2013年7月27日土曜日

この国はいま暑い。(つぶやき)

ここ数日、バテています。
もしかしてもしかしたら、熱中症の一歩手前かも~。

なので、私の頭の中にいる、白と紺の浴衣姿で団扇を使うすみれさんも、
パソコンに書きかけた、鹿乃子ちゃんと和也くんの初デートも、
ちっともこのブログに現れてまいりません(泣)

ごめん、皆。
そのうち出してあげられるように、頑張るから。

今夜は、テレビで隅田川の花火でも見ながら、気分を変えられるといいなあ。
(花火なので、何となく、今夜のメニューに冷や奴を入れました)

それではー。
皆さんも、暑さや大水や竜巻や、とにかくヘンな気候にはお気をつけ下さい!

2013年7月15日月曜日

極道めずる姫君(9)

障子の向こうに立っているだろう、滝川の次期は、煙草を咥えて灯を点けたようだ。
今では懐かしい、紫煙の香りが辺りに漂う。

「…部屋に、煙草の匂いが付きます。お止め下さいまし」
日本刀を真っ直ぐに構えたまま、すみれは言った。

「無粋な方だな。…ろくにお顔も拝見できないからこそ、貴女の部屋へ自分の残り香を置いていきたかったのに」
「笑止な!」

「まあ、そうおかんむりにならずに。せっかくの美少女との噂も台無しですよ。…いや、『極道めずる姫君』…そう、下の者に呼ばれ、慕われているそうですが…自分では、役不足ですか?」

「それは他人が勝手につけた異名(ふたつな)。お返事申し上げる必要はございません」

「…では、貴女が艶な彫り物を自ら進んで身に纏い、うら若き一生を任侠に捧げるとの噂は?」

実際の立ち位置こそ離れてはいても、ずけずけと、この男は言葉で不作法に上がり込んでくる。
…虫酸が走る。

「…お帰り下さいませ。これ以上、貴殿がそこへお立ちのままなら、青鳳会三代目 蒼 すみれ、怒りに任せて我を忘れ、何をしでかすか、我ながらわかりませぬ!」

恫喝、とは、こういう声のことを指すのだろう。
怒りのあまり、不動明王もかくや、というほど、すみれは全身を怒りで熱く滾らせていた。

可奈子は、目をむいてすみれを見つめる。
初めて、心の底から、自分の仕えている同い年の少女を、怖い…と、思ったから。

「…やれやれ、分かりましたよ。障子も燃え上がりそうな貴女の殺気と、今の自分は戦う気がないですから。ただ、覚えておいて下さい。…貴女をさんざん怒らせた男の名は、『滝川 涼一』…とね」

「忘れましたわ、たった今」

吐き捨てるすみれに、楽しげな笑い声で応えながら、滝川 涼一は廊下を歩いていき、その足音は、だんだん遠くなっていった。
その足音が耳を澄ませても聞こえないのを確かめると、すみれは、日本刀を床の間へ戻し、背後へ抛った懐剣を拾うと鞘に収め、再び博多献上に忍ばせた。

「…まあ、可奈子?」
その途端、すみれは何かに気づいたような表情をし、それから、くっくっと笑い出した。

「ど、どうなされたのです?すみれ様?」
気が緩んで、お心が錯乱でもされたのかと、可奈子はびっくりして傍へ寄る。

「見てごらんなさい。私の、この格好」
すみれは、滝川が来る前と寸分違わぬ、割烹着姿のままだったのだ。

おそらく、とっさに割烹着の裾をまくって手を入れ、懐剣をつかんだのだろう。
そしてそのまま、日本刀を持ち、障子の向こうを見据えながら、じっと構えていたのだ。

「良かったわ、障子を開けられずに済んで…こんな姿、見られたら何を言われるか、分かったもんじゃなくてよ?」
「…で、でも、長いお袖のまま、襷を掛ける暇もなかった事ですし、かえって…よろしかったかも…」
可奈子は、懸命になだめようとする。

