2011年1月13日木曜日

双子ぢゃなくってよ。(其の弐)

「お母様ァ…、お願い、助けて頂戴。また今日も、お裁縫のお持ち帰りなの!」
家へ帰り着くなり、珠子さんは広い上がり框(かまち)に風呂敷包みを投げ出すと、甘え声でおねだり。
「まあまあ、お嬢様ったら。まずは奥様へのご挨拶が一番でございましょうに」
「だってェ、たけは頼んでも助けてくれないじゃないの」

侍女とはいえ、たけはまだ40歳手前。珠子さんのお母様より年回りが近い分、手厳しい。
それは、珠子さんも十分心得たもので、もう女学校に上がってからは、たけに頼み事をあまりしなくなった。

「ホホ…お帰りなさい、珠子さん。幾度も幾度も、お持ち帰りでお大変ね?」
奥の西洋間から、紬(つむぎ)姿で現れたお母様のお口振りでは、どうやら助け船は出ないご様子。
「さ、まずはお八つをおあがりなさいな。少しお休みになって、それからお持ち帰りを始めなさい、ね?」
「…ハァイ」
甘えん坊が効かなくて、仕方がないと珠子さんは観念し、ゆるゆると編み上げ靴を脱ぐと廊下へ上がった。