2013年10月2日水曜日

(BL18禁)甘いお役目(3)

先輩の名前は、真一さんと言う。名字は…水上(みなかみ)。
初め、僕は「水上さん」と呼んでいたのだけれど、叱られてしまった。

「そんな、他人行儀な呼び方、やめないか?俺のことは、真一、でいいから」
「えっ…だって、先輩なんですから、失礼じゃないですか?!」
「名字で呼ぶ方が、余程失礼だよ。じゃあ、俺も君を、安達さんって呼ぼうか?」
「ヘンですよ、そんなの!僕は年下だし、それに、その…何だか…」

僕が口ごもっていると、真一さんは、誰もいないバス停なのを見計らうと、そっと耳に唇を寄せる。

「俺は、君の事を『ドリ』って呼ぶよ?…いい?」

囁かれて、ぞくぞくっとしてしまう。
もちろん、…気持ち悪いんじゃなくて、その、反対の…意味で。

「ど、どうしてそのあだ名、知ってるんですか?!みな…し、真一さ…ん…」
自分の頬に血が上っていくのが、わかる。

「そりゃあ、少しは調べたからね。知りたかったから、ドリの事を。…可愛い名前だね」

うっわ…ヤバい、言葉責め、ってやつ、こういうの…?
「やっ、なんか…恥ずかしいです、すごく…。誰が聴いてるか、分からないし、僕」

「…じゃあ、今度の土曜、模試の後に時間、取れる?…私服の着替え、持ってきて?」
「えっ」
「他に誰もいない部屋で、何度でも、ドリの名前を呼ばせてくれるかな?」

そ、それって、それは、その…アレですかっっ…?!

「…ごめん、どうやってこういう時に誘ったらいいのか、実は俺もよくわからなくて。…でも、二人きりで一緒にいられる場所に、行きたいんだ…わかる…?」

アレだろう、薫ねーちゃんが言ってた事する場所、だよ、ね…。
そう思った途端、僕は、自分でも自覚しないまま、こっくりと首を縦に振っていた。

「…ありがとう」
「あっ、いっいえ、その、僕…こそっ」

真一さん以上に、どう返事したらいいか見当もつかないまま、僕はとんちんかんな返事をした。

「ここが、道端じゃなくて、俺の部屋だったらな…惜しいよ。ドリの事、いますぐ抱きしめたい」

真一さんの殺し文句で、そんな場面が頭に浮かび、僕はぐらぐらしてしまった。

今度の土曜日、ホテルに行っちゃうんだ。真一さんと。
で、きっと、薫ねーちゃんに教わったみたいな事、しちゃうんだ…
どうしよう…模試の勉強、手に付かなくなっちゃいそうだよ。

ぼうっとしている僕の右手を、真一さんの大きい左の掌が、ぎゅっと、掴んだ。
「…ドリ。模試、頑張ろうな、お互いに。その後、その…ごほうびが、お互いにある、んだから…」

うわ。
そうか…そういうふうに考えれば、いいのかぁ。
学年順位が片手から下がったことない、って言う真一さんの噂は、ほんとうなんだな。

「…はい」
つないだ手を離したくなくて、僕はつい、答えながら、ぎゅっと真一さんの掌を握り返してしまって、そのあと、あわてて周りを見回した。
「大丈夫、もう黄昏時だよ。ちょっと離れてる人には、見えやしないさ。…もう少し、俺の方に寄って立ってごらん?手が、隠れるから」

真一さんのいう通りにそっと近づくと、真一さんは、ちらり、といたずらっぽく僕を見た。
そしてつないだ手をぐい、と引っ張って、僕の体をもたれかけるようにさせる。

恥ずかしいんだけど、それがとても嬉しくて、僕は、バスが来るまで、真一さんにちょっとだけ自分から寄りかかってしまった。

「…いい子だ。土曜は、もっと…甘えて?」
小声で、真一さんはもう一度殺し文句を言った。
「…うん」
僕も、初めて、甘えた口調で返事をしてしまった。
どんどん、この人にはまっていく。好きになってく。…先が見えない。

(つづく。次回は18禁らしくしなくちゃですね、もう4回目になるし!)