(考えてみたら、私、いつから、みつき先生を好きになっていたんだろう…)
先生の薄明るい白衣の背中を見つめて歩きながら、朝香は思った。
確かに、さっき先生が自嘲気味に言った特徴は、ある。
でも、それ以上に、共学校でも男女隔てなく授業できっちり教えてくれるとか、
どうしたら生徒がもっと理解できるか、(たぶん今日も)授業研究に手を抜かないところとか、
嫁探し気分の独身男教師や、結婚相手探しめいたチャラチャラした女教師にはない素朴さとか、
…そんなところが好きなのだ。たぶん。いつの間にか。
「…あのう…」
「何?」
おずおずと朝香が問いかけると、黒髪と白衣の裾とをさらりとひるがえして、みつき先生が振り向く。
「…先生は、…どうして、こんなに遅くまで、あの、いらしたんですか?」
「おやおや、返り討ち?」
今度は、薄闇でもわかるくらいはっきりと、先生がクスリ、と笑った。
その身のこなしや表情はいつも見られない雰囲気で、朝香はドキン、とさせられる。
「私は手際が悪いからね。明日の実験準備をしているうち、こんな時間になったというわけ。…でも」
「…で、でも…?」
「同じように校舎に残ってるのがもう一人いるとは、気づかなかった。見つけられて良かったよ」
「……!」
最後のみつき先生の言葉が、身に余るほどの嬉しい響きに聞こえて、朝香は言葉が出なかった。
(これって、ラブ様…あなたのおかげ、なん、でしょうか…?)