私が目を覚ましたとき、カーテン越しに、もう日は高くなっていた。
隣では、夜通し愛し合ったのか、葵と葉月が身を寄せあうようにして、眠っている。
子犬みたいに。
…昨日は、恥ずかしい事から、優しくされたことまで、いろんな事があった気がする。
休日前とはいえ、年上の身には、なかなか…こたえてしまう…正直、ね。
心は、二人と同じように「したい」のだけど…身体が、ちょっと、ついていかない。
そういう意味でいくと、内緒だけど、今の私の体調からは、葉月と過ごす方が合っている、みたい。
葵も、とても刺激的で、燃えてしまうのだけど…若さのギャップを、時折、感じる…かな…。
パジャマも羽織らずに、私はお手洗いを使って、鍵を開けて出ようとした時だった。
「…ごめん、堪忍して…」
ドアをそっと開けて、すり抜けるように、葉月が入ってきた。
「…!!」
「もし、嫌じゃ…なかったら、静かに…してて?…俺、やっぱり、美郷さんとの、昨夜の事、引っかかってて…」
私と同じく、何も身につけていないまま、葉月は言う。
そうして、後ろ手に、ドアの鍵をかちゃり、と回して閉めた。
「だ、だめよ…私、いま、綺麗じゃないし…」
「俺が、綺麗に、してあげる…座って、脚、開いて…」
朝早くから、こんな狭いところで、跪いた葉月の口元から、淫猥な水音が響く。
…ああ、どうしよう…いい…すごく。
力が抜けた私を起こして、今度は、葉月が座った。
いつの間にか、葉月のそこは、すっかり勃ってしまっていて、避妊具の箱まで用意してある。
…そして、私の身体も…すっかり、受け入れる準備が、整っていた。
待ちきれないように、葉月の動作の一部始終を見つめてしまう。
「そんな、見られたら…つける、前に…いっちゃう、だめ…美郷、さん…」
小さな声で、でもはっきりと、葉月は言う。
「…でも、葉月の、そこ、見てたら…早く、入れて、欲しいんだもの…」
あ、私ったら…何てあけすけな事、言ってるんだろう…。
でも、本当に…欲しい。
入ってきて、いっぱいになって、溶け合って、そして…
そんな事を妄想しているうち、また…濡れて、くる。
あふれた分が、少しずつ、腿を伝っていくのが分かる。
「脚、うんと開いて…来て…?俺に、跨って、ね…美郷さん…?」
「うん、…したい、…したいわ…葉月っ…」
突き通されるように、私は、葉月と交わった。
…いいっ。
「あん…ああ…っ…」
「駄目、そんな…声、出しちゃ…」
「だ、だって…葉月の、良すぎる…の…っっ」
「声、出さないように、しちゃう…よ?」
一番感じるところで繋がり合ったまま、葉月は私にキスをして、口を塞いだ。
舌が、絡まってくる。
口の端から、唾液がこぼれてしまうような、激しい動きで。
同時に、私の腰をつかんで、彼にしては強引に、揺すぶってきた。
私は、欲望の持って行きようがなくて、ぎゅっと葉月に抱きつく。
すっかり固くなって、触られたくてたまらない乳首を、彼の胸にこすりつける。
そして…恥ずかしいけれど、自分からも、腰を、使い始めた。
感じてくれたみたいで、葉月の動きが、いっそう激しくなってゆく。
心の中で、私は、嬌声にも似た叫びを上げ続ける。
(ああんっ、はづき、はづきぃ…っ、すごいの、すごくいいっ、はうっ、も…いく、私…)
静かな、狭い密室の中で、葉月と私は、心も体も開き合い、溢れ合うまで…楽しみ続けた。
二人とも、いった、その時。
ドンドン!
お手洗いのドアが、荒っぽくノックされた。
外から、いらついた声が聞こえる。
…葵の声が。
「あのー、俺もトイレ入りたいんですけどー、いつまで待ってればいいんですかねー、お二人さん?そんな狭い所に二人して閉じこもって、長いこと、何やってるんです?」
いつもより、葵の言葉使いは妙に丁寧で、いわゆる「慇懃無礼」という感覚。
一瞬、私と葉月は視線を合わせ、そして、ドアを静かに開けた。
今更、嘘をつくつもりはなかった。
静かに、私は事実を告げる。
葵の目を、しっかり見ようと心を奮い立たせて。
「…セックス、していたのよ。…私と葉月で」
3人の間に、刹那の静寂が訪れ、その直後、葵は葉月の左頬を殴っていた。
少し、葉月はよろけたが、それでも、あえてよけようとはしなかった。
「…どうして?!葵!昨夜は、貴方としか、私、ちゃんとしてなかったのよ?葉月は、貴方と私がセックスしてるのを、見せつけられていただけだったのよ?…なのに、今、同じ分だけ交わった私と葉月を、どうして…殴れるの…?それに…殴るなら…私も、殴れば、いいじゃない…っ」
情けないけど、私の声は、最後の方で涙が混じってしまった。
「…好きな、女の人を…殴れるわけないよ。美郷さん…」
「こんな時だけ、女扱いで独りぼっちにしないで、葵。私たち…3人、一緒じゃないの?」
「俺が寝てる間に、布団の中でもトイレでも、見境なく、つがっていてか?葉月!」
「好き、なんだよ…俺も、美郷さんを、お前と、同じくらいに…だから、欲しかった。だから…葵に、弁解は、しない…俺には、できない」
私たちの間を、初めて、苦い沈黙が支配する。
二人は、黙って服を身につけ始めた。
…私は、とてもそんな気にはなれなくて…そのままの姿で、支度をする二人をぼうっと見ている。
「今日…騒いでしまったことは、謝ります。美郷さん」
「寮に、帰ったら…二人で、頭を冷やして、話し合う、ので…」
な…何よ、それ!
結局、二人の世界が勝手にできていて、私はその中に入れない、それが事実じゃない!
「そんな、綺麗事なんて…聞きたくない!ここで修羅場にでもなった方が、私…あなたたちの事、きっともっと、好きになれたのに!!ばか!!」
閉まろうとする玄関のドアに向かって、私はカウンターキッチンにあったグラスを投げる。
グラスは、私が狙ったとおり、出て行こうとする二人には当たらず、ドアにぶつかって、いくつものかけらと化す。
…あの二人ったら、戻っても、来やしない…。
部屋の布団の上に、ぺたんと座り込んで、それから私は、しばらく泣いた。
(つづく…風向きが、少々変わって参りましたな…)