「だけどねぇ、青鳳会の三代目が、割烹着姿で…可笑しくないこと?」
さっきまでの張り詰めた空気はどこへやら、すみれは、しばらく小声で笑い続けていた。

(つづく。…って、このお話、考えてれば、いつまでーも続きそうなんですが…)

 

2013年7月14日日曜日

極道めずる姫君(8)

「全く…このところ、普段の手入れの他に、余計なケアが必要になる事が多くて、困ること」
珍しく、ぶつぶつと呟きながら、私服に着替えたすみれは、銃を整備していた。

今日のきものは、一応客人が来ているので、数少ない赤縞の入った唐桟。
これも母譲りの逸品ゆえ、汚さぬよう、割烹着を上につけて作業をしている。

「うふ…」
「?どうしたの、可奈子。私、何か変かしら?」

傍で、昨日すみれが着ていた銘仙を一日ぶりに衣桁から外し、たとう紙に畳んでしまいながら、可奈子は微笑んだ。
「いえ…いつも思うのですが、まだ女子校生のすみれ様が、そんな奥様のような格好をしているのが、何だか、かえってお可愛いらしくて…」

「まあ、からかって。嫌な娘ね?」
返事をしながら、すみれもクスリと笑う。
「…確かにね、いま私がお針仕事でもしているのなら、どこかの奥様にでも見えるでしょうね」

でも、正座したすみれの膝の上には、油が染みこんだ布が幾重にも敷かれ、その上では短銃がいつでも性能を発揮できるよう、磨き込まれていた。

…さすがに、こんな事をしている若奥様めいた十代の娘は、任侠をひとつの道にまで極めさせた国の中にも、何人もいないだろう。


「おやおや、楽しそうですね?」
突然、聞き慣れない男の声が、障子越しに響いた。

もうほぼケアは終わったとはいえ、膝の上の銃を使うことは不利になる。

すみれは、瞬時にそう判断した。

左手で、博多献上の帯にたばさんであった懐剣をスルリと抜き、体の前にかざしながら、音もなく部屋の後ろへ素早く下がる。
床の間へ飾ってあった長刀を右手で持つと、そのまま声のした方へ燃えたぎる視線を当てた。

可奈子自らも、すみれから託されたデリンジャーを胸元から出して、同じ向きに突きつける。
こちらは逆に障子近くへ忍び足で寄り、女主人である三代目の部屋へ一歩も不審者を入れぬよう、身構えた。

(それにしても…)

さっきの、すみれの動きの素早さと、すぐさま変わった表情に、可奈子は今更ながら驚いた。

(あれは…あの動きは、肉食獣が相手を襲うときと同じだわ…敵が一瞬でも動いたら、途端に飛びかかり、喉笛に食らいついて倒してしまうような…何と、お凄い…)

「まあ、お二人とも、そう殺気立たないでください。三代目さんとは、先程ご挨拶申し上げたじゃないですか?」
障子の向こうの男は、ガラス越しにこちらの娘二人を見ているかのように、話しかけてくる。

「…ここは、組とは関係ない、私事(わたくしごと)の建物。貴殿の立ち入る所ではございませぬがゆえ、こちらが驚くのは至極当然。加えて、他人の家を訪ねておきながら、自ら名乗ることもできぬような性根の持ち主に、こちらから何を申しましょうや!」

すみれの、普段より低く恫喝するような声に、例えではなく本当に、障子紙がびりびりと震えた。

「困りましたね。…余程、警戒心がお強い方と見える」

動ぜず話を続けようとする男に、すみれはカッと目を見開き、懐剣を後ろに擲って長刀を本格的に構えた。

(肉食獣よ…美しすぎる、恐ろしい肉食獣…)

可奈子は、デリンジャーの照準を会話から割り出して合わせ続けながら、すみれの妖艶さに、ぞくりと背中を震わせた。

(つづく)

極道めずる姫君(7。健全に戻りました~)

滝川からすみれへのアプローチは、存外早く訪れた。
登校中に組員がさんざんのされた情報を知っているだけに、次期が直接青鳳会を訪れたのだ。

無論、その気などさらさらないすみれには、そんな話は聞かされておらず、いつも通り他の生徒が皆帰るまで理事長室で学習し、迎えに来てくれた自分の組の車に乗って、帰宅した。

