2015年6月7日日曜日

へし切長谷部、陵辱す。

#刀剣男士×女審神者 #いくぶん成人的描写あり  ご容赦のほどを。




後ろ手で、障子を音立てて閉める時、既に俺の手は汗ばんでいた。
この本丸の主(あるじ)は、俺が名乗りもせず自室に入り込んだことに、驚きを隠せず目を見開く。
忠誠を何よりも重んじる俺のこの行動は…確かに、常軌を逸している。

「…ど…うしたのです、長谷部…?」
主の声も、心なしか震えて聞こえた。
俺は、返答をする余裕もなく、畳に主を押し倒す。
焦がれ続けていた、この女性(にょしょう)の脚を己の脚で上から押さえつける。

手探りで、己の腰の後ろにあるカマーバンドの金具を、俺は外しにかかった。
やはり、手が…震えている…。
どうしようもなく昂ぶった俺は、身につけていた白いワイシャツをボタンごと引きちぎった。

主のおびえたような瞳の中に、焦る俺の顔が、確かに映っている。

「何を、するのです…、…おやめなさい。こ、これは…主命です…っ!」
小さな声で、だがはっきりと、主は俺に言う。

主命。
この本丸で、多くの刀剣男士を束ねる主の、それは絶対命令。
誰よりも忠義であろうとする俺は、この言葉に何度従ってきたのだろうか。

…だが、今宵は違う。

「申し訳ないが、へし切長谷部、今宵のみは主命に抗わせていただく…!」

畳の上に組み敷かれ、俺の顔を見上げた主は、信じられない、と無言で見つめ返した。
先ほどより、ほんの少しだけ緩やかになったその表情は、俺をどんな想いで見ているのか。
今までずっと秘めてきた、この切なさを、俺から感じ取ってくれているのだろうか。

確かめるほどの平常心は、もう、俺には失われていた。
ひどく息が上がってきている事も、顔が耳まで紅に染まっている事も、知られているに相違ない。

「…とにかく、…このままでは…。ひ、人を呼びます」
「構わない。他の者にこの姿を見られる事は、俺よりも主の方が困るのでは…?」
挑発するように俺が応じると、主はさっと顔色を変え、両手で自分の口を押さえた。
さっきまで、シャツを必死に掴んでいたその手が離れた瞬間、俺は主の両手首を片手で取り上げ、畳の上へ縫い止めるように押しつけた。

自然、俺と主の見つめ合う距離は格段に近づいた。
…この女(ひと)も、息を殺しながら、でも…高まっている。
本懐を、遂げる事ができる。
俺は、そう確信にも似た想いを抱いた。

「…どうして、貴女は…いつも俺達を挑発する…?」
「していません、そんな事!」
「なら、刀剣の皆が洋装をする時も、なぜ独り、和服を身につけたままなんだ?」
「えっ?!」
「ご存じないのか。貴女が動くたびに、袖口から白い手首がのぞき、風をはらんで裾が舞う。男所帯の中で、その振る舞いがどれほどの男士を悩ませてきたか…お分かりか」
もう、主は返事すらできずにいる。
「…俺は、そのような主の姿に、幾度眠れぬ夜を過ごしてきたことか…」

ぐっと顔を近づけ、主の耳元へ、息だけで俺は囁く。
「和服は、着付ける手間より、脱がせる方がずっと容易いもの。今からそれを、身体で分かっていただく」
「な、何をそのような…っ」
主の声が、小さくなってゆく。抵抗する力が、確かに弱々しくなってきている。

「…これより、俺は貴女を…陵辱する」

耳たぶを軽く咬みながら、俺が声と吐息を流し込むと、主の身体から力が抜けてゆく。
片手で手首を押さえつけたまま、俺は手荒く、気高い心と、そしておそらく淫しやすい躰を持ち合わせている女(ひと)の帯を解く。衣擦れの音をたてながら、何本もの腰紐をほどいては放り投げる。

…おそらく主は、もう気づいているだろう。
手首を握りとった俺の手が、ひどく汗ばんでいるのを。
俺の腰が、乱れた主の襦袢越しに押しつけられ、硬く、熱く、変化してしまっている事を。

躊躇無く唇を奪い、舌を差し込んでいく俺の裸の背中を、いつの間にかほどけていた両手の指がすがるように掴み、力を込めて俺に絡みついてきた。

…障子越しには、上弦の月。俺と主の一部始終を、密やかに照らしだしている。
夜は、まだ、始まったばかりなのだ。