1,2,3,go!
自動ドアの向こうはやたらに真っ暗で、目が慣れるまでに少し時間がかかった。
二人とも不安と好奇心で、ぎゅうっと繋いだ手に力が入る。
人気は、全然なかった。他のお客さんもいないみたい。
目が慣れてくると、入り口のすぐ横に、いろんな写真が四角くパッチワークみたいに並んだアクリルパネルが置いてあるのに気づいた。
ほのかな明かりがそこから出ているので、目が慣れたのだとわかった。
二人して、パネルににじりよっていく。
写真は、どうも部屋を撮したものらしかった。
らしい…というのは、そのパッチワークな四角の大半が暗くなっていて、よく見えないので。
「えーと、電気付いてる部屋が、1、2、3、4…20個四角あるうち、4つだけだよ? 実果ちゃん」
「てことはだな、うちらがお金払って使える空き室が、もう残り5分の1…って早っ!! こんな真っ昼間から、世間様はこんなトコに籠もってるってわけーっ?」
「ねー、ドコにしよっか、実果ちゃーん?」
面白みまんまんで、梨奈は残り4室の写真を見比べている。
世間の生臭さ(いや、自分もその一人だが)に少々ショックを受けてる実果は
「今度は、任す…。梨奈の好きなお部屋があったら、そこにして…」
と言いかけて、(ま、まった待ったああああ!)と、パネルへにじり寄る。
万が一、鎖とかムチとか革の服とか並んでる部屋とかあって、梨奈がそこのボタンをポチッとな★したら、それはいやだぞーーーっ!
しかし、実果の期待?空しくそんなお部屋はなくて、梨奈はピンクのふわふわりんダブルベッドのお部屋を選んだ所だった。
料金面がひときわ明るくなり、とりあえず万札をくずしたい実果が料金口に差し込むと、釣り銭と一緒に部屋番号を彫り込まれた、これまたアクリル製の「いかにも、ホテルのルームキー」な鍵が、パネル下の広い口から出てきた。
(あー、いよいよ私もラブホ経験者かー…)
しみじみ鍵を取る実果に顔を近づけ、梨奈が
「元気ない…? やっぱ、やだった?」
と、心配そうに尋ねてくる。
「う、ううん。どうして?」
「そんな風に、見えたから。梨奈はね、ホッとしたの。本当にここ、雷の音がしないんだもん。さっ、行こ!」
(…あ、あれ、確かここ、誘ったの私の方からじゃ…、ま、いいか)
心の中にちょっと「?」マークを残しつつ、梨奈が開けたエレベーターに実果も乗り込んだ。
ドアを開けると、思いの外「フツー」な部屋で、よかった。
窓が塗られて開かないのと、部屋一面がベッドなの以外は。
「風邪引かないように、梨奈ちゃん、シャワー先に浴びておいでよ」
「実果ちゃんは? 一緒に入らない?」
「いっっっっ、一緒ぉ?!とんでもない、お先にどうぞっっ。あんたの方がびびってた分、体も冷えてると思うしっ、かっっ、髪も長いからっ、濡れてるだろうし」
「…はーい」
おかしい。
この建物に入ってから、梨奈ペースになってる。
ま、まさか、あの子、初めてじゃないんじゃ…?
い、いやいや、そんなこと、嘘でも疑っちゃいけないのにっ、私のバカバカ。
実果は、一人でテンパっている心を静めようと、備え付けの電気ポットでお湯を沸かし、煎茶(粉)を飲んだ。
そこへだ。
「みーかちゃん、おっまったっせー☆」
乾かしたてで、ツインテールにしていない超ロングヘア姿の梨奈が、ピンクのパイル地ガウンで現れた。
ブーーーーッ!
…お約束通り、あまりの梨奈の可愛さに、飲みかけのお茶を吹いてしまった実果がいた。
「わーっ、大丈夫?本当に。なんかラブホ入ってから、実果ちゃん、心配~」
「だ、だいじょうびゅ。(←誤植じゃないです。笑)じゃ、じゃあ、今度はわたひが、シャワー浴びてくるからねーー!」
かけよってくる梨奈を振り払う勢いで、超特急でシャワーブースへ実果は走った。