「…今日は正直、組員一同、三代目をご自宅へお連れしたくない気持ちなんですよ…」
後部座席で、すみれの隣にいつも座っている若頭が、ぼやくように呟く。

「まあ、貴方がそんなこと言うなんて、珍しいわ。…どうしたの、家で何かあったの?」

「いえね、…滝川の次期が、車を飛ばして、いまウチの組でお嬢さんを待ってるんです」
「え、なんですって? …おじい様ったら、あんなに嫌だって、私、申し上げたのに」
「でしょう?お嬢さん。そうですよねえ?」

すみれの返事に、車内の組員が一斉に色めき立った。

「当然です。私は極道と結婚したと言っていますが、それは青鳳会と結婚したと同じ事。いくらおじい様が若い頃に恩義を受けた相手と言えども、私は他の組にゆく気はございません。…せっかく一生の覚悟を決めて彫っていただいたばかりの龍に、恥をかかせるのと等しい行為」

「お嬢がそう言ってくださると、こちらの若い者も、ホッとしますぜ」
「しかしな…」
若頭は、ぽつりと続ける。

「任侠道は、上の者が白と言えば、黒いもんも白い。黒いと言えば、白いもんも黒い。それで規律が保たれてるもんでさあ。…いくら三代目といえど、初代や二代目の言いつけに、どこまでお背きできるものか…」

「やってみなければ、わからなくてよ。私、何もしないうちからうじうじするの、大嫌いなの」

典雅な物腰には到底似合わない、啖呵にも似た強い口調と迫力に、車中は口をつぐんだ。

青鳳会の門前には、いつも整然と黒塗りの国産車が並び、ガード役の若い組員が無言で、姿勢を崩さぬまま立っている。
今日はその中に、黄色いコルベットのオープンカーが異彩を放って一台停められ、他の車と同様にガード役の組員が立っていた。

先日の朝を思い出し、車から降りる前に、すみれはポーチから自分の短銃を出しておき、サイレンサーと安全装置を外す。
「鞄は、今日は誰かに持って行ってほしいのだけど…いいかしら?弾丸は入ってなくてよ」
「了解です、お嬢さん」

いつものように組員たちに囲まれながら、いざとなれば自分が今まで乗っていた車のドア越しにコルベットを狙う覚悟で、すみれは玉砂利の敷かれた入り口に足を下ろした。

玉砂利の音が、静かすぎる外門に響いた瞬間。
コルベットの横に立っていた見張り役が、すみれ達に向けて銃口を構える。

一瞬早く、銃を持った彼の右手を撃ちぬいたのは、やはりすみれだった。
他の、車をガードしている若い組員達が、素早く交互を見る。

「…大丈夫。死にはしない程度にしてあげておいたから。…次は、手加減する気ないけど」

コルベットの横に倒れ込む男を、冷ややかに上からの目線で眺めながら、すみれは自分の組員たちに囲まれ、屋敷へと入っていく。

「すげ…」

実際にすみれの射撃の腕を見た者は、意外に少ない。
それは彼女が無駄撃ちをしない事と、なかば伝説になっているすみれの射撃の正確さを、なかなか見る機会がないからである。

その意味で行けば、今日、青鳳会の駐車場ですみれの腕前を見た者は、運が良かったろう。
技術に舌を巻き、相手になろうという気は失せ、それぞれの組に戻れば、すみれの武勇伝をDVDの再生よろしく皆に語って聞かせるだろうから。

普段通りに初代と二代目へ帰宅の挨拶に赴くと、見たことのない青年がいた。
さっき見た車とガード役には意外と似合わぬ、まっとうなスーツ姿の二十代半ばほどであろうか。

「…ただいま、戻りました」

すみれは、故意にその青年を無視して、祖父と父に両手をついて報告する。

「…すみれ。お前らしくもない。客人が同席しておるのだぞ。そちらへ先に挨拶するのが筋だろうが」
二代目に促され、すみれは正座のまま畳の上で膝をにじり、初めて見る青年の方へ体を向けた。

