2012年5月18日金曜日

エンゲージ・サニー・リング

昔の特撮もので変身アイテムに使っていたような、紙でくるんだ黒めがねが配られる。
そして、家でじっくり観察してから来るようにと、登校時刻が1時間遅くなる。

さてまあ、何でそんなに大騒ぎするんだろ。

美子は、常に物事を斜に構えて見るタイプなので、ついそんな考え方をしてしまう。

一方、隣の席の七重は大はしゃぎで、さっそく配られた黒めがねで教室の蛍光灯を見たりしている


「あんた、子供みたいなやつだなー。そんなオモチャもらって、嬉しいか?」

「そりゃ、嬉しいわよ。今見てみたけどね、この日食めがね、結構レベル高いよ! 蛍光灯見て、光がわかっちゃうようならバッタもんなんだって聞いたけど、これ、ちゃんと真っ暗だもん」

「こないだ、皆既日食だか、あったろうに」

「あっ、でもね、今回の金環日食は、一生で一回しか見られないらしいよー」

きゃっきゃっと返事をいちいち返してくる七重は、実は、美子にとっては、とても可愛らしい。
しかし、顔にも態度にも、そんなことは出さないようにしている。
なぜか?
…分からないけれど、七重に対する、この想いを意識するようになってから、自然に。

「ねー、美子さ。6時過ぎから日食始まるっていうから、うちにお泊まり会して一緒に見ない?」

ぶっ。

お、おまー…今、クラスの数人がこっち向いたの、気づいてないだろ?!

「でえ、そのまま同伴出勤…じゃなくってえ、同伴登校とかするの。面白くない?」

本心の私は、…お、おもしろすぎるよ、そりゃ。
でもなあ、今この瞬間のクラス全体が我々を見つめる空気の方が、はるかに面白くないっ。

ここまで大声でしゃべると、七重は椅子をにじにじさせて、私の方へ寄ってきた。
「それにさっ、美子」

急に小声になったので、私も自然に顔を近づける体勢になって
「な…何よ?」
と、問い返してしまう。

「ちょうどさ、金環日食が一番綺麗に見える、7時30分過ぎだっけ? あの時、あたしさ、絶対あんたと見たいな、って思ってるのよ。…わかる?」



「恋人同士の、エンゲージ・リ・ン・グ!」

「………」

「だってね、本当に女の子同士で、左手の薬指にリングはめられないでしょ? だから、美子と二人で一緒に金環日食見て、空に左手伸ばして、指輪の代わりにできたらな…って、ね?」

聞いてるわたしの顔は、もう、真っ赤。たぶん。
コホン、と取ってつけたようなせきばらいをして、
「ま、まあ、そーゆーことなら、…その、一生に一度のことだし、ね。…いんじゃない?」

そのとたん、聞き耳ずきんと化していたクラス中の悪友どもが、一斉にプーッと吹き出した。

「なぁによう、笑わないでよねー!これでもここ数日、一生懸命七重が考えたんだぞう! 真似したら、だめだかんねっ!」
「使用料取っときなよ、儲かるから、七重」
仁王立ちになって怒鳴る七重に、くっくっと笑いながら、美子は提案した。