「ラブ様、ラブ様、おねがいします。片思いのあの人と結ばれっこないことはわかっています。それでもやっぱり、私のこの想いが通じますように、どうか、力をお貸し下さい…」
誰もいなくなった、夕闇迫る放課後の教室。野球部とサッカー部のナイター照明のおかげで、真っ暗にした室内でも、その声の主の姿はかろうじて見える。
グレーのブレザーに紅いネクタイ、おかっぱ姿で机の上に怪しげな陣をチョークで描き、一心不乱に祈っている。
そのとき。
「こら、誰だ!こんな遅くまで暗い中に残って!」
突然廊下側のドアがぴしゃりと開けられ、怒鳴られたとき、
「きゃあああああ!」
祈るどころではなく、その生徒~村木 朝香~は、思い切り叫んでしまった。
理由の一つめは、唐突さで。
そして、二つめは、まさにいま祈っていた片思いの相手が、自分にむかって怒鳴ったことに驚いて。
「日直の先生も、もう帰った。私も準備室から職員室へ戻ろうとしていたところだ。早く、荷物をまとめて。一人で玄関まで真っ暗な校舎を歩かせるわけにはいかない」
きびきびと話す言葉は男の教諭のようだが、白衣の上は薄化粧をした端正な顔立ちに、背中まで届きそうなストレートの黒髪。
そう、朝香の片思いの相手は、科学担当の女教師、堀江 みつきだったのだ。