「失礼いたしました。青鳳会三代目、蒼 すみれでございます。…黄色のコルベットは、お客人のお車でございますか?」

「あ?…ああ」
自分の名前を聞かれると思っていたその青年は、やや拍子抜けしたように返事をする。

「車の警備をしておりました者が、私に狼藉を働こうといたしましたため、やむなく彼の右手を撃ち抜かせていただきました。ご無礼申し上げます。…では、これにて失礼をば」

「なんと、すみれ、それは事実か」
「はい。でなければ、ドア越しに、私が彼に撃たれていたことでしょう」
「手当は?」
「さあ…。私も、後のことは下の者に任せて、まずはお二人に帰宅のご報告をと思いました故」

さらり、と言い放つすみれは、客人の名前すら尋ねる気などないように、普段通り自室へと戻っていった。

「はねっかえりで…失礼ばかりいたして、申し訳ない、次期どの」
二代目である、すみれの父が恐縮して頭を下げる。

「いや、あれくらい気位が高くて、腕に覚えのある女性のほうが、こちらも口説きがいがあるというもの。…面白くなってきましたよ…」
オーダーメイドのスーツに身を包んだ青年は、勧められた座布団の上で正座しながら、声を上げて笑った。

(つづく)

2013年7月11日木曜日

極道めずる姫君(6・★18禁です。18歳未満さんは、5から7に飛んでもいいようにお話書きますから勘弁!)

すみれの部屋にベッドがあるなら、スプリングが二人の動きにつれ、ぎしぎし…ときしむのだろう。
でも、ここは和室。柔らかな広い布団の上で、すみれと可奈子が戯れ合うのに音はしないはず。

そう思っていたのだが、いざ二人が事に及び始めた時分の事。
カタ、カタカタカタ…。
二人が激しくなるほどに、何かが当たる音が和室に響く。

その正体(?)は、すぐにわかった。
「すみれ様、和箪笥の金具ですわ。お布団が揺れると、床も揺れて、和箪笥の桐に揺れた金具が当たって、音が出てしまっていたんです」

「どうしたものかしら…」
「ご心配ありません。今、金具に巻き付ける小さな座布団のような音消しを、金具の数だけ縫っておりますから…」

今では、紫紺の小さな音消しの布が、金具一つ一つに三角形にくるんで取り付けられ、いくら二人が揺れ合っても、もう箪笥がそれを教えることは、なくなった。

すみれは、うつぶせに布団の上へ横たわり、腰から膝までを高く持ち上げ、可奈子を誘う。
いつもなら、その扇情的な姿に自分も濡れてしまい、すみれを泣かせてしまうくらい感じさせる可奈子なのだが、今日は違う。

「…可奈子…?どうしたの、今夜は…いつもと違って、あまり、してくれないのね…」
「あのう、すみれ様、やはり、今日はまだ、お控えになっておいた方が…」
「体のこと?大丈夫よ。彫り師の先生もお父様も言ってらしたけど、一週間もすれば普段の生活に戻して大丈夫だから、って」

「でも…」
「できあがってみたら、怖くなった?私の刺青」

すみれの言葉に、可奈子は大きく首を横に振った。
「とんでもありません!御立派な昇り龍に下り龍。そして…この太腿の付け根に咲き誇る、百花繚乱の美しい花園…」
そう言いながら、這いずって寝そべる形のすみれの後ろに、可奈子が付いて、すみれの秘密の花園が隠されている双丘を両手でゆっくりと、開く。

ぎりぎりまで、牡丹や桜が彫られていたが、可奈子がこれから攻めてゆく所は、さすがに敏感な所というわけで、絵を彫らずにそのままになっていた。
そのすみれの中心こそが、回りのどんな花の刺青よりも美しい場所。
もう、可奈子の視線と吐息が感じられていて、うっすら濡れ始めていた。

可奈子は、すみれの後ろに自分もよつんばいになって、舌だけですみれの秘花を、そうっとすくい上げるように、愛撫を続ける。

すみれの一番いい場所は、花の上の方についている固い蕾。でも、可奈子だけが、その蕾を大きく膨らませてくれて、そこに隠れている薄い小さなベールを舌先でそっとめくって、奥を舐め取られるようにしていくと、もう、…たまらない。

