2012年9月8日土曜日

エンゲージ・その後(3)

慕い合う二人にとって、夜はいくらあっても短い。
それからいくらも経たずに、次の間の寝床で、二人は素肌に布団だけ羽織った姿で、話をしていた。
布団の周りには、さっきまで二人の着ていた着物が脱ぎ散らかされている。

「会いたかった…鹿乃子」
「私も…。何日も離れていなかったはずなのに、もうずっとお会いしていないようで…」
「もう、すぐにでも愛し合いたい。…声、大丈夫?」
「…私、そんなにいつも、大きな声なのですか?」
「ああ…まあ、他と比べようがないけど、かなり…だと、思うが」
「いやだ…。ねえ、和也様、もし私が大きな声を出しそうだと思われたら、教えて下さる?」
「…自信ないな。だって、そういう時は、俺も夢中で分からないだろう?」
「ああ、もう…」

夢中で馬を駆ってきた時と比べ、今、胸の中にいる鹿乃子は、恥ずかしがり屋でおとなしい。
だんだん、愛し合う意味と喜びとが分かってきたのだろうか、と考えると、和也も妙に気恥ずかしくなった。

なれば、その夜は、しっぽりと。
互いに声を忍びつつ、恥じらいながら、二人は、甘く濡れた。

「今度は、やっぱり家の外がいいな。どうも気を遣ってしまって、落ち着かないや」
夜明けに、着流しを羽織りながら和也が言うと、鹿乃子も頬を染めてうつむき、こくん、とうなずく。
「それに先日、ある物が手に入って、早くお前に試してやりたい」
「?何ですの、それ?」
鹿乃子は、目をまん丸にして尋ねる。
「次の機会のお楽しみだよ。それまで秘密だ」
「何なのでしょうか…」

実は、それは媚薬を含んだ潤滑剤だった。
鹿乃子が可愛くて仕方なく、もっと乱れるさまを見たいと思って、和也がさる筋から手に入れたものだった。
それに、正直、和也も限界に来ている。
可愛いエンゲージの相手に、最後の一線を越えてはならぬ、というのはなかなか酷な話で、成年を過ぎた和也のこと、無論、処理の仕方は心得ていた。
だが、最近はそれでは追いつかない。
その際にも、何か手助けがほしいと思っていた所だったのだ。
おのずから試してみて、害がないようなら、鹿乃子にも試してみようと目論んでいた。

(つづく。次回は堅めのお話ですよ)