2011年2月15日火曜日

か・み・な・り。(1)

「行くよ、梨奈ちゃん。ちゃんと手つないでてっ!1,2,3,go!」
「えええっ、実果ちゃあん、ホントに入っちゃうのぉ?」
「アンタねー、誰のせいだとおもってんのよ!」
見るから~に女子高生の二人がきゃいのきゃいの騒いでいるのは、雷雨激しい都心のとある街。
の。
通称、ラブホ。正式名称、ラブホテルの真ん前である。

事の発端は、まあ、たわいもないこと。
休日に待ち合わせて、実果と梨奈の二人は、親友同士のお出かけ~というのは偽装で、本当はデート~に行くことになった。

嬉しくって、服にも気合いが入る。

黒いストレートヘアを肩にかからない程度にカットした実果は、毛先をちょっと内巻きにして、デニムのキャスケットをかぶる。
服装は、レディース仕様のライダースの下にフレンチカラーのボーダーのカットソー、ボトムは帽子とお揃いのデニムのスキニーパンツ、ハイカットのカラフルなスニーカー。
芸能人で言えば、テクノで人気のあの女の子3人アイドル、っぽい雰囲気。

一方、学校でもトレードマークのツインテールなやや栗色の髪型の梨奈は、パステルピンクのカーデの下に、白地に大きな赤いタータンチェックのリボンとフリルのカットソー。ボトムはレイヤードのこれまたタータンのミニスカートに、黒いニーハイを履いて絶対領域もばっちし、赤いスエードのくしゅくしゅブーツでまとめてる。
これはもう、あの巨大アイドル集団の一員になって投票されても、一部のマニアックなヲタ男子に熱狂的支持をうけそうな勢いのルックス。

そんな二人が、いつもより多いお小遣いを持って、新しいお洋服を買いに出たとき、事件は勃発した。
ピカッ。
ゴロゴロゴロゴロ。
天気予報にもなかった、突然の雷雨が空から街中を急に襲ってきた。
「きゃーん!!」
いきなり、実果の首っ玉に、梨奈が飛びついてきた。
「やんやんやだーん、梨奈、かみなりだいっきらいなのーっ!!」
可愛いルックスそのままに、梨奈は自分を名前呼びする。

「そらま、好きで踊り出しちゃうヤツって聞いたことがないけどさ…。じゃ、どこか避難しよっか?地下とか?」
「うんっ。梨奈、実果ちゃんの行くとこなら、どこでもいくーっ!」
この台詞が後々の複線になってしまうともしらず、逃げたい一心で梨奈はうなずいた。

しかしだ。
デパ地下に入ってみれば、同じように雨宿りの客で大入り満員。
「はいはいはい、嬢ちゃん方、やすいよやすいよーーーぃ!」
「ちょっと、そこの方、お並びでないなら、どいてくださる?ここの物産展、今日までなのよ」
あまりに雑然としすぎるその場の雰囲気に、二人はうんざり。
こういう所に限って、パーラーやカフェもないのだ。

「どこか、上に上がってファミレスかカフェでも入る?」
「いやだーん、それじゃ窓から雷、見えちゃうじゃなーいっ!」
そらそうだ。
目の前の可愛いヲタエサを、外の景色が見えないところで落ち着かせるにはどうしたらいいか…?

実果の頭に、ひとつ、場所が浮かんだ。
とても大胆だけど、とても行ってみたいところ。
今日の梨奈を一目見てから、密かに心の隅っこに思っていたこと。
(梨奈ちゃん、120パーヤバ可愛い…っ。男じゃない私でも、ちょっとどーにかしちゃいたい…っ)

もしかして、この雷雨は、天恵かも知れない。
聞き手をぎゅっとグーにして、実果は提案した、思い切って。
「梨奈ちゃん、とっておきの場所があるよ。窓が無くって、音も聞こえないトコ。」
「ええっ、そんな夢みたいなトコ、あるの!?」
夢みたい…じーんと、その言葉を反芻しながら、もう一つ、実果は決め台詞。
「梨奈ちゃん、私が行くトコなら、どこでも行く、って言ったよね?」
「うん。言ったわ。だって梨奈、実果ちゃんに嘘付いたことなんてないもん」

神様、じゃなくて雷様、ありがとう。
「じゃ、行くよ。地下道通るから、駅前まで戻るの我慢してね」
「いいよ。でも…ねえ実果ちゃん、これから行く夢みたいなトコって、どこ?」
「知りたい?」
黙って、コクンとうなずく梨奈。もーっ、可愛いっ。
「あのね。…ら・ぶ・ほ。」
「えええええーーーーっ!?」
「私も話で聞いただけだけど、中に入っちゃえば、昼間だか夜だかわかんなくなっちゃう位だって。雷なんかへっちゃらよ、きっと。さ、行こっ!」

話しながら、実果は自分の頬がぐんぐん熱くなっていくのに気づいた。
だから、早くごまかしたくて、梨奈の手をぐいっとつかむと、小走りに地下道を駅方面に走り始めた。