2013年3月20日水曜日

女子会ふたり。(7)

予想外の、同窓会になってしまった。
いや、もう今は榎本さんと森さんの二人だけだから、女子会というべきか。

8年も男性と交渉してないという未亡人と、素人さんの女性とは行為に及んでいない、偽装結婚中の同性愛者。

その二人が15年ぶりの夜に出会って、ホテルの部屋を取るというのだから、目的は何をか言わんや。

幸い、この瀟洒なホテルにはかろうじて空室が残っており、そこを押さえることができた。

「で、あのう…お客様、大変申し訳ないのですが、シングルのお部屋でしたら複数ご用意出来ますが、あとは、ダブルルームが一室、残っているのみでして…いかが、いたしましょう?」

「ダブルで、お願いします。今夜は久しぶりの同窓会で、ゆっくり旧交を温めたいので」

榎本さんは、さらりと言ってのける。
別に、これっぽっちも嘘はついていないのだから。

森さんは、終始うつむき加減で、握ったままのハンカチを、弄んでいた。

「…勝手に、ルームチャージして、…怒った?」
時計の針が動いているように階数を知らせる、クラシックなエレベーターの中で、榎本さんは小声で問う。

「…ばか」
森さんは、ジャケットの裾の代わりに、榎本さんの手の甲を、軽く、つねった。

(8年も、相手なしで我慢してたんだもんな…。今夜は、その分、可愛い姿を見せてもらおう)

榎本さんは、頭の中でシミュレーションする。

まだ、森さんがこれだけ色気と可愛い気を残しているということは、一人で、してるのだろう。
たぶん。

(なら、一人で満足できてない事を、今夜、あたしがしてあげればいいわけだ…)

だいたい、想像はつく。

なぜなら、榎本さん自身も、そうしょっちゅうプロのお姐さん方と遊ぶ資金はなく、一人で事に及ぶ場合は多々、あるから。

そこまで考えた時、オルゴールのような音がチン…と一音聞こえて、目の前のドアが開いた。

互いにシャワーを使ってガウン姿になった後、森さんは、また思い詰めたような顔をして、広いシーツの上に腰掛けた。

「あのね、あの…榎本さん。先に、言っておいた方がいい、と思うから、言うんだけれど…。私、主人が亡くなるまでは、夜のことはね、いつも、私から言い出していたの…。彼が仕事で疲れていない限り、毎晩でも、したくなってしまって…お休みの日は、一日中カーテンを閉めて、ベッドから出られなくなる時も、しょっちゅう、あったの…。そんな、私だけど、いいの…?」

榎本さんは、恥ずかしそうに打ち明ける森さんの顔を覗き込んで、返事をした。

「森さん? そーいうのを『火に油を注ぐ』って言うの、わかる?…まったく、8年もそんな可愛いまんまでいりゃ、他の男が放っておくわけないじゃん。…それより、指輪、お互いに外そう、今だけは。それから後は、あたしが、あなたの8年間をこのベッドの中で埋めてあげる、から」

森さんは、顔を上げて、こくん、とうなずく。
頬を桃のように染めながら。

結婚式の時、二人は、お互い顔も知らない男と、指輪をはめ合い、永遠を誓った。

今夜、榎本さんと森さんは、互いの指輪を外し合い、誰にも届かない闇の中へ飛び込んでいく。
いや、果たして飛び込んでいく先は、闇なのか、それとも快楽の渦なのか?

一人では、絶対経験できないこと…それは、舌を使われて極みに達してしまう事だろう、榎本さんは、そう踏んだ。

そして、作戦通りに事を運んでゆく。

果たして、森さんは恥ずかしく泣きじゃくりながら、榎本さんに全てをゆだねて、悦びを堪能した。

「いい、いいわ…ああ、お願い、榎本さん…もっと、もっとよ…ね、すごい…っ!」

その可愛くてたまらない乱れように、榎本さんも、同じように濡れた。
中学時代から忘れられなかった相手が、今、自分の前にこんな姿を晒しているのだもの。

同性を愛さない森さんに、同じ行為を求めるつもりもない。

それでも、攻めて、見ているだけで、榎本さんも一緒に昇り詰める予感がしてきた。

(やっば…あたしって、そんなプラトニックな部分、まだ残ってたの?)

でも、それは、現実になった。

二人分の声がクラシックな部屋に響いた後、しばらく二人は、毛布にくるまってうつうつと夢の残り香を楽しんだ。

男の人にはきっとわからない、女だけが行為の後に味わえる、至福の甘いひととき。

「ね…森さん?」
さっきまでとはうって変わった、小さな声で、榎本さんは訪ねる。

(つづく ↓ おまけ)

すいません…「★18禁」を前提にしてないで書き始めたので、濡れ場は最小限の表現で…。
その代わり、このお話に年齢の縛りはございません。お好きならばご自由に。

予定は…うーん、もう一回きわどい場面を入れて(希望)…あと2回くらい、かな…このお話。