快感に堪えきれなくなったすみれが、離れの部屋を満たしてゆくように、少しずつ恥ずかしげによがり始めていくのであった。

今日は最後の彫りが完成したので、体が弱っていやしないかと、可奈子はいつもよりすみれの様子を逐一うかがいながら、舌先で、とめどなくあふれ出てくるすみれの花の蜜を掬っていく。

「ああん…可奈子、いいわ…そこよ、そう、そこなの…ああ、すごく…いい…っ」

昼は淑やかなすみれに似合わず、俯せになっていたすみれはいつの間にか四肢を立てて、豊かに膨らんだ胸を揺らし、乳首が微かに敷布へ擦れる気持ちよさも楽しみながら、可奈子の舌技に
よがり声をあげて応えた。

「ね…可奈子?…今夜…ひとつに、なりたいわ…だめ?」
閨の中のすみれは、大胆な言葉を吐く。
「…今夜は、いけません。お体の美しい刺青を休ませて、より綺麗にして差し上げる方が、きょうのすみれ様には必要かと存じます」
可奈子は、看護師のように、きっぱりとした口調で言う。

「まあ、意地悪ね…今夜の可奈子って。じゃ、私が最後に意地悪してあげるわ。私、仰向けになるから、あなたは私の顔の前まで、脚を開いて進んでいらっしゃい。…舐めて、あげる」
「え…っ」
一方的に奉仕される事は、他の行為よりあまりないので、可奈子は真っ赤になってためらった。

「ダメよ。私がさっき、すごく良かったんだから、今度は可奈子が泣く番よ、ね?」
恥ずかしげに、それでも言われたとおりにおずおずと、可奈子はすみれの唇近くに、自分の一番恥ずかしいところを近づけていった。

胸こそ割って彫られているが、二の腕も乳房も、墨と朱の色が肌の奥へと染みこんでいくようで、妖しく美しいすみれの前半分を、可奈子はうっとりとながめる。
そこへ持ってきて、すみれの舌が可奈子の敏感な場所を細やかに舐め続けてくるのだから、もう、可奈子は普段よりも我を忘れて、腰を自分からも動かし、達してしまった。


     

2013年7月7日日曜日

極道めずる姫君(5)

「すみれ、判ったぞ、今朝の騒ぎの理由が」
「えっ」

着替えている間の突然の展開に、さすがのすみれも真っ直ぐに祖父と父を見つめ、我知らず声を上げていた。

「中国地方にな、初代が戦後の闇市を仕切っていた頃、同じように港湾業で荒くれ者を束ね、ちょっと名の知れた男の創った組があるんだ。そこの下っ端が、若気の至りでお前の腕前を探りに来た、と言うことらしい…」

父の言うことを、黙って聞きながら
「それにしても…私は今朝一人、そちらの方を殺めてしまいました。その事が…」
と、すみれは心底すまなそうに言う。

「だが、先に手を出してきたのは向こうだ。お前は何も気にすることはない」
初代組長である祖父が、きっぱりと言い、それで朝の出来事についての話はすんだ。

「でも、どうして私を、そちらの組の方が狙ったのでしょう…?」
すみれは、率直に疑問をぶつけた。

すると、祖父と父がちら、と目配せをし、ややあって、二代目である父が話し出した。

「いや、それがどうも…お前の気っ風と腕前を、試しに来たらしい」
「どうしてですか?私は、そちらの組に何もご迷惑をかけた覚えはございませんが…」

「ありていに言えばな、見合い、だよ。すみれ。向こうの組…滝川一家が、次期の女房を捜す年頃になってな、そこで古い知己のわしと、その孫娘を思い出した、というわけだ」
初代の言葉に、すみれは驚いて、言葉もなかった。

「どうだ、すみれよ。お前も高校に三年も通い、条例に背くことなく、つい先日自分の意思で刺青を彫った。極道に骨を埋める覚悟なら、一度、滝川の次期組長に会ってみる、というのは…」

