恩師をお見送りし、とりあえず…で、一次会はお開きになった。
水商売のお店をきりもりしている同級生の所へ行って、飲み直そう、という話になるグループ。
また、いわゆるお定まりの「同窓会で焼けぼっくいに火がつく」輩もぼちぼちいたり。
三々五々、会場の外へ出てから皆は散り始めていった。
「ねえ、知華子。久しぶりだしさ、カラオケでも行かない?」
気づいたら、むかし近所に住んでいた子が、すぐそばに立っていて、誘ってきた。
「えっ、あ…うーん、やっぱ、やめとく」
「何で? 誰かと先約でもあるのー?」
「ん、まあ、ね。森さんと話してるうちに、一次会お開きになっちゃったから、そういうことで…」
本当は、もっと森さんと話をしたい。
知らなかった、お互いの15年の間の、とりとめのない事。
指輪の話を振ったときの、ちょっと意味深長な態度をとった理由。
少し離れた駐車場では、森さんの声が聞こえてきた。
「ごめんね、さっき、榎本さんとお話していて、まだ途中なの。だから…」
「あら、じゃあ一緒にこっちのファミレス、誘えばいいのに」
「それは、また、今度にでもね。それじゃ…」
なお、しつこそうにしている元クラスメイト(よく知らん女だが)から森さんを引き離しに、榎本さんは小走りにやってきて、ついっと森さんの手を取った。
「と、いうわけなので、お先に失礼。もうお店も、押さえてあるから。さ、森さん?」
「あ、ありがとう、榎本さん」
手をつないだまま、二人分のヒールの音が、夜の石畳に響いていく。
「びっくりした…。森さんが、私と同じ事、友達に言ってたから」
「私もよ…」
「何となくね、もっと、森さんと二人で話、したかったの。…ううん、何となくって言ったら、嘘になるかな。今日の同窓会、中学で三年間同じクラスだった森さんと会えるかなって思って、来たから…」
暗闇のせいだろうか。
15年という月日が自分を大人にしたせいだろうか。
素直に、榎本さんは同窓会へ出席したわけを話していた。
「それにね」
「え?」
森さんが聞き返す。
「さっきの指輪の話、ちょっとイミシンな雰囲気だったわけ。このまま何も聞かないで、帰る気になんかならないって!」
「ふふ…嬉しいわ、そう思ってくれて…」
「え?」
今度は、榎本さんの方が聞き返すはめになる。
「…あのね、私も、今日は榎本さんと久しぶりに会って、ゆっくり話を聞いて欲しくて、指輪の事、さっき、わざとあんな言い方したの。嘘じゃないんだけど…ごめんなさい?」
「ふーん、じゃ、お互い、久しぶりに会えて、良かったって事だよね」
内心のときめきを隠すようにして、榎本さんは言う。
「そうね…」
森さんは、ちょっと視線を落として、はにかむ。
なぜか、二人はつないだままの手を、離せずに歩いていた。
本当は、特にお店の予約なんてしていないのに。
…ただ、しばらく、お互いこうして歩いていたかったから。
(つづく)