだった?」
と、心配そうに尋ねてくる。
「う、ううん。どうして?」
「そんな風に、見えたから。梨奈はね、ホッとしたの。本当にここ、雷の音がしないんだもん。さっ、行こ!」
(…あ、あれ、確かここ、誘ったの私の方からじゃ…、ま、いいか)
心の中にちょっと「?」マークを残しつつ、梨奈が開けたエレベーターに実果も乗り込んだ。

ドアを開けると、思いの外「フツー」な部屋で、よかった。
窓が塗られて開かないのと、部屋一面がベッドなの以外は。
「風邪引かないように、梨奈ちゃん、シャワー先に浴びておいでよ」
「実果ちゃんは? 一緒に入らない?」
「いっっっっ、一緒ぉ?!とんでもない、お先にどうぞっっ。あんたの方がびびってた分、体も冷えてると思うしっ、かっっ、髪も長いからっ、濡れてるだろうし」
「…はーい」

おかしい。
この建物に入ってから、梨奈ペースになってる。
ま、まさか、あの子、初めてじゃないんじゃ…?
い、いやいや、そんなこと、嘘でも疑っちゃいけないのにっ、私のバカバカ。

実果は、一人でテンパっている心を静めようと、備え付けの電気ポットでお湯を沸かし、煎茶(粉)を飲んだ。
そこへだ。

「みーかちゃん、おっまったっせー☆」
乾かしたてで、ツインテールにしていない超ロングヘア姿の梨奈が、ピンクのパイル地ガウンで現れた。
ブーーーーッ!
…お約束通り、あまりの梨奈の可愛さに、飲みかけのお茶を吹いてしまった実果がいた。
「わーっ、大丈夫?本当に。なんかラブホ入ってから、実果ちゃん、心配~」
「だ、だいじょうびゅ。(←誤植じゃないです。笑)じゃ、じゃあ、今度はわたひが、シャワー浴びてくるからねーー!」
かけよってくる梨奈を振り払う勢いで、超特急でシャワーブースへ実果は走った。
 

2011年2月16日水曜日

か・み・な・り。(2)

駅近くの地下道出口から地上へ出ても、まだ雨はやんでいない。
このままだと、雷うんぬんのまえに、ふたりそろって風邪を引きかねない。

「ねえ、ネオンキラキラとか、自由の女神さんがたいまつ持ってるお人形とか、ないんだー」
「んなモン、こんな繁華街に堂々と建ってないっつの!」
「じゃあー、どこらへんのが、ん、と…ラブホ…?」
梨奈に聞かれて、まじまじと実果も繁華街から一歩入った道を行く。不安そうに手を伸ばした梨奈の掌を、ぎゅっと握りしめながら。
「カレシと行ったことがある、って友達が…確かこのへんに、二、三軒並んでて…って、…あれか?」
白や薄ピンク、薄水色の似たような細っちいビルが数軒並んでいる。で、そのどれもが入り口の所に4桁の料金プランが書いてあったり、目隠しの壁やシールドが張ってあったりして、いかにもそれっぽい。
「…ね、梨奈、どこにするっ?」
「ひいいん、まだゴロゴロ言ってるよぅ、もう、どこでもいいからぁ、実果ちゃんに任すぅ~」
任されちゃっても困っちゃったもんで、改めてじっくり吟味したいところだが、往来を行く人々の視線が、女子高生二人に刺さりまくってくるようで、どーも、イタい。
「決めたぁっ!」
実果は、心の中で(ここ重要、アンダーライン)叫んだ。

真ん中にしよう。
一番こぎれいだし、両側からプレッシャー受けてる分、料金かサービスか何かで、お得かもしれない。

と、いうことで。
前回(1)の冒頭部のごとく、1,2,3,go!になっちゃったわけである。

次回は、さーていよいよラブホ内部に突入してしまった二人の様子を描きますよ~ん♪

2011年2月15日火曜日

か・み・な・り。(1)

「行くよ、梨奈ちゃん。ちゃんと手つないでてっ!1,2,3,go!」
「えええっ、実果ちゃあん、ホントに入っちゃうのぉ?」
「アンタねー、誰のせいだとおもってんのよ!」
見るから~に女子高生の二人がきゃいのきゃいの騒いでいるのは、雷雨激しい都心のとある街。
の。
通称、ラブホ。正式名称、ラブホテルの真ん前である。

事の発端は、まあ、たわいもないこと。
休日に待ち合わせて、実果と梨奈の二人は、親友同士のお出かけ~というのは偽装で、本当はデート~に行くことになった。

嬉しくって、服にも気合いが入る。

黒いストレートヘアを肩にかからない程度にカットした実果は、毛先をちょっと内巻きにして、デニムのキャスケットをかぶる。
服装は、レディース仕様のライダースの下にフレンチカラーのボーダーのカットソー、ボトムは帽子とお揃いのデニムのスキニーパンツ、ハイカットのカラフルなスニーカー。
芸能人で言えば、テクノで人気のあの女の子3人アイドル、っぽい雰囲気。

一方、学校でもトレードマークのツインテールなやや栗色の髪型の梨奈は、パステルピンクのカーデの下に、白地に大きな赤いタータンチェックのリボンとフリルのカットソー。ボトムはレイヤードのこれまたタータンのミニスカートに、黒いニーハイを履いて絶対領域もばっちし、赤いスエードのくしゅくしゅブーツでまとめてる。
これはもう、あの巨大アイドル集団の一員になって投票されても、一部のマニアックなヲタ男子に熱狂的支持をうけそうな勢いのルックス。

そんな二人が、いつもより多いお小遣いを持って、新しいお洋服を買いに出たとき、事件は勃発した。
ピカッ。
ゴロゴロゴロゴロ。
天気予報にもなかった、突然の雷雨が空から街中を急に襲ってきた。
「きゃーん!!」
いきなり、実果の首っ玉に、梨奈が飛びついてきた。
「やんやんやだーん、梨奈、かみなりだいっきらいなのーっ!!」
可愛いルックスそのままに、梨奈は自分を名前呼びする。

「そらま、好きで踊り出しちゃうヤツって聞いたことがないけどさ…。じゃ、どこか避難しよっか?地下とか?」
「うんっ。梨奈、実果ちゃんの行くとこなら、どこでもいくーっ!」
この台詞が後々の複線になってしまうともしらず、逃げたい一心で梨奈はうなずいた。

しかしだ。
デパ地下に入ってみれば、同じように雨宿りの客で大入り満員。
「はいはいはい、嬢ちゃん方、やすいよやすいよーーーぃ!」
「ちょっと、そこの方、お並びでないなら、どいてくださる?ここの物産展、今日までなのよ」
あまりに雑然としすぎるその場の雰囲気に、二人はうんざり。
こういう所に限って、パーラーやカフェもないのだ。

「どこか、上に上がってファミレスかカフェでも入る?」
「いやだーん、それじゃ窓から雷、見えちゃうじゃなーいっ!」
そらそうだ。
目の前の可愛いヲタエサを、外の景色が見えないところで落ち着かせるにはどうしたらいいか…?

