千紗と私…舞奈は、同じ高校の朗読研究会に入っている。
内容はまあ、校内放送のラジオドラマを作って演じたり、ボランティアで小さい子に読み聞かせしたり。
女子高なもんで、男役がどうしても必要になってくる。
千紗はよく通るアルトの持ち主だし、性格もさっぱりしてるし、おまけにショートヘアで165越えときたもんだ。
それはそれは、校内外を問わず、よくよくモテる。
でも、それってどうかしら。
…と私は思う。
千紗の本当の魅力は、なんてったって朗読の巧さなのだ。
感情に合わせて抑揚をつけたり、声の大小を変化させたり、本当に役を演じてるみたい。
だから。
千紗のいいところ、素敵なところを一番よく知ってるのは、私。
…だと、思ってた。つい最近まで。
あの女が、現れるまでは。
「千紗さん、あなた、才能あるわ。ねえ、声優やってみる気ない?」
この春から赴任してきた新米(いやみ)顧問の片桐が、千紗にモーションをかけてきた。
「…え、そんな…考えたこともないですし…第一、勉強面が…」
いいぞいいぞ、千紗。その欲のなさも、私は好き。
「大丈夫よ。テレビやラジオに出ずっぱりじゃなくて、最初はドラマCDのお仕事とか、少しずつレッスンと両立させていけばいいんだから。女子高生の声優って、結構多いのよ?」
朗読研の皆だって、知ってるわい、そんなくらい。
だからって、千紗を巻き込まないでよっ!
いったい、アンタ、なにしにうちの学校へ来たのよっ!!
「私の友達でね、プロダクション勤めてる娘がいるの。私がこの女子高に異動したって話したら、ここの朗読研はレベルが高いので有名だから、いい娘がいたらスカウトしてちょうだいって、頼まれてね」
むうう、職権乱用じゃん!
理事長先生に、言いつけてやるわ!!
…と、片桐と千紗の会話に一人ツッコミを入れながら、私は壁にかくれて二人の会話を聞いていた。
千紗ぁ…。
一緒にいる時間、少なくなっちゃったら、私、やだよう…。
その時。
しばらく黙って片桐のしゃべりを聞いていた千紗が、唇を開いた。
(つづく)