「せっかくですが…お断りいたします」
すみれは、きっぱりとはねつけた。

「何故?悪くない話だと、わしは思うが。東西の勢力構図も変わり、一層素人さんに迷惑を掛けることなく、裏稼業に専念できるというもの」

「…私は、確かに極道と結婚した覚悟です。その思いに変わりはありません。しかし、それはこの青鳳会の三代目となり、組員(こども)達を守っていくからなのです。…ですから、他の組へ嫁ぐ事なぞ、一切考えておりません。この組の存続を考えていくなら、養子を取っても構いません」

すみれの黒目がちの瞳に、光が宿る。
この瞳は、出入りに赴く時や、相手に啖呵を切る時、そして表社会を平穏なままに守るため、やむなく銃や日本刀を敵の組員に向ける時のものである。
普段は、こんな瞳は、全くしない。

初代も二代目も、それを十分承知していたので、この場はこれ以上の話をやめた。

「…だが、考えておいてくれよ、すみれ。…それから、今朝の立ち回り、滝川の者達が想像以上のものだと、度肝を抜いていたそうだぞ」

「…それほどのことは、いたしておりません」
すみれが、静かな口調と瞳に戻り、返事をする。
「帰宅早々、呼び出して悪かったな。お前の好きな、銃の手入れの時間も減らしてしまった」
「恐れ入ります」

すみれが正座姿で頭を下げる前を、祖父と父は何やら話し込みながら歩いて通り過ぎていった。

実は。
すみれには、もう一つ、この青鳳会を出る事をためらう理由があった。
小さな頃から姉妹のように育ち、今ではすみれの身の回り係として、一切を取り仕切っている少女、可奈子がいる。
いつの間にか、すみれと可奈子は、人目を忍ぶ禁断の関係を結ぶようになってしまっていたのだった。

その夜も、彫り師の先生や理事長先生の禁を破るぎりぎりのラインで、すみれは離れの自室に可奈子を呼び、いつもよりやや控えめながら、互いの体に何も纏わず、睦み合い始めていた。

(つづく。男とは結婚しないけど百合、ってずるいかな~?)

2013年7月6日土曜日

極道めずる姫君(4)

下校時刻も過ぎ、辺りがすっかり暗くなった頃、すみれは理事長室で行っていた復習を切り上げ、礼を言って部屋を出た。

窓のサッシ側を通らぬように、教室側に寄って歩くのが癖になっている。
さすがに、学校のガラスを全て防弾ガラスにするわけには、いかないので。

ロッカールームで鞄の奥に仕舞ったキーを取り出し、ポーチごと短銃を取り出す。
「ふう…」
毎日の事ながら、すみれがほっとする瞬間だ。

生まれた家のゆえに、銃で自らを守ることが当たり前となっていた。
なので、すみれにとってこのポーチの中身は、自分の一部であり、信頼のおける存在なのだ。

ポーチを、鞄に入れる。
朝の事を考え、今日は鞄の蓋のすぐ下に忍ばせて、昇降口を出た。

いつも通りに、家の…組の若い者が、車で迎えに来てくれている。
素早く、飛び込むように、すみれは後部座席に乗り込んだ。

「…ありがとう、いつも毎日。…朝、あんな事があったけれど…組の誰かに、何か、変わりはなくって?」
声を掛けられた助手席の若い者は、辺りを警戒するように、前方を見つめながら
「お嬢さん、こちらこそご心配ありがとう存じます。…それが…」

「どうしたの?何かあったの?」
「…いや、その逆なんですよ。朝の始末をして以来、どの組もどの鉄砲玉も、動く気配がないんです」
「え…?」
「それじゃ、一体今朝のアヤつけは何だったんだ、って…昼中、組でも持ちきりでした」
「まあ」

「組長だけでなく、今回は御前様まで、それぞれ交友のある組に問い合わせなさっていたようなんですが…どうにも…はあ」
「まあ、おじいさままで?余程、珍しい事なのですね…」

そんな情報を聞いているうち、高級車は、青鳳会の広々とした玄関前の駐車場を通り、茅葺きの外玄関の門へ横付けされた。
車は、朝と同じ色で気取られぬよう、帰りは白の物に変えられている。