実果の頭に、ひとつ、場所が浮かんだ。
とても大胆だけど、とても行ってみたいところ。
今日の梨奈を一目見てから、密かに心の隅っこに思っていたこと。
(梨奈ちゃん、120パーヤバ可愛い…っ。男じゃない私でも、ちょっとどーにかしちゃいたい…っ)

もしかして、この雷雨は、天恵かも知れない。
聞き手をぎゅっとグーにして、実果は提案した、思い切って。
「梨奈ちゃん、とっておきの場所があるよ。窓が無くって、音も聞こえないトコ。」
「ええっ、そんな夢みたいなトコ、あるの!?」
夢みたい…じーんと、その言葉を反芻しながら、もう一つ、実果は決め台詞。
「梨奈ちゃん、私が行くトコなら、どこでも行く、って言ったよね?」
「うん。言ったわ。だって梨奈、実果ちゃんに嘘付いたことなんてないもん」

神様、じゃなくて雷様、ありがとう。
「じゃ、行くよ。地下道通るから、駅前まで戻るの我慢してね」
「いいよ。でも…ねえ実果ちゃん、これから行く夢みたいなトコって、どこ?」
「知りたい?」
黙って、コクンとうなずく梨奈。もーっ、可愛いっ。
「あのね。…ら・ぶ・ほ。」
「えええええーーーーっ!?」
「私も話で聞いただけだけど、中に入っちゃえば、昼間だか夜だかわかんなくなっちゃう位だって。雷なんかへっちゃらよ、きっと。さ、行こっ!」

話しながら、実果は自分の頬がぐんぐん熱くなっていくのに気づいた。
だから、早くごまかしたくて、梨奈の手をぐいっとつかむと、小走りに地下道を駅方面に走り始めた。

2011年2月13日日曜日

次作について。(運営者だより)

レトロな世界が好きなあまり、どーも今書いてるお話は長くなりそうです。

なので。
いったん仕切り直させていただきまして、次回からは、現代物をば。
でもって、20歳未満ご遠慮を張ってるならではのお話にしたいなと!
(って、ここの5行打ってる段階でタッチミス続出…おいおい、小胆だよ~)

女の子同士でラブホへ入っちゃう話を書いてみようと思います。
では、しばし待たれよ次回!
(って、いきなし明日からガンガン書いてるかも知れません。ネタが頭におりてくるまで、自分でもわからんわ。笑)

双子ぢゃなくってよ。(其の十弐)

それからのお二人は、周りの誰がごらんになってもおわかりなくらい、お仲良し同士。
日ごとにお花や小さな封筒が草履箱を行き交い、朝の登校時刻もお帰りも、ほとんどご一緒。
知らぬうちに、セルロイドの縞模様の筆入れがお揃いになっていたり。

藤組の君と噂されていた絹江さんには、それまで秘めた想いを抱く方も下級生に多く、
だからといって下の自分から言うのははしたない、と我慢していた所に、このお二人の睦まじさ。
心楽しきわけもなく。

「珠子さん、御堂珠子さんは、こちらのお組でしょう。」
「ええ、私がそうですが、御用向きはなんでしょう?」
他の組から出入り口に来た一年生、歩いてきた珠子さんの頬を、ぴしゃり。
クラスの皆は、えっと驚き、口々に騒ぎ立てる。

意外だったのは、皆がすぐに駆け寄り、珠子さんの味方につかなかったこと。
「何をなさるの!」「野蛮だわ、ありすの一員として恥をお知りなさいませよ!」

ひそひそ。
(恥をお知りになるべきなのは、どちらかしらね…)
(あれだけ、あけすけになさっちゃあ、見ている私たちだって、ねえ…)

打たれた頬を押さえながら、珠子さんはきっ、と相手をにらみ返す。
「お口をお持ちなら、御用向きはお口でお伝えなさるべきだと思うわ」
「…まあ、なんて、なんてお憎らしい! 藤組の君とあれもご一緒、これもご一緒。近頃は髪型まで、あなたの方がお揃え遊ばして、何様のおつもり?絹江お姉様と、双子かなにかとお勘違いなさってるの?!」
打った方の同級生が、目に涙を溜めながら、珠子さんにくってかかられた。
「違うわ!」
売り言葉に買い言葉の勢いで、珠子さんも大声を出していらした。
「双子なんかじゃないわ。だって、だって私達…」

その続きは、頭の中に浮かんでいたけれど、決して口に出してはいけない言葉、だった。

             ~第壱部・了~

2011年2月11日金曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の十壱)

「絹江お姉様、すごくモダンでお素敵。お着物、よくお似合いでらっしゃる…」
二人並んで玉砂利を踏み踏み、正面玄関へ歩きながら、うっとりと珠子さんがつぶやく。
「アラ、珠子さんの方がお可愛い。袴をはかなくて、市松人形さんみたい」
にっこりと微笑んで、歩きやすいようにか、気を遣わせないようにか、そっと片手を取ってくださる。
そのすべすべした感触と長い指、紅珊瑚のように刻まれたお爪が、これまたお綺麗。

さっそく玄関から紹介されていった珠子さんとたけは、教えられた通りの口上を使用人の人々から、奥の間に控えられし絹江さんのお母様にまで申し上げれば、あとはご自由にお楽しみ遊ばせ、ということになった。
お口にうるさい珠子さんのお母様が誂えさせただけあって、差し上げた西洋菓子の折は殊の外お喜ばれ、さっそく「お持たせ」として、絹江さんのお部屋へいくらか、熱い紅茶と一緒に運ばれた。

「…あのう、たけは、今頃どこで…? 急にこのお部屋へ飛び込まれても、失礼なので」
おそるおそる珠子さんが尋ねると、クスクスと絹江さんが笑われて
「大丈夫よ、わたくしのところのきよが、たけさんを侍女部屋でおもてなししていますからね」
「ああ、よかったあ…」
素直にほっとする珠子さんに、絹江さんはまた笑われる。
「そんなに、あの人お苦手?」
「…では、ありません。でもなんて言うか、この頃…そう、絹江お姉様からお手紙をいただくかいただかないかの頃から、急に、いちいち指図されるのがうるさく聞こえるようになったというか…」
「…わたくしにも、あったかしらね。そんな時が」

