昔の特撮もので変身アイテムに使っていたような、紙でくるんだ黒めがねが配られる。
そして、家でじっくり観察してから来るようにと、登校時刻が1時間遅くなる。
さてまあ、何でそんなに大騒ぎするんだろ。
美子は、常に物事を斜に構えて見るタイプなので、ついそんな考え方をしてしまう。
一方、隣の席の七重は大はしゃぎで、さっそく配られた黒めがねで教室の蛍光灯を見たりしている
。
「あんた、子供みたいなやつだなー。そんなオモチャもらって、嬉しいか?」
「そりゃ、嬉しいわよ。今見てみたけどね、この日食めがね、結構レベル高いよ! 蛍光灯見て、光がわかっちゃうようならバッタもんなんだって聞いたけど、これ、ちゃんと真っ暗だもん」
「こないだ、皆既日食だか、あったろうに」
「あっ、でもね、今回の金環日食は、一生で一回しか見られないらしいよー」
きゃっきゃっと返事をいちいち返してくる七重は、実は、美子にとっては、とても可愛らしい。
しかし、顔にも態度にも、そんなことは出さないようにしている。
なぜか?
…分からないけれど、七重に対する、この想いを意識するようになってから、自然に。
「ねー、美子さ。6時過ぎから日食始まるっていうから、うちにお泊まり会して一緒に見ない?」
ぶっ。
お、おまー…今、クラスの数人がこっち向いたの、気づいてないだろ?!
「でえ、そのまま同伴出勤…じゃなくってえ、同伴登校とかするの。面白くない?」
本心の私は、…お、おもしろすぎるよ、そりゃ。
でもなあ、今この瞬間のクラス全体が我々を見つめる空気の方が、はるかに面白くないっ。
ここまで大声でしゃべると、七重は椅子をにじにじさせて、私の方へ寄ってきた。
「それにさっ、美子」
急に小声になったので、私も自然に顔を近づける体勢になって
「な…何よ?」
と、問い返してしまう。
「ちょうどさ、金環日食が一番綺麗に見える、7時30分過ぎだっけ? あの時、あたしさ、絶対あんたと見たいな、って思ってるのよ。…わかる?」
?
「恋人同士の、エンゲージ・リ・ン・グ!」
「………」
「だってね、本当に女の子同士で、左手の薬指にリングはめられないでしょ? だから、美子と二人で一緒に金環日食見て、空に左手伸ばして、指輪の代わりにできたらな…って、ね?」
聞いてるわたしの顔は、もう、真っ赤。たぶん。
コホン、と取ってつけたようなせきばらいをして、
「ま、まあ、そーゆーことなら、…その、一生に一度のことだし、ね。…いんじゃない?」
そのとたん、聞き耳ずきんと化していたクラス中の悪友どもが、一斉にプーッと吹き出した。
「なぁによう、笑わないでよねー!これでもここ数日、一生懸命七重が考えたんだぞう! 真似したら、だめだかんねっ!」
「使用料取っときなよ、儲かるから、七重」
仁王立ちになって怒鳴る七重に、くっくっと笑いながら、美子は提案した。