その後、二人の連名で、何度もメールをもらった。
文面はいつも、同じ。
「会いたいです、美郷さん…会って、直接話がしたい」
でも、わたしには、こう打ち返すしかできなかった。
「ごめんなさい、まだ会えません…気持ちの整理がついていなくて。ごめんなさい」
毎晩来ていたメールは、そのうち二日に一回、三日に一回、と減っていった。
私も、返信を打たない日が出てきた。
そして、いつの間にか、私の通勤電車に乗る時間帯が、ひとつ、変わった。
わかっていた。
悪いのは、葵でもなく、葉月でもなく、この私だということを。
年下の可愛い子二人に言い寄られて、調子に乗っていたという事実。
そのスタートが、親友であったはずの二人に、少しずつ亀裂をもたらしていった。
「3人同等」などという無茶な約束をしておきながら、いつの間にか、私は自分でそれを破った。
葵の熱情についていけなくなりかけた時、優しくしてくれる葉月にすがってしまった。
でも、それって二つとも、果たして本当の愛情だったのだろうか…?
彼ら二人が、一心に捧げてくれた純情を、自分勝手に踏みにじったのは、私。
そんな考えが、頭の中でもやもやとした煙のようなものから、次第に実体を伴ったものへと変わっていった、ある日。
私は、二人に同時にメールを出した。
「…ごめんなさい。あなたたち二人をたぶらかして、大事な時間を無駄に使わせてしまったのは、この私だと言うことを、やっと悟りました…。
私の部屋へ来てくれた時に、二人は帰りながら気を遣ってくれましたね。
…私にできるお返しは、このまま会わずにお別れさせてもらうことくらいです。
電話番号も、メアドも、変えます。部屋に来ても、入れてはあげられません。
…全ては、私が悪いのだと、やっと気づきました。ごめんなさい。
…でも、3人で過ごした日々は確かに、とても楽しいもので…決して、忘れません。みさと」
さすがは、エリート高校生と言うべきか。
このメールを送信してから、ぴたりと、私と彼らとの接触は切れた。
そのあと程なく、私は上司から紹介された、取引先の男性とお見合いをした。
「今時、お見合い~?」とからかう友人もいたが、地味な私には他にチャンスもないし、何より両親と祖父母が喜んでくれたので、お会いすることにした。
私と比べて2つ年上、というその人は、眼鏡を掛けて、ちょっとふっくらしてて、でも清潔そうで…
何より、いつ会ってもニコニコしている人なのが、気に入った。
もちろん、葵や葉月みたいなイケメンじゃないけど、でも、あの二人のようなエッジはない。
家庭って、こんなものなのだろうな…と、自然に思えるような人。
話はとんとん拍子に進み、瞬く間に、私とその人は結婚した。
ハネムーンベビーを授かり、お医者様へ通い、いろいろ様子がわかってくるうち、私は、ある事を思いついた。
旦那様には、内緒で。
次の年の、元旦。
「おいっ!葉月っ!美郷さんから、年賀状来たぞ。見たか?!」
葵のけたたましい声が、寝ぼけた葉月の耳元で響き渡る。
名峰学館の大学部へと、内申を通って無事に進学した二人は、葵が経済学部、葉月が工学部と分かれた。
とはいえ、結局二人してアパートの同じ部屋を借り、まあ…ご想像に任せるような生活を…送っている。
「見るわけ、ないだろ…葵…。俺、今まで、炬燵で…うとうとしてて…」
「とにかく、見てみろよ!これっ!」
葵の突き出した一枚の年賀状には、懐かしい美郷さんの顔と、よくわからんおっさんの顔と、それから…おそろいのピンクのおくるみで抱っこされている、双子ちゃんの写真がプリントされていた。
「え、えええ…もう、美郷さん、子持ちかよ?!」
「それも、だけど!一番下の、名前の所、見ろよ!!」
美郷さんの隣にいるおっさんの名字はどうでもいいとして…
双子ちゃんの紹介文を見て、葉月は、絶句した。
「可愛い、女の子の天使が二人、我が家にやってきました。よろしくお願いします。」
♪ あおい(0歳)、はづき(0歳) ♪
「な?だろ?だろだろ?!」
「美郷さん…俺らの事、忘れて、なかった。…嫌って、なかった、んだ…」
「そうさ!じゃなきゃ、一生家族でいる娘二人に、俺らと同じ音の名前なんか、付けないだろ?!」
「…しかも、これ、美郷さんが…他人にバラしてなけりゃ、彼女と俺達だけの…秘密、だよな…」
今年の元旦は、日本晴れ。
美郷さんが年賀状に込めた悪戯納めの年も明け、葵と葉月にも新しい一年が訪れる。
長方形の炬燵に並んで座りながら、葵は喜色満面で、葉月はうるうると涙目で、同じ一枚の年賀ハガキを見つめていた。
(おしまい…です。長文おつきあい多謝!)