2011年1月30日日曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の七)

振り向くと、そこに、一人の上級生が穏やかに微笑んでいらした。
紫紺の袴は制服なので珠子さんと同じだけれども、銘仙のお召し物の柄は、藤色と浅葱色の細かなダイヤ市松模様で、地味だけどもどこかモダンな、そのお姉様に似つかわしいものだった。
「珠子さんね?…私、絹江。甘露寺(かんろじ)絹江よ。…お召し物とお揃いの可愛らしいお花、どうもありがとうございます」
目を丸くして、コクン、と珠子さんは頷いた。それから、ややあって、
「あのう…、絹江様は、その、どうして、私のことを見つけられて、素敵なお手紙とお花を…?」
と、問うので精一杯。
「ああ、それはね、ごめんなさいね。私の勝手なお節介からなのよ」
「?」
「珠子さん、つい先だってまで毎日、放課後遅くまでお一人で、ため息ついてらしたでしょう?
見かけてから、私、何か貴女にお困り事がおありだったら、お話を聞いて差し上げたくって、それでね、毎日物陰から拝見していたのだけれど、どうしても、声をおかけする勇気がでなくって…」
申し訳なさそうに、少うし首をかしげる絹江さんの姿は、まさしく優美なガーベラそのものに見えた。