2012年7月15日日曜日

「お集まり」(4)

「すみません、柚華子さま。ちょっと、お玄関先で取り紛れておりまして…」
鹿乃子の言葉を遮るように、
「言い訳は結構。もう皆様お揃いでいらっしゃいましてよ。さっさといらして下さる?」
つん、ときびすを返すと、柚華子は足首ほどの丈のドレスを翻して、サロン室へと向かった。

住まいと同じく、蒼宮家の人々は洋装を好む。
追いかけながら、鹿乃子はつい
「柚華子さま、今日はご家名と同じく蒼のどれすでいらっしゃるのですね。とても、白いお肌に映えて、お似ましでいらっしゃいますわ」
と、思ったままため息混じりで話しかけていた。

「…そ、そんな事を言って、機嫌を取ろうとでも思っているのなら、大間違いよ!」
後ろ向きなので鹿乃子には見えないが、うっすらと頬を染めながら、柚華子は返した。
「機嫌だなんて、そんな…」

そこまでで会話は途切れ、脂粉の香りでむせかえるようなサロン室が、二人を出迎える。
「まあまあ、やっと鹿乃子さんお着きよ。あっちで引っかかり、こっちで引っかかり…相変わらず、あなたって四神家のお転婆さんねえ」
「いつもは迎えになぞ出ない、柚華子さんを部屋の外まで行かせるなんて、ねえ」
ほほほほ、と、楽しいのか馬鹿にしているのか分からない笑い声が、降ってくる。
この笑い声も、鹿乃子が「お集まり」を毛嫌いしている理由の一つである。

「さあさあ、皆様お静まりなさいませ。本日の「お集まり」には、白宮 蕗子さまがお久しゅうにおいでになりましてよ?」
誰かが扇をパンパン、と叩き、そう告げると、サロン室は一斉にどよめいた。
もちろん、鹿乃子と柚華子もだ。

「柚華子さんが、お呼びになったの?だとしたら、大した腕こきでいらっしゃるわね」
「そんなわけ、ないじゃないの!だとしたら、こんなに驚いてると思う?」

「これこれ、女学校の一年生さん方。仲良くおしゃべりなぞしていてはいけませんわよ。」

その声に、二人して
「仲良くなんか、ございません!!」

そう、鹿乃子にとって「お集まり」が嫌な理由の大きな一つは、同じ年の柚華子が、何かしらに付け張り合ったり絡んできたりすること、それがうっとうしくて仕方ないからなのである。

柚華子にとっても、そうなのかどうなのか、それは言葉だけでは分からない事だけれど。

(つづく)