暗闇の広域農道を、晶子の運転する軽自動車は進んでいく。
…意外にも、彼女のドラテクが慎重で静かなのに、真綾はうどんの入った風呂敷を抱えながら、驚いていた。
「止まれ」も、「左折確認」も、いつもの彼女には似合わないくらい、きっちりこなす。
滑らかなアクセルの踏み方と、ゆったり柔らかなブレーキングも、乗り心地がいい。
「晶子…、あんたって、もしかして、運転上手い?」
「もーしかしなくったって、うめーべよ」
「…なんで? いつもの、威勢のいい(元気な)時とハンドル握ってる時と、別人みたい…」
驚くあまり、無意識に、真綾も方言を使っていた。
「んー、たまにだけどぉ、夜遅くまでテスト勉してたりとかさ、夜中に眼がさめちゃってー、離れの自分の部屋で、ラジオ聞くことがあるん。トラックで夜に何か運んでるおじちゃん達用のやつ。
そこでさ、演歌のおねーちゃんが言ってるんよ。『あなたの、いとしい人を乗せているつもりで運転しましょう』って。」
へー、そんな遅くまで勉強とかしてるんだ、晶子って。意外。
確かに…学年でも成績、いいほうだもんな。見た目に反して。
…ん?
「ちょ、ちょっと晶子、念のために、万が一で聞くけど、いとしい人…って、あたしじゃないよね? 違うよね?」
「あたしとあんたの他に、今、だれが乗ってるんべよ」
「あ、あ、あたし、そういうつもりとか、ないからっ。あんたは友達の一人で…」
「んじゃ、何で毎日放課後、一緒に帰るん? 待っててくれてんだんべ?」
うっ。
「他に、真綾が誰かおんなじ方の子と電車に乗って帰った事、あるん?」
う、ううっ。
「方言が何だーかんだー言いながらさぁ、真綾だって家で使ってるんだんべ?」
うーうー、ううーっ。
その時。
晶子が左ウインカーを出し、道端にある100円ジュースの自販機前スペースへ、しゅうんと車を停めた。
ルームライトをつけて、風呂敷包みを抱えている私の顔を、のぞき込むようにしてくる。
ど、どーなんの、私?
んでもって、いつ家(うち)に帰れるん??
何だか、今日の夜はやたらに長くなりそうな予感。
(つづく…次あたりで、しまいにする予定です)