その夕方。
いつもより早くお家へ帰られた珠子さんは、和箪笥から、学校へ着ていく着物を取り出して衣桁へ掛けた。
朱色の地に、チューリップの柄が飛んだ、桐生の本銘仙。
それから、お庭の花壇に出て、明日の朝に開きかけていそうな、つぼみのチューリップを探す。
こちらはさすがに朱とはいかず、深紅に近い濃い桃色を一輪、見つけた。
戴いた便箋とお揃いにしようと、着る物は朱を選んだ。
でもお相手がどんな方か分からないので、珠子さんは、自分が一番好きな花を差し上げることにしたのだ。
(子供っぽい、と思われるかしら…?)
でも、こちらはまだ入学間もない身、あちらは藤組の君と騒がれる上級生。背伸びをすることもない、そう珠子さんは考えた。
(ねんねさんで、お話相手にもならないのなら、いっそ早々に諦めて下さった方が、わたしも恥をかかなくていいかも…)
おやおや、いつもの甘えたさん振りはどこへやら、ちょっと殊勝な珠子さんである。