あれは、彼氏のいない私の、幻だったのかな…。
そう思い始めた、5日目ごろ。
帰り支度をしている私の携帯に、見覚えのある名前でメールが入っていた。
どきん、とする。
階段の踊り場へ、携帯を握って走り、メールを開いた。
『いま、お仕事場の近くへ、二人で来ています。お会いするのに、ご都合の良いお店を返信して下さい。待っています。あおい・はづき』
来ちゃった。
ホントにあの二人、私にメールよこしたわ。
うわ、どうしよう…
と、心の中で叫びながら、私の指は勝手に携帯のキーを打ち、会社から少し離れたファミレスの名前と場所を教えていた。
「今日、祝日前だから、メールしてもいいのかなって…明日、出勤ですか?」
「あ、ううん。うちの部署、カレンダー通りの勤務態勢だから」
「…よかった。な、葵。…こいつ、毎日、いつメールするか…それしか俺に話、しなくて」
へえ…葉月って、こんなにしゃべる方だったっけ。
「う、うっさいな。せっついてきたのは、お前の方が多かったと思うけど?俺は」
反対に、初めて会った時より、葵はなんだか恥ずかしそう。照れてるっぽい。
まあ、照れるよね。
私だって、アイスティーを飲みながら、実はすごく緊張してるんだから。
だって。
…この間の約束だと、今日は、いよいよ二人が、私の、中に入ってくる日…なんだもの。
「ねえ…この前の時、コンビニで買ったあれとあれ、学校へ持って行ったの?」
「はい。今日辺りどうかなぁって、二人で分担して、隠し持って来ました」
「持ち物検査とか、ないの?」
「ほとんど、ないです」
「まあ…あったら、あったで…仕方ない、って、いうか」
うーん、大胆な子たちめ。
「えーと、あの…ね、そのさ…、そんなにリスク負ってまで、私と、したいの?」
我ながら何つー質問だっ、と思いつつ聞くと、二人とも揃ってぶんぶん頷いた。
「…どこが、いいの?…分からないわ、私自身の事なのに…」
葵が、真っ先に言う。
「だって、美郷さん、身体のラインがすごく薄くて、ほっとけない感じで、一人で文庫本読んでたりすると、声をかけたくてたまらなくなって…」
後を継ぐように、葉月も話す。
「後ろや横から…見てて、細いのに、すごくスタイル、いいなって…でも、全然ひけらかしてなくて、磨く前の宝石みたい、だな…って、葵と、いつも、言ってて…」
そんな風に言われたのは初めてで、私は、面食らってしまった。
「地味」「当たり障りない」「不快ではないけど、存在感も薄い」「フツー」…くらいしか、言われたことがなかったから。
「…私、…スタイル、いいの…?」
おそるおそる確認すると、また二人はぶんぶん頷く。
「この前、ホテルに行ったとき、確信しました!」
「電車で…想像してた、以上だ、って」
な、なんか、ストーカーっぽい匂いがするけど、でも、まあ、悪い気はしないか。
「あ、あの…だから…、今日も、美郷さん、見せて、ほしいな…って…」
「うわ、葉月、お前本当に今日は口数、多いな!いつもよりターボ入ってるぞ」
…同感です。
何だか、今日の先発投手は、葉月で決まり、みたい…。
休み前で、その手のホテルはいつにも増して満室ネオンが鮮やかに輝いてる。
結局、私が電話で問い合わせたら空いてる部屋があるというので、初めての時と同じホテルに、私たちは入った。
シャワーを浴びたり、ガウンをまとったり…二度目でも、やっぱり、慣れない。
それに…今夜は、この後が、違うんだもの…。
二人の話を聞くともなく聞いてると、やっぱり、葉月が先、みたい。
内緒だけど、葵が先の時より、ちょっと、こわい…気がする。
だって、葉月は、無口だし、葵より体格がしっかりしてる分、…強引そう、というか、もっと言っちゃうと…い、痛いんじゃないかしら、なんて、勝手に想像してしまって。
ごめんね、葉月。
今日、いつもより饒舌なのも、きっと、葉月の方が、意識しちゃってる、から…だよね?
コンビニの茶色い紙袋から、中に入った二つの箱を取り出したのは、やっぱり、葉月。
「…今夜、その…葵と、二人とも、できたら…いいんだけど、そこまでいけるか、美郷さんのこと、まだ、わからないから。だから…俺、から。で、厳しかったら、葵は…この次にって、二人で相談して…」
つ…次も、あるんだ…。
驚きよりも、私の気持ちの中には、どこかホッとしたものが混ざっていた。
こくん、と私が頭を下げる。
それを合図にしたかのように、葉月は、箱を開け始めた。
避妊具の入っている方の箱は、そうっと蓋を取り、一回分を丁寧に破る。
反対に、潤滑剤の入っている方の箱は、思い切りぞんざいに破き、ダストボックスへ投げた。
(つづく。すいません、いい所で!続きは下書きしてありますんで、できるだけすぐ!)