2013年5月22日水曜日

花嫁御寮とおヨメちゃん(4)

畳の間へ二人が入っていくと、既に打ち合わせてあったのだろう、毬子が呼び声を挙げた。

「くみ、あや。お願い、手伝って頂戴。手はずは、先程お話した通りにしてね」

地味な着物に前掛けをした、二十代半ばあたりの侍女が二人、音もなく襖を開けて現れる。
無意識に歩きながらも、すすすす…と、決してへりを踏まずに歩くのは、礼儀作法の訓練のたまものなのだろう。

「さあ、貴子さん…どちらから、羽織ってごらんになる?今お召しになっている、蒼のダイヤ柄の銘仙の上から、そのまま肩にどうぞ?」

わくわくと、毬子は勧める。

「でも私、一人では照れくさいわ。もう一方のお召し物を、毬子さんもお体に当ててくださらないと」

心底、二つの花嫁衣裳を前に迷いながら、貴子は応じる。

「では、お二方とも、お近くのお衣裳からになさっては…?」
侍女二人のほうでも年かさの方のくみが、横から、つい口を挟む。

「お黙りなさい!くみには尋ねておりません。わたしは、貴子さんに伺っているのです」

紅雀のように可憐な毬子の口元から出た、意外にも強い調子の叱責に、貴子は驚いた。
ただ、その一言に意地の悪さは全く感じられない。

『あなたは、ここで出しゃばる存在ではない。己の分をわきまえ、控えなさい』

上に立つ立場として生まれた者が、ごく当たり前のように子供の頃から教えられた、下の者を使うための言い回しに過ぎない。

「自分の家を没落したかのように言っていた毬子さんだけれど、さすが九重家のお嬢様だわね…」

貴子自身もそうやって育てられ、しつけられてきたので、毬子の対応には共感できる。

案の定、くみと呼ばれた侍女は、平身低頭して襖近くへとにじりながら下がっていった。

「ごめんなさいませ、貴子さん。失礼をいたしまして…では、わたしが先に羽織る方を決めてしまって、よろしい?」
「ええ、従いますわ」
「では、こちらの白無垢から…さすがに、今日は綿帽子をつけませんけれど。そうしたら、わたしは黒振袖をお先に当てさせていただきますわね?」

毬子の言う通り、あやの手助けを受けながら、貴子は白無垢のふんわりした着物に、おそるおそる袖を通していった。

(つづく…子供にこのパソコンを乗っ取られたので~!)