「ええっ、お姉様みたいにお優しくてお素直な方でも?」
びっくりして声を荒げる珠子さんに、今度の絹江さんは、ちょっと気怠いような視線を投げて
「わたくし、そんなにお褒めいただけるような者ではありませんわ。だってね、…珠子さん、ちょっといらして?」
その声に、疑わず繻子の椅子から下りて、絹江さんの方へ珠子さんが近づいていくと、
「そら、つかまえた!」
見た目のたおやかさとは裏腹に、絹江さんは珠子さんを両手でひょい、と捕まえて、椅子にすわったままお膝の上で、珠子さんを横抱きにしてしまった。
「……!?」
その唐突さに、とっさに言葉も出ない珠子さん。
「紅の鹿の子の縮緬が、おかっぱさんに本当によく似合いますこと。今日、一目見たときから『まあ、なんてお可愛らしいわたくしのお人形さん! きっとこうやって抱っこして差し上げなくっちゃ』って、思っていましたのよ。」
ふんわりと、その物言いと同じように、絹江さんは珠子さんをお抱きのまま。
そうして、嫌なら逃げられるはずの珠子さんも、絹江お姉様にお人形抱きにされたまま。

いくらエスがおさかんなありすでも、こんなこと、できはしない。
だから、こんな夢みたいな時間を、二人とも壊したくはなかった。

絹江お姉様の柔らかな唇が、珠子さんの左頬に、そっと、当たる、
驚いてお姉様の顔を見つめようと、向き合う珠子さんの鼻の頭に、今度は唇が当てられて。
そうしたらもう、くらくらとしてしまって、お返事の仕方が分からなくなった珠子さんは、大胆にも絹江お姉様の両頬にそっと手を当てて、あどけなさを残したまま、自分の唇とお姉様の唇をそっと、合わせた。
「ま…、珠子さん、お可愛い。大好き、大好きよ…?」
そのまま何度か、小鳥が嘴をついばみあうように、二人は、閉じたままの唇を何度か重ねて、それから、額と額をコツン、と合わせた。

「珠子さんは、わたくしのこと、お好き…?」
「大好き。お姉様の事、好きすぎて、さっきから、胸の奥が痛いくらい…」
「マア、それはたいへん。たけさんをお呼びになる?」
「そしたら、もっと、痛くなります」
そこまで言うと、二人は緊張の糸を解き、互いにふふっと笑った。
「では、珠子さんのお持たせで恐れ入りますが、お茶にいたしましょうか?」
するり、と滑り台のように絹江お姉様のお膝から下りると、珠子さんも
「はい。そちらの方が、お薬よりずっと効きそうな気がいたします」
と返事をした。

2011年2月8日火曜日

ちょっとお茶タイム(百合系おしゃべり)

少々遅くなりましたが「再誕。」そして「聖戦。」とくれば…新生「コミック百合姫」ですね。
挑発的な装丁が、懐かしの『少女革命ウテナ』派の私にはそそります(笑)
白地の背表紙並べたい。うずうず。

1月号は、帳尻合わせの都合があったので、むちゃむちゃ過去の短編が多く
正直、ずっとこのままで行かれたら困るなー思ったのですが、
3月号は落ち着いてきた感じ。

コミックスの広告が、体裁を全部統一してるのが、かっこいいですね。
逆に、揃えられてしまう分、作家さん泣かせかもしれませんが。

いまのBLが、嫁に行ったり子供生んだりヘーキになっちゃったのを嘆く一人である私としては、
百合にこそ、残された「背徳感」をしょっていてもらいたい。

いや、ほのぼの百合や、ロリ系男性作家さんもいいですよ、いて。
(3月号の「百合男子」を読むまでもなく、百合好きの中では男子も貴重な担い手だし)

でも、「ヘーキ」じゃないからこその葛藤とか、恥じらいとか、だからこその快楽増幅効果(何のこっちゃ)とかがねー、同性愛のマンガや小説読みの醍醐味だと思うんですねー。

あと、体の問題には、言及しないわけにはいかないが、しかし生臭いリアルは不要かなあ。
女同士の場合、ここのさじ加減が一番難しいわけで。
あけすけになっちゃうとね、ロマンチックじゃないし。
でも、なんもないプラトニック一色だと「つまーんなーい」のが、わがまま百合好きでして。

だから、うちのブログも一応成人向けをかけてあるんですけどね。
(ブラフじゃなくて、そういうのも考えてますので、いちおう。でも、いま書いてるレトロ話が思いの外長くなっている~!ライバルとか出すなら、第一部とかにわけようかしらん?)

2011年2月5日土曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の十)

さて、待ち焦がれた土曜日、帰宅してお昼を頂くのもそこそこに、珠子さんは夕べから支度してあった小豆色の麻の葉模様の縮緬に、錦の袋帯。鹿の子の帯揚げもふうわりとめかし込んで、絹江さんのお宅へお出かけ。
たけがその後から、いつものように小走りで、西洋の焼き菓子が詰まった風呂敷包みをおしいただき、それぞれの人力車へと乗り込む。
(人が人を走らせる人力なんて、本当は、わたし嫌い。いっそ馬車を御するか、一人駆けさせてみたいわ。
きっと小気味よいでしょうね…絹江お姉様の所にも、そうしたら何時だってゆけるのに)
そんな事を考えながら、いつもより気持ち窮屈な着心地で揺られているうち、甘露寺の邸宅へ到着した。

「まあ、おすごいお宅…」
はしたないと存じていても、つい、珠子さんは声を漏らした。
自宅の御堂家は、ご一新後に建てた、和洋折衷のこぢんまりした建物と、園丁に任せた花園。
でもこちらの甘露寺家は、ご門に弓矢の跡がまだのこっていそうな、しっかりした土塀に囲まれた大きな庭園が、鳳凰の翼を広げるように建てられた、日本家屋を包むように覆い込んでいる。

「たけとこなければ、迷子になるところだったわ」
「オヤ、お素直でらっしゃいますね。いえ、このたけも、昨夜こちらにお勤めのきよ様に、女学院でお会い遊ばしていなければ、とっくのとうに迷子になってございましょうよ」
門から正面玄関までは、玉砂利を踏んで歩く。毎日編み上げ靴を履いて通学するのに慣れた珠子さんには、草履に足袋がややじれったい。

