「私…榎本さんが女の人を欲しくなって、でも相手の人が見つからない時、呼んでくれれば、会うわ…いつでも。それじゃ、だめ…?」
「お互い、変則的だけど、一応人妻どうしだよ。今みたいに、ベッドを離れる時、きっと辛い思いを味わうと思う。そのたび。…それでも、いいの…?」
「…いいの。私、ろくに友達もいないし、森の実家にも、お盆やお彼岸以外は、しばらく足が遠のいているし」
森さんは、腹をくくった様子だった。
好きな相手にそこまで言われてしまえば、据え膳食わぬ榎本さんでもない。
「悪い女だね、あたし達って…」
「旦那様は、大丈夫?」
「ん…相方はきっと、それなりに彼氏を作ってる。HIV検査もお互いしてるし、大丈夫だと思うよ。よほど日常生活に支障をきたさない限り、相互不干渉を約束してるから」
部屋のソファにガウンとショーツ姿で勢いよく座り込む榎本さんに、森さんはもう一度、頼んでみる。
「お願い…今夜は、一緒に眠ってちょうだい…? 榎本さん、だめ…?」
「ここまでお互い白状しといて、だめ、とは言えないでしょ?」
榎本さんは、ほんの少しだけ困った顔をして、そのあと、微笑んだ。
森さんの声が弾む。
「ほんと?! 嬉しい。…一緒に、眠ってくれるのね? じゃあ、来て…?」
「さっきから言ってるでしょ、そんな可愛い誘い方すると、変な男にひっかかっちゃうってば」
「榎本さんだったら、ひっかかってくれてもいいわ?」
「もう…森さんてば、おばかさん。そんなにたらしだなんて、あたし、思ってなかった!」
「ひどいわ、そんな言い方して」
「だってさ…」
ベッドに潜り込んで、榎本さんは、森さんの耳元でそっと囁く。
「…さっきから、あたし、また森さんの事、可愛がりたくなってきちゃったんだもん」
「いいわ。…して…」
ダブルベッドの毛布がしばらく、二人を呑み込んでもそもそする。
その後、今夜二度目の、スプリングがきしむ音がベッドから聞こえてきた。
(おわり…って、終わっちゃっていいんでしょうか、この二人…?…いっか。)