助手席の組員が急いで車外へ出て、他に同乗していた組員達も、運転手を残してすみれの降りるドア前に立ち、囲むようにして守る。運転手は、不測の事態にはすみれを乗せ、逃げるために、あえて降りずに周囲へと目を光らせていた。

「ありがとう…皆」
朝、銃で頬のすぐ横を撃たれそうになったとは思えないほど、おっとりと、すみれは微笑む。そうして、運転手にも目配せで礼を伝えると、黒の高級スーツに身を包んだ男達に囲まれたまま、自宅へと続く門をくぐっていった。

「くーっ、青鳳会の三代目さんは、いつ見ても超マブで、すげえいいよなあ」
「俺らの組にも、ああいうお嬢様がいたら、俺、いつでも鉄砲玉になるんだけどよぅ」
青鳳会へ客として招かれた親分や幹部を待つ、他の組員達は、見とれながら呟いた。

「おじい様、お父様。ただ今、すみれ戻りました。…着替えさせて頂いてから、再びお目見えさせていただいて、よろしいでしょうか?」
普段通りに、20畳はありそうな和室で、すみれは正座して帰宅の挨拶をした。

「怪我は、なかったのか?」
父である二代目の問いに
「はい、おかげさまで、何も…」
と、すみれが頭を下げたまま答えると、
「理事長からも、朝のうちに話を聞いとる。ま、この辺りの地回りなら、男勝りのお前に本気で銃を向けてくる馬鹿者など、いないだろうて」
はは…と、祖父である青鳳会初代が、大笑いした。

そこで、初めてすみれも顔を上げ、
「まあ、おじい様ったら…」
と、孫らしく頬をぷっと膨らませてみせた。

祖父は、一人きりの孫…他にも何人かいたが、みな抗争で命を落とし、ずば抜けた能力で生き抜いている…のすみれを、溺愛に近いような可愛がり方をしている。だから、すみれも初代には、少々甘える方が喜んでくれることを知っていて、そんな仕草をしてみせたのだった。

「では、失礼いたします…」
そうすみれは挨拶して、自室へ戻る。制服をハンガーに吊し、ブラシをかけると、部屋の片隅にある桐製の和箪笥を開け、縞のお召を着ると、朱に近い赤の花を散らして染めた名古屋帯を締めた。

別に、家が任侠道を生業としているからではない。
自らも毎日和服を着ていた母が、小さい頃から毎日着付けてくれていた。
そのうち自分でも着付けを覚え、母が病を得て程なく亡くなってからは、もうすっかり一人で和服に着替え、自宅で過ごすことに慣れてしまったのだった。

(朝、久しぶりに銃を使ったのだったわ…。学校前での出来事は、事実の報告を手短にすませる程度にして、銃をしっかり整備しておかなくちゃ。また、近々使わないとも限らないし…)

半襟と揃いの、うっすらと紅色がかった足袋の音も静かに、すみれは再び広間に戻った。
しかし、そこで聞かされた話は、すみれにとって、すぐに銃の手入れを許してくれないような、思いがけない話であった。

(つづく…久しぶりに書けたよ~ん)

2013年7月2日火曜日

マイペース。

ツイッターをご覧の方にはお分かりかと存じますが、
私、ただいま情緒不安定状態にあります。

どのくらいかというと、今日、仕事を休んで、医者に行ってきたくらいの程度です。
久々だな、こんな落ちるの…
とほほ。

なので、すみれさんのお話を書きたいのはやまやまなのですが、
マイペースでいかせてください。

それでも嬉しかったのは、国内外の方が閲覧に来てくださってたこと。
わーん、ありがとうございますー。

その頃私、家で布団から出られないで、ぐったりしてましたけど…

あ、今回の百合要素は、理事長先生とすみれさんではありません(笑)
そのうち登場願いますので、気長~にお待ち下さい。

そんでは。
ツイッターなさってる方は「上野なぎさ」で検索なさってくださいねー。
相変わらず、愚痴こぼしてますが(苦笑)

あー、しかしスマホよりキーボードの方が百倍打ちやすくて嬉しいなあ。