すると、正面から
「ありがとう。おいで遊ばしたのね、嬉しいわ」
サクサクと玉砂利を踏む音も軽やかに、榛色の地に御所車の友禅をお召しになった絹江さんが、お迎えにいらした。
「わァ、絹江お姉様!」
突然にお姿を見られたことが嬉しくて、つい思ったままを口に出した珠子さんだが、すぐそばのたけがコホン、と咳払い。
「…本日は、お招き遊ばしまして、誠に恐悦至極に存じ上げます。御尊父様を御始め、ご家族の皆々様にもごきげんよう、存じ奉ります」
改めて、珠子さんは教えられたとおりの口上を述べなさる。

2011年2月2日水曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の九)

お部屋の卓上に、小さな花瓶。
そこへ今朝頂いた三色すみれを生けて、ぼうっと珠子さんは見ている。

帰り、たまたま昇降口で絹江さんと行き会い、一緒に帰りましょうか、というお話になった。
「でも、わたし、侍女がいつも人力車に乗って、迎えに来るんですの。だから…」
珠子さんがそう話すと、絹江さんはちょっと残念そうな顔をなさった。が、すぐにパッと頬を輝かせて
「なら、今度の土曜日、学校が引けて一度お帰りになってから、私の家へ遊びにいらして? ね?」
と、話し出された。

「え、ええと、母に聞いてみませんと、何とも今は…」
「あら、そうね、珠子さんの名字は御堂さん。お家の方のお許しが無ければ、矢鱈にお外へは出られないお家柄のはずだわ。ごめんなさいね、お気安く誘ってしまって」
「そんな。絹江さんこそ、甘露寺といえばこの辺りで知らぬ者のない旧家のお嬢様でいらっしゃるはず…」
自分の家を自慢したかと誤解されるのが怖くて、あわてて珠子さんが話すと
「いいえ、家なぞ大したことなくってよ。だから、お気軽にお誘いできるのだわ。ね、お許しをもらってきて頂戴ね。きっとね」

いつの間にか、校門の所まで二人、話しながら歩いてきていた。塀の少し先には、たけの乗った人力車が見える。
(今日に限って、どうしてこうお迎えが早いのかしら…)
少しだけジレジレした心持ちになりながら、珠子さんは絹江さんと別れの挨拶を交わした。

珠子さんが人力へ向かいながらふっと見てみると、校門の辺りのあちこちで、同じように話し込んだりノートを手渡したりしている、上級生と下級生が何組も、あった。

(やっぱり、これって『エス』なんだわ…。わたしと絹江さんも、この方々と同じように見られている。そうして、まぎれもなく、同類なのね…)
少しずつ自覚が芽生えてくると、ちょっと大人びたような気がした珠子さんなのだった。

家へ帰って、紺地に紙風船柄の伊勢崎銘仙に着替え、珠子さんは土曜のお話をお母様へ切り出した。
すると、事の他すんなりとお許しを頂き、その上
「甘露寺様とおっしゃったら、お公家さんの血をひいていらしたお宅ではなかったかしら。手ぶらに普段着で、というわけにもいきませんわね。さっそく、たけに頼んで西洋菓子の折をみつくろってもらわないと。それから、珠子さんも。家にいるように銘仙やお召に三尺帯で、お邪魔するわけにはまいりませんわね。上方の伯母様から頂戴した友禅や縮緬がよろしいかしら、それとも洋装になさる…?」
とまあ、『遊びに行く』の範疇を越えた大仰な話になってしまい、
「なんだか、よくわからなくなっちゃったわ…たけとお母様のいいようになさって頂戴」
とだけ答えると、ふらふらと自室へ戻ってしまったのだった。

「ねえ、三色すみれさん。お綺麗だからみとれる、お優しいからお話する、お慕わしいからずっとずっと一緒の時間を過ごしてお遊びしたい。…そう単純には、物事、行かないものなのかしら?」
珠子さんは、小さな花瓶に生けられた、絹江さんからの三色すみれに話しかけていた。

三色すみれの花言葉は「物思ふ」「恋の想い」とも。
珠子さんは知らずとも、絹江さんはその花言葉を果たして渡した時に知りたりや、はたまた否や?

双子ぢゃなくってよ。(其の八)

「ねえ、珠子さん。もしお嫌でなかったら、こんなふうに時々、お花やお手紙をやりとりしてもよくって?」
ガーベラの花のような絹江さんの申し出に、珠子さんは、またこくん。

「あの、でも…わたし、どんなふうにしたらよいのか、わからなくって」
「アラ、今朝してくださったようで十分、嬉しくてよ。お手紙は無理なさらなくていいの。ホラ、学年がふたあつも違うと、同じありすにかよっていても、お顔を見たりお話をしたり、なかなかできないでしょう? だから、ね?」

にっこりなさる絹江さんは、珠子さんよりお背が二寸と少しくらい高くてらして、首をかしげると、ちょうど視線が合うので、珠子さんはどきどきしてしまう。髪も、二人とも断髪ではあるけれど、珠子さんはまだ小学校の延長のようなおかっぱさん。絹江さんは、少女雑誌に出てくるボッブヘアのように後ろをしゅっと短く刈っていらして、でもおっとりしたお顔だちのせいで校則違反にはあたらないような、どこか柔らかさがある内巻き気味の髪型。

「それから、お手紙やお花を下さる時は、誰にも見られないようになさってね」
「どうして?」
「他の方々も、皆、そうなさってるから。ね、御願い」

…これが、『エス』っていうものなのかしら。
さすがに珠子さんはそこまでは訊けず、磨き込まれた木の階段をトントンと軽やかに上がっていく絹江さんの後ろ姿に、ぽうっと見とれているだけだった。

「…あら?!」
気づいたら、珠子さんの手には可愛らしい三色スミレの花束が握られていた。
いつの間に。
なんておちゃめで、素敵な方なのかしら、絹江さんって。
手妻のようなその早業に、珠子さんはすっかり心を奪われてしまった。

2011年1月30日日曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の七)

振り向くと、そこに、一人の上級生が穏やかに微笑んでいらした。
紫紺の袴は制服なので珠子さんと同じだけれども、銘仙のお召し物の柄は、藤色と浅葱色の細かなダイヤ市松模様で、地味だけどもどこかモダンな、そのお姉様に似つかわしいものだった。
「珠子さんね?…私、絹江。甘露寺(かんろじ)絹江よ。…お召し物とお揃いの可愛らしいお花、どうもありがとうございます」
目を丸くして、コクン、と珠子さんは頷いた。それから、ややあって、
「あのう…、絹江様は、その、どうして、私のことを見つけられて、素敵なお手紙とお花を…?」
と、問うので精一杯。
「ああ、それはね、ごめんなさいね。私の勝手なお節介からなのよ」
「?」
「珠子さん、つい先だってまで毎日、放課後遅くまでお一人で、ため息ついてらしたでしょう?
見かけてから、私、何か貴女にお困り事がおありだったら、お話を聞いて差し上げたくって、それでね、毎日物陰から拝見していたのだけれど、どうしても、声をおかけする勇気がでなくって…」
申し訳なさそうに、少うし首をかしげる絹江さんの姿は、まさしく優美なガーベラそのものに見えた。

