♪秋の夕日に 照る山もみじ…
そう、真由が歌うと、いつも少し遅れて低い声で
♪秋の夕日に…
と、合わせて歌ってくれるのが、理子だった。
小学校の帰り道、家が近いこともあって、二人はよくこの歌を歌いながら秋のすすきの原を帰った。
時には、リコーダーで音の追いかけっこをして。
そんな時の帰り道は、たいてい高い青空に鰯雲がうかんでいるか、夕焼けがかった色の空。
ランドセルに付けたマスコットの鈴が、歩くたびに揺れてリンリンと鳴る。
(こんなふうに、ずうっと帰れたら、いいのになあ…)
真由は、心の中でこっそり、そう思っていた。
幸い、どちらの家も引っ越すことなく、学区内の中学校に揃って進み、歌こそ歌わないけれど、真由と理子は部活の終わりを待ち合わせて、変わらず一緒に帰った。
歌の代わりに、他愛のない話ばかりおしゃべりして帰ったけれど、それでも、真由には十分幸せな帰り道だった。
(でも、高校になっちゃったら、受験があるから、きっと別々の学校よね…)
と、真由は寂しく思った。
ところが、何と。
お互いの家に一番近い進学校へ、二人とも合格してしまったのだ。
(嘘みたい…!小学校の時から、12年も理子ちゃんと一緒にいられるんだわ!)
親付きで出席した入学式の翌日、どうしてもその思いを我慢できなくなって、帰り道に真由は、理子を誘った。
小学校の時から変わらぬ笑顔で、こっくりとうなずく理子。
学校から家まで歩いて帰るうち、少しずつ同じ高校の生徒は減っていき、やがて二人きりになった。
「…ねえ、理子ちゃん」
「なあに…?」
「あたしたちって、小学校の時から、12年もずうっと一緒に帰ってるのよね?それって、何だかすっごい事だなあ、って思わない?」
一呼吸置いて、理子が言った。
「ううん、全然。私は、これが当たり前だって、思ってるの」
「えっ?!」
真由はびっくりして、変わらず微笑む理子の顔を見つめた。
「…ねえ、真由ちゃん。覚えてる?小学校に行ってた頃、帰り道に『もみじ』の歌を歌ったの」
「覚えてる。…覚えてるわ、もちろん!」
「私、先に歌ってくれる真由ちゃんの後を、低音部で追いかけて歌っていったのよね。…その時ね、思ったの。『ああ、こんなふうに、真由ちゃんの後ろを、何年も何年も、ずっと一緒に歩くことができたら、きっと素敵だろうなあ…』って」
真由は、その静かな声音を聞くうち、自分の頬が少しずつ染まっていくのを感じた。
「…ねえ、理子ちゃん」
「ん…?」
「…もう、うちの学校の生徒の人、いないから、…手、つないで、帰ろ…」
言いながら、真由は、手を伸ばす。
そうっと、理子の指先が触れる。
その時、春なのに、確かに二人の心には、あの日の懐かしい
『もみじ』のメロディーが流れ始めた。
(おわり)