視界に入った瞬間、釘付けになっていた。
私がなりたかった、理想の少女がそこにいたなんて。
しかも、目の前に生身で。
入学式を終えたばかりの、体育館から女子校の校舎へ向かう渡り廊下で。
小さな顔に、はみ出そうな大きな瞳と長いまつげは、まるで少女マンガのよう。
形の良い頭に沿った、つやつやと黒いストレートのベリーショートの髪は、苺のへたみたい。
無論、首は細く長く、肌も背の高さもスリムさも、ルックスは平均よりみんな高め。
けっして威張っている感じでは、ない。
でも無言ですっすっと歩く彼女の周りに、友人よりも「おとりまき」めいた同級生が数人連れ立つ。
その誰にも特別に視線を向けるわけでなく、声をかけるわけでもなく、その彼女は通り過ぎていく。
…そんな「超然」としたしぐさが自然に身についているのも、私を彼女に惹き付けさせた。
父の仕事の都合で、この女子校に越境入学してきた私には、知己がほとんどない。
なので、40人いるクラスの中の同じ1人だとはわかっていても、私は彼女の名前を知らずにいた。
だから、彼女の方が私の名前を知る事など、まずないだろう。
私は、彼女のようにキュートで「超然」とした魅力などない、もっさりとした太めの15歳にしか過ぎないのだから。
名前が分からないので、彼女の髪型から私は「いちごちゃん」と秘密の呼び名をつけて、遠くから眺める事を自分に許した。