すると。
「あら…、倉上(くらがみ)さん?倉上 知華子さんでしょう…?」
声を先にかけてきたのは、彩名のほう。
後ろ姿の久美子の肩越しに、首をかすかに傾け、知華子に向かって微笑みかけた。
何と返したらいいのか、知華子はとっさに思いつかず、ただ、微笑んでうなずく。
久美子と短く別れの言葉を交わした彩名のほうから、ちょこちょこっと駆け寄ってきてくれた。
「懐かしいわ、知華子さん。変わっていないのね…今もスタイル、良くって。髪の毛も真っ直ぐで、中学の時と同じ。綺麗で、私、ずっとうらやましかったのよ…」
15年ぶりのお世辞だと言うことを差し引いても、彩名にそう言われるのは、とても嬉しい。
「彩名さんも、結婚してるのね…私と、同じ」
うつむきがちに、知華子は彩名の左薬指を見つめて言った。
「…ええと…、この指輪の事ね…?ちょっと、話すと長くなるから…ここでは、内緒」
「え?」
知華子には、彩名の返事の意味が分からなかった。
自分と同じように、結婚して、子供がいるかいないかの立ち位置にいると思いこんでいたから。
「知華子さんのリング、素敵じゃない?ダイヤが入ってる結婚指輪なんて、かなりの旦那様とご一緒なのね?」
「とんでもない、こーんな小さいの…埋まってて、あるかないか、分からない程度だもの。彩名さんこそ、プラチナでしょ?それ」
話しているうち、二人は、同じ頃にはっと気がついた。
「いやだ、私たちって、お互い旧姓で呼び合ってる…つい、懐かしくって。彩名さんは、今、何て名字になったの?」
「森(もり)、よ。森 彩名…」
「わあ、何だかロマンチックな感じ」
「そんなことないわ、全然。知華子さんは、何て?」
「私? 榎本(えのもと)知華子っていうの」
「榎本さん…お名前に、良く合ってる。あなたの名字の方が、素敵よ」
「名字が変わった、ってだけ。中身は相変わらず、15の反抗期のまんまだもの」
「あら、それは私も同じよ。特にこういう同窓会に来て、案外みんな変わってないのね、って感じたら、面白くなっちゃったわ」
ふふ…と、二人は同感の笑みを交わす。
「はーい、そろそろお開きですんでー、記念写真撮りまーす。先生方を囲んで撮りますからぁ、こっち、集まってくださーい」
昔から修学旅行の時に仕切り役だった数人の男子が声をはり上げ、それに応えるように、宴会場に散らばった円形テーブルのあちらこちらから、ゆるゆると懐かしい顔が寄り添い、集団に変わっていった。
(つづく)