2011年2月2日水曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の八)

「ねえ、珠子さん。もしお嫌でなかったら、こんなふうに時々、お花やお手紙をやりとりしてもよくって?」
ガーベラの花のような絹江さんの申し出に、珠子さんは、またこくん。

「あの、でも…わたし、どんなふうにしたらよいのか、わからなくって」
「アラ、今朝してくださったようで十分、嬉しくてよ。お手紙は無理なさらなくていいの。ホラ、学年がふたあつも違うと、同じありすにかよっていても、お顔を見たりお話をしたり、なかなかできないでしょう? だから、ね?」

にっこりなさる絹江さんは、珠子さんよりお背が二寸と少しくらい高くてらして、首をかしげると、ちょうど視線が合うので、珠子さんはどきどきしてしまう。髪も、二人とも断髪ではあるけれど、珠子さんはまだ小学校の延長のようなおかっぱさん。絹江さんは、少女雑誌に出てくるボッブヘアのように後ろをしゅっと短く刈っていらして、でもおっとりしたお顔だちのせいで校則違反にはあたらないような、どこか柔らかさがある内巻き気味の髪型。

「それから、お手紙やお花を下さる時は、誰にも見られないようになさってね」
「どうして?」
「他の方々も、皆、そうなさってるから。ね、御願い」

…これが、『エス』っていうものなのかしら。
さすがに珠子さんはそこまでは訊けず、磨き込まれた木の階段をトントンと軽やかに上がっていく絹江さんの後ろ姿に、ぽうっと見とれているだけだった。

「…あら?!」
気づいたら、珠子さんの手には可愛らしい三色スミレの花束が握られていた。
いつの間に。
なんておちゃめで、素敵な方なのかしら、絹江さんって。
手妻のようなその早業に、珠子さんはすっかり心を奪われてしまった。