2013年2月14日木曜日

男装の麗人×2=LOVE(2)

行けども行けども、景色は砂山で変わらず、食料や装束、それに相手のフェルスパー王国への贈り物を山と運びながら進むのは、従者達にとって強行軍であった。

ただひとり、ディアマンテ王女だけが顔色ひとつ変えず、王子の姿で馬の背に揺られている。

「こういう過酷な地では、女性(にょしょう)の方々のほうがお強い、と伺っておりますが、王女様を拝見しておりますと、誠にその通りでございますなあ…」

「馬鹿者。主らどもとは、日頃の鍛え方が違うだけだ」

確かに王女の言うとおり、毎日剣術は勿論、銃砲の扱いや格闘技、果ては帝王学の一つとして戦略論の研究までこなしているのだから、体力や持久力は折り紙つきだ。

「しかし、遠うございますなあ…。…おや、遥か向こうに、瑠璃色の丸い屋根をした、異形の建物がございますぞ。しかも、かなり大きい…」

「また、先ほど勘違いした、蜃気楼の類ではないのか?」
軽口を叩く従者の一人に、別の従者が
「いや…確かに、瑠璃色の屋根に、細かく輝くものが見えまするぞ。あれがもしや、金の星の飾りではありましょうや…?」
と、目を細めて遙か彼方を見やる。

そのやりとりを聞いているだけで、ディアマンテ王女の心は逸り始めた。

「よし、私は先に馬を駆る!付いてこられる者だけ、私に従え。荷が重くつらい者は、蹄の跡を追いながら、無理せずに参るがよい!」

自分と同じ、男装の王女、ユナカイト…。
まだ会ったことのない一つ年下の少女は、いったいどんな娘であろうか…?

なぜだか悪い予感は感じず、わくわくした冒険心が沸き起こる。

やがて、ディアマンテと駿馬の乗り手である従者達の前に、異国情緒あふれた宮殿が立ち現れた。

建物は、白い大理石。

屋根は丸く、先が尖り、瑠璃がぐるりと貼り付けられている。
その屋根の表面には、夜空のように、金でこしらえられた、あまたの星が飾り付けられて目映く陽の光を弾き返していた。

「これはまた…珍しい…」

「東方の豊かな国々には、このような様式で建てられた宮殿が多いそうでございます」
前もってこの辺りの地勢を学んできた従者が、ため息をつくディアマンテ王女に申し述べる。

やがて、後に続いてきた従者達も加わり、アルマンディン王国からの訪問者はかなりの隊列をなした。

その様子を見て、宮殿より番兵が数人、わらわらと飛び出してくる。
「貴様らは、何者だ?!名を名乗れ!」

「お静かに願おう。私は、遥か西方の国、アルマンディン王国より参りし王女、名はディアマンテと申す」

王女、という言葉を聞くなり、番兵達はどよめいた。

「この度、こちらのフェルスパー王国という豊かなる大国にも、私と同じく男装をしておられる姫君がいらっしゃると聞き及び、ぜひ一度お会いしたいと思って参った次第だ。叶わぬなら、こちらも無理は申さぬ。友好を結べれば僥倖、拒まれればここより静かに立ち去るつもりである。よろしければ、お目通りを願いたい」

番兵達は、しばらく顔をつきあわせて何やら話し込んでいた。

が、そのうちの年かさの一人が、こちらを向き直り、
「何にせよ、我々のごとき身分には詮議いたしかねまする。ただ今、しかる手順を踏みまして、女王陛下とユナカイト王女様にご相談つかまつるまで、しばしその場にてお待ち下され」
と、一礼して宮殿内へと消えていった。

「やはり、名はユナカイトと申すか…」

「女王陛下、と言っていましたな。この国も、女子に王位継承権があるのでしょう」
「では、なぜ男装の必要など…」

アルマンディン側がひそひそ話している間に、先ほどの番兵に変わって、身なりの良い従者が一人、城外に現れた。

「恐れながら、ディアマンテ姫君に申し上げます。女王陛下が、姫君の御名を存じ上げておりまして、おいでの旨申し上げましたところ、是非お会いしたいとお話されております。よろしければ、ご案内つかまつりますが、いかがいたしましょう?」

「無論のこと、謁見を希望いたす。まずは、従者達と馬を休ませたい。手配を願えまいか」
「おさすがなる仁慈のお言葉、しかと従わせていただきます。では、こちらへ…」

手練れの騎士を数人従え、ディアマンテ王女は、ひやりと心地よい石造りの場内へと進んでいった。

(つづく)