2011年1月25日火曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の六)

あくる朝。
昨日のうちに目をつけておいたチューリップを一輪手折ると、珠子さんは侍女のたけをせかすように、人力車をありす女学校へと走らせなさる。

「近頃、お裁縫がお嫌と見えて、おゆるゆるであそばした(=ゆっくり登校していた)のに、今朝はお早くていらっしゃるのですね」
「もう、お裁縫の課題は提出いたしましたから」
「今日お召しの銘仙、先だっては『子供みたいで、もう着たくない』とおっしゃっていたのに、お不思議な事。お手になさったチューリップと、お揃いになさったのですか?」
「そうよ。…たけ、何度も申しますけれど、もうわたしも女学校に入ったのですから、あまりあれこれ詮索なさらないでいただきたくてよ。よくって?」
「はいはい、承知つかまつりましてございます。珠子お嬢様も、もうそんなお口をお聞き遊ばすお年頃になって…」
「お静かに、たけ。人力の揺れで、舌をかんでよ」
「おお、こわ」

それまで、甘えたり相談相手になったりと、とても頼りになっていたはずの侍女という存在が、どうしてだろうか、ここ数日でとても邪魔っ気に思えてしまうようになっている。

珠子さん自身にも、それが女学生になったためなのか、または藤組の君・・・きぬえ、という名の上級生からお手紙を戴いた、そのときからなのか、釈然としてはいない。

もやもやとした、今までのぬくぬくとした巣から抜け出したくて、でもどなたか慕わしいお話相手が欲しいような、何とも言えないこの気持ち…。

無理もない。
後の世の人々が「思春期」と呼ぶ時代の、そのとば口に、珠子さんは立ったばかりなのである。

ありすの礼拝塔が見えるや否や、珠子さんは得意の跳躍力で、風呂敷包みとチューリップを抱えたまま、跳ぶようにして人力車を降りた。
「三年藤組の、きぬえさま…」
お背が高いのか、草履箱のやや上段に、その方の名前を記した木の蓋を認めた。
そうっ…と、蓋を開けてみる。
級友達の悪戯をちょっと心配していたが、それはなく、菫色の縁取りがされた端正な部屋履きが、一足あるきり。
(よかったわ…)
大きな花弁を散らさぬように、靴に花粉をつけぬように、そうっと、珠子さんはチューリップを置いた。

2011年1月24日月曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の伍)

その夕方。
いつもより早くお家へ帰られた珠子さんは、和箪笥から、学校へ着ていく着物を取り出して衣桁へ掛けた。
朱色の地に、チューリップの柄が飛んだ、桐生の本銘仙。
それから、お庭の花壇に出て、明日の朝に開きかけていそうな、つぼみのチューリップを探す。
こちらはさすがに朱とはいかず、深紅に近い濃い桃色を一輪、見つけた。

戴いた便箋とお揃いにしようと、着る物は朱を選んだ。
でもお相手がどんな方か分からないので、珠子さんは、自分が一番好きな花を差し上げることにしたのだ。
(子供っぽい、と思われるかしら…?)
でも、こちらはまだ入学間もない身、あちらは藤組の君と騒がれる上級生。背伸びをすることもない、そう珠子さんは考えた。
(ねんねさんで、お話相手にもならないのなら、いっそ早々に諦めて下さった方が、わたしも恥をかかなくていいかも…)

おやおや、いつもの甘えたさん振りはどこへやら、ちょっと殊勝な珠子さんである。

2011年1月22日土曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の四)

翌朝、ようよう先生の指示した所まで仕上げたお裁縫を抱えて、珠子さんがお教室へ入ろうとすると、
級友の誰も彼もがニコニコと、またクスクスと笑いながら、珠子さんを出迎えた。

「ごきげんよう、珠子さん。良い朝をおめでとうございます」
とか
「珠子さん、素敵なあめのみつかい(=天使のこと)から、贈り物が届いていてよ?」
とか、耳元でささやきながら、ひらひらと蝶々のように皆して、廊下へ出て行ってしまった。

「何の事かしら、いったい…?」
と、自らの机を見ると、木の蓋にこしらえられたその机の上には、朱色の細長い便せんと、朝摘みかと思われる優しいうす桃色のガーベラが一輪。
ドキン、と、心臓がひとつ、大きく跳ねた。
(まさか、お兄様が昨日お話なさっていた事が、今朝、突然に起こるなんて!)

あわてて、荷物を椅子へ置くと、花びらを散らさぬようにそうっとガーベラを机の上へ置き直し、立ったまま珠子さんは朱色の封筒を開く。
中の便せんは真っ白で、そのふた色の対比が目にも鮮やかで、またどこか大人びても感じられた。

 突然のお便り、なにとぞお許し下さいませ。
 いつも放課後にお教室で寂しそうにしている貴女が、気になりまして一筆差し上げました。
 小さな花束のように可愛らしい貴女へ、上級生として何かして差し上げられる事はございましょうか。
 もしお嫌でなかったら、何でも貴女のお好きなお花を一輪、明朝、私の草履箱へお入れ下さいまし。
 乱文、失礼いたします。
                          参年藤組  きぬえ

声に出さずに読んでいたはずなのに、珠子の視線が便せんのしまいで止まった途端、物見高そうに廊下から眺めていた級友達が、ワッとお教室へなだれこんできた。

「どら、見せて頂戴、珠子さん。どなたからのお手紙…?」
「マア素敵、藤組の君からよ! きちんとご署名まであるわ、お戯れじゃなくて、本当のお申し込みね」
「当たり前よ、絹江様がお戯れなぞするはずないじゃないの」
「これは断然、お受けするべきよ、珠子さん。籤引きなら赤玉、文句なしの特一等のお相手だわ!」
「絹江様を籤引きの赤玉になんぞ、例えないで頂戴な!」
「あら怪しい、あなた実は、珠子さんにお手紙が届いたのを、妬いていらっしてるんじゃない?」
「違うわ。おしつこいあなたこそ、もしかして藤組の君を…」

