「はあ…」
学用品を扇面柄の縮緬風呂敷に包みながら、思わずため息が口をついて出た。
「お嬢様、おはしたのうございますよ」と目を光らせる、侍女のたけも、幸いまだ迎えには来ていない。
口頭試問を受けて、この私立ありす女学校に入学してから1ヶ月。
両親と訪れた時、校庭を埋め尽くすかのように咲いていた桜も、もう緑の新芽が初夏の訪れを伝えている。
私立の学校ならではの、おっとりとした雰囲気が全体に漂う。
お弁当を開く仲間、授業中にひそひそ噂話をする仲間が、この一月で幾人(いくたり)もできた。
「…でも」
ため息のしばらく後、級友が皆去っていった、飴色に輝く夕空の光差し込む教室で、
「こんなに、お裁縫の授業が多いなんて、わたし、聞いてなかったわ…」
独りごちて、ふう、とまたため息。
その姿は、まだあどけないおかっぱ髪に、肩揚げをした銘仙の着物と、制服の紫紺の袴。
花冷えが残る朝晩をたけが案じてか、葡萄茶の羽織も重ねている。
この、憂いをまとうには幼い身なりの一年生が、主人公の一人、御堂珠子(みどう・たまこ)さんである。
そんな珠子さんのがんぜない姿を、教室そばの階段の蔭から、一人のほっそりした上級生が覗いていた。
珊瑚を刻んだような麗しい手の指には、一輪の花と、朱色の封筒がほの見える。