それからのお二人は、周りの誰がごらんになってもおわかりなくらい、お仲良し同士。
日ごとにお花や小さな封筒が草履箱を行き交い、朝の登校時刻もお帰りも、ほとんどご一緒。
知らぬうちに、セルロイドの縞模様の筆入れがお揃いになっていたり。
藤組の君と噂されていた絹江さんには、それまで秘めた想いを抱く方も下級生に多く、
だからといって下の自分から言うのははしたない、と我慢していた所に、このお二人の睦まじさ。
心楽しきわけもなく。
「珠子さん、御堂珠子さんは、こちらのお組でしょう。」
「ええ、私がそうですが、御用向きはなんでしょう?」
他の組から出入り口に来た一年生、歩いてきた珠子さんの頬を、ぴしゃり。
クラスの皆は、えっと驚き、口々に騒ぎ立てる。
意外だったのは、皆がすぐに駆け寄り、珠子さんの味方につかなかったこと。
「何をなさるの!」「野蛮だわ、ありすの一員として恥をお知りなさいませよ!」
ひそひそ。
(恥をお知りになるべきなのは、どちらかしらね…)
(あれだけ、あけすけになさっちゃあ、見ている私たちだって、ねえ…)
打たれた頬を押さえながら、珠子さんはきっ、と相手をにらみ返す。
「お口をお持ちなら、御用向きはお口でお伝えなさるべきだと思うわ」
「…まあ、なんて、なんてお憎らしい! 藤組の君とあれもご一緒、これもご一緒。近頃は髪型まで、あなたの方がお揃え遊ばして、何様のおつもり?絹江お姉様と、双子かなにかとお勘違いなさってるの?!」
打った方の同級生が、目に涙を溜めながら、珠子さんにくってかかられた。
「違うわ!」
売り言葉に買い言葉の勢いで、珠子さんも大声を出していらした。
「双子なんかじゃないわ。だって、だって私達…」
その続きは、頭の中に浮かんでいたけれど、決して口に出してはいけない言葉、だった。
~第壱部・了~