2012年6月28日木曜日

りぼん。(2)

「切り下げ組」は、鹿乃子や美代だけではない。
まだ小学部から上がって間もない、このあいだまで「少女倶楽部」を読んでいたような幼い風情を残した下級生の中に、かなり多く残っている。

それが、なんと。
おつむの上や耳の横に、ピンで留めて、ちょん。
髪の長い生徒と同じく、りぼんがひらめいている。
まるで、年一回の開港祭の時のように、小旗がひらひら。
あちらにも、こちらにも。

「全くもう、憤慨しちゃうわ!」
今やかなりの少数派となった鹿乃子に並んで、美代は頬を膨らませて見せた。

「でも…」
鹿乃子が、呟く。
「どうして、あの榎本さんという方お一人が始めただけで、こんなに皆が真似るんでしょう?」
「何かの熱病みたいよね、おお、こわ」
美代は、どうにもこの馬鹿騒ぎに賛成しかねる様子だった。

「先生方は、どう思っていらっしゃるんでしょう…?」
「お教室で、誰かが得意げに吹聴していたわ。地味だし、よその学校の洋制服のすかあふや髪ごむとも同じ色ばかりなので、先生方もお叱りになる理由が見あたらないのですって」
「はあ…」

「それにね、鹿乃子さん。最近また、変な流行が始まったんですってよ」
「まあ、どんな?」
「特別にお仲良しになりたい方同士で、示し合わせて、同じ日に同じ色のりぼんを付けて登校してくるのですって! 同級生ならともかく、上級生の方ともそんな事をしてる方、いるそうよ!」

目をつり上げて説明する美代を、鹿乃子は窓ぎわに並んでじっと見ていたが、やがて、こらえきれずにプッと噴き出した。

「あら、失礼だわ鹿乃子さんたら。私、何かおかしい事言ったかしら?」
「あ、ちがうのよ、美代さん。許して頂戴。…だって、お嫌いな割には、りぼんの事について、とてもとても詳しくていらっしゃるんだなぁ…って思ったら、ちょっと…可笑しくなってしまって…」

ちょっと目尻を赤くして窓へ向き直る、美代。
その隣に立ち、やっぱり鹿乃子は疑問の霧が晴れなかった。

(榎本さん…なんて、不思議な方…)