当の珠子さんは、級友達の熱烈な騒ぎを、一歩引いてただぽかぁんと眺めていらっしゃるので精一杯。
(きぬえ…さんって、皆様のお話だと、悪いお方ではないみたい。でも、そんな方が、どうしてわたしなぞ…? わたし、明日、一体どうしたらよろしいのかしら…)
そこへ、礼拝堂の鐘がカラーン、カラーンと響き渡り、皆はそそくさとお教室に並べられた各々の座席に収まっていった。 

2011年1月21日金曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の参)

自分用に頂いた部屋で、銘仙と制服の袴を脱いで、明朝のために襞をよく調え、押しをしておく。
そうして、家でいつも着ている、関西の伯母様から頂戴した鴇色地のお召に着替えると、珠子さんはようやく人心地ついた。

お八つを召し上がるのもそこそこに、お持ち帰りの和裁に取りかかる。
「裁つあたりは全然難しくなかったのだけれど、襟付けが何度やっても上手くいかないわ、嫌んなっちゃう…」

そこへ、半分開いた襖の向こうから
「ヘン、俺たちの幾何や白文素読なんかより、数段楽なことやってらぁ。女学校は、気位ばかりつんつんお高いけれども、その実、裁縫学校と変わらないじゃないか」
と、的を得ているだけに小憎らしい台詞は、3つ年上のお兄様の声。

いつもなら『マア、何よ!』とくってかかる珠子さんなのに、今日はさすがに元気なく、
「…全く、おっしゃる通りね。裁縫学校に入るつもりなんか、わたし、なかったのに…」
「オイオイ、そう時化た声をだすもんじゃない。その代わり、女学校には女学校にしかない『お楽しみ』が、あるはずだろう?」
しょんぼり俯く珠子さんを、あべこべにお兄様が励ますことになってしまった。

「えっ、『お楽しみ』?なぁにそれ?」
「おーやおや、本当に知らないのか?まぁ、ねんねさんの珠子らしいか。『エス』、シスタア…って、聞いたことないか?」
「エス…?」
そう、言われれば。

同じクラスのお友達が、そんなお話をしていた気がする。お手紙やお花のやりとりをして、とても仲良くすることらしい…位しか、又聞きで知っているだけではあるが。

「マァ、そんなもんだな。珠子はその程度知ってりゃあ、十分だろうよ」
「えっ、間違ってるの?」
「そうじゃないさ。ただ、あまり知りすぎてしまうと、良くないこともある…とだけ、教えておこうかな。たけなんかに聞いちゃダメだぜ。真っ赤になって怒られるぞ?」
「…ええ、わかったわ」
「さ、そんな裁縫、さっさとカタを付けちまいな」
「そうしますわ。ありがとうございます、お兄様」
気を取り直して針を持つ珠子に、お兄様はニッコリとして襖を閉めてくださった。

(エス、って…。どんな、ものなのかしら)
姉妹のない珠子にとって、ほんのりと興味がわいてきた。
実は、つい先ほど、放課後の物陰で、珠子に向けてその出来事がまさに始まっていたとは、露ほども知らずに。

2011年1月13日木曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の弐)

「お母様ァ…、お願い、助けて頂戴。また今日も、お裁縫のお持ち帰りなの!」
家へ帰り着くなり、珠子さんは広い上がり框(かまち)に風呂敷包みを投げ出すと、甘え声でおねだり。
「まあまあ、お嬢様ったら。まずは奥様へのご挨拶が一番でございましょうに」
「だってェ、たけは頼んでも助けてくれないじゃないの」

侍女とはいえ、たけはまだ40歳手前。珠子さんのお母様より年回りが近い分、手厳しい。
それは、珠子さんも十分心得たもので、もう女学校に上がってからは、たけに頼み事をあまりしなくなった。

「ホホ…お帰りなさい、珠子さん。幾度も幾度も、お持ち帰りでお大変ね?」
奥の西洋間から、紬(つむぎ)姿で現れたお母様のお口振りでは、どうやら助け船は出ないご様子。
「さ、まずはお八つをおあがりなさいな。少しお休みになって、それからお持ち帰りを始めなさい、ね?」
「…ハァイ」
甘えん坊が効かなくて、仕方がないと珠子さんは観念し、ゆるゆると編み上げ靴を脱ぐと廊下へ上がった。

2011年1月10日月曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の壱)

「はあ…」
学用品を扇面柄の縮緬風呂敷に包みながら、思わずため息が口をついて出た。
「お嬢様、おはしたのうございますよ」と目を光らせる、侍女のたけも、幸いまだ迎えには来ていない。

口頭試問を受けて、この私立ありす女学校に入学してから1ヶ月。
両親と訪れた時、校庭を埋め尽くすかのように咲いていた桜も、もう緑の新芽が初夏の訪れを伝えている。

私立の学校ならではの、おっとりとした雰囲気が全体に漂う。
お弁当を開く仲間、授業中にひそひそ噂話をする仲間が、この一月で幾人(いくたり)もできた。

「…でも」
ため息のしばらく後、級友が皆去っていった、飴色に輝く夕空の光差し込む教室で、
「こんなに、お裁縫の授業が多いなんて、わたし、聞いてなかったわ…」
独りごちて、ふう、とまたため息。

その姿は、まだあどけないおかっぱ髪に、肩揚げをした銘仙の着物と、制服の紫紺の袴。
花冷えが残る朝晩をたけが案じてか、葡萄茶の羽織も重ねている。
この、憂いをまとうには幼い身なりの一年生が、主人公の一人、御堂珠子(みどう・たまこ)さんである。

そんな珠子さんのがんぜない姿を、教室そばの階段の蔭から、一人のほっそりした上級生が覗いていた。
珊瑚を刻んだような麗しい手の指には、一輪の花と、朱色の封筒がほの見える。

2011年1月3日月曜日

双子ぢゃなくってよ。(予告編)

絹江(きぬえ)さんと珠子(たまこ)さんは、同じ私立女学校の先輩と後輩。

この学校の伝統ゆかしく、エス=シスタアのおん契りを交わした二人。
手紙を草履箱にやりとりしたり、花を一輪、木の机の蓋を開けて忍ばせたり…。
お嬢様の二人は、それぞれ家に出入りの呉服屋の反物からお母様にねだって、
おそろいの銘仙に濃い紫の袴で登校いたしたりもなさいます。

これほどまでに仲良しさんですから、やっかむ者、有ること無いこと言いふらす者、
風紀を乱すような悪さをしないか、目を光らせる者、隙あらば…とねらう者。

さてさて、エスの二人にどんな出来事が降りかかって参りますやら?
次回をどうかお楽しみに。
(このブログの壁紙が変わっていましたら、このお話の第一話、始まりましてよ)

