2011年1月22日土曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の四)

翌朝、ようよう先生の指示した所まで仕上げたお裁縫を抱えて、珠子さんがお教室へ入ろうとすると、
級友の誰も彼もがニコニコと、またクスクスと笑いながら、珠子さんを出迎えた。

「ごきげんよう、珠子さん。良い朝をおめでとうございます」
とか
「珠子さん、素敵なあめのみつかい(=天使のこと)から、贈り物が届いていてよ?」
とか、耳元でささやきながら、ひらひらと蝶々のように皆して、廊下へ出て行ってしまった。

「何の事かしら、いったい…?」
と、自らの机を見ると、木の蓋にこしらえられたその机の上には、朱色の細長い便せんと、朝摘みかと思われる優しいうす桃色のガーベラが一輪。
ドキン、と、心臓がひとつ、大きく跳ねた。
(まさか、お兄様が昨日お話なさっていた事が、今朝、突然に起こるなんて!)

あわてて、荷物を椅子へ置くと、花びらを散らさぬようにそうっとガーベラを机の上へ置き直し、立ったまま珠子さんは朱色の封筒を開く。
中の便せんは真っ白で、そのふた色の対比が目にも鮮やかで、またどこか大人びても感じられた。

 突然のお便り、なにとぞお許し下さいませ。
 いつも放課後にお教室で寂しそうにしている貴女が、気になりまして一筆差し上げました。
 小さな花束のように可愛らしい貴女へ、上級生として何かして差し上げられる事はございましょうか。
 もしお嫌でなかったら、何でも貴女のお好きなお花を一輪、明朝、私の草履箱へお入れ下さいまし。
 乱文、失礼いたします。
                          参年藤組  きぬえ

声に出さずに読んでいたはずなのに、珠子の視線が便せんのしまいで止まった途端、物見高そうに廊下から眺めていた級友達が、ワッとお教室へなだれこんできた。

「どら、見せて頂戴、珠子さん。どなたからのお手紙…?」
「マア素敵、藤組の君からよ! きちんとご署名まであるわ、お戯れじゃなくて、本当のお申し込みね」
「当たり前よ、絹江様がお戯れなぞするはずないじゃないの」
「これは断然、お受けするべきよ、珠子さん。籤引きなら赤玉、文句なしの特一等のお相手だわ!」
「絹江様を籤引きの赤玉になんぞ、例えないで頂戴な!」
「あら怪しい、あなた実は、珠子さんにお手紙が届いたのを、妬いていらっしてるんじゃない?」
「違うわ。おしつこいあなたこそ、もしかして藤組の君を…」

当の珠子さんは、級友達の熱烈な騒ぎを、一歩引いてただぽかぁんと眺めていらっしゃるので精一杯。
(きぬえ…さんって、皆様のお話だと、悪いお方ではないみたい。でも、そんな方が、どうしてわたしなぞ…? わたし、明日、一体どうしたらよろしいのかしら…)
そこへ、礼拝堂の鐘がカラーン、カラーンと響き渡り、皆はそそくさとお教室に並べられた各々の座席に収まっていった。