2013年3月30日土曜日

恋愛実行委員会(1)

生徒会の役員が少ないので、うちの中学は、行事ごとにいちいち、実行委員会を編成する。

「あー、実行委員というものはー、自主性、やる気が第一だからな。立候補で決める。誰か、いないかな? ん?」

いかにも「俺は生徒の味方だぞ」スタンスを気取る男の独身教員が、担任クラスをぐるりと見渡す。

あー、やだ。この雰囲気。

紀和(きわ)は、とにかく今の重っ苦しい雰囲気を変えたくて、しぶしぶ手を挙げた。

「おっ、紀和、やってくれるか! 先生は嬉しいぞ。お前なら、きっと大丈夫だ。うん、今度のクラスマッチでお前が準備に加わってくれれば、成功間違いなしだ。よーし、頼むぞ!」

お前呼ばわりすんなよ、こいつ。
あと、下の名前で言うのも、気持ち悪いから、よせ。

んで、こういう教師に限って、言うだけ言っといて、肝心の準備の時なんか、手伝いどころか見回り一つしなそうだし。

紀和は、心の中で毒づいてやった。

それから、考える。

(他のクラスの実行委員、誰がやるんだろ…)

その日の放課後、さっそくメンバーが招集された。

3年生は、もう手慣れた経験者が選ばれる事が多く、種目がどうだ、応援の材料はどうだ、と賑やかに相談をしている。

逆に1年生は、何が何やら全然分からず、指定されて集まった教室の隅っこに固まって、しーんとしているきり。

さてと、同学年の2年生は、と。

1年の時からデキ上がってるカップルが一組…つまり、二人。
おそらく、クラスが違ってもここでなら大っぴらにいちゃつける、と相談して申し出たのだろう。
だめだ、こりゃ。戦力外。

で、うちの学年は4クラスだから、もう一人は…?

去年、よそのクラスへ転入してきた、女子だった。

静かに、窓のそばに立っている。
肩のところで、髪を茶色のゴムで束ね、制服のブラウスの上にカーディガンを羽織っていた。

「あのう…、あなた、一年生の時に引っ越してきた人、よね?」

担当教師がなかなか現れないので、暇をもてあまして、紀和はその少女に声をかけた。

彼女は、声を出さずに、こっくり、する。
間近で見ると、長いまつげに色白、瞳はやや大きめだけれど、そっと伏せられている。

唇はカラーリップを塗ったみたいにつやめいて、その左下に小さな、ほくろがあった。
そのほくろが、おとなしそうな彼女を、妙にコケティッシュに見せている。

ああ、そうだった…と、紀和は思い出す。
この少女が転入してきたとき、学年の男子が色めき立って、職員室のドアに貼り付いていた事を。

「すっげえ、可愛い子!」
「俺んとこのクラスに、来ねーかなー」
「お前んとこはダメだろ、すでに他のクラスより人数多いし」
「くっそ、トレードとかねーかなー」

(まったく、男ってのは転校生に弱いんだよね。お子ちゃま)
その時、紀和はそう思ったのを、いま彼女を目の前にして、改めて思い出したのだった。

「えーっと、私は1組の、新井 紀和だけど…あなたは…」

名前を聞こうとしたが、ちょうどそこへ実行委員会担当の教師が入ってきて、紀和の質問は打ち切られた。

(つづく)