いちごボーイ(8)

「素敵!すっごい、似合うわ。いちごちゃんに…ああ、そのせいで4月から少しずつ、髪を伸ばしてたのね? ダンサーさんらしくなるために」
「そうなの。これじゃ、カルメンよりもドン=ホセかエスカミーリョか、って短さだものね。…って、え?」

今度は、いちごちゃんが、私に負けないくらい、ううん、もう負けてるけど、星の入りそうな大きな瞳を私に向けて、驚いた顔つき。
「金沢さん…、私のこと、4月から知ってて、見てて…くれたの?」

コクン。

もう、何を隠してもしかたない気が、私はしてきた。
「入学式の直後よ。…あまりにも可愛くて綺麗で、目に焼き付いて、離れなかった。だからね、きっと、スペインへ行っても、どこの国へ行っても、貴女はきっと、たくさんの人に恋をされるわ」
「…金沢さんも、恋してくれた…?」
いつものいちごちゃんらしくない、ちょっと、不安そうな声。
「…ばか」
さすがに恥ずかしくなって、私は真っ赤に頬を染めて、椅子の上でくるん、と90度回転。いちごちゃんに背を向けた。

「ね、教えて?…私、一番心配なんだもの。一年の間、離れていて、日本に帰ってきたら、金沢さんが誰かと…男の子と、女の子とでもね、恋人同士になってたら、って…」
いちごちゃんの唇から、そんな言葉が出てくるなんて!
嘘っ。

「そんなこと、ないっ!」
気づいたら、私は叫びながら、またくるっと90度回転。
そうしたら、いちごちゃんまでこちらに回転していて、座りながら向き合う形になってしまっていて、ちょっととまどったけど、でも、言わないと。
「なんで、そんな取り越し苦労みたいな事、言うの? 私のこと、バカにしてるみたい! 私、誰かから好かれるような魅力なんてないし、それに、それに、私、私の方が先に、いちごちゃんの事…」
「事…?」
悪戯っぽく、でもちょっと安心したように、いちごちゃんは首をちょっとかしげて、私を見つめる。

ああ、もう、なんて!
でも、仕方ない。
誤解されたくないし、それに、こんなに魅力的なんだもん、いかにもラテンの血に反応する人っぽい。
そんな彼女に恋してしまった私も、一蓮托生ってわけだわ、んもう。

地学準備室の入り口ドアには、茶色く日に灼けた鉱物の一覧写真が貼ってあり、外からは見えない。
座ったまま、私は柳の枝みたいにたおやかないちごちゃんの背中を抱き寄せて、一瞬だけキスをした。
すぐに、いちごちゃんも私の背に手を回して、甘い苺の香りを唇に乗せて、お返ししてくる。
ほんとうに、数秒もたたないキスだけれど、それだけで、お互いにわかってしまった。
『これは、一年後、変わらずまた逢うための約束よ』…って。

結局、二人ともお弁当は食べはぐって、重たいバッグのまま、駅へ帰った(お母さん達、ごめんなさい)

「一年経ったら、私、18歳で帰国するんだわね。4月産まれだから。『18歳未満、お断り』の所へも、お出入り自由よ。そしたら、金沢さんをつれて、あっちこっちcita(シータ。スペイン語でデートのこと)へ行っちゃおう。うふふ」
「なぁに、どこ? 18歳未満じゃ行けない所って…」
ほくそえむいちごちゃんに、真顔で私が聞くと
「知りたい? 金沢さんのそういう所、私、可愛くて大好き!」

周りに誰もいないとはいえ、通学路の真ん中でそんな大胆な事を言ういちごちゃんは初めてで、お昼のキスで、私が変えちゃったような気がして、
「知りたくなんか、あ・り・ま・せ・ん!」
あわてたら、私までつい、大声になってしまった。

いやだ、私ったらバカっ。
でも、いちごちゃんが、心から楽しそうに笑って聞いてくれたので、ま、勘弁しとこうか。
本当の素敵な答えは一年後、ってことで、ね。
                             ~いちごボーイ・fin~

いちごボーイ(7)

梅雨らしい校庭の景色を横目に、皆で三々五々集まって、お弁当の包みを広げていた時。

「ちょっと、聞いた!? 山階(やましな)さん、二学期から留学しちゃうんだって!!」

「えーっ!」「嘘でしょ?」「やだーっ!」
陳腐な驚きの台詞を口々に叫ぶクラスメイトの中、素知らぬふりをしながら、きっと、一番驚いていたのは私だったろう。

山階さん、というのは、いちごちゃんの名字。
あと一ヶ月足らずで会えなくなる…というショックが、一つ。
それから、もっと大きなショックは、その事実が私に伝えられていなかった…本人から…と、いうこと。

 (思っていたより、親しくなんか、なかったのかな…私と、いちごちゃん)
そう思うと、目の前のランチョンマットがじわり、とにじんで、赤いギンガムチェックがゆがんだ。
唇を咬んで、こらえようとしても、睫毛を伝うように、ポロポロと涙がひとりでにこぼれて、止まらない。

「え…金沢さん…?」
近い席の誰かの声が聞こえたとき、廊下からいちごちゃんがつかつかと教室に入り、ダンスの時みたいに、私の手を繋いで、連れ出してくれた。
ううん、あの時と違ったのは、衆人環視のもと、私たち二人が堂々とクラスを抜け出した事だった。

今日は、地学準備室。ドアを後ろ手にパタンとしめて、鍵をかけるいちごちゃんの姿は前と同じ。
でも、目の前のいちごちゃんは、留学しちゃうって話で、私はべそかきが収まらなくて。
「聞いちゃった…?」
ちょっと申し訳なさそうな、いちごちゃんの声。
コクン、とかぶりをふるので、私は精一杯。
「…ごめんなさい。…本当は、私の口から金沢さんへ、一番に言わなきゃ…って、そう、思ってた。スペインへ一年間行く話が決まってから、ずっと。心の隅にいつもしまってあったの」
「スペイン? 一年間?!」
「…ええ。あ、聞いてなかった…?」
タヌキみたいに泣きはらした目を、思わず見開いて、もう一度私はコクン。

「ああ、じゃあ、少しは良かったわ。今さっき、職員室へ最終決定の報告に行ったとき、誰か物見高くて信憑性の低いお話好きさんが、覗きにきてたみたいで。でも、金沢さんには、私からちゃんと話せるのね!…よかった」
二人して、古びた背もたれのない木の椅子に並んで座り、話は続く。

