まさか、自分が同性を好きになるなんて、思っていなかった。
でも僕は、目の前に立った長身でこざっぱりとした先輩に告られ、そして、申し出を受けていた。
とても素敵な人で、ああなりたいな、と、実は遠目でちらりとのぞいていた先輩だったから。
どうして、ちびで女顔で、部活にも入ってない僕のことを知ってるんだろう…?
「文化祭の展示で、君の学年は美術の作品を出品しただろう?」
「えっ、あ…はい」
学校から離れた、駅のハンバーガー屋の奥の席。
先輩に誘われて、僕は初めて、デートまがいの行動を体験している。
「安達くんは、他の同学年より、抜群の精密画をペンで描いていたよね?機械のパーツ一つも、同じ物がないくらいに」
「あ、あんなの、ただの趣味ですからっ!」
「でも、その君の趣味に、俺は興味を引かれたんだ。こんな凄い絵を描く奴に、一度、会ってみたいって」
恥ずかしくて、僕はうつむいたまま、シェイクをすする。
「そうしたら、君と同じ中学を出た友人が、俺と同じクラスにいて、全校集会の時に教えてくれた。…あんな細かくて神経をピリピリさせそうな絵を描いた子が、こんな可愛い後輩だなんて…驚いた」
耐えきれず、僕はむせてしまった。
「…はっきり聞くよ。俺は今、他の誰よりも、君に興味がある。好意、と言ってもいい。絵のことを抜いても、校内で見る君は、いつも健気で、可愛くて、目が離せなくなる。…つき合ってくれる?」
「ええ…っ!」
「…嫌? なら、正直にそう言って?」
「じゃ、なくて…前から、素敵なひとだな、と思ってた貴方に、そんな事、言われる資格があるのかどうか、僕の方が、不安になっちゃって…」
「じゃあ、お試し期間で、つき合ってみようか?…ただ…」
「ただ?」
「君も、そして俺も、男同士だから…ある程度は分かると思うけど、…身体を試してみたい、って思うときも、正直、あると思う。…その覚悟は、しておいてもらっていい?」
「……!」
「体格や性格からいくと、俺が、君を可愛がり倒す事になると思う。もし嫌じゃなかったら、男同士で長くつきあってる友人を、紹介するよ。どんな風にしたらいいのか、奴ならフランクに教えてくれると思うから。…いきなり、こんな事を言って、すまない…。でも、俺は、君を抱きたいくらい好きだ」
ジェットコースターのような一気呵成の展開に、僕は、嬉しさと同じくらい、戸惑いを隠せなくなってしまった。
だから、真っ赤な顔のまま、先輩の前でちょこんと座っているしか、なかった。
…もちろん、男子高生なんだから、鍵のかかる自分の部屋で、気持ちよさを最後まで極めて楽しんだことは、何度もある。
でも、それはあくまでも一人きりの甘い秘密めいた行為で、人になんか見せたことはなくて…それを、憧れてた先輩としてしまうなんて、いったい、僕はどうなっちゃうんだろうか。頭の中が爆発して、ヘンになっちゃうかも、しれない。
その後、先輩に家の前まで送ってもらったのだけれど、僕の頭はもう、ぐわんぐわんしていた。
「ごめん…。今日は一度に、いろいろ話し過ぎちゃったな…」
そんなこと、と言おうとしたとたん、先輩は背をかがめて、僕に優しいキスをくれた。
恥ずかしいけど、あまりに気持ちよくって、僕も、持っていた鞄を地面に放り投げて、キスを受ける。
首にすがりつくと、先輩は、舌を入れてきた。
胸が苦しくなってしまって、僕は、湿ったため息と一緒に、先輩の唇から離れる。
「…じゃあ、また、この続きは必ず。…いつになるかは、わからないけど、遅くならないようにする」
先輩の声は、闇の中へ溶け始めていた。
僕は、落とした鞄を拾いながら、その声がした方を、しばらく眺めている。
…もちろん、僕の身体は思い切り、変化してしまっていた。
今夜は、どうなっちゃうんだろう。せめて家族に、自分の声を聞かれないようにしないと。
自分でもエロい奴だな、と想いながら、もう僕は他の事なんか考えられなくなっていた。
…溺れそう。
(つづくー)