「ね…山階さ、いえ、いちごちゃん。どうして、スペインなの?」
思い切って私が、聞きたくてたまらないことをぶつけると、いちごちゃんは私を覗き込むように微笑んで
「うん。わたしね、半年前に目覚めちゃったの。本牧の、叔母のバールで」
「???」
「ここへ推薦合格が決まってから入学までの間、ちょっと家ぐるみで内緒の工作を中学にしてね、横浜の本牧で叔母がきりもりしてるスペイン料理店で、バイトしてたの」
「中学で?!」
「もちろん、年バレしないように、お化粧して、カウンターから外へは出ないように用心してね」

その、いかにもいちごちゃんらしい、悪戯っぽい体験談に、私はすっかり引き込まれた。
「そしたらね、出会っちゃったのよ!…何だと思う?」
私には、ダンスをするいちごちゃんが、すぐに浮かんだ。学校の授業や素質だけではない、美しい原石が磨かれつつ、もうすぐ宝石に形を変えようとするような…
「フラメンコ?」

『Claro!(クラーロ!=スペイン語で「もちろん!」の意)』
にっこり笑うと、いちごちゃんはやおら立ち上がり、制服のボックスプリーツをひょいっとたくし上げると、上履きがハイヒールに変わったかのように、情熱的に踊って見せてくれた。
この間のクールな「剣の舞」とは違う、いちごちゃん曰く『conmovedor(情熱的)』って言われたい、という華やかで熱い、踊りだった。

2011年1月2日日曜日

いちごボーイ(6)

ダンス授業後の一件の後も、特に私といちごちゃんの間柄は、変わらなかった。
…そう、クラス内、校内では。
「おとりまき」が嫉妬丸出しで変な気を起こしては困ると、いちごちゃんが気を遣っていてくれたおかげらしい。

ちょっと変化があったのは、電車通学の行き帰り。
私の姿を認めると、さりげなく近づいてきてくれては、他愛ないおしゃべりをしてくれるようになった。

それが嬉しくて、でも、彼女みたいに器用にはできなくて、私も、英単語や古文の小冊子を手に、いちごちゃんの方へそうっと寄っては、語句の意味を聞く振りをして、話を少しずつするようになった。

「私ね、変わりたいのよ。どうってまだ分からないんだけど、とにかく、今の自分に安穏としているのが嫌」
完璧にしか見えないような居ずまいで、いちごちゃんはつかえを一気にはき出すようにしゃべる。

「…じゃあ、私と入れ替わって…? 勿体ないわ、そんなに綺麗だし頭もいいし、それに…」
言ってから、それは不可能だと改めて思い知らされて、自分で落ち込む私に
「いいわよ。私、金沢さんになら、入れ替わってもいい。落ち着いていて、まじめで、他人にぶれなくて」
「そんな、…買いかぶり過ぎよ、私なんか…」
「そうかな? 少なくとも私は、本心でそう思ってるんだけど」

いつの間にか、季節は青葉と五月雨の頃に移っていた。
先だって返された中間考査では、体育(ダンス)で私にとって小学校以来最高の点がついていて、驚いた。
そして、制服は冬から夏への移行期間。
セーラーから胸当てがなくなり、薄く薄く浅葱色が入った服地に、濃紺の取り外し自由な水兵襟には、このあたりの学生や地域の方々に憧れのまとの、純白のラインが二本。たっぷり布地をとったスカーフは学年別に色分けされ、私といちごちゃんは、一年生の白だった。
夏服も、いちごちゃんのためにデザインされたかのような、清潔で爽やかな色合い。
隠れたおしゃれなのか、標準服のストレートなブラウスのラインよりも、ちょっとダーツを両脇にとって絞り、ただでさえ華奢なウエストラインが、この上なく優美に見える。

「こんなにセーラー服の似合う素敵なひとが、男子扱いされてたなんで…信じられない」
「え? …ありがとう。金沢さん、独り言だったんじゃない? 今の。…でも、嬉しいな」
昇降ドアの長いスチール棒につかまりながら、私の真っ赤な顔をのぞき込んで、いちごちゃんは、バカにしないでにっこり、微笑んでくれた。

…そして、一番変化が大きくて困ってしまったのは、私の心の中の嵐だった。
あの、社会科資料室の一件から、私のいちごちゃんへの思いは、どんどん邪に傾いている。

一瞬の、抱きつかれたときの香り。押しつけられた(故意でじゃないだろうけど)胸の柔らかさ…スリムだと思っていたのに、予想以上のボリュームと形の良さが、私の頭からはなれなくなってしまった。

私は…痩せてるとはとても言えないけど、でも太ってるわけでもないので、胸はいちごちゃんより、サイズ的にはあると、思う。でも、あんなにつんと引き締まって、でも押し返してくるような弾力があって…
『大きければいい、ってもんでも、ないのよねぇ』
お風呂場で、着替えで、一人の寝室で、そんなことばかり考えるようになってしまった。
『ブラで、横を寄せるやつ、買おうかなぁ…』
ふっと口にだしてから、はっと自分のエロ思考に気づき、ぶるぶると首を横に振りまくる。

あー、そして、エロ思考と言えば。
毎晩、いちごちゃんのことを考えないと、私、眠れなくなってしまった。

頭の中で、社会科資料室の事をトレスする。
だけならばともかく、週末で宿題や復習に余裕がある時は、その後を勝手に想像するようになってしまった。
つないだ手と手が、やがて指を絡め合い、腕がゆっくりと上げられ、互いの指に口づける…。
つややかな髪をなで、かぐわしい香りをだきしめるようにかぎ、漆黒のショートヘアにも口づけて…。

そんなこと、実際は度胸がなくってできないのにーっ!
でも、一人きりの妄想の中では、できてしまう。不思議。
…そ、…それで、森鴎外の「雁」を前に読んだ時、中学の保健体育で男子がするようなこと、女の子もそんな昔から、お布団の中で一人でしちゃうんだー…! って、びっくりしたんだけど(罪な本だと思う)

私、誓って言いますけど、いちごちゃんにだけ、初めてそんなエロい感情を抱いたんだけど、でも、してません!!
…だって、私一人の妄想の中でさえ、いちごちゃんを汚したくない、んだもの。
(この誓いがいつまで守れるか、本当の本当はちょっとだけ揺らいでるけど、私、頑張る!まだ高1だし)

こんなバカっぽい事を一人で私がうだうだ考えてる間に、実はいちごちゃんは、もっともっと大きなすごい事を考えていた。
それがクラス中にわかったのは、みんなの夏服がやっと板に付いてきた、7月の始めの事だった。